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第六章 北の神童
5-2 ローウェンとアシェイラ王族②
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「そういえば、ローウェン王子とは初対面ですな。サンジェイラで行われた、先の三国会議でも会いませんでしたし」
その言葉を聞いたローウェンの微笑みが少し強張る。
「そうですね……」
「三国会議で、何人かの王子や姫とお会いしましたが、結局、玉主殿とはお会いできなくて、残念に思っていたのです」
「そうだったんですか」
和やかに話を続けるジェイドにローウェンが答えを返したのを見て、リュセルは言った。
「何人かの王子や姫って……?そんなにたくさんいるのか?」
そういえば、ローウェンは第七王子だったはずだし。
「うん、サンジェイラ王家は大所帯だよ。ねえ、レオン」
父王の言葉を受けて、レオンハルトは頷いた。
「ええ、サンジェイラ王家は王子が十三人、姫が七人、後、正妃が一人と側室が五人いたはずです」
レオンハルトの視線での問いかけに、ローウェンは頷いた。
「うん、合ってるよ。僕の所は大家族なんだよ」
それを聞いたジェイドは、目をキラキラさせる。
「賑やかそうだね~。ね~、リュセル!」
「俺に振るな」
「ね~、カイル?」
「リュセルに同じく」
「…………ね……、ねぇ、レオン」
泣きそうな、子犬のような目で見られたレオンハルトは、小さく頷いた。
「そうだよね、ね~!」
さすが、長兄。
レオンハルトの返事に気を良くしたのか、ジェイドは鼻歌を歌いながら、デザートのプリンを口にした。
「父上、行儀が悪いので、鼻歌はお止め下さい」
しかし、すぐにレオンハルト本人に注意されて、ジェイド王は軽く落ち込みモードに入った。そんな四人の親子の会話を聞いていたローウェンは、吹き出すと、ケラケラと笑い始めた。
「あははははははっ」
「ロ、ローウェン!?」
急に涙を浮かべて笑い始めた少年に、リュセルが面を食らっていると、カイルーズが冷静に言った。
「きっと、箸が転げてもおかしいような年頃なんだよ」
そ……、そうなのか?
リュセルはレオンハルトを伺い見るが、麗しの長兄は優雅に食後の紅茶を飲んでいる。
「だって、アシェイラの王族の人達って、おかしいんだもん!」
またしても、この無邪気な子供は、爆弾を落としたのだった。
「そうかぁ、おかしいか~! あはははははっ」
そして、そんなローウェンの爆弾発言を笑い飛ばしたジェイド王はさすがだった。
「おかしいって、その中に、まさか、俺も入っているのか?」
リュセルがそう聞くと、ローウェンは無邪気に頷いた。
「うん」
ガ~ンッ
リュセルは衝撃を受けた。
この、ファンキー親父と、冷徹長兄と、毒草次兄と……アシェイラの最後の良心、唯一の常識人たる自分が同じにされる日が来ようとは。
「いいじゃない、リュセル兄さん。おかしくたって、楽しければさ」
ローウェンの言葉に同意し、ジェイドも頷く。
「そうだそうだ! パパは毎日ハッピーだぞ。そうだ、リュー君。リュー君もハッピーになる為に、パパのような上着を着てみないかい!?」
「は?」
って……まさか、そのおかしな太文字の入った、Tシャツをかい!?
「さっそく、明日、作り方を教えてあげよう!」
わくわくしてそう言った父王に、リュセルは生温い視線を送った。
(絶対嫌だ……)
そんな風にピンチ(?)のリュセルを救ったのは、レオンハルトの一言だった。
「明日は、王都の外れに確認されたという邪気の浄化に向かうので、無理ですよ、父上」
あっさりとしたレオンハルトの言葉に、ジェイドは悲しそうな、情けない顔になった。
「今日帰国して、明日すぐ任務につくのかい?」
「……その為に、急いで帰国致しましたので」
よどみないレオンハルトの答えだ。ジェイドは未練がましく、チラチラとリュセルの方を見ている。
(うざい)
リュセルは、自分と遊びたくて仕方がない父王の視線を無視しながらそう思った。
「ふうん。二人共、明日任務に行くんだ。どれ位、かかるの?」
カイルーズがそう聞くと、レオンハルトは淡々とした口調で答えた。
「場所も近いし、おそらく夜には帰って来れるだろう」
そして、その会話を聞いていたローウェンは、少し考え込むと言った。
「じゃあ、レオンハルト兄さんとリュセル兄さんが帰って来るまでには、転移装置を設置出来るようにしておくね」
「え!? そんな簡単に……? たった一日で出来るのか?」
リュセルが驚いてローウェンに聞くと、北の神童の二つ名を持つ天才少年は頷いた。
「うん、充分だよ」
「え~! じゃあ明日は、ローウェン殿とも遊べないの~? やだやだやだやだ!」
駄々っ子のように、大きく何度も首を横に振るアシェイラ国王、四十一歳。実父のそんな様子に、リュセルとカイルーズは二人して遠い目になった。
「じゃあ、パパは明日、ひとりぼっちで何すればいいんだ……」
「「「仕事して下さい」」」
てんでバラバラな性格をしている三兄弟の息が、珍しく合った瞬間であった。見事にハモった三人の息子に厳しい目で睨まれて、ジェイドはしゅんと小さくなる。
それを見ていたローウェンの瞳には、わずかな羨望が入り混じっていたが、それに気づく者は、今、この場にはいなかった……。
その後、家族+ローウェンとの夕食を終えたリュセルは、近くにいた侍女にローウェンを客室に案内させて、自分はさっさと自室に戻り、休む事にした。
レオンハルトは、明日の準備の為、まだ部屋には戻っていない。邪気浄化の任務の準備をすべて兄に任せるのは気が引けたが、あの、化け物じみた体力を有するレオンハルトと違い、リュセルの体力は普通の成人男性並なのである。
帰国するなり騒ぎに巻き込まれた上、明日は早いのだ。旅の疲れもあるし、眠らないと明日に差し障る。
「では、おやすみなさいませ。リュセル様」
リュセルの着替えを済ませると、ティルはにっこりと笑って、寝室を退出して行った。
「ああ、おやすみティル」
自分付きの小姓に微笑みかけたリュセルは、久しぶりに戻ってきたにも関わらず、出て行った時と同じ、清潔なシーツの敷かれた上質な寝台の上に倒れ込む。
「疲れた……」
(そうだ)
リュセルは倒れた寝台からなんとか起き上がると、寝室の脇に放置された袋の中から、ティアラお手製のレオン人形を取り出した。これがあれば、レオンハルトなしでも眠れるという優れものだ。
「……というか、これがあれば、夜眠る時、なにもレオンと一緒じゃなくてもいいんだよな。部屋も別々に出来るんじゃないのか?」
リュセルは寝台に戻ると、レオン人形を脇に置いて横になった。
「自分の部屋か……」
それも面倒だな。一度兄の部屋に舞い戻っている身としては、言い出しにくいし。と、リュセルはそんな事を考えながら、そのまま眠りについたのであった。
「…………」
それからしばらくして、自室に戻ったレオンハルトは、寝台の上で安らかに眠っている弟の姿を見下ろすと、その秀麗な胡桃色の眉をしかめた。
「なんだ……?これは?」
眠るリュセルは、その腕に、自分によく似た人形を抱えて眠っていたのだ。リュセルやジュリナ、ティアラにはおなじみのレオン人形だが、レオンハルトは初対面だった。
彼は、寝台に乗り上がると、まじまじとその人形を見つめる。
(縫い目の精密さといい、もしかすると、これは、ティアラ姫の作ったものか?)
その通りである。
しかし……、いくら、自分に似ている人形とはいえ。
(気に入らんな)
幸せそうにレオン人形を抱いて眠る弟の姿を見たレオンハルトは、たちまち不機嫌になった。そして、こちらに背を向けて横向きで眠るリュセルの体を仰向けにすると、(それでもまだ、レオン人形を手放さない)そっと、弟の白い頬を撫でる。
肌理の細かい、滑らかな肌だ。
そのまま、指で頬を辿り、薄く開いた唇を撫でたら、さすがにその銀の睫毛がかすかに震えた。
「……?」
薄く開いた銀の瞳に兄の姿を映し出し、リュセルは口を開く。
「レオン? ……戻ったのか」
そうレオン人形に向かって話しかけていた。大ボケである。
「遅くまでご苦労だったな」
レオンハルトをねぎらうリュセルの視線は、完璧にレオン人形に注がれていた。
「……馬鹿者」
その言葉を聞いたローウェンの微笑みが少し強張る。
「そうですね……」
「三国会議で、何人かの王子や姫とお会いしましたが、結局、玉主殿とはお会いできなくて、残念に思っていたのです」
「そうだったんですか」
和やかに話を続けるジェイドにローウェンが答えを返したのを見て、リュセルは言った。
「何人かの王子や姫って……?そんなにたくさんいるのか?」
そういえば、ローウェンは第七王子だったはずだし。
「うん、サンジェイラ王家は大所帯だよ。ねえ、レオン」
父王の言葉を受けて、レオンハルトは頷いた。
「ええ、サンジェイラ王家は王子が十三人、姫が七人、後、正妃が一人と側室が五人いたはずです」
レオンハルトの視線での問いかけに、ローウェンは頷いた。
「うん、合ってるよ。僕の所は大家族なんだよ」
それを聞いたジェイドは、目をキラキラさせる。
「賑やかそうだね~。ね~、リュセル!」
「俺に振るな」
「ね~、カイル?」
「リュセルに同じく」
「…………ね……、ねぇ、レオン」
泣きそうな、子犬のような目で見られたレオンハルトは、小さく頷いた。
「そうだよね、ね~!」
さすが、長兄。
レオンハルトの返事に気を良くしたのか、ジェイドは鼻歌を歌いながら、デザートのプリンを口にした。
「父上、行儀が悪いので、鼻歌はお止め下さい」
しかし、すぐにレオンハルト本人に注意されて、ジェイド王は軽く落ち込みモードに入った。そんな四人の親子の会話を聞いていたローウェンは、吹き出すと、ケラケラと笑い始めた。
「あははははははっ」
「ロ、ローウェン!?」
急に涙を浮かべて笑い始めた少年に、リュセルが面を食らっていると、カイルーズが冷静に言った。
「きっと、箸が転げてもおかしいような年頃なんだよ」
そ……、そうなのか?
リュセルはレオンハルトを伺い見るが、麗しの長兄は優雅に食後の紅茶を飲んでいる。
「だって、アシェイラの王族の人達って、おかしいんだもん!」
またしても、この無邪気な子供は、爆弾を落としたのだった。
「そうかぁ、おかしいか~! あはははははっ」
そして、そんなローウェンの爆弾発言を笑い飛ばしたジェイド王はさすがだった。
「おかしいって、その中に、まさか、俺も入っているのか?」
リュセルがそう聞くと、ローウェンは無邪気に頷いた。
「うん」
ガ~ンッ
リュセルは衝撃を受けた。
この、ファンキー親父と、冷徹長兄と、毒草次兄と……アシェイラの最後の良心、唯一の常識人たる自分が同じにされる日が来ようとは。
「いいじゃない、リュセル兄さん。おかしくたって、楽しければさ」
ローウェンの言葉に同意し、ジェイドも頷く。
「そうだそうだ! パパは毎日ハッピーだぞ。そうだ、リュー君。リュー君もハッピーになる為に、パパのような上着を着てみないかい!?」
「は?」
って……まさか、そのおかしな太文字の入った、Tシャツをかい!?
「さっそく、明日、作り方を教えてあげよう!」
わくわくしてそう言った父王に、リュセルは生温い視線を送った。
(絶対嫌だ……)
そんな風にピンチ(?)のリュセルを救ったのは、レオンハルトの一言だった。
「明日は、王都の外れに確認されたという邪気の浄化に向かうので、無理ですよ、父上」
あっさりとしたレオンハルトの言葉に、ジェイドは悲しそうな、情けない顔になった。
「今日帰国して、明日すぐ任務につくのかい?」
「……その為に、急いで帰国致しましたので」
よどみないレオンハルトの答えだ。ジェイドは未練がましく、チラチラとリュセルの方を見ている。
(うざい)
リュセルは、自分と遊びたくて仕方がない父王の視線を無視しながらそう思った。
「ふうん。二人共、明日任務に行くんだ。どれ位、かかるの?」
カイルーズがそう聞くと、レオンハルトは淡々とした口調で答えた。
「場所も近いし、おそらく夜には帰って来れるだろう」
そして、その会話を聞いていたローウェンは、少し考え込むと言った。
「じゃあ、レオンハルト兄さんとリュセル兄さんが帰って来るまでには、転移装置を設置出来るようにしておくね」
「え!? そんな簡単に……? たった一日で出来るのか?」
リュセルが驚いてローウェンに聞くと、北の神童の二つ名を持つ天才少年は頷いた。
「うん、充分だよ」
「え~! じゃあ明日は、ローウェン殿とも遊べないの~? やだやだやだやだ!」
駄々っ子のように、大きく何度も首を横に振るアシェイラ国王、四十一歳。実父のそんな様子に、リュセルとカイルーズは二人して遠い目になった。
「じゃあ、パパは明日、ひとりぼっちで何すればいいんだ……」
「「「仕事して下さい」」」
てんでバラバラな性格をしている三兄弟の息が、珍しく合った瞬間であった。見事にハモった三人の息子に厳しい目で睨まれて、ジェイドはしゅんと小さくなる。
それを見ていたローウェンの瞳には、わずかな羨望が入り混じっていたが、それに気づく者は、今、この場にはいなかった……。
その後、家族+ローウェンとの夕食を終えたリュセルは、近くにいた侍女にローウェンを客室に案内させて、自分はさっさと自室に戻り、休む事にした。
レオンハルトは、明日の準備の為、まだ部屋には戻っていない。邪気浄化の任務の準備をすべて兄に任せるのは気が引けたが、あの、化け物じみた体力を有するレオンハルトと違い、リュセルの体力は普通の成人男性並なのである。
帰国するなり騒ぎに巻き込まれた上、明日は早いのだ。旅の疲れもあるし、眠らないと明日に差し障る。
「では、おやすみなさいませ。リュセル様」
リュセルの着替えを済ませると、ティルはにっこりと笑って、寝室を退出して行った。
「ああ、おやすみティル」
自分付きの小姓に微笑みかけたリュセルは、久しぶりに戻ってきたにも関わらず、出て行った時と同じ、清潔なシーツの敷かれた上質な寝台の上に倒れ込む。
「疲れた……」
(そうだ)
リュセルは倒れた寝台からなんとか起き上がると、寝室の脇に放置された袋の中から、ティアラお手製のレオン人形を取り出した。これがあれば、レオンハルトなしでも眠れるという優れものだ。
「……というか、これがあれば、夜眠る時、なにもレオンと一緒じゃなくてもいいんだよな。部屋も別々に出来るんじゃないのか?」
リュセルは寝台に戻ると、レオン人形を脇に置いて横になった。
「自分の部屋か……」
それも面倒だな。一度兄の部屋に舞い戻っている身としては、言い出しにくいし。と、リュセルはそんな事を考えながら、そのまま眠りについたのであった。
「…………」
それからしばらくして、自室に戻ったレオンハルトは、寝台の上で安らかに眠っている弟の姿を見下ろすと、その秀麗な胡桃色の眉をしかめた。
「なんだ……?これは?」
眠るリュセルは、その腕に、自分によく似た人形を抱えて眠っていたのだ。リュセルやジュリナ、ティアラにはおなじみのレオン人形だが、レオンハルトは初対面だった。
彼は、寝台に乗り上がると、まじまじとその人形を見つめる。
(縫い目の精密さといい、もしかすると、これは、ティアラ姫の作ったものか?)
その通りである。
しかし……、いくら、自分に似ている人形とはいえ。
(気に入らんな)
幸せそうにレオン人形を抱いて眠る弟の姿を見たレオンハルトは、たちまち不機嫌になった。そして、こちらに背を向けて横向きで眠るリュセルの体を仰向けにすると、(それでもまだ、レオン人形を手放さない)そっと、弟の白い頬を撫でる。
肌理の細かい、滑らかな肌だ。
そのまま、指で頬を辿り、薄く開いた唇を撫でたら、さすがにその銀の睫毛がかすかに震えた。
「……?」
薄く開いた銀の瞳に兄の姿を映し出し、リュセルは口を開く。
「レオン? ……戻ったのか」
そうレオン人形に向かって話しかけていた。大ボケである。
「遅くまでご苦労だったな」
レオンハルトをねぎらうリュセルの視線は、完璧にレオン人形に注がれていた。
「……馬鹿者」
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