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第七章 黄昏往く国
4-1 火花散る!
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「月の女神の寵児。前の二つ名の方がしっくりきますね。いえ、あなたの美しさの前では、月さえ霞んで見える事でしょう」
その、くさ過ぎる台詞に、リュセルは顔を引きつらせた。
そういえば、さっきもローウェン相手に、レインは彼の容姿を讃えていたから、これは彼の挨拶のようなものだろうか。
多少引きながらも、リュセルはそう思った。
それにしても……。
「近過ぎませんか? レイン王子」
広い部屋の中、何故にこんなに密着する必要性があるのか? レインは肩がぶつかる程、リュセルの近くに身を寄せてきたのだ。
「いえ、全然」
にっこりとさわやかに微笑まれると、何も言えなくなる。
「リュセル王子、今度相談に乗ってくれませんか?」
テーブルの向かい側で、ハラハラしたように見守るローウェンに聞こえないように、リュセルの耳元に唇を近づけ、レインは不意にささやいた。
「相談?」
いぶかしげなリュセルの肩に手を回すと(ローウェンの目が絶望的に見開かれた)、レインは悲しそうに呟く。
「王子も見たでしょう? 我が兄弟の、ローウェンに対する仕打ちを。俺……、私は、それをなくしたいのです」
そんな事、考えてもいないのだが、レインは、先程の、兄弟に冷遇されていたローウェンに対するリュセルの態度から、彼の気を引く為にそう言った。
「そうですか」
リュセルは、レインの事を一瞬でも変な奴だと考えた事を反省した。つくづく、顔も考えも甘い男である。
「今度、一人で私の部屋に来て下さいませんか?こんな事を相談出来る者が、恥ずかしながらこの国にはいないのです」
「……わかりました」
リュセルは、ローウェンの、何故か涙ぐんでいる顔をチラ見すると、重々しく頷いた。父親にも半身にも見放されたローウェンの事を思ってくれている人がいた事を嬉しく思うリュセルだ。
阿呆な程、すっかり騙されていた……。
そんな風に考え込んでしまったリュセルの顔を、近くで見ていたレインは、ムラムラとしてしまった。
(それにしても素晴らしいな)
その、人では持ち得ないような、完璧なる美。こんなに近くで女神の子供の美貌を見たのは初めてである。アルティス、ローウェンを含め、他の子供達は、隙がなくて、こんなに近くまで近づけないのだ。
いや、逆にリュセルに隙がありすぎるのかもしれないが……。
今にも、三番目の兄が、欲望のままに、兄のように慕っている他国の友人に襲い掛かろうとしているのを見ていたローウェンは、耐え切れずに、咄嗟に立ち上がり、テーブルを跨いでリュセルに抱きついた。
「ローウェン?」
その拍子に、レインの不埒な手は、リュセルから離れる事になる。
(よし!)
それを目の端に入れると、リュセルの首に両腕を回し、ローウェンは頷いた。
「どうしたんだ?」
一方、いきなり抱きついてきた少年に、リュセルは一瞬呆気にとられたが、すぐに華奢な体を抱きしめると、よしよしとその背を撫でた。
「寂しかったのか? 可哀想に……」
油断すれば、ポーっとなってしまうような、甘く優しい声である。
絶世の美男子の膝の上に乗り上がり、その首に華奢な腕を回す美少女(女装)という図は、まるで恋人同士の逢瀬のようでもあった。
「いいなぁ。目の保養だ」
傍でそれを見守っていたレインは、うっとりとのん気に呟いている。
一体、誰の所為で……。
ローウェンは恨みがましい目線をレインに向ける。
弟のそんな目線にビクともしないレインは(さすがレオンハルトに半殺しにされても平気な男)、ローウェンの赤い着物風ドレスのフリルのついたスカートをおもむろにめくった。
「ぎゃあ!」
色気の無い声を上げるローウェンに、レインはそのスカートの中を覗き込みながら眉をしかめた。
「かぼちゃパンツかよ……。ちッ、色気ねーな」
いわゆる、フリルのついたかぼちゃパンツを穿いているローウェンに対し、レインは文句をつけたのだ。
「……弟に色気を求める事が、そもそも間違ってないか?」
ローウェンを膝の上に抱き上げたまま、そうつっこんだリュセルの顔を流し見て、レインは笑った。
「そうですか? でも、レオンハルト王子、はあなたにそれを求めているのではないですか?」
「レオンが?」
女神の子供の知識を持つが故に、二人の関係を揶揄してのレインの台詞だったが、朴念仁リュセルにそれは通用しなかった。
「別に求めていないと思うが、そんなもの。第一、そんなもん、俺に求めてどうするんだ? あいつの妃ならともかく」
本当に、「訳分からん」という感じの返答だ。それを聞いたレインは、おや? と首を傾げる。
一番身近にいるサンジェイラの女神の子供が、仲が悪く、互いに無関心の為、忘れがちだったが、女神の子供とは半身同士、互いの存在に依存しているらしい。
ディエラの鏡主と鏡鍵は、なんというか……、レインの目から見ても、ものすごっくラブラブだった。普通なら、兄弟姉妹という近親関係を超越して、肉体関係すらあるという話だし。
目の前でローウェンに優しく語りかけている王子が、あの麗しい兄王子相手に、抱く側なのか抱かれる側なのかはわからないが、レインの直感的にそういう関係だと勝手に思っていた。
……が。
(違うのかね)
はっきり言って、そんな気配がまったくなかった。
(まあ、あんな聖人のようなオーラを放つ兄が相手ではね)
そんな聖人相手に、五年前、不埒な事に及ぼうとしたのを棚に上げて、レインは妄想を膨らませていた。
ちょうど、その時だった。コンコンという、小さなノックの音が響いたのは。
「どう……」
ぞ、と言おうとして、ローウェンは、現在の体勢のやばさに気づき、言おうとした言葉を呑み込んだ。
「どうぞ」
レオンハルトがやっと来たのだろうと、リュセルは何も考えずに、ローウェンの代わりに返事をした。
カチャッ
と、レインが来た時と対照的に、わずかな音のみ立てて、扉を開け、まず現れたのはローウェン自身の半身だった。
(アルティス)
ローウェンの顔が一瞬で強張る。
レオンハルトを案内してきたのであろう彼は、抱き合っているようにしか見えないリュセルと己の半身の姿を見ても、表情をまったく変える事はなかった。
そんなアルティスの後から入室したレオンハルトは、ここにいるはずのないレインの姿を認めると、不機嫌そうに眉をひそめる。
(何故、ここに)
ルルドの葉の件を抜かせば、このサンジェイラで最も注意が必要な存在。
彼の性質から予測するに、リュセルの美貌に目をつけて、他の兄弟がまず来ないであろうローウェンの部屋にいかがわしい目的をもって、のこのことやってきたのであろうが……。
五年前に半殺しにしてやったのに、まだ懲りぬというのか。
弟に手を出しでもしたら、今度こそ殺してやろうと、レオンハルトは麗しい顔の裏で空恐ろしい事を考えていた。
一方、三人のいる畳の上まで来ると、アルティスがやっと口を開いた。
「何をしておるのだ?リュセル王子にご迷惑であろう。早く退くがよい」
その冷たい言葉に、ローウェンは唇を噛み締めると、リュセルの膝から立ち上がろうと腰を浮かせた。
「へっ!?」
次の瞬間、腰に腕を回されて、元の位置に戻されてしまった。
「リュ……、リュセル兄さん?」
慌てたような声にリュセルは答える。
「このままでも俺はいいぞ。抱き心地いいしな」
その言葉と共に、切れ長な目が、挑戦的にアルティスに向けられる。
「……」
アルティスは、相手の銀の瞳を無言で見返した。
バチッ
二人の間に火花が散る。
一触即発のそんな雰囲気を壊したのは、レインの場違いな声だった。
「う~ん、いい光景だな。さすがに女神の子供が四人もそろうと圧巻だ」
うっとりと頷いている。
「レイン王子、我が弟に何用ですか?」
琥珀の瞳に殺気を宿して、今度はレオンハルトがそう言った。
「何用って言われましてもね、レオンハルト王子。……ふふ、それにしても、変わらずあなたは、どんな美姫でも敵わぬ程、お美しい」
そんなレインの言葉を完全無視して、レオンハルトは、弟の膝上のローウェンを抱き上げ、弟自身の腕を引いて立ち上がらせる。
レオンハルトの腕に抱え上げられた状態のローウェンを見つめ、にっこりと笑いかけると、リュセルは爆弾を落とした。
「久しぶりに会ったんだ。ローウェン、今夜は一緒に寝るか?」
瞬間、周りの空気が凍えた。
アルティスを挑発するような台詞に、レオンハルトは内心ため息をついたが、この膠着状態の若い玉主と玉鍵を良く思っていなかった為、起爆剤になりそうなリュセルの言動を黙認する事にする。
「え!?」
ローウェンは、リュセルの申し出に、嬉しそうに右の蒼い目を瞬かせた。
「父上が今夜は抱いて眠ってやるぞ」
(……またそれか)
その、くさ過ぎる台詞に、リュセルは顔を引きつらせた。
そういえば、さっきもローウェン相手に、レインは彼の容姿を讃えていたから、これは彼の挨拶のようなものだろうか。
多少引きながらも、リュセルはそう思った。
それにしても……。
「近過ぎませんか? レイン王子」
広い部屋の中、何故にこんなに密着する必要性があるのか? レインは肩がぶつかる程、リュセルの近くに身を寄せてきたのだ。
「いえ、全然」
にっこりとさわやかに微笑まれると、何も言えなくなる。
「リュセル王子、今度相談に乗ってくれませんか?」
テーブルの向かい側で、ハラハラしたように見守るローウェンに聞こえないように、リュセルの耳元に唇を近づけ、レインは不意にささやいた。
「相談?」
いぶかしげなリュセルの肩に手を回すと(ローウェンの目が絶望的に見開かれた)、レインは悲しそうに呟く。
「王子も見たでしょう? 我が兄弟の、ローウェンに対する仕打ちを。俺……、私は、それをなくしたいのです」
そんな事、考えてもいないのだが、レインは、先程の、兄弟に冷遇されていたローウェンに対するリュセルの態度から、彼の気を引く為にそう言った。
「そうですか」
リュセルは、レインの事を一瞬でも変な奴だと考えた事を反省した。つくづく、顔も考えも甘い男である。
「今度、一人で私の部屋に来て下さいませんか?こんな事を相談出来る者が、恥ずかしながらこの国にはいないのです」
「……わかりました」
リュセルは、ローウェンの、何故か涙ぐんでいる顔をチラ見すると、重々しく頷いた。父親にも半身にも見放されたローウェンの事を思ってくれている人がいた事を嬉しく思うリュセルだ。
阿呆な程、すっかり騙されていた……。
そんな風に考え込んでしまったリュセルの顔を、近くで見ていたレインは、ムラムラとしてしまった。
(それにしても素晴らしいな)
その、人では持ち得ないような、完璧なる美。こんなに近くで女神の子供の美貌を見たのは初めてである。アルティス、ローウェンを含め、他の子供達は、隙がなくて、こんなに近くまで近づけないのだ。
いや、逆にリュセルに隙がありすぎるのかもしれないが……。
今にも、三番目の兄が、欲望のままに、兄のように慕っている他国の友人に襲い掛かろうとしているのを見ていたローウェンは、耐え切れずに、咄嗟に立ち上がり、テーブルを跨いでリュセルに抱きついた。
「ローウェン?」
その拍子に、レインの不埒な手は、リュセルから離れる事になる。
(よし!)
それを目の端に入れると、リュセルの首に両腕を回し、ローウェンは頷いた。
「どうしたんだ?」
一方、いきなり抱きついてきた少年に、リュセルは一瞬呆気にとられたが、すぐに華奢な体を抱きしめると、よしよしとその背を撫でた。
「寂しかったのか? 可哀想に……」
油断すれば、ポーっとなってしまうような、甘く優しい声である。
絶世の美男子の膝の上に乗り上がり、その首に華奢な腕を回す美少女(女装)という図は、まるで恋人同士の逢瀬のようでもあった。
「いいなぁ。目の保養だ」
傍でそれを見守っていたレインは、うっとりとのん気に呟いている。
一体、誰の所為で……。
ローウェンは恨みがましい目線をレインに向ける。
弟のそんな目線にビクともしないレインは(さすがレオンハルトに半殺しにされても平気な男)、ローウェンの赤い着物風ドレスのフリルのついたスカートをおもむろにめくった。
「ぎゃあ!」
色気の無い声を上げるローウェンに、レインはそのスカートの中を覗き込みながら眉をしかめた。
「かぼちゃパンツかよ……。ちッ、色気ねーな」
いわゆる、フリルのついたかぼちゃパンツを穿いているローウェンに対し、レインは文句をつけたのだ。
「……弟に色気を求める事が、そもそも間違ってないか?」
ローウェンを膝の上に抱き上げたまま、そうつっこんだリュセルの顔を流し見て、レインは笑った。
「そうですか? でも、レオンハルト王子、はあなたにそれを求めているのではないですか?」
「レオンが?」
女神の子供の知識を持つが故に、二人の関係を揶揄してのレインの台詞だったが、朴念仁リュセルにそれは通用しなかった。
「別に求めていないと思うが、そんなもの。第一、そんなもん、俺に求めてどうするんだ? あいつの妃ならともかく」
本当に、「訳分からん」という感じの返答だ。それを聞いたレインは、おや? と首を傾げる。
一番身近にいるサンジェイラの女神の子供が、仲が悪く、互いに無関心の為、忘れがちだったが、女神の子供とは半身同士、互いの存在に依存しているらしい。
ディエラの鏡主と鏡鍵は、なんというか……、レインの目から見ても、ものすごっくラブラブだった。普通なら、兄弟姉妹という近親関係を超越して、肉体関係すらあるという話だし。
目の前でローウェンに優しく語りかけている王子が、あの麗しい兄王子相手に、抱く側なのか抱かれる側なのかはわからないが、レインの直感的にそういう関係だと勝手に思っていた。
……が。
(違うのかね)
はっきり言って、そんな気配がまったくなかった。
(まあ、あんな聖人のようなオーラを放つ兄が相手ではね)
そんな聖人相手に、五年前、不埒な事に及ぼうとしたのを棚に上げて、レインは妄想を膨らませていた。
ちょうど、その時だった。コンコンという、小さなノックの音が響いたのは。
「どう……」
ぞ、と言おうとして、ローウェンは、現在の体勢のやばさに気づき、言おうとした言葉を呑み込んだ。
「どうぞ」
レオンハルトがやっと来たのだろうと、リュセルは何も考えずに、ローウェンの代わりに返事をした。
カチャッ
と、レインが来た時と対照的に、わずかな音のみ立てて、扉を開け、まず現れたのはローウェン自身の半身だった。
(アルティス)
ローウェンの顔が一瞬で強張る。
レオンハルトを案内してきたのであろう彼は、抱き合っているようにしか見えないリュセルと己の半身の姿を見ても、表情をまったく変える事はなかった。
そんなアルティスの後から入室したレオンハルトは、ここにいるはずのないレインの姿を認めると、不機嫌そうに眉をひそめる。
(何故、ここに)
ルルドの葉の件を抜かせば、このサンジェイラで最も注意が必要な存在。
彼の性質から予測するに、リュセルの美貌に目をつけて、他の兄弟がまず来ないであろうローウェンの部屋にいかがわしい目的をもって、のこのことやってきたのであろうが……。
五年前に半殺しにしてやったのに、まだ懲りぬというのか。
弟に手を出しでもしたら、今度こそ殺してやろうと、レオンハルトは麗しい顔の裏で空恐ろしい事を考えていた。
一方、三人のいる畳の上まで来ると、アルティスがやっと口を開いた。
「何をしておるのだ?リュセル王子にご迷惑であろう。早く退くがよい」
その冷たい言葉に、ローウェンは唇を噛み締めると、リュセルの膝から立ち上がろうと腰を浮かせた。
「へっ!?」
次の瞬間、腰に腕を回されて、元の位置に戻されてしまった。
「リュ……、リュセル兄さん?」
慌てたような声にリュセルは答える。
「このままでも俺はいいぞ。抱き心地いいしな」
その言葉と共に、切れ長な目が、挑戦的にアルティスに向けられる。
「……」
アルティスは、相手の銀の瞳を無言で見返した。
バチッ
二人の間に火花が散る。
一触即発のそんな雰囲気を壊したのは、レインの場違いな声だった。
「う~ん、いい光景だな。さすがに女神の子供が四人もそろうと圧巻だ」
うっとりと頷いている。
「レイン王子、我が弟に何用ですか?」
琥珀の瞳に殺気を宿して、今度はレオンハルトがそう言った。
「何用って言われましてもね、レオンハルト王子。……ふふ、それにしても、変わらずあなたは、どんな美姫でも敵わぬ程、お美しい」
そんなレインの言葉を完全無視して、レオンハルトは、弟の膝上のローウェンを抱き上げ、弟自身の腕を引いて立ち上がらせる。
レオンハルトの腕に抱え上げられた状態のローウェンを見つめ、にっこりと笑いかけると、リュセルは爆弾を落とした。
「久しぶりに会ったんだ。ローウェン、今夜は一緒に寝るか?」
瞬間、周りの空気が凍えた。
アルティスを挑発するような台詞に、レオンハルトは内心ため息をついたが、この膠着状態の若い玉主と玉鍵を良く思っていなかった為、起爆剤になりそうなリュセルの言動を黙認する事にする。
「え!?」
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