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第七章 黄昏往く国
3-3 好色王弟と深窓の姫君
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同胞の疑問に対し、ローウェンは頬杖をつきながら答える。
「学塔を維持できなくなったんだよ。国政が不安定過ぎてさ」
「なんて事だ」
呻くようにそう言ったリュセルに対し、ローウェンも両手を広げる。
「しょうがないよ。国民は今生きていくだけで精一杯なんだからさ」
「城内は、こんなに贅沢三昧なのにな」
何気なく呟かれたリュセルの言葉。それを聞いたローウェンは、項垂れるように俯いた。
「ルルドの葉のおかげでね。……国王陛下に、アシェイラから帰国した後、一応報告したケド、一蹴されて終わっちゃたんだ。まあ、ルルドの葉を広めている張本人だから、仕方ないんだろうけど」
「そうか。……ってお前、今、何気にすごい事言わなかったか!?」
聞き捨てならない情報を耳にし、目をむいたリュセルに対し、ローウェンは大きなため息をつく。
「だって、どうしてもそこに行き当たるんだもん。憶測でしかないけどね」
あっさりとした口調でそう言うが、少年の声には隠し切れぬ悲哀がにじんでいた。
「ローウェン……」
リュセルは慰めるように腕を伸ばし、その金の髪を撫でた。
「ルルドの葉の事は、俺もレオンもついているから、心配するな」
優しい手と声だ。ローウェンは小さく頷く。
「うん」
その時だった。
軽いノックと共に、部屋の扉がいきなり開かれたのだ。
「!?」
リュセルが咄嗟に扉に目を向けると、そこには先程別れたはずの青年の姿があった。
「よお、ローウェン」
片目をつぶって片手を上げた三番目の兄の姿に、ローウェンは、次の瞬間、まずいというような顔になった。
第三王子 レイン。
兄弟の中で、ローウェンに普通に接してくる、数少ない人間の一人だが、いかんせん、この兄には少々問題がある。
老若男女問わずに綺麗な者が大好きという性癖。彼は、周りの評判よりも、本人の見た目の美しさに重点を置いている変態なので、よく忌み子であるはずのローウェンにもちょっかいかけてくるのだ。だが、おそらく今回の目的は……。
警戒する弟に気づいているのかいないのか、当の本人であるレインは、不審そうに自分に視線を向けるリュセルを認めると、にっこりと一見人当たりの良いような笑みを浮かべた。
(やばいっ)
ローウェンは、冷や汗を滝のように流し始める。
「レ、レイン兄上。ど……どうかしたのですか?」
引きつり気味の笑みを浮かべたローウェンに笑いかけ、レインは、勝手知ったる部屋と言わんばかりに、ズカズカと、弟と他国の客人のいるテーブルのある畳上へと履物を脱いで上がった。
「どうかしたかって……? 冷たいなあ、ローウェン。可愛い弟の顔を見に来たんじゃないか。相変わらず、天使のように美しいな、我が愛しの弟よ」
美女を口説くような低音で話しかけられたローウェンは、引きつり笑顔のまま、乾いた声で答える。
「レイン兄上こそ、相変わらずですね。知ってると思いますが、僕、男ですよ?」
「だから、余計にいいんじゃないか」
その言葉に、ローウェンは、背筋がぞっとするのを感じた。
優に180cmを超える長身に、中分けにされた短髪。髪と同じ色の直衣が映えている。着ているものが、体の線が出ない直衣である影響で、よくは分からないが、その広い肩幅と厚い胸板は、よく鍛えられているようでもある。
美しいものを何よりも好み、その性癖も男女問わず、気に入りの者はどんな手を使ってでも閨に引っ張り込む、自他共に認める好色男。端正な顔や恵まれた体型を抜かせば、彼が一番、あの父王に似ているのかもしれない。
「先程は失礼しましたね。リュセル王子」
ローウェンの容貌を讃え終えると、レインは意識をリュセルに向けてきた。
「いえ」
そう答えるリュセルの中の、彼に対する危機意識はかなり低減してきていた。
何故なら、他の兄弟達がまるで汚いものを見るような冷たい目でローウェンを見ていたのに対し、言動は少しおかしいが、この第三王子は普通に話しかけて来たのだ。
しかも、ローウェンの受け答えを聞くと、これが始めてではないらしい。弟に話しかけるというよりも、美しいものを愛でるような話し方が、多少、気にはなるが……。
(まともな兄弟も、いるにはいるんだな)
ジュリナの警告などすっかりと忘却の彼方へと押しやったリュセルは、レインの、「隣に座っても?」という言葉に頷いた。
「どうぞ」
(リュ……、リュセル兄さん~~~~(泣))
リュセルの向かいでは、ローウェンが顔を強張らせていた。
なんで分からないんだ!
(レオンハルト兄さんは、リュセル兄さんに、レイン兄上に関する情報を与えなかったのか!?)
凛々しい未来のお義姉様から与えられましたが、うっかり忘れています。
そんな事、まったく知らないローウェンは、一刻も早く、レオンハルトが来てくれる事を祈り続けた。
一方、リュセルの隣に腰を下ろしたレインはというと、隣に座る他国の若い王子を鑑賞していた。
噂に聞いていた容貌と、かなりのズレがあった。どんな美姫のような王子が来るのかと思っていたが、リュセル王子は、完全に男にしか見えない容貌をしている。それも、とびきりの美男子だ。
一応、これで、女神の子供全員と会った事になるレインだが、彼らの美貌は感嘆に値するものばかりだと、ため息をつきたくなる。
妹達が失神してしまったのも無理がない。女性だったら、彼の美貌にコロリとやられてしまうだろう。少し癖のある銀糸の髪が、白い頬にかかるのを払う仕草さえ美しいのだ。
五年前、レオンハルトに手を出そうとして、肉体的にも精神的にも痛い目にあわせられたが、この弟王子はどうだろう?
彼は宝主である兄と違い、宝鍵のはず……。比較的、御しやすいのではないか?
レインの瞳に濡れたような輝きが宿ると同時に、口元に好色な笑みを浮かべるのをローウェンは見てしまった。
(ひいいいいいいっ!)
ターゲットロックオン、されてしまった!
(どうしよう、どうしよう、どうしよう(号泣))
ローウェンの混乱など知るよしもなく、リュセルは自分の顔を見つめているレインに眉をひそめた。
「何か?」
怪訝そうな表情さえ、震えが走る程美しい。そう内心思いながら、レインは謝った。
「すみません。不躾な真似を……。ただ、噂に聞いていたリュセル王子とかなり違うので」
レインの苦笑を孕んだ言葉を聞いたリュセルは、げんなりとなった。
(あの噂か)
「深窓の姫君のような方だと伺っていましたので」
「それは、まったくのデマです」
レインの言葉にリュセルは間髪を入れずに断言した。
「ええ、そのようですね。あなたは、深窓の姫君と表現するには美し過ぎる」
「は?」
リュセルは銀の瞳を大きく見開く。
「学塔を維持できなくなったんだよ。国政が不安定過ぎてさ」
「なんて事だ」
呻くようにそう言ったリュセルに対し、ローウェンも両手を広げる。
「しょうがないよ。国民は今生きていくだけで精一杯なんだからさ」
「城内は、こんなに贅沢三昧なのにな」
何気なく呟かれたリュセルの言葉。それを聞いたローウェンは、項垂れるように俯いた。
「ルルドの葉のおかげでね。……国王陛下に、アシェイラから帰国した後、一応報告したケド、一蹴されて終わっちゃたんだ。まあ、ルルドの葉を広めている張本人だから、仕方ないんだろうけど」
「そうか。……ってお前、今、何気にすごい事言わなかったか!?」
聞き捨てならない情報を耳にし、目をむいたリュセルに対し、ローウェンは大きなため息をつく。
「だって、どうしてもそこに行き当たるんだもん。憶測でしかないけどね」
あっさりとした口調でそう言うが、少年の声には隠し切れぬ悲哀がにじんでいた。
「ローウェン……」
リュセルは慰めるように腕を伸ばし、その金の髪を撫でた。
「ルルドの葉の事は、俺もレオンもついているから、心配するな」
優しい手と声だ。ローウェンは小さく頷く。
「うん」
その時だった。
軽いノックと共に、部屋の扉がいきなり開かれたのだ。
「!?」
リュセルが咄嗟に扉に目を向けると、そこには先程別れたはずの青年の姿があった。
「よお、ローウェン」
片目をつぶって片手を上げた三番目の兄の姿に、ローウェンは、次の瞬間、まずいというような顔になった。
第三王子 レイン。
兄弟の中で、ローウェンに普通に接してくる、数少ない人間の一人だが、いかんせん、この兄には少々問題がある。
老若男女問わずに綺麗な者が大好きという性癖。彼は、周りの評判よりも、本人の見た目の美しさに重点を置いている変態なので、よく忌み子であるはずのローウェンにもちょっかいかけてくるのだ。だが、おそらく今回の目的は……。
警戒する弟に気づいているのかいないのか、当の本人であるレインは、不審そうに自分に視線を向けるリュセルを認めると、にっこりと一見人当たりの良いような笑みを浮かべた。
(やばいっ)
ローウェンは、冷や汗を滝のように流し始める。
「レ、レイン兄上。ど……どうかしたのですか?」
引きつり気味の笑みを浮かべたローウェンに笑いかけ、レインは、勝手知ったる部屋と言わんばかりに、ズカズカと、弟と他国の客人のいるテーブルのある畳上へと履物を脱いで上がった。
「どうかしたかって……? 冷たいなあ、ローウェン。可愛い弟の顔を見に来たんじゃないか。相変わらず、天使のように美しいな、我が愛しの弟よ」
美女を口説くような低音で話しかけられたローウェンは、引きつり笑顔のまま、乾いた声で答える。
「レイン兄上こそ、相変わらずですね。知ってると思いますが、僕、男ですよ?」
「だから、余計にいいんじゃないか」
その言葉に、ローウェンは、背筋がぞっとするのを感じた。
優に180cmを超える長身に、中分けにされた短髪。髪と同じ色の直衣が映えている。着ているものが、体の線が出ない直衣である影響で、よくは分からないが、その広い肩幅と厚い胸板は、よく鍛えられているようでもある。
美しいものを何よりも好み、その性癖も男女問わず、気に入りの者はどんな手を使ってでも閨に引っ張り込む、自他共に認める好色男。端正な顔や恵まれた体型を抜かせば、彼が一番、あの父王に似ているのかもしれない。
「先程は失礼しましたね。リュセル王子」
ローウェンの容貌を讃え終えると、レインは意識をリュセルに向けてきた。
「いえ」
そう答えるリュセルの中の、彼に対する危機意識はかなり低減してきていた。
何故なら、他の兄弟達がまるで汚いものを見るような冷たい目でローウェンを見ていたのに対し、言動は少しおかしいが、この第三王子は普通に話しかけて来たのだ。
しかも、ローウェンの受け答えを聞くと、これが始めてではないらしい。弟に話しかけるというよりも、美しいものを愛でるような話し方が、多少、気にはなるが……。
(まともな兄弟も、いるにはいるんだな)
ジュリナの警告などすっかりと忘却の彼方へと押しやったリュセルは、レインの、「隣に座っても?」という言葉に頷いた。
「どうぞ」
(リュ……、リュセル兄さん~~~~(泣))
リュセルの向かいでは、ローウェンが顔を強張らせていた。
なんで分からないんだ!
(レオンハルト兄さんは、リュセル兄さんに、レイン兄上に関する情報を与えなかったのか!?)
凛々しい未来のお義姉様から与えられましたが、うっかり忘れています。
そんな事、まったく知らないローウェンは、一刻も早く、レオンハルトが来てくれる事を祈り続けた。
一方、リュセルの隣に腰を下ろしたレインはというと、隣に座る他国の若い王子を鑑賞していた。
噂に聞いていた容貌と、かなりのズレがあった。どんな美姫のような王子が来るのかと思っていたが、リュセル王子は、完全に男にしか見えない容貌をしている。それも、とびきりの美男子だ。
一応、これで、女神の子供全員と会った事になるレインだが、彼らの美貌は感嘆に値するものばかりだと、ため息をつきたくなる。
妹達が失神してしまったのも無理がない。女性だったら、彼の美貌にコロリとやられてしまうだろう。少し癖のある銀糸の髪が、白い頬にかかるのを払う仕草さえ美しいのだ。
五年前、レオンハルトに手を出そうとして、肉体的にも精神的にも痛い目にあわせられたが、この弟王子はどうだろう?
彼は宝主である兄と違い、宝鍵のはず……。比較的、御しやすいのではないか?
レインの瞳に濡れたような輝きが宿ると同時に、口元に好色な笑みを浮かべるのをローウェンは見てしまった。
(ひいいいいいいっ!)
ターゲットロックオン、されてしまった!
(どうしよう、どうしよう、どうしよう(号泣))
ローウェンの混乱など知るよしもなく、リュセルは自分の顔を見つめているレインに眉をひそめた。
「何か?」
怪訝そうな表情さえ、震えが走る程美しい。そう内心思いながら、レインは謝った。
「すみません。不躾な真似を……。ただ、噂に聞いていたリュセル王子とかなり違うので」
レインの苦笑を孕んだ言葉を聞いたリュセルは、げんなりとなった。
(あの噂か)
「深窓の姫君のような方だと伺っていましたので」
「それは、まったくのデマです」
レインの言葉にリュセルは間髪を入れずに断言した。
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