【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第八章 暁を呼ぶ者

4-2 計画

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 そして、レオンハルトはその後、わかりやすく、そして、なるべく短く、自分達の目的、そしてルルドの葉の事、メルティス前王の事を説明したのだが……。

「…………そんな、信じられない」

 さすがに、祖父であるメルティス前王が死人であり、ルルドの木、本体である事を知った時、アサギの顔色は蒼白になり、顔から一切の笑みが消えた。

 それは、この国の王子として、この国の国民として、信じられない…………いや、信じたくない事であった。

「お……、お祖父様」

 衝撃のあまり、わずかにカタカタと震えているアサギの肩から、リュセルはゆっくりと目を逸らした。

「しかし、これが事実です」

「…………」

 淡々と、厳しい現状を口にするレオンハルトの言葉を聞き、アサギは無言になる。そして、気持ちを落ち着ける為、一つ、大きなため息をつき、目を閉じたまま小さく頷いた。

「そうですね。あなたは決して嘘は言わない。レオンハルト王子、あなたがそうおっしゃるのなら、それは事実なのでしょう。でも、そうなると、こちらの計画が大幅に狂う事になります」

 そう言って、動揺の残る瞳を上げたアサギは、真っ直ぐにレオンハルトを見つめる。

 その、誠実で、真っすぐな視線を受け止めたレオンハルトは小さく頷いた。

「あなた方の言う、計画とはなんですか?」

「私達は、父上を王座から引き摺り下ろし、もう一度、お祖父様……、メルティス前王に、その座についてもらうつもりでした」

 アサギはそう言うと、冷静にこちらを見返してくるレオンハルトに疲れたような微笑みを浮かべて見せた。

「飢餓、退廃……、そして麻薬。滅び往こうとしているこのサンジェイラを立て直すだけの力がメルティス前王にはある。いえ、あったのです。彼は、既に王族を見限り王都を去った、力ある有力貴族達との繋がりも強い。それを知る私達は、もう一度、彼に玉座についてもらう為の説得と、そして、同時に、メルティス前王の次世代、次期国王とするに値する者を選定していたのです。メルティス前王は知っての通り老齢です。長くは王座にいられないでしょう。ですから、国政が安定を取り戻した頃、次代の王に引き継がせ、その王の元、改革を進め、サンジェイラ国をよみがえらせる。……これが、私とユリエが考えた計画でした」

 ミゼールを廃し、新王がいきなり即位するには、今のサンジェイラ王家のシステムは古過ぎた。アサギとユリエの二人だけでは、それを破壊し、作り直すのは不可能だったのだ。いや、出来ない事はないであろうが、時間がかかる。それでは、この国自体がもたない。
 原因となったのは、完全なる味方不足。どんなに探しても、国の中枢を担う者に、二人の味方となれる人材がいなかったのである。サンジェイラ国政の中枢、王の助けとなり、政治を動かしてきた者達。二つの派閥、貴族派と学者派は、既に己の欲に澱みきっていたのだった。

 そんな彼らを早急にコントロールし、抑え、動かす事が出来るのは、ミゼールの前の時代、彼らを支配していたメルティスしかいなかった。しかし、肝心なメルティス前王が死人では、もうこの計画は遂行できないだろう。

 レオンハルトはそう考えながら、ふと疑問を口にした。

「次代の王に誰を就けるつもりだったのですか?」

 その疑問に対し、アサギは、ある意味、無謀とも言える者の名を挙げたのだった。

「レインです。私達は、あの、大胆不敵な弟を次代の玉座に就けるつもりでした」

 その言葉に、レオンハルトは無表情のままだったが、リュセルは驚きのあまり顔を引きつらせた。

「あなたかユリエ姫のどちらかでは、駄目だったのですか?」

 リュセルがショックのあまり声も出せないでいるのをサクッと無視して、レオンハルトはそう尋ねた。

「私達には私達の役目があります。それを果たしたら、玉座に就く資格を失うのです」

 重々しい口調を聞いて、ショック状態だったリュセルの意識もようやく戻った。

(玉座に就く資格を失くす役目って……)

 王位継承の資格を持たないのは、自分達女神の子供のみのはずである。

 しかし、暗い決意を込めたアサギの真意を悟ったのか、レオンハルトはそれについてはそれ以上追求しなかった。

「この国の内情に関して、私達が干渉する事は出来ません。私達に出来るのは、ルルドの葉をこの国から根絶する事だけです」

 そんな冷たいレオンハルトの言葉にもアサギは臆する事なく答える。

「あの、恐ろしい麻薬がなくなるだけでも助かります」

「……これは、あなたかユリエ姫が手に入れたものなのですね?」

 アサギの答えにレオンハルトは頷くと、懐から透明の袋に入った小さな木の葉を出した。

(あっ、あれは!)

 リュセルの脳裏に嫌な記憶が駆け巡る。レインがそれをネタに自分に迫ってきた記憶はまだ新しい。いつの間にか、アルティスの手からレオンハルトの手に渡っていたらしい。

「ええ。それの為に多くの部下を失いました」

 そう言って目を伏せたアサギの横顔には苦渋がにじみ出ていた。

「彼らの為にも、計画は遂行しなくては……。例え、お祖父様なしでも」

 アサギの暗く強い決意にリュセルは圧倒される。

 そんなリュセルに微笑みかけると、アサギは自嘲気味に続けた。

「まさか、お祖父様に、麻薬の木の結び目にされているとは思いませんでしたが……、きっと、お祖父様にとって、私もユリエも邪魔だったのでしょう。彼の真意は、国を建て直す事よりも、アルティスを玉座に就ける所にあるようですからね。我々とは、元々、根本的に考えが違うのです」

 そして、そこで言葉を切ったアサギは、リュセルとレオンハルトに尋ねる。

「結び目であるユリエを追って街に降りるのですか?」

「ええ、そのつもりです。ローウェン達の後を追う形になりますが……」

 その答えにアサギは小さく頷き、言った。

「ユリエはおそらく、国民の中にある派閥の一つ。暴動を起こそうとしている派閥と対立している、穏健派の隠れ屋にいるはずです。妹はたった一人、城下の街で味方を集めたのですよ」

 アサギのこの言葉から、ずいぶん前から彼らが動いていたのが分かる。

「場所は、街の西側にある歓楽街。幻想屋という老舗の妓楼の一室です」

「わかりました」

 説明を受けて立ち上がったレオンハルトにアサギはもう一つ忠告した。

「その、洋風の宮廷衣装では、お二人とも目立ちますよ。せめて、着物に着替えてから出かけた方がよろしいと思います」

「ご忠告、痛み入る」

 淡々としたレオンハルトの返事に苦笑すると、アサギはため息のように呟いた。

「メルティス前王は、及ばずながら私が目を配っておきましょう。お二方、妹と弟達をよろしくお願い致します」

 そうして畳に両手をついて深く頭を下げたアサギの心中を察すると、リュセルはやりきれない思いで一杯になる。でも、どうすることも出来ず、ただ、アサギに頭を上げてもらい、気休めのような言葉を告げる事しか出来なかった。

「大丈夫、必ずユリエ姫は連れ帰ります。みんな無事に城に戻って来ますよ」

 リュセルのその言葉に、アサギはただ、疲れたような微笑みを顔に乗せたのだった。

 メルティスが後継者教育に手を抜き、ミゼールが遊び呆けたその代償を、こうして、アサギ達、何の罪もない孫の代に負わせているのである。

 なんて過酷な環境な状況なのだろうと、リュセルは思った。
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