【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第八章 暁を呼ぶ者

4-1 結び目の浄化

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「ちょ、ちょ、ちょっと、リュセル王子! セクハラですか!?」

 この時になってようやく慌てたアサギは、男のくせに何故か男の身に沿うに慣れた目の前の体を引き離そうと躍起になった。

 すると、次の瞬間、隙間なく張り付いていた体をわずかに離し、リュセルは、薄い光を放つ銀の瞳をアサギに向けた。

「っ!」

 まさに目前。目が眩むような白皙の美貌を視界一杯に入れてしまったアサギは体を強張らせ、即座に息を呑む。

「そこか……」

 そんなアサギの状態を気にする事なくリュセルは呟くと、彼の額に触れた。触れた右手から感じた違和感が強く響く。

 ドクンッ

 そうしてリュセルは、その違和感を更に強く感知する為、自分の顔をアサギの顔へとゆっくりと近づけた。

「リュ、リュセル王子! 何をする気ですか!?」

 一方、アサギは近づく美貌を避けようとするが、両頬をホールドされて出来ない。

「……」

 そんな目の前の青年の叫びなど聞こえていないのか、リュセルは彼の訴えを無視し、自分の額を笑顔のポーカーフェイスを崩したこの国の第二王子の額に合わせたのだった。

 瞬間

 リュセルの額に不思議な紋様が浮かび上がる。

 三つの女神の宝、それぞれに刻まれた不可思議な神の紋。宝主と同化する瞬間に宝鍵の額に浮かぶその紋様が、邪気浄化の時以外に浮かぶ事は長い女神の子供の歴史の中でも確認されてこなかった。今、この時までは。

 しかし、リュセルは、自分のそんな状態など知る由もなく、感知能力を高めるだけ高めた。そして……

(見つけたっ!)

 アサギの内部の奥の奥。本人すらも知らぬ部分に、それは見えた。

 魂の奥に植え付けられた、何の変哲もない木の枝。

 そう、木の枝に見えるモノ。

 かすかな邪気を発するそれが、何かなどと考えるまでもない。こんなにあっさりと見つかって、かなりの拍子抜けではあるが……。

(見つけた! ”結び目”)

 リュセルは一気に目を開くと、睫毛が触れる程近くにあるアサギに向かって、微笑みを浮かべる。そして、次の瞬間、集中が途切たリュセルの額から紋様は消失したのだった。

(とにかく。早く浄化をしなければ)

 でも、どうやって?

 リュセルは、女神の剣を使っての邪気の浄化の仕方しか知らなかった。でも、剣を使っての浄化では、アサギを傷つけてしまうかもしれない。レオンハルトなどは、邪気の影響を受けて衰弱してしまった人を助けたり、小さな邪気を浄化する時などは、剣を使わずに浄化できるようだったが。

(う~ん)

 唸りながらアサギの額を凝視するリュセルに対し、当の本人は困り果てていた。

「リュセル王子……、あ、あの、離してもらえませんかねぇ?」

 とりあえず、穏やかに頼んでみる。

「ちょっと待て」

 すかさず冷たい答えが返って来た。

(う~ん。どうしたらいいのでしょうか)

 一体、自分の何がこの王子の興味を引いたのか知らないが、いつまでもこの体勢ではアサギは辛い。

 すぐ下の弟、レインなら喜びそうな現状だが、アサギはいかんせん普通の感覚の持ち主だった為、男に密着されたこの状態は、少し複雑な気持ちにさせられた。

 そんなアサギのピンチ(?)を救ったのは、今まで成り行きを静観していたレオンハルトだ。

「待ちなさい。いくらなんでもそれ以上の接触は許さんぞ」

 いつの間に移動したのか、リュセルの左横に膝をついた彼はそう言って、アサギに密着していた弟の腕を離させた。

「私の心をこんなにも玩んで。……いけない子だね」

 弟にしか聞こえないように耳元に唇を寄せて甘く囁いた兄の美声を聞いて、リュセルは背筋がゾクリとした。

「い、い、い、いいいいいやいや、ちちちち違うぞ! レオンっ」

 一気にリュセルの意識は、目の前の結び目から隣で妖艶に微笑む麗しのお兄様に戻る。アサギから身を離し、弁明するようにレオンハルトに縋ったリュセルは慌てて叫んだ。

「か、彼が、結び目なんだ!」

「そんなに大声出さんでもわかっている」

 弟の叫びに冷静にそう答えたレオンハルトはリュセルの額にそっと右手で触れた。

(消えたか……)

 先程まで弟の額に浮かんでいた紋様をレオンハルトはしっかりと目に焼き付けていた。
 女神の宝に刻まれた不可思議な紋様は、神紋(しもん)と呼ばれ、この世界で最も尊い神の紋様とされている。

 創世の女神の子供たる自分達にその紋様が現れるのは、宝鍵が宝に肉体を捧げる時位である。何故、今出現したのか?

 しかし、レオンハルトがその事を考えて、動きを止めたのは一瞬だった。

 すぐに困惑した様子のアサギに向き直ると、軽く頭を下げる。

「弟がいきなり無礼な事をしてすまなかった、アサギ王子」

 レオンハルトの謝罪の言葉に、ようやくアサギも、いつものにこやかな微笑みを穏やかな顔にのせる。

「いえいえ、大丈夫ですよ。少しびっくりしましたけれどね」

 その答えにレオンハルトは頷くと、淡々とした口調で言った。

「そう言っていただけるとありがたい。そのご好意に甘えるようだが、出来ればこのまま動かないでもらえるか?」

「え……?」

 予想外の言葉に目を見張っているアサギをそのままに、レオンハルトは後ろからリュセルの体を囲うようにすると、彼の右手をとって言った。

「結び目の在り処は額だね?」

 確認するような言葉にリュセルは黙って頷く。

 その肯定にレオンハルトは何も言わないまま、弟の右手の甲に己の右手を重ねて、アサギの額に触れさせる。

「レオン?」

 リュセルは兄の真意がわからず、尋ねるように名を呼んだ。

 しかし、それにはなにも答えず、弟の均整のとれた体に背後から沿うように密着したレオンハルトは耳元で低く囁いた。

「ちょうどいい機会だ。やり方を教えてやろう。意識を、結び目……邪気の出所である、彼の額に集中させなさい」

 その言葉を聞き、リュセルは深く頷く。

「ああ」

 そして、再び意識をアサギの中へと向けて、ルルドの葉の結び目を視た。

「あった」

「そうか。私には視えないから、そのままお前が浄化しなさい。力のコントロールはしてやる」

 耳元で聞こえる冷静な声にリュセルは尋ねる。

「どうやってだ?」

「大丈夫。私の呼吸に合わせるんだ」

 レオンハルトの抑揚のないその声に、リュセルは目を閉じると、背後の兄から感じる力の流れを意識した。ゆっくりと、浄化の為の力が右手に集中しているのを感じ、リュセルはそれを真似て、右手に意識を集中させる。

「そう……、上手だね。いい子だ」

 同化時のような感覚に陥り、右手に力が集ったと思った瞬間、そこから銀の光が溢れる。

「っ!?」

「……」

 力の奔流にリュセルの瞳に動揺が走るが、すぐにレオンハルトが力のコントロールをし、溢れ出した銀の光は段々と小さくなっていった。
 しばらくして、ぽうっと、わずかな光が照らすだけになった中、リュセルはアサギの内部に感じた、邪気の結び目の枝が枯れていくのを視る。

(良かった)

 これで、後は、メルティスと決着をつけるのみである。

 しかし、アサギの中から完全に邪気が浄化されたと思った瞬間、一人の少女の姿が目の奥に浮かんだ。黒髪のおさげ髪、眼鏡をかけた地味な少女。彼女の額の奥にも、強い違和感を覚える。

「浄化終了だ。頑張ったな、リュセル」

 よしよしと、頭を撫でてくる背後のレオンハルトを振り返り、リュセルは頭を振った。

「結び目は彼一人じゃない! ユリエ姫もだ」

 弟の言葉にレオンハルトは動きを止めると、低い声で尋ねる。

「視たのか?」

「ああ、アサギ王子と繋がっていたようだ」

 苦虫を噛んだような弟の顔を見ながら、レオンハルトも眉をひそめた。

 そして、ある事に気づく。

「確かに、あの本にも、結び目は一つだとは書いていなかったね」

 てっきり一つだと思っていた二人である。確認していないが、アルティスとローウェンも自分達と同じに思っている事だろう。

「とんだオチだ」

 大きくため息をついて両手を広げたリュセルを見つめ、レオンハルトも頷いたのだった。

「あの…………、えっと……。私はほったらかしですか~?」

 アサギは状況がわからないまま、あははははと乾いた笑みを浮かべていた。
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