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第八章 暁を呼ぶ者
3-2 ルルドの結び目
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「っ!」
彼らがこの国にきた直後、王座の間で行った王族の自己紹介を兼ねた初対面の挨拶時にユリエとサクラの二人を抜かした五人の姫君を失神させた甘い微笑み。それを近くで見たスカイは、その破壊力のすさまじさに胸を押さえ込んだ。
失神しそうになるのを耐えていたスカイは、しかし、次の瞬間、更なる衝撃を受けた。
机の向かい側からリュセルがおもむろに腕を伸ばして、胸を押さえ込んでいたスカイの手にそっと触れてきたのだ。
「大丈夫ですか、スカイ王子。どこか具合でも?」
心配そうに寄せられた、銀の眉と銀の瞳の色のあまりの美しさに見蕩れるしかない。
「い、いえ……、大丈夫です。何でもありません」
奇跡のように整った月の美貌を見つめ、うっとりと頬を染めながら呟いたスカイに、リュセルはほっとしたように息をつき、安心したように微笑みを浮かべた。
「そうですか。よかった」
そう甘い声でささやき、スカイの手をとり、リュセルは少年の手の甲に口づける。
(きゃあああああっ)
スカイは内心黄色い悲鳴を上げ、シオンとアサギは呆気にとられたようにリュセルの突然の行動を見つめていた。
唯一、レオンハルトだけは緑茶を優雅に飲み続け、冷静な顔をしていたが。(そのあまりに優雅な所作に湯のみがティーカップに見えた程だ)
「あ、すみません。そのような姿なので、つい、姫君を相手にしているような気分になってしまって……」
申し訳なさそうに謝るリュセルをうっとりと見つめ、スカイは頬を染めて呆けたまま、フルフルと首を左右に振った。
「ふふ。でも、姫君のように美しい手ですね」
優しくとられた右手を、これまた優しく撫でられて、スカイは更に顔を赤くする。
(この子も白か)
目の前の女装姿の少年に甘い微笑みを振りまきながら、リュセルは心の中で冷静にそう分析した。
今、この場にいる王族達で調べるべき相手は、後二人。リュセルは調査済みのスカイの手から手を離すと、今度はスカイの隣に座る実直そうな青年に目を向けて、ターゲットを移した。
「スカイ王子もそうですが、こうして話をするのは初めてですね、シオン王子」
「え? ええ、いえっ! は、はい」
こちらに意識が向けられると予測もしていなかったのだろう。つい、どもりながら返事を返してしまったようである。
スカイ程真赤ではないが、頬を紅潮させて自分を見つめるシオンに、リュセルは緩く握った右手の甲で口元を隠すと、小さく笑った。
「そんなに緊張なさらなくても」
わずかな仕草さえ、背筋がゾクゾクする程美しい銀の王子に、シオンは相手が年下である事も忘れ、まるで初めての恋に胸を高鳴らせる乙女のように、見蕩れてしまう他なかった。
(男相手でも、何気に楽勝だな)
リュセルは内心拍子抜けしながらも、真面目そうな眼鏡の王子を調べる為、わずかに放心状態だったスカイをうまく言いくるめて、席を交換してもらった。
レオンハルトは、アサギととりとめもない話をしながら、彼の意識を逸らしてくれている。
任務の為と割り切っているのか、リュセルが無造作に他の者に触れても、いつものように嫉妬を孕ませた責めるような視線を送って来ない。
それが少し、寂しいような気がした。
目を向けて来ない兄に腹を立てるのは理不尽だと思うが、リュセルはレオンハルトの琥珀の瞳が真っ直ぐにアサギに向いてるのを横目で見ると、内心ムカムカしてきていた。
(まあ、やりやすくていいがな)
そう思う事で気を取り直し、隣で固くなっているシオンの肩を優しく抱いた。瞬間、ビクッとした様子の彼に気づかぬ振りをしながら甘い声で囁く。
「そんなに固くならないで、シオン王子」
そして、強張った相手の肩を、ぽんぽんと軽く叩く。
「リュセル王子」
耳まで赤くして、困ったように自分の肩あたりを見つめているシオンに微笑みかけながら、リュセルは軽く首を傾げた。決してリュセルの顔を直視しようとしないその様子に、既視感を覚える。
(ああ、そうか……。出会ったばかりの頃のユージン達だな)
まるで奇跡のようなリュセルの月の美貌を、最初、兄の騎士達……、特にユージンとアイリーンは避けている節があった。
(あの二人と同じ反応だ)
ギクシャクとした様子のシオンからそれを察すると、リュセルはわざと悲しそうな声で言った。
「……私の事、お嫌いですか?」
その言葉に、シオンは顔を咄嗟に上げ、慌てて答える。
「い、いいいいいいいえ、そんな事、ありません! ありえません!」
そして、顔を上げてしまった為に、ばっちりと目の前で、キラキラと輝く銀の王子の顔を見てしまった。
「…………ッ」
無言になり、硬直してしまったシオンの肩を抱いたまま、嬉しそうにリュセルは笑った。
「良かった。シオン王子とは年も近いし、仲良くなれそうですね」
「こ、光栄です」
可哀想な位に震えた声でそう答えたシオンからようやくリュセルは手を離すと、顔に微笑を貼り付けたまま、内心ため息をついた。
(また外れか)
そう思いながら、左隣でレオンハルトと話しているアサギを意識する。
残るは彼だけである。
アサギ、ソウル、ユリエ、サクラ。
この四人の内の誰かが、ルルドの木たるメルティスとルルドの木の中毒者を結ぶ、”結び目”なのだ。
さっさと調べたいが……。
(隙がない)
朗らかな笑みを絶えず顔に浮かべておきながら、アサギにはまったく隙というものがなかった。
年若いシオンやスカイは姫君達を相手にした要領で誑しこめたが(ジュリナを参考にして)、レオンハルトより年上で、しかも、男のアサギ相手にどうすればいいのだろうか?
年上の男でも、まだソウルやレインのようなタイプの方がやりやすい。(後者は願い下げだが)
まさか、必殺王子スマイルで悩殺する訳にもいかないし。それに多分、アサギは悩殺されないような気がする。
頼みの綱のレオンハルトは、自分でどうにかしろと言わんばかりに、にこやかにアサギと世間話をしていて助けてもくれない。
(ど、どうすれば)
そんなこんなで悩みながら、シオンとスカイに笑顔をふりまき、話をしている内に、時間がかなり経ってしまっていた。
「もう部屋に戻んなくちゃ」
残念そうな声音のスカイに同意して、シオンもかすれた声で頷いた。
「私も今日の課題が終わっていないので」
二人共専属の教師がついているらしく、その教師から出された宿題をする為に自室に戻って行く。
そうしてリュセルに未練を残しながら去っていった弟達を見送ると、アサギはリュセルに言った。
「あんなに楽しそうな弟達を見たのは久しぶりですよ」
「私も楽しい時間を過ごさせていただきました」
駄目元で悩殺王子スマイルを浮かべるが、やはり彼には効かなかった。
(やはり駄目か。さて、どうする?)
救いを求めるように兄を見るが、感情の読み取れない無感動な視線を返されるだけだ。
(ん? 機嫌が良くないのか?)
まだ相手がスカイやシオンのような無害系王子だったからこの程度で済んでいるが、近くであれだけ他人を誑し込められれば、半身としていい気分がしないのは当然である。
(ティアラ姫もこのような気持ちだったのだろうか)
目の前でこれだけ他の者を口説く半身の姿を見せつけられて、例え任務の一環とわかっていてもおもしろくないレオンハルトは、ふと、ディエラの鏡鍵、可憐な姫君の事を思い出した。
リュセルの口説き、誑しこみ方……。まるでジュリナと同じなのである。
まさか自分が、ティアラの気持ちを察する日が来るとは夢にも思っていなかったレオンハルトだ。
そんな複雑な兄の胸の内など知らないリュセルは、助け舟を出してくれない兄に苛立っていた。
(一体、何が気に入らないんだ! この男は)
案の定、まったくわかっていなかった。
そんな二人を不思議そうに眺めていたアサギは、冷めてしまった緑茶をすすり、言った。
「リュセル王子、何か私に御用ですか?」
「え?」
「う~ん。先程からあまりにも熱い視線を向けられて、ドキドキしておりました」
思いっきり、ばれていた。
困ったように笑うアサギの顔を見たリュセルは、これはもう、男らしく直球勝負をするしかないと、その瞬間決断する。
ある程度こちらの状況も知っているようだし、きっと協力してくれるだろう。都合よく事情を知らぬシオンもスカイも部屋を退出して行った事だし。
(触らしてくれと正直に頼むか。どうせこれからお互いの事を話し合うんだしな)
アサギのにこやかな顔を見ながら、彼なら快く許してくれるだろうと勝手判断しに、リュセルは口を開いた。
しかし、口から出た言葉は、当初の予定とだいぶ違った言葉になってしまったのだ。
もの言いたげな琥珀の瞳を向けてくるレオンハルトを視界に入れて動揺してしまったのが原因かもしれない。
「アサギ王子、抱かせて下さい!」
結構な大声でそう叫んだリュセルにアサギはポカンと口を開け、レオンハルトも驚きに目を見開いた。
(ん?)
二人のおかしな反応を目にし、自分の言った台詞のやばさに気づかないままリュセルは眉をひそめた。
「はあ、まあ……、いいですよ」
自分の言い違いにリュセルが気づいたのは、呆気にとられた表情のまま、アサギがおもむろにリュセルに向かって両手を広げた時であった。
(間違えた…………)
まぬけな男である。
自分の失言に頬を軽く引きつらせながらアサギを見るが、唖然とした表情を浮かべながらも平然とリュセルを歓迎するように両手を広げている彼はある意味大物だと思う。
「すみません、アサギ王子」
間違えました!と謝ろうとした瞬間、リュセルは目の前の穏やかな気質の王子の内部に違和感を感じた。
(なんだ?)
微弱過ぎて、今までわからなかった。
何かが違う。普通と違う。
上手く隠されているが、何かが引っかかる。
何となく、気分が落ち着かない。……この感じ。
リュセルは顔をしかめると、言おうとした訂正の言葉を飲み込んで、両手を広げているアサギへと腕を伸ばした。
そのまま彼の内部を調べる為、招かれるままにその体を抱きしめる。
そこが、麗しくも怖いお兄様の目の前であるという事などすっかり忘れて……。
「え……、え~と」
変態王子 レインと違い、常識的なアサギは、まさか本当に抱きしめられるとは思っていなかった為、己の顔の横に散った銀糸の髪の柔らかさと背に回された腕の力強さを感じ、困ったように頬をかいた。
「……」
無言で圧力をかけてくるレオンハルトの顔を見ると(この状況で彼の顔を見られるアサギは勇者だった)、自分を抱きしめる弟王子を無表情のまま見つめていた。
「困ったな」
そう言いながらも、いつものアルカイックスマイルを浮かべるアサギは、一体、自分はいつまでこうしていればいいんだろう。と、のん気な事を考えていたのだった。
一方、アサギの体を強く抱きしめたリュセルは、目を固く瞑って、精神を集中させていた。
そのまま触れ合った部分から、微弱な違和感の正体を探り出そうとする。
(どこだ? どこにある)
感覚を鋭敏にさせて、リュセルはアサギの背中にまわしていた手を移動させた。
「っ!?」
不意に腰を撫で上げられて、さすがにアサギはにこやかな微笑みを引きつらせる。
腰だけではない。腕、足、胸、背と、まるで何かを探しているような動きで、リュセルの両手は忙しなくアサギの体の上を這い回った。
彼らがこの国にきた直後、王座の間で行った王族の自己紹介を兼ねた初対面の挨拶時にユリエとサクラの二人を抜かした五人の姫君を失神させた甘い微笑み。それを近くで見たスカイは、その破壊力のすさまじさに胸を押さえ込んだ。
失神しそうになるのを耐えていたスカイは、しかし、次の瞬間、更なる衝撃を受けた。
机の向かい側からリュセルがおもむろに腕を伸ばして、胸を押さえ込んでいたスカイの手にそっと触れてきたのだ。
「大丈夫ですか、スカイ王子。どこか具合でも?」
心配そうに寄せられた、銀の眉と銀の瞳の色のあまりの美しさに見蕩れるしかない。
「い、いえ……、大丈夫です。何でもありません」
奇跡のように整った月の美貌を見つめ、うっとりと頬を染めながら呟いたスカイに、リュセルはほっとしたように息をつき、安心したように微笑みを浮かべた。
「そうですか。よかった」
そう甘い声でささやき、スカイの手をとり、リュセルは少年の手の甲に口づける。
(きゃあああああっ)
スカイは内心黄色い悲鳴を上げ、シオンとアサギは呆気にとられたようにリュセルの突然の行動を見つめていた。
唯一、レオンハルトだけは緑茶を優雅に飲み続け、冷静な顔をしていたが。(そのあまりに優雅な所作に湯のみがティーカップに見えた程だ)
「あ、すみません。そのような姿なので、つい、姫君を相手にしているような気分になってしまって……」
申し訳なさそうに謝るリュセルをうっとりと見つめ、スカイは頬を染めて呆けたまま、フルフルと首を左右に振った。
「ふふ。でも、姫君のように美しい手ですね」
優しくとられた右手を、これまた優しく撫でられて、スカイは更に顔を赤くする。
(この子も白か)
目の前の女装姿の少年に甘い微笑みを振りまきながら、リュセルは心の中で冷静にそう分析した。
今、この場にいる王族達で調べるべき相手は、後二人。リュセルは調査済みのスカイの手から手を離すと、今度はスカイの隣に座る実直そうな青年に目を向けて、ターゲットを移した。
「スカイ王子もそうですが、こうして話をするのは初めてですね、シオン王子」
「え? ええ、いえっ! は、はい」
こちらに意識が向けられると予測もしていなかったのだろう。つい、どもりながら返事を返してしまったようである。
スカイ程真赤ではないが、頬を紅潮させて自分を見つめるシオンに、リュセルは緩く握った右手の甲で口元を隠すと、小さく笑った。
「そんなに緊張なさらなくても」
わずかな仕草さえ、背筋がゾクゾクする程美しい銀の王子に、シオンは相手が年下である事も忘れ、まるで初めての恋に胸を高鳴らせる乙女のように、見蕩れてしまう他なかった。
(男相手でも、何気に楽勝だな)
リュセルは内心拍子抜けしながらも、真面目そうな眼鏡の王子を調べる為、わずかに放心状態だったスカイをうまく言いくるめて、席を交換してもらった。
レオンハルトは、アサギととりとめもない話をしながら、彼の意識を逸らしてくれている。
任務の為と割り切っているのか、リュセルが無造作に他の者に触れても、いつものように嫉妬を孕ませた責めるような視線を送って来ない。
それが少し、寂しいような気がした。
目を向けて来ない兄に腹を立てるのは理不尽だと思うが、リュセルはレオンハルトの琥珀の瞳が真っ直ぐにアサギに向いてるのを横目で見ると、内心ムカムカしてきていた。
(まあ、やりやすくていいがな)
そう思う事で気を取り直し、隣で固くなっているシオンの肩を優しく抱いた。瞬間、ビクッとした様子の彼に気づかぬ振りをしながら甘い声で囁く。
「そんなに固くならないで、シオン王子」
そして、強張った相手の肩を、ぽんぽんと軽く叩く。
「リュセル王子」
耳まで赤くして、困ったように自分の肩あたりを見つめているシオンに微笑みかけながら、リュセルは軽く首を傾げた。決してリュセルの顔を直視しようとしないその様子に、既視感を覚える。
(ああ、そうか……。出会ったばかりの頃のユージン達だな)
まるで奇跡のようなリュセルの月の美貌を、最初、兄の騎士達……、特にユージンとアイリーンは避けている節があった。
(あの二人と同じ反応だ)
ギクシャクとした様子のシオンからそれを察すると、リュセルはわざと悲しそうな声で言った。
「……私の事、お嫌いですか?」
その言葉に、シオンは顔を咄嗟に上げ、慌てて答える。
「い、いいいいいいいえ、そんな事、ありません! ありえません!」
そして、顔を上げてしまった為に、ばっちりと目の前で、キラキラと輝く銀の王子の顔を見てしまった。
「…………ッ」
無言になり、硬直してしまったシオンの肩を抱いたまま、嬉しそうにリュセルは笑った。
「良かった。シオン王子とは年も近いし、仲良くなれそうですね」
「こ、光栄です」
可哀想な位に震えた声でそう答えたシオンからようやくリュセルは手を離すと、顔に微笑を貼り付けたまま、内心ため息をついた。
(また外れか)
そう思いながら、左隣でレオンハルトと話しているアサギを意識する。
残るは彼だけである。
アサギ、ソウル、ユリエ、サクラ。
この四人の内の誰かが、ルルドの木たるメルティスとルルドの木の中毒者を結ぶ、”結び目”なのだ。
さっさと調べたいが……。
(隙がない)
朗らかな笑みを絶えず顔に浮かべておきながら、アサギにはまったく隙というものがなかった。
年若いシオンやスカイは姫君達を相手にした要領で誑しこめたが(ジュリナを参考にして)、レオンハルトより年上で、しかも、男のアサギ相手にどうすればいいのだろうか?
年上の男でも、まだソウルやレインのようなタイプの方がやりやすい。(後者は願い下げだが)
まさか、必殺王子スマイルで悩殺する訳にもいかないし。それに多分、アサギは悩殺されないような気がする。
頼みの綱のレオンハルトは、自分でどうにかしろと言わんばかりに、にこやかにアサギと世間話をしていて助けてもくれない。
(ど、どうすれば)
そんなこんなで悩みながら、シオンとスカイに笑顔をふりまき、話をしている内に、時間がかなり経ってしまっていた。
「もう部屋に戻んなくちゃ」
残念そうな声音のスカイに同意して、シオンもかすれた声で頷いた。
「私も今日の課題が終わっていないので」
二人共専属の教師がついているらしく、その教師から出された宿題をする為に自室に戻って行く。
そうしてリュセルに未練を残しながら去っていった弟達を見送ると、アサギはリュセルに言った。
「あんなに楽しそうな弟達を見たのは久しぶりですよ」
「私も楽しい時間を過ごさせていただきました」
駄目元で悩殺王子スマイルを浮かべるが、やはり彼には効かなかった。
(やはり駄目か。さて、どうする?)
救いを求めるように兄を見るが、感情の読み取れない無感動な視線を返されるだけだ。
(ん? 機嫌が良くないのか?)
まだ相手がスカイやシオンのような無害系王子だったからこの程度で済んでいるが、近くであれだけ他人を誑し込められれば、半身としていい気分がしないのは当然である。
(ティアラ姫もこのような気持ちだったのだろうか)
目の前でこれだけ他の者を口説く半身の姿を見せつけられて、例え任務の一環とわかっていてもおもしろくないレオンハルトは、ふと、ディエラの鏡鍵、可憐な姫君の事を思い出した。
リュセルの口説き、誑しこみ方……。まるでジュリナと同じなのである。
まさか自分が、ティアラの気持ちを察する日が来るとは夢にも思っていなかったレオンハルトだ。
そんな複雑な兄の胸の内など知らないリュセルは、助け舟を出してくれない兄に苛立っていた。
(一体、何が気に入らないんだ! この男は)
案の定、まったくわかっていなかった。
そんな二人を不思議そうに眺めていたアサギは、冷めてしまった緑茶をすすり、言った。
「リュセル王子、何か私に御用ですか?」
「え?」
「う~ん。先程からあまりにも熱い視線を向けられて、ドキドキしておりました」
思いっきり、ばれていた。
困ったように笑うアサギの顔を見たリュセルは、これはもう、男らしく直球勝負をするしかないと、その瞬間決断する。
ある程度こちらの状況も知っているようだし、きっと協力してくれるだろう。都合よく事情を知らぬシオンもスカイも部屋を退出して行った事だし。
(触らしてくれと正直に頼むか。どうせこれからお互いの事を話し合うんだしな)
アサギのにこやかな顔を見ながら、彼なら快く許してくれるだろうと勝手判断しに、リュセルは口を開いた。
しかし、口から出た言葉は、当初の予定とだいぶ違った言葉になってしまったのだ。
もの言いたげな琥珀の瞳を向けてくるレオンハルトを視界に入れて動揺してしまったのが原因かもしれない。
「アサギ王子、抱かせて下さい!」
結構な大声でそう叫んだリュセルにアサギはポカンと口を開け、レオンハルトも驚きに目を見開いた。
(ん?)
二人のおかしな反応を目にし、自分の言った台詞のやばさに気づかないままリュセルは眉をひそめた。
「はあ、まあ……、いいですよ」
自分の言い違いにリュセルが気づいたのは、呆気にとられた表情のまま、アサギがおもむろにリュセルに向かって両手を広げた時であった。
(間違えた…………)
まぬけな男である。
自分の失言に頬を軽く引きつらせながらアサギを見るが、唖然とした表情を浮かべながらも平然とリュセルを歓迎するように両手を広げている彼はある意味大物だと思う。
「すみません、アサギ王子」
間違えました!と謝ろうとした瞬間、リュセルは目の前の穏やかな気質の王子の内部に違和感を感じた。
(なんだ?)
微弱過ぎて、今までわからなかった。
何かが違う。普通と違う。
上手く隠されているが、何かが引っかかる。
何となく、気分が落ち着かない。……この感じ。
リュセルは顔をしかめると、言おうとした訂正の言葉を飲み込んで、両手を広げているアサギへと腕を伸ばした。
そのまま彼の内部を調べる為、招かれるままにその体を抱きしめる。
そこが、麗しくも怖いお兄様の目の前であるという事などすっかり忘れて……。
「え……、え~と」
変態王子 レインと違い、常識的なアサギは、まさか本当に抱きしめられるとは思っていなかった為、己の顔の横に散った銀糸の髪の柔らかさと背に回された腕の力強さを感じ、困ったように頬をかいた。
「……」
無言で圧力をかけてくるレオンハルトの顔を見ると(この状況で彼の顔を見られるアサギは勇者だった)、自分を抱きしめる弟王子を無表情のまま見つめていた。
「困ったな」
そう言いながらも、いつものアルカイックスマイルを浮かべるアサギは、一体、自分はいつまでこうしていればいいんだろう。と、のん気な事を考えていたのだった。
一方、アサギの体を強く抱きしめたリュセルは、目を固く瞑って、精神を集中させていた。
そのまま触れ合った部分から、微弱な違和感の正体を探り出そうとする。
(どこだ? どこにある)
感覚を鋭敏にさせて、リュセルはアサギの背中にまわしていた手を移動させた。
「っ!?」
不意に腰を撫で上げられて、さすがにアサギはにこやかな微笑みを引きつらせる。
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