【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第八章 暁を呼ぶ者

3-1 お茶会への誘い

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「街で暴動が起きかけているというのに、本当にのん気な顔で熟睡してるな、この愚王は」

 レオンハルトの素晴らしい働きにより、すんなりと警備の穴を潜り抜けて、ミゼールの寝室に辿り着いたリュセルは、室内に漂う酒の匂いと香水や化粧の匂いに辟易しながらも、布団の上にだらしなく横たわったこの国の王を見下ろしていた。

 ミゼールは両腕に愛人を抱いたまま眠っており、その様子から、あきらかに情事の後である事が見てとれる。

「早く済ませなさい」

 レオンハルトの抑えたような低い声に促されて、リュセルはその場に片膝を着くと、裸の愛人達から目を逸らしつつ、意識を集中させながら、ミゼールの額に右手を伸ばす。

 瞬間、膨大な量の記憶が脳裏を駆け巡る。

 そうして目の前の男の内(なか)を探ったが、廃頽したその内部に邪気がない事を悟った。

「彼でもない」

 しばらくの後、ミゼール王から手を離してそう呟いた弟を見下ろし、レオンハルトは短く息を吐いた。

「そうか」

 短い返事を返す兄に目を向けると、リュセルは不安そうに言った。

「一体、誰が結び目なのだろうか」

「……」

 弟の疑問に対し、答えを持たぬレオンハルトは無言で答える。

 次の瞬間

 レオンハルトは部屋の中に侵入した気配を察し、眼差しを鋭くした。
 レオンハルト達が不法侵入したのを知っているのか、気配の主はまっすぐに王の眠る寝室へと向かって来る。

「レオン?」

 邪気や同胞の感知には鋭いくせに、普通の人間の気配に疎いリュセルは、厳しい目をして自分を後ろに庇った兄を不思議に思い、眉根を寄せた。

「待っていなさい」

 そう言いおくと、レオンハルトはまったく音を立てることなく、大股で寝室を横切り、扉を開けて出て行く。残されたリュセルは緊迫した事態に息をひそめて、レオンハルトの去った扉を見つめていた。

(誰かが来たのか?)

 扉の向こうからは何も聞こえない。

(どうするか)

 兄の後を追うべきか?

 いやいやいや、しかし、レオンハルトはここで待っていろと言っていた事だし。指示に背いたら、後が怖い。こんな事態なら尚更だ。
 しかし、世の中に臨機応変という言葉があるように、その場その場の事態の変化により、判断を変えなければならないのも事実。

 そんな風に悩んでいた為、リュセルは背後から伸びた痩せた腕に気づかなかったのだ。

「っ!」

 いきなり背後から拘束されて、叫べないように右手で口を塞がれる。そのまま布団の上に引き倒されたリュセルは、彼の見た目から感じられぬその怪力に目を見張るしかなかった。

(ミゼール王!?)

 眠っているものとばかり思っていたミゼールは、リュセルを引き倒すと、相手の口を右手で塞いだまま呟いた。

「光……」

 うつろなその瞳は、灰色に濁りきっている。

 それは、あきらかなルルドの葉の中毒症状だった。

(馬鹿なっ!?)

 先程調べた時、ミゼールに邪気の気配はまったく感じなかったはずだ。いや?今も感じない。もしや彼は、ルルドの葉の中毒症状のまだ初期なのだろうか?

 という事は、現在、ミゼールは、ルルドの葉の影響によるトランス状態だという事になる。

(……)

 しばらくすれば戻るはず。

 リュセルは夢遊病患者のように「光……光…………」とうわ言のように繰り返し、自分の体の上で何かを探すように目を泳がせるミゼールが再び眠りに落ちるのを待った。
 そして、ミゼールのうつろな目が閉じられて、リュセルの体の上に枯れ木のように痩せた体が覆いかぶさってきた時、レオンハルトが戻ってきたのだった。

「リュセル!?」

 布団の上。しかも、裸の愛人達に挟まれるような形でミゼール王に押し倒された状態の弟を発見し、レオンハルトは目を見張るとすぐに、意識のないミゼールの下からリュセルを救出した。

「何があった?」

 珍しく慌てたようなレオンハルトの声を聞きながら、リュセルは目をむいて倒れているミゼールを青い顔で見つめたまま答える。

「ミゼール王は、ルルドの葉の中毒を起こしている。おそらく、この状態だと初期の段階だろう。邪気も感じないし、精神が少しおかしい程度ではあるようだが……」

「自分でもルルドの葉を使用してしまっていたという事か」

 リュセルの言葉に苦々しい口調でそう答えると、レオンハルトは寝室の扉近くに立っている青年に目を向け、静かな声で尋ねた。

「ミゼール王のこの状態について、あなたは知っていたのだね?」

 レオンハルトに手を貸してもらいながら立ち上がったリュセルは、扉の前で垂れ気味の目を見開き、厳しい表情を向けてくる青年の姿を認めて彼の名を呼んだ。

「アサギ王子」

 サンジェイラ国 第二王子。

 いつもその顔に張り付いていた微笑はなりを潜め、焦げ茶色の厳しい瞳がまっすぐにこちらに向けられていた。

「ひとまずこの部屋を出ましょう、お二人とも」

 固い声でそう告げたアサギは、目を瞑り一呼吸置くと、再び顔を上げて、リュセル達に笑いかけた。

「今度こそ、ご一緒にお茶でもどうですか? シオンやスカイも待ちかねていますよ」

 真意の読めぬその微笑みは、いつも彼がポーカーフェイス代わりに顔にのせているものであった。

「いいだろう」

 確かに、このまま王の寝室で話をする訳にもいくまいと、レオンハルトはその誘いに応じ、リュセルの腕を掴むと、アサギの後を追って部屋を出たのだった。







 王の寝室を後にして無言で前を歩くアサギの後について行くと、彼は不意に後ろを振り返り、後をついて来るリュセル達に話しかけてきた。

「仲がよろしいんですね、お二人とも」

 レインのような、二人の仲を揶揄するような声音ではなく、まるで微笑ましいものを見るような声色で穏やかにそう告げられて、リュセルは自分の今の状態に気づき、内心焦った。

(げっ!)

 右腕を掴まれて引っ張られていたはずなのに、いつのまにか兄の左手と右手を繋いでいる状態になっていたのだ。

 幼い兄弟ならまだしも、いい年をした兄弟がやるには、見た目的にかなり痛い光景だろう。

「レオン、ちょっと……。こらっ、離せ!」

 慌てて腕を振って手を離させようとするが、次の瞬間、レオンハルトに凄まれて、それを即座に断念する。

「あははは、そんな照れなくてもいいじゃないですか。半身同士なんですし。そうそう、さっきもアルティスとローウェンが可愛らしい格好をしてレインと一緒に城門を抜けて行きましたが、二人共、仲良く手を繋いでいましたよ?」

 現在危篤中のローウェン。そんな彼と犬猿の仲のアルティス。それに、行方不明であるレインが城を抜け出すのを見たと朗らかに告げるこの青年は、本当は何もかもわかっているのかもしれなかった。

「あんなに険悪だったアルティスとローウェンが仲良く手を繋いでいたのを見た時、驚きのあまり目が飛び出そうでしたよ」

 あははは~、と笑うアサギは目を伏せると、ぽつりと呟いた。

「でも、ユリエを探しに行ってくれて、本当にほっとしました」

「あの子は一途な子だから……」悲しそうにそう呟いたアサギは、それ以上は何も語らずに、おもむろに近くの部屋の扉を開け、リュセル達を手招いた。

「どうぞ」

 促されて入室すると、中ではアサギの二人の弟がじゃれ合っているようであった。

「もう、ひっど~い! シオン兄上は~っ」

 背の中程まである黒髪を頭上で一つに束ねた赤い振袖姿の少年。一見、可愛らしい少女にしか見えない少年が真面目そうな雰囲気の薄茶色の髪の眼鏡の青年にすがり付いて可愛らしく頬を染めているのを見て、アサギは苦笑を洩らす。

「こらこら、二人共。せっかくレオンハルト王子とリュセル王子をお茶会にご招待したんだから、行儀よくしなきゃ駄目だよ」

 宥めるような言葉と共に部屋に入って来た二番目の兄の後ろに美貌の客人達の姿を見てとると、赤い振袖の少年、スカイは、座っていた座布団の上で慌てて居住まいを正した。弟をからかって遊んでいた眼鏡の青年、シオンも崩していた足を正座に戻す。

「どうぞ、お二人とも」

 履物を脱いで弟達のいる畳の上に上がったアサギは、長机前の座布団をリュセルとレオンハルトに勧めた。

「失礼する」

 抑揚のない、いつもの無愛想な声で答えて履物を脱ぎ、勧められた座布団に腰を下ろした兄に習って、リュセルも軽く頭を下げて兄の隣に腰を下ろした。

「お茶の用意を」

 室内に控えていた侍女にアサギがそう指示するのを目の端に留めながら、机の向かい側からうっとりとこちらを見つめているスカイにリュセルはにっこりと微笑みかけた。
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