【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第八章 暁を呼ぶ者

8-3 女神の追憶

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「あの子もそうだけど、あなた、一体、何者!?」

 ローウェンを逃した失態が気にならない程、スイは衝撃を受けて、目の前の銀髪の青年を見た。

「女神の息子だよ」

 何を今更。と言わんばかりの口調で答えられるが、スイは泣きそうになりながら首を振る。

「女神の子供達なら、今まで相対して来た事もあるから知っているわ。でも、あなたのような子供は、今までいなかったっ! そんな……、そんな力。それは、女神の子供というより………………」

「去(い)ね……。我が弟の邪心を受け継ぐ者よ」

 スイの言葉を遮ったリュセルは、表情をまったく表さない無表情のまま言った。

「あ……、あ…………っ」

 その、光沢を放つ、銀糸の髪。今、彼が持つ彼女の特徴はそれだけだが。それでも、その、圧倒的なる存在感。

「そして、スノーに伝えよ。お前が、そうして、わらわを……、わらわの存在しか求めぬ限り、救いはないのだと」

「どうして。どうして、あなた様が」

 そして、唐突に悟った。

 サイレンが……、いや、己の主が、この剣鍵に執着する理由。その訳を。

「いやああああああっ」

 悲痛な叫び声を上げ、姿を消したスイを見送ると、リュセルは……、いや、リュセルの中に潜む彼女は、哀しそうに目を閉じた。


 脳裏に浮かぶは、美しい菫色の瞳。


 ー姉上ー


 暖かな、優しい微笑。


 もう、戻らぬ。

 どんなに願っても、永遠に……。


「スノー……、スノーデューク。可哀想な、闇の子供よ」

 悲哀に満ちた言葉を最後に、急に意識が途切れたリュセルの体は、そのままグラリと揺れ、穴の中へと吸い込まれていったのだった。







 そして、時間は少し遡る。


 一方のレオンハルトとアルティスは、リュセルとローウェンという半身を連れ去られ、女神の力を使う事も出来ずに、ルルドの木そのものと化したメルティスの攻撃に耐え忍んでいた。

 剣で切り裂き、錫杖で叩きのめしても、再生しては襲い掛かってくるルルドの根に、宝主として、体力のあるレオンハルトはともかく、アルティスは息切れを起こしていたのだ。

「アルティス」

 攻撃を交わしながら、動きの鈍くなったアルティスを心配して、そちらに目を配るレオンハルトに視線を向け、彼は小さく頷く。

「大事ない」

 褐色の額に汗がにじんでいるのを見てとったレオンハルトは、アルティスの体力が限界近いのを知った。息の乱れたアルティスを庇いながらの応戦に、さすがのレオンハルトの表情にも焦りが浮かぶ。

「今……、何か」

 そんな中、アルティスがふと動きを止めて、頭上を見上げた。

「アルティス!」

 その瞬間を狙ってきたルルドの根の攻撃を、レオンハルトは剣で切り裂き、ぼんやりと漆黒の目を上に向けるアルティスの名を呼んだ。

「道を、繋ぎ止める?」

 しかし、レオンハルトの言葉も聞こえていないのか、アルティスはぼんやりと呟くと、両手を広げ、空間を裂き、強引に繋がれようとしている道程の、その端を受け取った。

「ぐっ、強引な!」

 両手を大きく広げたまま、エキゾチックな美貌を苦悶に歪ませたアルティスの頭上、部屋の天上部分に穴が開くのを見たレオンハルトは、その瞬間、すべてを理解すると同時に、異空間との道を繋ぎ止めている、無防備な状態のアルティスを守る為に動く。

「ローウェン! リュセル殿ッ」

 道の先にいるであろう、彼らの名をアルティスが叫んだ。次の瞬間、その穴から金髪の美少年が飛び出してくる。

「ローウェン!」

 何故か眼帯が外れているが、それ以外に変わった所のない半身の姿を認め、アルティスは心底安堵する。

 そして、ローウェンは、穴から飛び出ると同時に、目に映った光景を一瞬で理解し、着地ついでにアルティスに襲い掛かろうとしたルルドの木の根を蹴り飛ばした。

「ごめん、心配かけて!」

 無茶苦茶元気な様子のローウェンは、そのまま、蹴り飛ばした根を、手の中に出現させた小刀で切りつける。

「リュセルはどうした!?」

 元気そうなローウェンの姿に安心する一方、レオンハルトは自分の半身の事を思い、そう尋ねた。

「えっ!? すぐ来るはずだよ」

 ローウェンがそう返した瞬間、レオンハルトは穴の奥からする気配に反応して、素早い動きで移動した。

 天井に開いた、穴の真下に。

 穴の奥から真っ直ぐに落ちてくるそれを、気配のみで確認すると、大きく両手を広げて待つ。

 そして

 ーーーーーーーーーーガシッッッッッッ

「っ!」

 次の瞬間、背中を下にして落ちてきたリュセルの体を、レオンハルトはかなりの衝撃と共に両腕で受け止めた。

 そして、それを感知したアルティスは、それまで繋ぎ続けていた異空間へと続く道を、あっさりと手離したのだった。
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