【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

文字の大きさ
119 / 424
第八章 暁を呼ぶ者

8-2 女邪鬼との戦い

しおりを挟む
 ローウェンの左目を覆う眼帯を取ったのはスイだ。天使のような可愛らしい容貌に、こんな眼帯は似合わない。

 目の前の華奢な体を仰向けにすると、足首から脚、腰を通って、胸元、首筋へと、捕えた獲物の感触を楽しむように撫で付ける。どこも細いが、肌はきめ細かく、肉は柔らかい。

「ああ、美味しそう」

 口の中に唾液が溜まる。

 そのまま、その首に齧り付こうと、大きく口を広げたスイを見て、リュセルは叫んだ。

「ローウェンっ!」

 だが、その時。

 ガシッ

「うがっ!?」

 瞬間、ローウェンの目が一気に見開かれ、目の前に迫っていたスイの顎を片手で掴んで口を閉じさせた。

「やだな~、女の人がそんな大口開けないでよ。みっともない、幻滅~」

 そんな事をのん気に言う、ローウェンの天然振りは健在だった。

 しかし、目を覚ます事なんて想定済みのスイは、素早くローウェンの体を拘束しようと動き出す。

「!?」

 その速さに一瞬遅れたローウェンが不利だと思われた。

 しかし

「マスター」

 スイは、開かれたローウェンの左の菫色の瞳を見つめたまま、動きを止めてしまったのだ。
 忌色。それは、人間達にとっては忌むべきものでも、邪鬼にとっては、抗う事の出来ない、絶対なる色。

 創造主にして、自分達邪鬼の大いなる父。

 邪心の王。

 そう、己が主を象徴する色なのだから……。


「たあっ!」

 相手の怯んだ隙を見事について、ローウェンはスイの腹部に蹴りを入れる。

「がっ」

 かなりの衝撃があったらしいその蹴りによって、後方に吹き飛んだスイの腕を素早く掴み、今度は、背負い投げを決め、彼女の体を放り投げたローウェンは、ものすごい音をたてて床に打ち付けられたスイに目もくれずに、後ろで床に這いつくばる形になっているリュセルに駆け寄った。

「リュセル兄さん! 大丈夫!?」

 心配そうな声を聞き、リュセルはなんとか起き上がると小さく頷く。

「ああ」

「って、リュセル兄さん。血、血、血があああああ~~~~!」

 首元に出来た、かなり深めの傷から流れ出ている血液が、リュセルの着る浅葱色の着物を紅く染めていた。それに気づいたローウェンは、慌てて下衣のポケットからハンカチを出して、傷口に押し付けた。

「止血、止血っ、止血して!」

「すまない。」

 そうして、紅く染まっていく、元は白かったハンカチに眉をひそめながらも、不意にローウェンは立ち上がった。

「しぶといね、おねえさん」

 その言葉と共に、後ろを振り返る。

「なんなの? なんなのよ、あんた!」

「?」

 あきらかに、普通の人間なら死んでいたであろう衝撃であったのにもかかわらず、ゆっくりと起き上がりながら驚きに目を見開くスイの反応を見て、ローウェンは首を傾げた。

「どうして、マスターと同じ目をしているのよ!」

 マスター。邪鬼の主人。

 それ、すなわち、女神の力を借りて三人の勇者が封じた、邪神を意味する。

 これまでの生涯で、この左目の所為で散々な目に遭って来たローウェンは、スイの言葉を聞くと、一瞬、ビクリと肩を震わせるが、脳裏に記憶された優しい半身の顔がそれを討ち消す。

「そんなの、関係ないね!」

 右の蒼と、左の紫。

 左右非対称の色の瞳で、まっすぐに邪鬼を見据え、そう言い放ったローウェンの姿に、リュセルは彼の成長を見た。彼はもう、冷たい視線に縮こまっていた少年ではない。

 自分の中の闇を見つめながらも、前に……、未来に進む事が出来る、そんな人間になったのだ。

「ローウェン」

 リュセルの感慨深い視線を受けたローウェンは、しかし、辛辣な事を言ってのけた。

「リュセル兄さん、戦力にならないんだから、この異空間の出口を見つけてよ!」

 いや、まあ、その通りなんですが……。

「あ、はい。わかりました」

 現実をズバリと言い捨てられて、軽くショックを受けながら、リュセルはそう返事を返した。

「その間、あの邪鬼の相手は僕がする。……なんか、もう、戦意喪失状態みたいだケド」

 そう言いながら、漆黒の大鎌を出現させたローウェンは、立ちすくむスイに躍りかかって行く。

「くっ」

 その、胴を両断する為に振られた鎌を間一髪で避けると、スイはローウェンの左目から目を背ける。

 見なかった事にするしかない。

「いい気になるんじゃないよ、坊や!」

 そう怒鳴ったスイの右手に現れたのは、巨大なハンマー。

 それで襲い来るローウェンの大鎌に応戦すると、スイは、今度は、こちらから反撃して、ローウェンの頭を狙い、ハンマーを打ち下ろした。

 相手の攻撃を僅差で避け、また、反撃する。それを繰り返しながら、激しい動きで戦いを繰り広げるスイとローウェンを横目で見ながら、リュセルは、首にハンカチを押し当て、止血したまま、意識を集中させた。

 今現在、封鎖されたこの空間で自分が感じ取れるのは、スイの放つ邪気と、同胞たるローウェンの神聖なる気配だけ。

 しかし、どこかにある出口から、必ず半身の気配がするはずだ。

 貧血でグラつく体を支えながら、リュセルの精神集中は、段々と深いものになっていく。激しい戦いを繰り広げるローウェンとスイの存在が自分の中から消え失せる程に。

「なっ!」

 ローウェンの放つ攻撃を受け止めながら、スイは空間内を満たし始めた僅かな銀の光に気づき、驚愕のあまり、光を放っている青年を凝視してしまった。

「もらった!」

 その隙を見逃さず、繰り出されたローウェンの攻撃を咄嗟に避けるが、一歩間に合わず、右腕を斬り落とされる。

「ぎゃあああああああっ!」

 元々邪気の塊である為、血は噴出さないが、その代わりに、右腕は薄黒い霧状の邪気に戻り、それは、リュセルの放つ銀の光によって浄化され、すぐに霧散した。

 地面に右手を置き、固く目を閉じたリュセルの額に、不可思議な神の紋が浮かび上がるのを見てとると、苦悶しながらも、スイは恐怖に瞳を見開く。


「リュセル兄さん、出口はどこ!?」

 そう叫んだローウェンに、リュセルはふらふらとしながらも、立ち上がると答えた。

「ない」

「……は?」

 ローウェンは、目が点になる。

「だから、ない」

「ないいいい~~~~~!?」

 額に神紋を浮かべたままだったが、銀の光は治まったようだ。

 ローウェンは、同じ宝鍵でも、アルティスはこんな事できたっけ?と疑問に思いながら、リュセルの衝撃的台詞に唖然とした。

「ふ……、ふふふ、そうよ。ここは、あたしの空間だもの。入り口はどこからでもつながっているけれど、出口がつながっているのは、マスターの所だけ。このまま、あなた達は、一緒にマスターの元に行ってもらうわよ」

 片腕を斬り落とされながらも、そう言ってスイは不敵に笑う。絶望的な台詞を聞いたローウェンは呆然とした。

「じゃあ、アル達の元に戻れないの?」

 先程までの勇姿はどこへやら、不安そうに涙を浮かべるローウェンを安心させるようにリュセルは微笑んだ。

「いや。出口がないなら、作るだけだ。大丈夫だ」

「え?」

 目を瞬かせたローウェンの目の前、微笑みを浮かべたまま両手を広げたリュセルの足元の周囲に大きな穴が開いた。

「出口はないが、レオンとアルティスの気配。それに、禍々しいルルドの木の邪気を感知する事が出来た。向こうには、アルティスがいるからな。道を作る事はたやすい」

 リュセルは銀色の瞳でスイを見据え、言った。

「宝鍵を向こうに残したのが失敗だったな」

 そう言った途端、広がった穴から声が響くのを聞く。

 ーローウェン! リュセル殿ッー

 自分が作った道を受け取り、繋げてくれているアルティスの声だ。

「飛び込め、ローウェン!」

「!!」

 リュセルの声に導かれるように、ローウェンは大鎌を指輪の形に戻すと、素早い動きでスイの前から飛び、リュセルの周囲に広がる穴の中へと躊躇する事なく飛び込んだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。

天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】 さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。 英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。 この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。 「さあ気に入ったsubを娶れ」 「パートナーはいいぞ」 とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。 待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。 平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

処理中です...