【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第九章 怪盗イチゴミルク

1-1 いきなりの予告状!?

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「二人共、本当に帰っちゃうんだね。寂しいな」


 女神の宝の封印の間に、寂しそうに沈んだローウェンの声が響き渡る。

「ローウェン……」

 帰りの仕度を済ませたリュセルは、肩を落とした様子のローウェンに困ったような顔を向けた。

 サンジェイラ国王、ミゼールの退位からしばらくして、アサギの即位を見届けたリュセルとレオンハルトは、ようやく自国アシェイラに帰国する事になった。
 アサギ王を筆頭とするサンジェイラの王族の者達との別れも済ませ、いざ、封印の間でコントロールパネルの準備をしていた時に、それまでおとなしかったローウェンが本音を洩らしたのだ。

「ロー、リュセル王子を困らせるのではない」

 ローウェンの隣にいたアルティスが弟に言い含めるようにそう言うが、ローウェンの顔は晴れなかった。

「ローウェン、せっかく転移装置という便利なものを造ったんじゃないか。これがあれば、王都と王都はひとっ飛びに移動出来るだろう? また会いにくるさ。お前も、今度はアルティスと一緒にアシェイラにおいで」

 リュセルが金の髪を撫でてやりながらそう言うと、ようやくローウェンは笑顔を見せた。

「うん、そうだね。また遊びに行くよ!」

 にっこりと天使のように微笑んだローウェンの健気な表情。それを見たリュセルは耐え切れず、その華奢な体をぎゅっと抱きしめた。

「……」

「…………」

 瞬間、コントロールパネルの設定を終えてリュセル達の元へ戻ってきたレオンハルトがすぐ分かる程、目に見えてアルティスの表情が強張った。

「リュセル」

 小さくため息をつきながら、レオンハルトは元凶となった弟の名を呼んだ。

「元気でな、ローウェン」

「リュセル兄さんも」

 半身の微妙な心境など気にも止めず、リュセルに力一杯抱擁されて満足しながらも、ローウェンは、抱擁を解いたリュセルに対し、少し残念そうな顔をした。

 そして、リュセルはというと、表情を強張らせたアルティスに目を向けると、彼の漆黒の髪をローウェンにしたように優しく撫でた。二歳しか違わないリュセルに子供扱いされても、一見、平然としながら、自分を見上げて来たアルティスの体を強く抱きしめる。

「アルティスも、体に気をつけろよ」

 宝鍵同士だからこその言葉に、アルティスもようやく表情を和ませる。

「リュセル殿もな」

 そして、リュセルに続いて、レオンハルトも二人と抱擁を交わし合い、別れの言葉を告げた。

「世話になったね」

 彼らしい、短い別れの言葉に、アルティスとローウェンは深く頭を下げる。

「世話になったのは、我らの方だ」

「ありがとう。レオンハルト兄さん、リュセル兄さん。……お礼といってはなんだケド、リュセル兄さんにプレゼントがあるんだ」

 ローウェンはそう言うと、プレゼントと聞いて目を瞬かせたリュセルにいたずらっぽく微笑みかけ、封印の間の入り口から顔だけを覗かせて、じ~っとこちらを見ているクマのぬいぐるみに呼びかけた。

「おいで、テディ」

 ローウェンの言葉を合図に、封印の間の入り口よりヨタヨタと走ってくる小さなぬいぐるみのクマ。どこか嬉しそうなその様子を見たリュセルは、驚きの声を上げた。

「クマ吉!」

 確か、先日、役目を終えた為、ローウェンに返却したはずのクマ吉だった。

「リュセル兄さん、かなりクマ吉の事を気に入っていたみたいだから、クマ吉の主人設定を僕からリュセル兄さんに変えておいたんだ。アシェイラに連れ帰ってもいいよ」

「ありがとう、ローウェン」

 思いもしなかったプレゼントだ。感動して再びローウェンを抱きしめるリュセルに、ローウェンはクマ吉使用の際のマニュアル書を渡した。

「戦闘モードへの移行の仕方とか、色々書いてあるから、後で読んでね」

「あ、ああ」

 さすが、北の神童。抜かりがない。

「では、行くか」

 そうして、ひとしきり別れを済ませるとそう言ったレオンハルトの言葉を合図に、リュセルはクマ吉を腕に抱いて転移装置の中心に移動した。

 起動した転移装置が放つ、銀の光に包まれながら、ローウェンの言葉を最後に聞く。

「またね~! リュセル兄さん、レオンハルト兄さん!」



 そして、次の瞬間、銀の光が去ったと思ったら、ローウェンとアルティスの姿は、部屋の中から消えていた。

 いや、消えたのではない。自分達が移動したのだ。サンジェイラの封印の間から、この、アシェイラの封印の間へ……。

「やっと戻って来れたな」

 ふうっと、ため息をつきながら転移装置を降りるリュセルに続き、レオンハルトも転移装置から降りると、持っていた女神の剣を女神像の腕の中に戻す。

「結局、ディエラに引き続いて、一ヶ月近くサンジェイラに滞在していた事になるのか」

「そうだね」

 リュセルの言葉に頷きながら、封印の間から城内へと続く階段をレオンハルトは一緒に登る。

 そうして、長い階段を登り終えると、リュセルは思い出すようにそれを口にした。

「ディエラから帰った時は大変だったよな。カイエがすっ飛んできて……」

 そう言って、過去の出来事を笑うが、城内を歩く第一王子と第三王子の帰還を知った使用人達が慌てたようなそぶりをしているのが気になり、リュセルは首を傾げた。

「今日、帰国するって、知らせてあったよな?」

「ああ」

 慌しい城内の様子を眺め、レオンハルトも端正な眉をひそめる。

 その時。

「レ、レオンハルト王子殿下っ!」

 城の奥から、一人の青年が慌てたように走ってくるのが見えた。

 まさに、デジャビュ

 まさに、既視感。

 ディエラから帰国した時とまったく同じ状況に、リュセルの目はかなりうつろになった。

 栗色の髪の、穏和で優しそうな青年、カイエの顔が真っ青な事に気付いたレオンハルトは、無表情のまま冷静に言った。

「どうした。また、父上がどこぞで人質にでもなったか?」

 あ……、やっぱり、そう考えてしまうよな。と、リュセルは思いながら、カイエが首を横に振るのを遠い目をしながら見ていた。

「じゃあ、また、父上がふんどし一丁にでもなったのか? ははは」

 遠くを見つめながら乾いた笑いを浮かべるリュセルに向かい、カイエはもう一度首を横に振ると、彼らの父王たるジェイドと、兄弟であり、王位継承者であるカイルーズが無事な事は伝えた。

「では、今度はなんだ?」

 そして、うんざりしながら尋ねたレオンハルトを真剣な表情で見つめ、大声で答えたのだ。

「予告状ですっ! 予告状が届けられました!」

 予想外の言葉を聞いたレオンハルトは不機嫌そうに顔をしかめ、リュセルはその横で唖然とするしかなかった。
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