【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第九章 怪盗イチゴミルク

1-3 予期せぬ問題勃発

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「そんなっ! 王族相手に届いた手紙を僕が捨てられる訳ないじゃないですか!」

「はあ……」

 ため息をついたリュセルは、次の瞬間、顔を上げて、扉の方を振り返った。
 具合が悪いと言って自室に向かった弟を心配したのだろう。レオンハルトの気配がこの部屋に向かってくるのを感じて、リュセルはサーッと一気に青ざめた。

「ティル!」

「は、はい!?」

 リュセルの怒鳴り声に慌ててティルが返事を返すと、美貌の主は本気で焦ったように指示を出した。

「これ、全部燃やせ!」

「火事になりますよ?」

「じゃあ、埋めろ!」

「どこにですか?」

「ああああ~! じゃあ、隠せっ!」

 ボケツッコミのような事を繰り返した二人は、慌てて三十個の籠いっぱいに詰め込まれた恋文の山を寝室の寝台の下に放り込んだ。

「あ、ありがとう」

 ティルは寝台の下に籠を置きながら、ふと、横からもこもこの手が籠を差し出してくれたのに気づき、御礼を言った。
 そして、次の瞬間、驚きのあまり固まる。クリクリとしたつぶらな黒い目をしたテディベアが、ティルの傍に立って籠を差し出していたのだ。

「きゃああああああっ!」

 ティルの叫び声を聞いたクマは、びっくりしたように籠を取り落とす。

「どうした、ティル!」

 両手に籠を抱えて寝室に持って来たリュセルは、クマ吉を凝視しているティルを見て、納得したように頷いた。

「それは、ローウェンが作ったお世話用のクマのぬいぐるみだ。お前と同じく俺付きの小姓になるから、面倒みてやってくれ。結構役に立つぞ」

 籠を落とした事により、ばらまかれてしまった手紙を慌てて拾っているクマ吉を見て、ティルは驚かせてすまなかったなと思い、謝った。

「驚かせてすみませんでした、クマ吉さん。僕は、ティル。リュセル殿下付きの小姓です。これからよろしくお願いしますね」

 頭を下げるティルに習ってクマ吉も頭を下げたが、その頭の重みで倒れかけていた。

「のん気に挨拶している場合じゃないぞ! 早くこれを隠すんだ!」

 倒れかけたクマ吉の体を支えながらそう言ったリュセルを見て、ティルとクマ吉は慌てて元の作業に戻ったのだった。




 カチャッ


 レオンハルトがわずかな音をたてて自室の扉を開けると、ティルとクマ吉に給仕されながらのん気に紅茶を口にしている弟の姿があった。

「具合が悪いのではなかったのか?」

 レオンハルトの不思議そうな声に、リュセルは胡散臭い程のさわやかな笑みを浮かべると、自分の元にやって来る兄を振り返った。

「いや、少し休んだらよくなったのでな」

 そう言う自分を見つめる兄の探るような視線を感じ、リュセルの背を大量の汗が流れる。
 しかし、まあいい。とでも思ったのか、レオンハルトはリュセルの向かいのソファに自分も腰を下ろすと、ティルの淹れてくれた紅茶を飲んだ。

「私はこの後もサンジェイラ国の報告と例の盗賊対策について父上とカイルーズと話をするが。お前はどうする?」

「ああ。俺はディエラに行くつもりだ」

「ディエラに?」

 何故?と不審そうな視線を向けてくるレオンハルトに向って、リュセルは最もな理由を述べた。

「今回のサンジェイラの件では、ジュリナ殿やティアラ姫も心配していただろう? 知らせておいた方がいいと思ってな」

「そうだね。では、そちらはお前に任せよう。夕食までには帰ってきなさい」

「……」

 母親が小さな子供が遊びに行く時にかけるような言葉をかけられ、リュセルは無言になった。

 相変わらず子供扱いである。

 その時だった。

 何とはなしに、レオンハルトの座るソファの足元に目を向けて、リュセルは目をむいた。

(ま、まさか……、あれは)

 寝台の下に隠したはずの、”深窓の姫君”への恋文(ラブレター)!

 籠から落としてしまったのか、その内の一つが、ポツンとソファの傍に落ちていた。

(ま……まずい)

 リュセルの額にじっとりと汗がにじんだ。
 優雅にティータイムを楽しむレオンハルトは、それ(手紙)の存在にまったく気づいていない。リュセルは目線をティルに向けると、不思議そうに目を瞬かせた彼に、視線でそれ(手紙)を指し示す。

「!!」

 それ(手紙)に気づいたティルも、リュセルと同じように、レオンハルトの後ろに控えながら、目を泳がせていた。

(ど、ど、ど、どどど~したらいいんですか!? リュセル殿下!)

 口の動きだけで、必死の形相をしながら訴えてくるティルに、リュセルも向かいのレオンハルトの目を盗んで、口の動きだけで指示する。

(隠せっ、いいから隠せ!)

(でも、どうやって!?)

 ティルは泣きそうな表情を浮かべ、リュセルも唸るしかない。

 それ(手紙)が落ちているのは、レオンハルトの座る、まさにすぐ傍。彼からすると死角の場所。それを拾おうとすれば、不自然な動きになるのは必須。

「どうした?」

 様子のおかしい弟を目の端に入れていたらしく、不意にそう聞いてきたレオンハルトにリュセルはビクッとした。

「い、いいいや、なんでもない」

「顔色が悪いようだが。風邪か?」

 熱でもあるのかと、リュセルの方に身を乗り出してその額に手を伸ばしたレオンハルトは、強張った弟の目線の向かう場所が気になった。

「後ろに何かあるのかい?」

 そう言いながら振り返ろうとする兄の両頬を、咄嗟にリュセルは両手で捕えた。

「何だ?」

 目の前に迫った弟の顔をレオンハルトは眉をひそめて見つめ返す。そして、リュセルはというと、兄に迫ったはいいが、この後どうすればいいか何も考えていなかった為、ただ条件反射的に甘い微笑みを浮かべて誤魔化した。

 その間に、どうにかしろと、目線を後ろのティルに向けた時、ティルの抱えていたクマ吉の黒目がピッカーンと鈍い光を放ち、ビームが飛び出てきた。

 呆気にとられるリュセルとティルの視線の先で、クマ吉のビーム光線を受けて手紙は灰になる。

 その機能に、ビーム光線までついたテディベア。
 その名は、クマ吉。
 北の神童作。

「……?」

 レオンハルトが呆然としているリュセルの視線を追って振り返ると、そこには何もなかった。

「帰ってきてから様子が変だが、大丈夫かい?」

 レオンハルトの心配そうな声を聞いて、リュセルは慌てて頷く。

「大丈夫だ」

「それならいいが」

 納得がいかないように、じっとリュセルを見つめるレオンハルトの視線を痛いほどに感じたリュセルは、痛い腹を探られぬ内にディエラに行こうと立ち上がった。

「では、行って来る」

「……ジュリナの悪影響だけは、受けないようにしなさい」

 納得しないながらも頷いた兄の言葉にリュセルは心底ほっとしたのだった。




 慌てて部屋を飛び出し、封印の間への入り口を開こうとした時、廊下の向こうで手招きする手があった。

「リュセル」

 突き当たりの物陰から姿を現したのは、次兄、カイルーズだ。その姿を目にしたリュセルは、彼に頼まれていたものを思い出した。

 手招かれるまま彼の元に行くと、カイルーズは小さな声で言った。

「お前が出てくるのを待ってたよ。兄上は?」

「部屋で優雅にティータイム中だ。頼まれていたものは手に入れたぞ、ほら」

 リュセルが懐に忍ばせておいたサンジェイラ産の毒花の種をカイルーズに渡すと、毒王子の異名を持つ次兄は嬉しそうに微笑んだ。

「やった! ありがとう、リュセル。こっちもお前に頼まれていたものは、手に入れておいたよ」

 そう言うと、カイルーズは、一枚のチケットをリュセルの手に握らせた。

 リュセルはあまりの感激と興奮に、胸がドキドキするのを感じる。

 そのチケットに書かれた文字は、”黒猫ノンちゃんシリーズ第二弾黒猫ノンちゃんと伝説の姫君”。

 第一弾を、約一ヶ月前にあった、”創世祭”という、向こうの世界でのクリスマスのような祝祭の特別舞台として、アシェイラでも有名な劇場、ソードキングダム劇場にて公演されたのだが、その続編の公演が決まったのである。その、倍率の高いチケットを、リュセルはサンジェイラに向かう前にカイルーズに頼んでいたのだ。

「例の抜け道もいい具合に完成したから、使うといいよ」

 ヒソヒソと耳打ちされて、リュセルは大きく頷いた。

「ありがとう、兄さん」

 リュセルの感謝の言葉にカイルーズはウインクを返すと、毒花の種をいそいそと懐に入れて、スキップしながら遠ざかって行った。

(ふふふふふふっ)

 遠ざかるカイルーズを見送りながら、リュセルは不気味な笑みを浮かべ、近くの壁に手をかざして、封印の間への入り口を開く。

 極度の毒マニアと

 極度のノンちゃんマニア。

 どうしようもない、弟達である。
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