【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第九章 怪盗イチゴミルク

3-3 鉄壁の要塞

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「…………お……、お前……いや、もういい。何も言うな。お前のノンちゃんに対する山よりも高く、海よりも深い愛はわかったから」

 長い沈黙の後、ジュリナは遠い目をしながら、怒りに打ち震える目の前の青年に言った。
 ああ、何となく見えてきた。リュセルのこの状態の原因が。

「全部ばれたんだろう?」

 核心をついたジュリナの言葉にリュセルは逆ギレする。

「そうだ、ばれた。悪いかっ!?」

「悪くはないけどねぇ。つまり、仕置きされたって訳かい」

「……」

 リュセルの無言を肯定と受け取り、ジュリナはため息をつく。

「相変わらず容赦ないね、あの男は」

「そうだっ、俺のパンフレットを!」

「いやいや、そっちじゃなくてだね」

 駄目だ。話が噛み合わない。

 パンフレットを捨てられ、怒りに燃えるリュセルに、今、何を言っても無駄なのだろう。

(怒りどころがズレてると思うんだけどねぇ)

 ジュリナがそう考えた時、室内に入室して来るよく見知った気配を感じた。

「本当に来たのか、お前は」

 呆れを含んだような声を聞いて振り返ると、壊された寝室の鍵を見て眉をしかめているレオンハルトの姿があった。

「……」

 リュセルは無言のままそっぽを向いて、シーツを被って横になってしまう。

 不貞寝するつもりだろう。

「…………」

 そんな弟の様子に小さくため息をついたレオンハルトが踵を返し、応接室に戻るのについて行くと、ジュリナは言った。

「あの子、お前にパンフレットを捨てられたって怒っていたぞ。怒りどころが違うような気もするんだけどね」

「…………」

 ソファに腰かけたレオンハルトは無言のまま、傍に控えていたクマ吉を視線で指し示す。

 レオンハルトの視線を受けて大きく頷いたクマ吉は、大きく口を開けると、その中から一冊の薄い本を出した。

 黒い表紙の、結構な大きさのその本には、黒猫ノンちゃんと伝説の姫君と書かれている。

「捨ててなかったのかい!?」

 この部屋に入室した時から気になっていた、動くテディベアの妙技に顔を引きつらせると共に、ジュリナはつっこんだ。

「捨てる?」

 不思議そうなレオンハルトの声を聞き、ジュリナは言い返した。

「捨てたって言ったんだろ?」

「いや、ただ先程、どこにこれをやったのだと聞かれたので、クマ吉に食べさせたと答えただけだ。収納機能もついていたようだったのでね。試してみた」

「へ~、そりゃ便利だねぇ。って違うだろ、オイっ!」

 文武両道、容姿端麗、完全無欠。
 弱点などまるでないように見える、この金の王子の唯一の欠点が、口が足らない事だった。

「あ~! もう、馬鹿馬鹿しい。リュセルはお前がそれを捨てたと勘違いしてるよ。なんで、すぐ返さなかったんだい?」

「すぐに返したら、仕置きにならないだろう。しばらく私が預かるつもりだ」

「ま~、そんなに怒るお前の気持ちもわかるがね」

 パンフレットを再び口に入れたクマ吉を見ながら、ジュリナはニヤリと笑った。

「半身にきた恋文(ラブレター)というだけでも気に食わないのに、それを隠されてはね。あの子も罪な男だよ」

「…………」

 ジロリと、冷たい視線で睨まれるが、そんな氷の視線にも慣れているジュリナは軽く肩をすくめる。

「街への無断外出、深窓の姫君、大量の恋文(ラブレター)隠蔽、この中で何が一番ショックだったと言われれば、私でも恋文(ラブレター)隠蔽だからね」

「…………」

 うしししと無責任に笑って自分の淹れた紅茶を飲むジュリナを憮然と見ながらも、彼は無言のままだった。

「で、どうなんだい? 城の警備の方は」

 目の前の幼なじみが無表情の裏に自分の心の内を隠し、決してそれを見せないであろう事を知っているジュリナは話題を変換した。

 この男が自分をさらけ出す相手は、この世でただ一人。
 彼の、ただ一人の半身だ。

「抜かりない」

 短いその返事にジュリナは頷く。

 この部屋に来る時にも確認したが、城内の警備は万全過ぎる程、万全だった。
 アシェイラ、ディエラ、サンジェイラ。三国の中でも兵士の質が高い、アシェイラ精鋭の騎士達が守りを固める壮麗なる城に隙はない。おそらく、虫一匹入れないだろう。

「本人、怒りで忘れかけているようだけど、狙われているのはリュセル自身だからね。徹底的に守りを固めるとは思っていたけど、ちょっとやり過ぎじゃないか?」

 後宮に現在いる侍女や小姓含め、使用人はすべて、戦闘力の高いアシェイラの騎士達と入れ替わっている。

 まさに、鉄壁の要塞。

 しかも、狙われたリュセルのいる寝室のすぐ傍には、最強の強さを誇る宝主二人と、戦闘モードのクマ一匹。

「いやいや、さしもの怪盗イチゴミルクも無理だろ、こりゃ」

 ジュリナはそう言って楽観視するが、厳しい表情のレオンハルトは、その冷静な表情の裏側で、常に周りを警戒していた。

 そんな緊迫した雰囲気の中、遠くで叫び声がこだました。

「怪盗イチゴミルクだ! イチゴミルクが出たぞっ!!」

 外から聞こえたその声に対し、ジュリナは小さくつっこんだ。

「なんだか、つくづく緊張感のなくなる名前だねぇ」
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