【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第九章 怪盗イチゴミルク

4-1 怪盗の正体

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 怪盗イチゴミルクは、それはそれは、すぐに捕まった。呆気ない位に。

「早っ、マジかい!?」

 レオンハルトと共に報告を受けたジュリナは、ついそう叫んだ程の最速捕縛だ。

「殿下をお呼びするようにと陛下から伝言を受けております」

 侍従服を着、城の従僕に変装したユージンの言葉に頷き、レオンハルトは寝室で不貞寝しているリュセルの元へと向かった。

「リュセル」

「……」

「いい加減にしなさい」

「…………」

 寝台の上に起き上がってはいるが、無視を決め込む弟にレオンハルトはため息をつくと、傍にいたクマ吉に目配せし、収納モードになった彼が出したパンフレットをリュセルの前に掲げた。

「そ、それは! 捨てたんじゃなかったのか!?」

「捨てたとは言っていないだろう」

 確かに言っていません。

「これは、しばらくの間私が預かる」

「な、な、な、何故!?」

「お前は、私が怒っている理由がまだわからんのか」

 動揺に見開かれたリュセルの銀の目を見据えて、レオンハルトは本日何度目かのため息をつく。

「え……?」

「わかるまで、これは返さん」

 そのまま、パンフレットを持って寝室を出て行ってしまった兄を見送りながら、リュセルは眉をしかめた。

「レオンの怒りの理由?」

 それは、例の三つの事に決まっているだろう。というか、それしか思い浮かばない。
 いつもと変わりないようだったが、どこか傷ついたような色を浮かべた兄の琥珀の瞳にリュセルは動揺してしまっていた。

 その様子を黙って見守っていたジュリナは、ボソリと呟く。

「正直に、嘘をつかれたのがショックだったと伝えればいいのにねぇ」

 まったく、変な所で不器用な奴だと、呆れたように笑った。

 悶々と悩んでいる様子のリュセルを寝室の扉近くから覗き見たジュリナは、その魅惑的な唇に笑みを浮かべたまま、レオンハルトに続いて部屋を出る。

「ついて来るのか?」

 怪訝そうなレオンハルトにジュリナは頷く。

「怪盗イチゴミルクの顔を拝んでやりたいんだよ」

「まったく、お前は……」

 呆れたような響きの幼なじみの声に答えるように相手の広い背を、バシンと一発叩くと、ジュリナは言った。

「さあ、行くよ!」

 そのまま先頭きって大股で歩き出すジュリナを見送り、レオンハルトは、一瞬、弟のいる寝室に視線を向けた。

 怪盗は捕えられた為、心配ないだろうが。

「収納モードから、戦闘モードに変換。……頼んだよ」

 レオンハルトは、ひとまずクマ吉を戦闘モードに戻すと、彼に弟の護衛を任せて、父王の待つ広間へと急いだのだった。








 そして、リュセルはというと、二人が出て行った後も悶々と悩んでいた。


 確かに、元々自分が悪かった。
 常に、自分を見守り、心配してくれる(過保護ともいう)唯一無二の半身である兄に、大切な事を隠したし、騙したし、嘘もついた。もし、自分がした同じ事をレオンハルトにされたらと考えたら、かなり嫌だ。

「レオン」

 傷つけてしまった。あの、誇り高い人を……。

(謝らなくては)

 一度、寝台の上で快楽に溺れさせられながら謝っていたのだが、リュセルの頭にその記憶はない。(幸せな事である)

 そうして、寝台を降りて立ち上がった、ちょうどその時だった。


「今宵も月が美しい」


 聞き慣れぬ声が響くと同時に、漆黒のマントを翻し、天井から一人の男が降り立った。

「我がコレクションとする為、あなたを奪う、罪人たる私をどうかお許し下さい」

 顔の半分を仮面で隠している正体不明の男の放った臭過ぎる台詞に、リュセルは普段の自分の言動を棚に上げてつっこんだ。

「さむっ!」

「……余裕ですね。この私、怪盗イチゴミルクを前にして」

 その言葉と共に、男はリュセルの方にゆっくりと近づいてきたのだった。

「っ!」

 顔が半分仮面で隠されてる上、もう半分は被っているシルクハットの影になっていてわからない。そんな怪盗イチゴミルクの存在に、リュセルが息を呑んだ瞬間、まぬけな声が響いた。

「あっ」

 そんな声と共に、彼はマントの裾を踏みつけて、その場に顔面から倒れた。


 バターンッ


 ………………シーン。


「だ、大丈夫か?」

 あまりに見事な倒れ方だ。リュセルはついそう尋ねてしまった。

「い、痛いです」

 続いて聞こえたのは、気弱な涙声。

 リュセルは、つい、まるでコントのような転び方をした怪盗イチゴミルクに近寄ると、身を屈め、彼の顔の半分を覆う仮面を素早い動きで奪い取る。

「ああっ、何するんですか!? 返……、お願いします、返して下さい~~~~!」

 仮面の下から現れた素顔は、気弱そうな黒髪の男だった。

「お前、本当に怪盗イチゴミルクか?」

 リュセルの疑わしいといわんばかりの声を聞き、咄嗟に顔を上げた彼は、一瞬で動きを止めてしまった。

 怪訝に思うリュセルの視線の先で、青年の頬が赤く染まっていく。

(あ~、この顔の所為か)

「あ、あ、あああのっ!」

 冷静に分析するリュセルの目の前で、そのリュセルの美貌を間近で見た影響で焦ったように立ち上がった青年は、再びその場にしゃがみこむ。

「どうした?」

 とりあえず、リュセルは聞いてみる。

「さっきので足をくじきました」

 自称怪盗イチゴミルクな青年は、情けない声で呟いたのだった。

(まさしく、ヘタレ属性のドジっ子キャラだな。こんなのが、狙った獲物は一度たりとて逃がした事のない怪盗イチゴミルクなのか?)

 リュセルがそう考えていた時、目の前を薄茶色の残像がよぎった。

「ぎゃ~~~~~っ!」

 戦闘モードのクマ吉が、ヘタレな怪盗イチゴミルクに襲い掛かったのだ。

 バシバシバシバシッ

 クマ吉のもこもこお手手に往復ビンタをくらっている怪盗イチゴミルクは、恐怖のあまり、されるがままになっている。

「戦闘モードからお世話モードに変換」

 リュセルがクマ吉の切り替えを行うと、鋭く目を光らせていたクマ吉の目が、黒々としたいつものつぶらなクリクリお目目に一瞬で戻る。

「うっ、うっ、うっ」

 クマ吉から解放された彼は、目から大粒の涙をこぼしたのだった。



「どう、どうしたらいいんでしょう。このまま、命令通りに出来ずに失敗してしまったら、僕は、僕は……、クビになった上、破門されてしまいます」

 しくしくしくしく

「僕……、私には、もう、あの方しかいないのに」

 しくしくしくしくしくしく

「げ、元気だすんだ。ほら、足の治療は済んだぞ」

 ポロポロと涙を流す怪盗イチゴミルク(疑)を寝台に座らせると、リュセルは、捻挫した彼の右足首の治療をしてやった。

「あ、ありがとうございます」

 のん気に、ほわんとした笑みを浮かべる怪盗イチゴミルク(仮)に調子を崩し、頭をかいたリュセルは、座る彼の隣に腰を下ろす。

「……で? 先程までの泣き言をまとめると、怪盗イチゴミルクは、お前じゃなくて、お前の主兼師匠で、その主が”リュセル王子”を盗む為に忍び込んだはいいが、警備のあまりの厳重さに困り果て、作戦を変えて陽動作戦に出た。お前のまぬけぶりを知る主は、陽動の方を自分が受け持ち、獲物の確保をお前に命じた。……そういう訳だな?」

「そうなんです。…………はっ、ちがちが、違います!」

「今更取り繕ったって遅いぞ」

 しらけた視線を送ってくるリュセルに観念したのか、怪盗イチゴミルクの従者兼弟子の青年は、再びむせび泣いた。

「うっうっうっうっ…………、もう、主人の元に帰れません。うううううううっ」

 泣き続けながら、リュセルが貸したハンカチに顔を埋める青年は、ある意味、哀れだった。そんな彼を見つめていたリュセルは、ため息をつくと言った。

「男がメソメソと泣くな。俺が手伝ってやるから、顔を上げろ」

 そう言って甘い微笑みを浮かべた今回の盗みのターゲットたる”リュセル王子”に、つい、青年はときめいてしまったのだった。

「それで、何をするように言われてるんだ?」

 リュセルの問いに、慌てて着ていたタキシードの懐から黒猫ノンちゃん柄のメモ帳と一枚の紙を出した怪盗イチゴミルク(従者)は、そこに書かれた事を読んだ。

「まず、この盗みの完遂状をこの部屋の目立つ場所に貼って、その後、わざと捕まった主人の待つ場所に行き、月をバックにして派手に登場し、この台詞を言うんです。そして、そのまま合流地点にて合流します」

 リュセルは差し出されたメモ帳を黙読すると言った。
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