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第九章 怪盗イチゴミルク
4-2 怪盗イチゴミルク参上!
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「…………本気でこの台詞を言う気か?」
「はい、命令ですから。でも、この足では……」
またしてもメソメソと泣き出した青年を見て、ため息をついたリュセルは、彼の持つ完遂状を手に取るとそれを読んだ。
苺柄のファンシーなその紙には、ただ一言。
”リュセル王子は予告通り頂いた。 怪盗イチゴミルク”
それだけ書かれていた。
リュセルは無造作な仕草でその紙を寝室の壁に貼り付けると言った。
「脱げ」
「はい?」
いきなりの言葉にポカンと口を開けた青年に対し、リュセルはあっさりと答えた。
「この俺が、その役目代わってやるよ」
一方、レオンハルトとジュリナが広間に入ると、侍女や侍従に変装したアシェイラ騎士に囲まれた黒いタキシード姿の男が、手首に手錠をかけられた所だった。
「あれが怪盗イチゴミルクかい?」
ジュリナの言葉にレオンハルトは無言のまま、少し離れた場所にいた、ジェイド、カイルーズ、カイエの元に歩いて行く。
「父上」
「おお、レオン。それに、ジュリナ姫もよくきてくれた」
たくさんの臣下の手前、真面目にそう言ったジェイドのTシャツ、その本日の文字は”盗賊成敗”。
「中庭で捕まったんだよ」
カイルーズもそう言って、ほっとしたように胸を撫で下ろす。
「今夜は枕を高くして眠れますね」
カイエも上機嫌だ。
「……」
ただ、レオンハルトだけが疑惑の目線で、騎士達により牢へと連行されようとしている怪盗イチゴミルクを見ていた。
疑惑の眼差しを向けるレオンハルトに気づいたのか、怪盗イチゴミルクは、ふと顔を上げると、その唇に薄い微笑みを浮かべる。
「ちょっと顔だけでも拝ませてもらおうか」
半分仮面で隠している為に素顔のわからない怪盗イチゴミルクの顔を見るべく、カイルーズがそう言って彼を抑える騎士に目配せした。
王位継承者の命令を聞いた騎士は、小さく返事をすると、捕えた怪盗の仮面に手を伸ばそうとする……、その瞬間だった。
「薔薇よ薔薇……、どうしてお前には棘があるのか。それは、己が身を守る為の儚い抵抗か…………」
そんな、気障ったらしい台詞が響いたかと思ったら、広間に突然の突風が吹く。
「そこな者は私の偽者だ、馬鹿者共め」
その声は、開け放たれた天窓の外から聞こえる。
「なんだってっ!? はッ! 外だ、外に出ろっ!」
そう叫んだカイルーズに従って、広間にいた人々は、一斉に広間を飛び出し、城の外に出る。
「あそこだ!」
ユージンが指差した先は、城の外壁。
その上に、月をバックにして立っている青年の姿を見つけて、集まった者達は騒然とした。
黒いタキシードに黒いマント。
顔の半分を隠した仮面。被ったシルクハットから出ている銀の髪が、儚い色をしていた。
「ん??? ……え? あれって」
外壁の上でバサリとマントを翻した青年の姿を見て、ジュリナは一瞬呆気にとられた。
「怪盗イチゴミルクだああああ~~~~っ!」
しかし、次の瞬間、響いた声にジュリナの声はかき消される。
「では、やはり、こちらは偽者!?」
「あっちが本物か!」
「くそっ、姑息な真似を! イチゴミルクめ」
随所随所で上がる声を聞いたジュリナは、はっと我にかえると、隣で黙ったままのレオンハルトに言った。
「おま……、お前、あれってどう見ても」
「…………」
レオンハルト、無言。
「そう……、我が名は、怪盗イチゴミルク。この世のすべての美しいものを愛し、慈しむが故に罪を犯してしまう、美しき咎人です」
そんな中、ジュリナからしてみれば、よく見知っているが、諸事情で少々かすれている美声が朗々と響き渡る。
(ん? あれは……)
そして、カイルーズは、本物(?)の怪盗イチゴミルクが腕に一人の青年を抱いているのに気づく。
「あれは! 怪盗イチゴミルクが抱えているのは……、も、もしかして、リュセル!?」
遠目でも分かる。僅かに見えるあの衣装は、弟の持ち物の1つだ。
「な、な、な、ななななななんだとおおおおおおっ!」
カイルーズの怒声の後に、ジェイドの熱い悲鳴が続く。
「いやっ、だから、あの怪盗イチゴミルク自体が……」
冷静に説明しようとしたジュリナの声など、まったくもって届いていない様子の熱い親子は、現れた本物の怪盗イチゴミルクを睨み据えながら叫んだ。
「リュセルを返せっ~~~~~!」
「おいおいおい」
ジュリナがそう言った時、件のイチゴミルクは魅惑的な唇に甘い微笑みを浮かべた。
「ふふふふ。リュセル王子は予告通り頂いていきます」
シーツを頭から被っている為、顔がよく見えないので、愛息子が無事かどうかもわからず、ジェイドは外壁目指してがむしゃらに走る。
「父上っ、危険です!」
そんな父親を後ろから羽交い絞めにカイルーズがすると、ジェイドは無茶苦茶に暴れた。
「離せ、カイルっ! リュセルが、リュセルがああああっ!」
「僕も気持ちは同じです。でも、落ち着いて下さいっ」
喚く王族二人をさくっと無視したイチゴミルクは、片手に持っていた深紅の薔薇に口づけ、にっこりと微笑む。
「そうですね。この薔薇の美しさに免じて、もう一度チャンスをあげましょう。明日の夜、もう一度、私はこの城に盗みに入ります。盗みの対象は、このリュセル王子の”一番大事なもの”。ふふふ、これは、新たなる予告。私からの挑戦状です」
イチゴミルクは持っていた薔薇の花を優美なしぐさで投げ捨てると、とろんとした目をして、騎士として、現在、使いものにならない状態になっている、侍女の変装をした女騎士達に投げキッスをした。
きゃあああああっ
「では、またお会いしましょう、魅力的なレディ達」
黄色い悲鳴を上げた彼女達にウインクを残して、リュセル王子を抱えたまま、イチゴミルクは外壁から姿を消したのだった。
「ま、待てっ」
慌てて騎士たちが、それを追う。
「リュっ、リュセルウウウウウウウウウっ!」
「なんという事でしょう」
連れさらわれた第三王子という、アシェイラ始まって以来の大事件。泣き叫ぶジェイド王の横で、カイエは真っ青な顔色で重々しくそう呟く。
「いやいやいやいや、あの髪、あの声、あの気障な台詞回し、あの砂糖菓子のような甘い微笑。どこからどう見ても、あれはリュセルだろう!?」
他の王族に訴えるのを諦めたジュリナは、隣で無言を決め込む幼なじみに言った。
「そうだろうね」
ジュリナにわかって、半身であるレオンハルトが気づかない訳がない。
「何考えてるんだい!? あの子は!」
「私が聞きたい」
淡々とした響きの声の中に、呆れと怒りと諦めを感じ取り、ジュリナはそれ以上言うのをやめた。
そんな中、ジェイドの悲鳴とカイルーズの怒声が響く。
「なんて事だっ、なんて事だあああああっ! パパはもう、生きていかれないよおおおおおっ! リュセルううううううううっ」
「至急、東西南北の王都の門番に伝達しろっ! 誰もこの王都から出してはならない! 王都を封鎖するっ!」
「はい!」
カイルーズの命を受けて、カイエが動き出す。
「よくも、リュセルを……許さない!」
そう叫ぶカイルーズと、弱弱しくその場にうずくまるジェイド、王都封鎖の為に動き出したカイエを、うつろな顔で順番に見渡したジュリナは、ぼそりとつっこんだのだった。
「馬鹿ばっか」
騒然としたこの場で、一人冷静を決め込んでいたレオンハルトは、偽者のイチゴミルクが姿を消した事に気づく。先程の騒ぎに便乗して要領よく逃げたのだろう。
(もしや、捕えていた輩が本物か?)
しかし、偽者が消えた事に気づく者など、他にはいなかったのだった。
「はい、命令ですから。でも、この足では……」
またしてもメソメソと泣き出した青年を見て、ため息をついたリュセルは、彼の持つ完遂状を手に取るとそれを読んだ。
苺柄のファンシーなその紙には、ただ一言。
”リュセル王子は予告通り頂いた。 怪盗イチゴミルク”
それだけ書かれていた。
リュセルは無造作な仕草でその紙を寝室の壁に貼り付けると言った。
「脱げ」
「はい?」
いきなりの言葉にポカンと口を開けた青年に対し、リュセルはあっさりと答えた。
「この俺が、その役目代わってやるよ」
一方、レオンハルトとジュリナが広間に入ると、侍女や侍従に変装したアシェイラ騎士に囲まれた黒いタキシード姿の男が、手首に手錠をかけられた所だった。
「あれが怪盗イチゴミルクかい?」
ジュリナの言葉にレオンハルトは無言のまま、少し離れた場所にいた、ジェイド、カイルーズ、カイエの元に歩いて行く。
「父上」
「おお、レオン。それに、ジュリナ姫もよくきてくれた」
たくさんの臣下の手前、真面目にそう言ったジェイドのTシャツ、その本日の文字は”盗賊成敗”。
「中庭で捕まったんだよ」
カイルーズもそう言って、ほっとしたように胸を撫で下ろす。
「今夜は枕を高くして眠れますね」
カイエも上機嫌だ。
「……」
ただ、レオンハルトだけが疑惑の目線で、騎士達により牢へと連行されようとしている怪盗イチゴミルクを見ていた。
疑惑の眼差しを向けるレオンハルトに気づいたのか、怪盗イチゴミルクは、ふと顔を上げると、その唇に薄い微笑みを浮かべる。
「ちょっと顔だけでも拝ませてもらおうか」
半分仮面で隠している為に素顔のわからない怪盗イチゴミルクの顔を見るべく、カイルーズがそう言って彼を抑える騎士に目配せした。
王位継承者の命令を聞いた騎士は、小さく返事をすると、捕えた怪盗の仮面に手を伸ばそうとする……、その瞬間だった。
「薔薇よ薔薇……、どうしてお前には棘があるのか。それは、己が身を守る為の儚い抵抗か…………」
そんな、気障ったらしい台詞が響いたかと思ったら、広間に突然の突風が吹く。
「そこな者は私の偽者だ、馬鹿者共め」
その声は、開け放たれた天窓の外から聞こえる。
「なんだってっ!? はッ! 外だ、外に出ろっ!」
そう叫んだカイルーズに従って、広間にいた人々は、一斉に広間を飛び出し、城の外に出る。
「あそこだ!」
ユージンが指差した先は、城の外壁。
その上に、月をバックにして立っている青年の姿を見つけて、集まった者達は騒然とした。
黒いタキシードに黒いマント。
顔の半分を隠した仮面。被ったシルクハットから出ている銀の髪が、儚い色をしていた。
「ん??? ……え? あれって」
外壁の上でバサリとマントを翻した青年の姿を見て、ジュリナは一瞬呆気にとられた。
「怪盗イチゴミルクだああああ~~~~っ!」
しかし、次の瞬間、響いた声にジュリナの声はかき消される。
「では、やはり、こちらは偽者!?」
「あっちが本物か!」
「くそっ、姑息な真似を! イチゴミルクめ」
随所随所で上がる声を聞いたジュリナは、はっと我にかえると、隣で黙ったままのレオンハルトに言った。
「おま……、お前、あれってどう見ても」
「…………」
レオンハルト、無言。
「そう……、我が名は、怪盗イチゴミルク。この世のすべての美しいものを愛し、慈しむが故に罪を犯してしまう、美しき咎人です」
そんな中、ジュリナからしてみれば、よく見知っているが、諸事情で少々かすれている美声が朗々と響き渡る。
(ん? あれは……)
そして、カイルーズは、本物(?)の怪盗イチゴミルクが腕に一人の青年を抱いているのに気づく。
「あれは! 怪盗イチゴミルクが抱えているのは……、も、もしかして、リュセル!?」
遠目でも分かる。僅かに見えるあの衣装は、弟の持ち物の1つだ。
「な、な、な、ななななななんだとおおおおおおっ!」
カイルーズの怒声の後に、ジェイドの熱い悲鳴が続く。
「いやっ、だから、あの怪盗イチゴミルク自体が……」
冷静に説明しようとしたジュリナの声など、まったくもって届いていない様子の熱い親子は、現れた本物の怪盗イチゴミルクを睨み据えながら叫んだ。
「リュセルを返せっ~~~~~!」
「おいおいおい」
ジュリナがそう言った時、件のイチゴミルクは魅惑的な唇に甘い微笑みを浮かべた。
「ふふふふ。リュセル王子は予告通り頂いていきます」
シーツを頭から被っている為、顔がよく見えないので、愛息子が無事かどうかもわからず、ジェイドは外壁目指してがむしゃらに走る。
「父上っ、危険です!」
そんな父親を後ろから羽交い絞めにカイルーズがすると、ジェイドは無茶苦茶に暴れた。
「離せ、カイルっ! リュセルが、リュセルがああああっ!」
「僕も気持ちは同じです。でも、落ち着いて下さいっ」
喚く王族二人をさくっと無視したイチゴミルクは、片手に持っていた深紅の薔薇に口づけ、にっこりと微笑む。
「そうですね。この薔薇の美しさに免じて、もう一度チャンスをあげましょう。明日の夜、もう一度、私はこの城に盗みに入ります。盗みの対象は、このリュセル王子の”一番大事なもの”。ふふふ、これは、新たなる予告。私からの挑戦状です」
イチゴミルクは持っていた薔薇の花を優美なしぐさで投げ捨てると、とろんとした目をして、騎士として、現在、使いものにならない状態になっている、侍女の変装をした女騎士達に投げキッスをした。
きゃあああああっ
「では、またお会いしましょう、魅力的なレディ達」
黄色い悲鳴を上げた彼女達にウインクを残して、リュセル王子を抱えたまま、イチゴミルクは外壁から姿を消したのだった。
「ま、待てっ」
慌てて騎士たちが、それを追う。
「リュっ、リュセルウウウウウウウウウっ!」
「なんという事でしょう」
連れさらわれた第三王子という、アシェイラ始まって以来の大事件。泣き叫ぶジェイド王の横で、カイエは真っ青な顔色で重々しくそう呟く。
「いやいやいやいや、あの髪、あの声、あの気障な台詞回し、あの砂糖菓子のような甘い微笑。どこからどう見ても、あれはリュセルだろう!?」
他の王族に訴えるのを諦めたジュリナは、隣で無言を決め込む幼なじみに言った。
「そうだろうね」
ジュリナにわかって、半身であるレオンハルトが気づかない訳がない。
「何考えてるんだい!? あの子は!」
「私が聞きたい」
淡々とした響きの声の中に、呆れと怒りと諦めを感じ取り、ジュリナはそれ以上言うのをやめた。
そんな中、ジェイドの悲鳴とカイルーズの怒声が響く。
「なんて事だっ、なんて事だあああああっ! パパはもう、生きていかれないよおおおおおっ! リュセルううううううううっ」
「至急、東西南北の王都の門番に伝達しろっ! 誰もこの王都から出してはならない! 王都を封鎖するっ!」
「はい!」
カイルーズの命を受けて、カイエが動き出す。
「よくも、リュセルを……許さない!」
そう叫ぶカイルーズと、弱弱しくその場にうずくまるジェイド、王都封鎖の為に動き出したカイエを、うつろな顔で順番に見渡したジュリナは、ぼそりとつっこんだのだった。
「馬鹿ばっか」
騒然としたこの場で、一人冷静を決め込んでいたレオンハルトは、偽者のイチゴミルクが姿を消した事に気づく。先程の騒ぎに便乗して要領よく逃げたのだろう。
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