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第九章 怪盗イチゴミルク
4-3 王子と怪盗
しおりを挟む「きゃあ~~~~! もう、ハミルってば、やれば出来るじゃないっ!」
合流地点たる城から離れた人目につかない路地にて、彼は、オレンジ色の髪を振り乱して、自分と同じ黒い衣装を着た青年に抱きついた。
「でも、さっきのは何? 予告の追加なんて予定してなかったじゃない。何か城の中で見つけたの?」
その瞬間、青年の体から、つい最近嗅いだばかりの香水の香りが香った。
「え?」
その、芳しき高貴なる香り。
不審に思い、抱きついていた体を離すと、聞き慣れた情けない声が傍で聞こえた。
「ミルフィン様~~~!」
シーツを被った、何故か夜着姿の、馬鹿弟子兼従者がいた。
「あなた……、誰?」
警戒して仮面の下の眉根を寄せたミルフィンの前で、彼は被っていたシルクハットとつけていた仮面をとった。
シルクハットをとると同時に、月の光を受けて輝く銀糸の髪が幻想的に舞う。
仮面の下から現れた青年の顔は、まるで奇跡を前にしていると思われる程、美しかった。
薄い色をした瞳が瞬くと同時に、髪と同じ色をした睫毛が揺れる……。ミルフィンを金縛りにした美貌の青年は、唇の端を上げて、それはもう魅惑的に微笑んだのだ。
「あなたが怪盗イチゴミルクか?」
「はい」
銀髪の美青年の言葉に、ミルフィンは夢見る少女のような瞳で、顔の前で祈るように両手を組み、コクコクと素直に頷く。
「俺は、リュセル。この国の第三王子だ」
「……そうなんですか。…………って、え?」
リュセルの言葉を聞いたミルフィンはうっとりとした表情のまま納得しかけて、次の瞬間、ようやく我に返った。
「リュセル王子!?」
「ああ」
ああぁんっ! 憮然と頷く、その仕草さえ格好良すぎる~~~!
ミルフィンは心の中で身悶えながらも、被っていたシルクハットをとり、仮面もとった。
「リュセル王子って、筋骨隆々の、それはそれはたくましい人じゃなかったの!?」
聞いた話と、全然違う! 本物のリュセル王子は、甘く整った男性的な美貌の王子だった。
その、女からすると(ミルフィンは一応男だが)驚異的過ぎる、凛々しさと甘やかさの絶妙なる配合に、もう、骨抜きにされるしかない。
頬を染め、うっとりと自分の顔を見上げるミルフィンの顔を凝視したリュセルは驚きに目を見張る。
「ミルフィーナ殿?」
ミルフィーナ。
普段、女として生活している時の、ミルフィンの偽名である。
「どうして、その名を知っているの?」
ミルフィンはそう言いながら、リュセルの体からわずかに香る匂いに、ピンときた。
「”ティル”?」
その言葉にリュセルはかすかに顔をしかめる。
ソードキングダム劇場で出会った、城勤めをしていると言っていた青年。ハンサムだったが、印象強い男ではなかったはずだ。
「ふうん。その美貌を隠す為に、何かやったのね」
不可思議な力を持つという女神の子供なら、可能なのだろう。(実際はローウェンの発明品だが)
「嘘をついたのね!」
責めるように厳しい目を向けると、リュセルは困ったような顔をして、ミルフィンの顔を覗き込んだ。
「すまなかった」
「許しますぅぅぅぅ~~~!」
再び目をハートにして、コロッと意識を変換させた主の変わり身の早さに、傍で成り行きを見守っていたハミルは軽くコケた。
「でも、お互い様だろう。まさか男性だったとはな」
密かに憧れを抱いていたのに。と目を伏せるリュセルの儚さと美しさ。ミルフィンは蕩けかけてしまう。
「ごめんなさい、リュセル王子殿下。正体がばれないように、普段はあの姿をしているのよ。でも、あなたが望むなら、あたしは男である事を捨てるわ!」
「えええええ~~~~~~っ!?」
捨てるのかよ! と、ハミルはつっこんだ。
言葉使いも女なら普段の服装も女な、ハミルの主人兼師匠は、そんな趣味がある訳でもない。
正体を隠す為、女を追及していく内に、こんな風になってしまっただけの、押し倒されるより押し倒す方が好きな、立派な男なのである。
なのに……。
(リュセル王子の美男子ぶりに負けてしまったという事ですか?)
「ここで立ち話している訳にもいかないな。追っ手がすぐ来るだろう」
「あっ、じゃあ、あたし達が泊まっている宿へおいで下さい」
もじもじしながらそう言うミルフィンの姿と、堂々としたリュセルの姿は、さらわれた王子と王子をさらった怪盗という構図にはどう見ても見えなかった。
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