【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第九章 怪盗イチゴミルク

3-2 貴婦人の正体

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「もう、絶対に私に嘘はつくんじゃないよ。隠し事も駄目だ」

 後ろから激しく揺さぶられながら、リュセルはその言葉に首を縦に振りながら叫んだ。

「もう、嘘はつかないっ隠し事もしない! はっ、や……、ぁ、ぁあ、もう、やぁッ!」

 兄の長い胡桃色の髪が肩から落ち、自分の背中をくすぐる刺激にさえ感じてしまいリュセルは身を震わせる。そんな弟の首筋の噛み痕を嘗め上げながらレオンハルトは呟いた。

「悪い子には仕置きが、いい子には褒美が待っているからね。その言葉、絶対に忘れるんじゃないよ……」

 仕置きも褒美も似たようなものなのだろうが、その言葉にただ、リュセルは頷くしかなかったのだ。








 リュセルが散々な目に遭っている、ちょうど時、宿屋の窓より壮麗なるアシェイラ城を遠くに見る、一人の女性の姿があった。

 ウエーブを描く、オレンジ色の髪をしたその女性は、双眼鏡片手に城を眺めている。

「……あの~、ミルフィン様。こんな遠くから城を見て、何か見えるのですか?」

 背の中程まである黒髪を無造作に垂らした、どこか影のある青年が、主人である女性に恐る恐る声をかけた。

「見える訳ないじゃない。この、ど阿呆」

 紡がれた声は、低い男のものだ。

 今、ここには、すべてを知る自分の弟子しかいない為、ミルフィンは、ハスキーヴォイスではない、地声で話す。

「でもね~、何か興ざめしちゃったのよねぇ。予告状を出しといて、あれなんだケド。だってハミル、聞いていた噂と全然違うみたいなのよ!? 例の、深窓の姫君!」

 ハミルと呼ばれた青年は困ったような表情になると、師匠である性別不詳の目の前の青年に言った。

「私が聞いた情報でも、アシェイラにいるのは、第一王女のリュセナ姫ではなくて、第三王子のリュセル王子のようです。噂って怖いですね~」

 のん気な弟子の言葉を聞いたミルフィンは、近くにあった分厚い本を彼に投げつけた。

「ぐふっ」

 顔面直撃したまぬけなハミルを軽く放置したまま、彼は「あ~あっ」とつまらなそうにため息をつく。

「国宝級に美しいお姫様だって聞いたから盗もうと思ったのに、相手が筋骨隆々のムサイ男じゃやる気も半減よ」

「って……、え? ミルフィン様、お仕事続行なさるおつもりですか!?」

 あまりの痛さに涙目になりながら驚きに目を見張った馬鹿弟子を振り返ると、ミルフィンは不満そうに言った。

「予告したものは絶対盗むのが怪盗イチゴミルクなのよ? 一例でもそれは曲げないわ」

「じゃ、じゃあ、リュセル王子を盗むおつもりですか!?」

「……仕方ないじゃない」

 嫌そうなその声を聞いたハミルは不安そうな顔になった。

「でも、体格がいい王子なんですよね。筋骨隆々でたくましい……。どうやって盗むのです? 第一、盗んでどうなさるおつもりですか?」

「う~ん。綺麗なお姫様、もしくは王子様だったら、おいしくいただいちゃうつもりだったんだケド、ムサイ男じゃあねぇ」

 はあ~~~と、再びため息をついたミルフィンにハミルは疑問に思っていた事をぶつけてみた。

「でも、第二王子のカイルーズ王子の顔は知れ渡っているようですが、女神の子供である第一王子のレオンハルト王子と第三王子のリュセル王子の、顔というか、特徴はよく知られていないんですよ。髪の色と目の色位しか。ミルフィン様、どこでその情報を手に入れられたのですか?」

「うん。今日、都合よく、城勤めをしている使用人の青年と知り合いになったの。その人から聞いたのよ」

 思い出すように紺色の目を細めた師匠にハミルは頷く。

「それは運がよかったですね~」

「その人もあたしと同じくノンちゃんファンでね、意気投合しちゃったわ。でも、ちょっと変だったのよ」

「変?」

 ハミルの言葉に頷くと、ミルフィンは小首を傾げて言った。

「物腰が優雅過ぎたのよ。どこかの裕福な家の子息のような」

 昼間、ソードキングダム劇場で出会った、十代後半位の年齢の青年。眼鏡が似合う、なかなかのハンサムだったが、印象に残る顔立ちでもなかった。

 ただ……。

「あの香り」

「香り?」

 思い出すように目を細めたミルフィンを不思議そうに見つめ、ハミルは首を傾げる。

「香水をつけていたようなのよ」

「え? 香水っていったら、貴族の嗜みですよね。ものすごく高価な。やっぱりミルフィン様が出会ったその方って、貴族の子弟か何かで、行儀見習いか何かの為にお城に上がっているんじゃないんですか? そういう事ってあるみたいですし」

 珍しく的を射た、ヘタレ属性の弟子の言葉だったが、ミルフィンは納得いかなかった。

「普通の香水の香りだったら特に気にしないんだケド、あの香りって、たぶん特注よ。既製では売られていないわ」

「え!? ただでさえ馬鹿高い香水を特注って、ありえるんですかっ!?」

 ハミルは驚きのあまり、持っていた本を取り落としてしまう。(さっき顔面直撃したやつだ)

「う~ん。よほどの金持ちか、身分の高い人かって事でしょうけど、わからないわ。まあ、城の事に詳しかったあの人が城に勤めているという事は間違いないだろうし、貴族の子弟でも金持ちの息子でも関係ないからどうでもいいんだけどさ。あ、ところで、城内の見取り図は手に入れた?」

 話題を変えたミルフィンにハミルは頷くと、慌てて用意していた図面をテーブルの上に広げた。テーブルいっぱい使ってもまだ余る程大きなその図面を真剣な表情で見ていたミルフィンは尋ねる。

「で? 獲物の部屋はどこ?」

「ここです」

「そこは、第一王子の部屋じゃない」

 何馬鹿な事言っているのかとハミルを睨むが、ハミルはあっさりと答えた。

「でも、この図面、例の情報屋から手に入れたんですが、ここで間違いないって言ってましたよ? 兄王子と部屋が一緒なんじゃないですか?」

「え~~~、いい年した兄弟がありえなくない? あいつ、他に何か教えてくれなかったの?」

「お渡しした料金では、ここまでしか教えていただけませんでした」

 ハミルの返答を聞いたミルフィンは小さく毒づく。

「ちっ、足元みやがって。上得意なんだから、サービスしてくれてもいいのにさ」

 そう言いながらも、城内の見取り図を頭に叩き込んでいる様子のミルフィンにハミルは不安そうに尋ねた。

「ミルフィン様、やっぱりやめませんか?」

「はっ!? なんでよ!」

 いきなり弟子の制止の言葉を聞いたミルフィンは、顔をがばっと上げて、ハミルを睨みつける。

「だって、相手は女神の息子ですし……。罰が当たったら、ど~するんですか」

「何言ってるのよ、このビビリが。盗むものが何であろうと、予告を出した以上はどんな事があろうとも盗み出すわよ! 覚悟決めなさい。女神が怖くて泥棒稼業ができますか!」

 自分自身には甘いが、仕事には厳しい師匠の言葉を聞いた気弱なハミルは、罰が当たらないように女神に祈りを捧げるしかなかった。



*****



「……一体全体、どうしたんだい?」

 怪盗イチゴミルクの予告した当日。その夕方、転移装置を使ってアシェイラにやってきたジュリナは、自室の寝室に監禁状態のリュセルにそう話しかけていた。

 先程まで眠っていたと思われる妹の婚約者は、寝台の上に起き上がっているのもつらいのか、わずかにその端整な顔をしかめている。

 不機嫌そうに銀の眉をひそめるその姿は、ジュリナの目から見ても艶っぽい。あきらかに情事の後がうかがい知れた。夜着から覗く首筋に無数の歯型を見つけると、ジュリナはかすかに顔を引きつらせる。

「どれだけやられたか、わからん。一昼夜かけて攻められ続けたからな。途中で気絶して、目が覚めたのが先程だ」

 憮然とした声は、かすれきっている。

「マジか?」

「例の、媚薬香を使われてな」

 ジロリと恨みがましい視線を向けられて、ジュリナはあらぬ方向を見て口笛を吹く。
 創世祭の贈り物という名の元、媚薬香をレオンハルトに与えてしまった形になる彼女は、まったくもってそれを反省していない。

「……で? お前をこんなヨレヨレの状態にした張本人はどこに行ってるんだい?」

 リュセルの非難めいた目を軽く無視して部屋の主である幼なじみの姿を探すが、どこにもいない。転移装置でアシェイラに移動すると、すぐにこの部屋にきて、寝室の鍵をぶち破ってリュセルと対面した為、ジュリナはレオンハルトに会っていなかった。

「知るか、あんな奴」

 吐き捨てるようなリュセル言葉を耳にしたジュリナは目を見開く。

「リュ、リュセル?」

「あんな横暴な男とは、もう二度と口を聞かんぞ」

 目をギラギラとさせてシーツを握り締めたリュセルにジュリナは同情の視線を送る。

「陰の日でもないのに一昼夜はないよな。受け身のお前の事を考えない、鬼の如き所業。まさに鬼畜の中の鬼畜……」

「そんな事はどうでもいいっ!」

 憐憫に満ちた言葉を跳ね除けると、リュセルはメラメラと怒りに燃える視線をジュリナに向け、怒鳴った。

「ど、どうでもいい?」

 足腰立たなくなり、寝台の上の住人となる程抱かれ続け、強制的に体を開かされた行為をどうでもいいと言い切ったリュセルに、ジュリナはぽかんと口を開ける。

「あいつは……あの男はな……、俺が苦労して手に入れた、初日で完売し、もう手に入らないという、黒猫ノンちゃんと伝説の姫君のパンフレットを捨てたんだぞッ!」


 ポクポクポクポク…………チーーーーーーーン。

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