【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第九章 怪盗イチゴミルク

6-3 意外な盗みのターゲット

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 皆が心の底で考え、あえて口にしなかった事を暗い声で呟いたユージンの顔を睨み付け、アイリーンは叱責するようにその名を呼ぶ。

「ごめん。でも現実問題、その可能性だってある訳だしな」

 ユージンの顔を見上げながら、アイリーンは唇を強く噛みしめた。



 その瞬間


 ヒュンッ


 風をきる音と共に、一本の弓矢がユージンの足元に突き刺さる。

「っ!?」

「侵入者だ! 周りを警戒しろ!」

 瞬時に我にかえったアイリーンが、城門警備にあたっていた他の騎士達に向かって怒鳴った。その間に、弓矢(何故か矢じりがハート型)の飛んできた方角と思われる場所に目を向けるが、既に人影はない。

「ユージンっ」

 一気に慌ただしくなった周囲を警戒しながら、同僚の優男に顔を向けると、彼は矢に取り付けてあった苺柄の封筒を手にした所だった。

「怪盗イチゴミルクの予告状だ」

 その言葉に、アイリーンは目を見張った。

 そして、それからすぐにその予告状は、今回の事の総指揮官であるレオンハルトに届けられたのだった。



「……………………」

 ユージンとアイリーンから届けられた予告状(苺柄)を黙読しながら、レオンハルトは呟いた。

「……いい度胸だね」

 絶対零度の声と共に、室内に吹雪が吹き荒れる。

「そんな事、言っている場合ではありませんっ! まさか、怪盗イチゴミルクの次のターゲットが、殿下御自身だったなんてっ!」

 アイリーンの動揺したような叫びを片手を上げる事で抑えさせると、レオンハルトは見覚えのあり過ぎる筆跡を指先でなぞり、内心ため息をつく。

(あの馬鹿が)


 総指揮官殿へ
 今宵、氷の王子を頂きに参上仕る。
 怪盗イチゴミルク


 最初の予告状のように、簡潔な文章だ。

「でも、ある意味、すごい無謀ですよね。リュセル王子のみならず、殿下をも盗もうとするなんて……。やはり狙いは、女神の子供なのでしょうか」

 剣鍵たるリュセルが連れさらわれ、次は剣主たるレオンハルトが狙われているという事実に、騎士達にも動揺が走る。

「…………」

 事実を知らぬ彼らの不安をそのままにしたまま、レオンハルトは無言で答えた。


 バッターン


「レオン~~~~~~っ!」

 その時、緊迫した執務室に慌てた様子で入室してきたのは、額に氷嚢を乗せたジェイドだ。

「父上? どうしたのですか?」

 心痛のあまり倒れてしまった父王が水玉の夜着姿で泣きながら駆け寄ってくるのを見て、レオンハルトは座っていた執務椅子から腰を上げる。

「今度はお前が狙われていると聞いて、パパはいてもたってもいられずに、来てしまったよおおおおっ! 安心おし、お前はパパが守ってあげるからね!」

 うわあああああんっと、泣きながら自分よりも背の高い息子に抱きつき、ジェイドはそう宣言した。

「黒猫のパンフレットが目的だと思っていたのに。まさか、兄上が目的だったとは」

 仮眠をとった事により、かなり顔色が回復したカイルーズは、兄にしがみついて離れない父王を横目に見ながら側近のカイエを伴って入室してきた。

「剣鍵に続いて剣主を狙うとは。もしや怪盗イチゴミルクとは、例の……」

 カイエの言葉を聞いたカイルーズは、はっとしたような顔をする。

「しかし、あれは噂だろう!?」

「そうですが……」

 何か知っている様子の二人に、ジェイドとレオンハルト直属の騎士達は眉をひそめる。

「何を知っているんだい? 二人とも」

 ジェイドの言葉を聞いて迷うようなそぶりを見せたカイルーズに代わり、レオンハルトがそれを口にした。

「反女神組織、”ヒューマン”の事か」

「やっぱり知っていたんだね、兄上」

「まあね」

 息子二人の会話についていけず、ジェイドは慌てて間に入る。

「どういう事だ!? なんだい??? ひゅーまんって?」

 父親の問いに対し、レオンハルトはいつものように抑揚のない淡々とした調子で答えを返した。

「簡単に言えば、この世界を創ったのは女神ではなく、人間だと主張する連中の集まりですよ。創世神話を否定し、神殿の考えを否定し、我々女神の子供達を異端視しているらしいですね。……この事は、本当に噂に過ぎないので、父上が知らなくても仕方ない事です」

 レオンハルトの説明に、その組織の存在を知っていたカイルーズとカイエは小さく頷く。

「しかし、今回の事は関係ないと見ていいだろう」

「何故?」

 だって、怪盗イチゴミルクがリュセル本人だから。

 しかし、理由を説明すればややこしくなるので、レオンハルトは簡潔に言った。

「ヒューマンでしたら、連れさらうのではなく、リュセルを殺害したと思われるからですよ」

 レオンハルトは冷静な口調で残酷な事を口にする。それを聞いた者達、皆が何も言えずに押し黙ってしまった。

「……その、残酷集団が怪盗イチゴミルクではなかったのは良かったとして、ともかく、レオンは狙われているんだから、パパの傍を離れてはいけないよ。いいね!?」

 沈黙を破ってそう叫んだジェイドは、すぐにいなくなった末王子の事を思い出したのか、またしても大声で泣き始める。

「リュセル……、リュセルううううううううっ」

「父上。しかし私は、この場の総指揮をとっている身ですので、そのお言葉には従えません」

 子供に言い含めるようにそうささやく息子の腕を掴んで、嫌々と首を振り、ジェイドは叫んだ。

「駄目だっ、離さない! ずっと傍にいる。置いていかないでぇぇぇ」

 まるで別れを切り出された女のような台詞である。カイルーズは軽く顔を引きつらせた。

「仕方ありませんね。父上、失礼致します」

「?」

 一言断りを得たレオンハルトに対し、ジェイドが不思議そうな顔をした瞬間。

 ゴスッ

 父王の首の裏に、見事なまでの手刀が決まったのを見て、カイルーズとカイエ、三騎士達は、驚愕に目を見張った。

 崩れ落ちた父王の体を片手で支えながら、レオンハルトは呟く。

「これで静かになったな。カイエ、父上を頼む」

 気絶した(させられた)ジェイドの体を引き渡されて、困惑したような表情を浮かべるカイエは、迷いながらも進言した。

「しかし、レオンハルト殿下。陛下がおっしゃっていた事は、最もな事だと思われます。狙われているのは、あなた御自身なのですし、総指揮権をカイルーズ殿下にお譲りになって、御身は隠れていた方が……」

「私が盗賊なんぞにやすやすと連れさらわれると思うかい?」

「それは……」

 思いません。

 その場にいた者全員が思った事だった。

 そうして、一瞬、し~んと静まり返ったその場に、次の瞬間、けたたましい音が響き渡った。

 ガッシャーンっ

「「「「っ!?」」」」

 外から聞こえる、何かが割れたような音。

 皆一様に、互いに視線を交わしあう。

「失礼します!」

 動揺が走った彼らに呼応するかのように、ティルが慌てて扉を開けて入室してくる。

「現れたか?」

 冷静なレオンハルトの言葉を聞いて、全力疾走してきた為、激しい息切れを起こしていたティルは、大きく頷いた。

「……は…………はい、城内に侵入した模様です……っ」

「なんだって!?」

 ティルの報告を聞いたカイルーズは目をむく。

「昨夜よりも断然厳しい警備の中、どうやって城内……というか、この王宮の敷地内に侵入したというんだ!?」

 カイルーズは自分が開通した抜け道を使われた事など知る由もなく、ショックを隠しきれずに軽くよろけた。

「とりあえず、行くよ!」

 しかしすぐに立ち直り、兄の執務室を飛び出した主に付き添い、カイエも部屋を出る。

 その後をゆっくりと続こうとしたレオンハルトに、ユージンは言った。

「殿下、殿下の身は、たぶん必要ないとは思いますけど、俺達が必ずお守りしますからね。そして、怪盗イチゴミルクを捕えて、必ずリュセル王子を救い出しましょう!」

「…………」

 無表情のまま無言になった主に向かい、ユージン始め、アイリーンやなんとアントニオまで、ぐっと拳に力を入れてレオンハルトを励ました。

 いい騎士を持って、彼は幸せである。

 そして気絶させられ、忘れられたジェイドは、そのまま執務机の上に置き去りにされたのだった。
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