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第九章 怪盗イチゴミルク
10-1 怪盗イチゴミルクの再就職先
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「こ……、子供三十人って、子沢山ってレベルじゃないだろう!? しかもお前、産む気かあああああっ!?」
驚きのあまりジュリナは一度声を上ずらせ、全力でつっこみを入れる。そんな彼女の反応に対し、リュセルは遠い目をして答えた。
「レオンならやり遂げそうで怖いのさ」
確かに。
しかし、すぐにジュリナは冷静さを取り戻すと、ある事実を告げ、そのありえない例え話を完全否定したのだ。
「ふう……、まあ、怖い冗談はさておき、一つだけ聞くが、私達女神の子供の半身は必ず同性だというのは知っていたかい?」
「え……?」
初耳だった。確かに現代の女神の子供達の半身はすべて同性同士だが、あまり気にした事はなかったのだ。
「異性が対となる事は決してないのさ。何故なら私達は、生涯を女神の”子供”として過ごさないといけないからね。親になる事は許されないんだ。それが、例え半身以外が相手だったとしても……」
「そ、そうだったのか」
リュセルはジュリナの台詞に軽くショックを受けながら小さく頷く。この現実を考えると、レオンハルトはかなりディープでブラックな冗談を言った事になる。それも、閨の中で……。
「しかも、お前。いくらなんでも、一応は血のつながった兄妹でやばいだろ。まあ、あいつならそんな道徳の垣根を飛び越えちまいそうだけどな」
超他人事であるジュリナは何も考えていないのか、あはははは~とのん気に笑っているが……。
(笑えないぞ)
自分達女神の子供にとって、本当に互いの半身の存在がすべてなのだと、今更ながらに痛感したリュセルは、レオンハルトが笑えない冗談を口にする程キレさせ、追い詰める事はもう二度としないと創世の女神の美貌にかけて誓った。
怖いし。
恐ろしいし。
すごいし。
変な趣味に目覚めそうになるし。
監禁生活を送ったこの数日、本当に大変だったのだから。その間、リュセルが心がけたのはただ一つ。決して逆らわないという事。
そうしたら、段々とレオンハルトの機嫌は通常並みに上がっていき、現在、こうして、麗しくも頼れる元の優しいお兄様に戻って頂けたのだ。
「そういえば、ミルフィン殿はどうなったんだ?」
この数日の苦労を振り返りつつ、瞳に涙を光らせながら紅茶を飲んでいたリュセルは、次の瞬間、ふいに浮かんだ疑問を口にし、それを聞いたジュリナは小さく頷いた。
「ああ、あいつらなら……」
そうして、今回の騒動の発端となった怪盗イチゴミルクについて話そうとした時、レオンハルトが戻ってきた。
「ジュリナ。私ではなく、お前の客のようだ」
「私? …………もしかして、その客って、令嬢と従者のコンビじゃないかい?」
ニヤリと笑って答えたジュリナにレオンハルトが肯定するように頷く。
「大丈夫、身分は保障するよ。アシェイラ滞在時に見つけたんだが、大変優秀な人材だったんで、私直属の従者として雇う事にしたんだ。お前達にも紹介したいから、通してやってくれ」
その説明に一応納得したレオンハルトは、扉の前に控えさせていた二人組を呼んだ。
「入りなさい」
「失礼致します」
呼び声に答えて入室してきた人物を認めて、リュセルは大きく目を見開き、目の前でニヤニヤしていたジュリナに問うような目線を向ける。
「ミルフィーナと申します」
優雅に貴婦人の礼をして見せた、オレンジ色の髪をした令嬢。
間違えようがない。ここ最近世間をお騒がせしている怪盗イチゴミルクその人であった。
「じゃあ、今日このまま、ディエラに向けて出発してくれるんだね?」
にっこりと男前に笑ってそう言ったジュリナに向かい、ミルフィーナは優雅に微笑みながら小さく頷いた。
「はい。このままハミルと共にアシェイラ王都を発ちます」
ハスキーな声をしたオレンジ色の髪をした美しい女性。貴族の令嬢にしか見えないその女性をレオンハルトは観察するように見つめていた。
何せ、彼女達が入室してきてから隣の弟の様子が変なのだ。いや、一見普通なのだが、わずかな表情の変化から、レオンハルトはそれを感じ取っていた。
数日前に見た怪盗イチゴミルクの髪の色はオレンジ色だった。そう……、目の前の令嬢と同じ。
それにこの気配…………。
一方、レオンハルトに厳しく熱い視線で見つめられていた、ミルフィーナことミルフィンは、内心ドキマギしていた。
(そんなに攻めるような瞳で見つめられたら、あたし……、もう、それだけで…………)
内心はあはあと息を乱して悦んでいたミルフィンだったが、それをうまく隠し、身分高き令嬢らしく背筋を伸ばして優雅に微笑んだ。
そして、その後、すぐに運良く(?)途中でレオンハルトに呼び出しがかかり、彼は弟を気にしながらも部屋を退室して行った。
パタン
扉が閉まった途端……
「リュセル様っ、愛しの王子様! よくご無事で~~~!」
そう叫んで抱きついてきたミルフィンの体をリュセルはとっさに支える。そして、瞳を煌めかせ、この数日ご無沙汰だった悩殺王子スマイルを己の美貌に浮かべた。
「心配してくれていたのだね、可愛い人。嬉しいよ……」
「リュセル王子」
うっとりと月の美貌に酔ったミルフィンは、再びリュセルの体から香り出した香水の香りに気づいた。
(さっきも思ったケド、レオンハルト王子からも同じ香りがしたのよね。王族は同じ香水を使っているのかしら?)
そんな疑問も、目の前の青年が発する甘い響きのある声を聞いた途端、どこかに飛んでしまう。
「ところでジュリナ殿の従者に本当になったのか?」
そんなリュセルの問いに答えたのは、ミルフィンの後ろに控えていたハミルだった。
「はい。じゃないと我々の正体をばらすと脅されまして……」
「ジュリナ殿」
リュセルの責めるような声に肩をすくめると、凛々しさ溢れまくっている未来のお義姉様はそれが当然のごとく答える。
「世間を騒がす程の無駄な力をこの私が思う存分利用してやるんだよ。その方が、世の為人の為になるってもんだろう?」
怪盗を雇った姫君が悪びれもせずにそう答えると、ミルフィンも悲しそうに頷く。
「それに、どの道、盗みに失敗してしまった事になる以上、怪盗イチゴミルクは廃業するつもりでしたし」
「ミルフィン殿」
狙った獲物は逃さない事を信条としていた怪盗イチゴミルクは、不可抗力とはいえ、レオンハルトという獲物を盗む事に失敗したのだ。
自分の所為で怪盗を辞める事になったミルフィンに対し、リュセルは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「はっはっはっ~。これからは、私がビシバシとこきつかってやるからねぇ……。ま、覚悟しとけ」
キランと光る深紅の瞳に睨まれて、ミルフィンとハミルは竦み上がり、リュセルは絵を盗まれた事を根に持っているジュリナの執念深さに温い笑みを浮かべたのだった。
驚きのあまりジュリナは一度声を上ずらせ、全力でつっこみを入れる。そんな彼女の反応に対し、リュセルは遠い目をして答えた。
「レオンならやり遂げそうで怖いのさ」
確かに。
しかし、すぐにジュリナは冷静さを取り戻すと、ある事実を告げ、そのありえない例え話を完全否定したのだ。
「ふう……、まあ、怖い冗談はさておき、一つだけ聞くが、私達女神の子供の半身は必ず同性だというのは知っていたかい?」
「え……?」
初耳だった。確かに現代の女神の子供達の半身はすべて同性同士だが、あまり気にした事はなかったのだ。
「異性が対となる事は決してないのさ。何故なら私達は、生涯を女神の”子供”として過ごさないといけないからね。親になる事は許されないんだ。それが、例え半身以外が相手だったとしても……」
「そ、そうだったのか」
リュセルはジュリナの台詞に軽くショックを受けながら小さく頷く。この現実を考えると、レオンハルトはかなりディープでブラックな冗談を言った事になる。それも、閨の中で……。
「しかも、お前。いくらなんでも、一応は血のつながった兄妹でやばいだろ。まあ、あいつならそんな道徳の垣根を飛び越えちまいそうだけどな」
超他人事であるジュリナは何も考えていないのか、あはははは~とのん気に笑っているが……。
(笑えないぞ)
自分達女神の子供にとって、本当に互いの半身の存在がすべてなのだと、今更ながらに痛感したリュセルは、レオンハルトが笑えない冗談を口にする程キレさせ、追い詰める事はもう二度としないと創世の女神の美貌にかけて誓った。
怖いし。
恐ろしいし。
すごいし。
変な趣味に目覚めそうになるし。
監禁生活を送ったこの数日、本当に大変だったのだから。その間、リュセルが心がけたのはただ一つ。決して逆らわないという事。
そうしたら、段々とレオンハルトの機嫌は通常並みに上がっていき、現在、こうして、麗しくも頼れる元の優しいお兄様に戻って頂けたのだ。
「そういえば、ミルフィン殿はどうなったんだ?」
この数日の苦労を振り返りつつ、瞳に涙を光らせながら紅茶を飲んでいたリュセルは、次の瞬間、ふいに浮かんだ疑問を口にし、それを聞いたジュリナは小さく頷いた。
「ああ、あいつらなら……」
そうして、今回の騒動の発端となった怪盗イチゴミルクについて話そうとした時、レオンハルトが戻ってきた。
「ジュリナ。私ではなく、お前の客のようだ」
「私? …………もしかして、その客って、令嬢と従者のコンビじゃないかい?」
ニヤリと笑って答えたジュリナにレオンハルトが肯定するように頷く。
「大丈夫、身分は保障するよ。アシェイラ滞在時に見つけたんだが、大変優秀な人材だったんで、私直属の従者として雇う事にしたんだ。お前達にも紹介したいから、通してやってくれ」
その説明に一応納得したレオンハルトは、扉の前に控えさせていた二人組を呼んだ。
「入りなさい」
「失礼致します」
呼び声に答えて入室してきた人物を認めて、リュセルは大きく目を見開き、目の前でニヤニヤしていたジュリナに問うような目線を向ける。
「ミルフィーナと申します」
優雅に貴婦人の礼をして見せた、オレンジ色の髪をした令嬢。
間違えようがない。ここ最近世間をお騒がせしている怪盗イチゴミルクその人であった。
「じゃあ、今日このまま、ディエラに向けて出発してくれるんだね?」
にっこりと男前に笑ってそう言ったジュリナに向かい、ミルフィーナは優雅に微笑みながら小さく頷いた。
「はい。このままハミルと共にアシェイラ王都を発ちます」
ハスキーな声をしたオレンジ色の髪をした美しい女性。貴族の令嬢にしか見えないその女性をレオンハルトは観察するように見つめていた。
何せ、彼女達が入室してきてから隣の弟の様子が変なのだ。いや、一見普通なのだが、わずかな表情の変化から、レオンハルトはそれを感じ取っていた。
数日前に見た怪盗イチゴミルクの髪の色はオレンジ色だった。そう……、目の前の令嬢と同じ。
それにこの気配…………。
一方、レオンハルトに厳しく熱い視線で見つめられていた、ミルフィーナことミルフィンは、内心ドキマギしていた。
(そんなに攻めるような瞳で見つめられたら、あたし……、もう、それだけで…………)
内心はあはあと息を乱して悦んでいたミルフィンだったが、それをうまく隠し、身分高き令嬢らしく背筋を伸ばして優雅に微笑んだ。
そして、その後、すぐに運良く(?)途中でレオンハルトに呼び出しがかかり、彼は弟を気にしながらも部屋を退室して行った。
パタン
扉が閉まった途端……
「リュセル様っ、愛しの王子様! よくご無事で~~~!」
そう叫んで抱きついてきたミルフィンの体をリュセルはとっさに支える。そして、瞳を煌めかせ、この数日ご無沙汰だった悩殺王子スマイルを己の美貌に浮かべた。
「心配してくれていたのだね、可愛い人。嬉しいよ……」
「リュセル王子」
うっとりと月の美貌に酔ったミルフィンは、再びリュセルの体から香り出した香水の香りに気づいた。
(さっきも思ったケド、レオンハルト王子からも同じ香りがしたのよね。王族は同じ香水を使っているのかしら?)
そんな疑問も、目の前の青年が発する甘い響きのある声を聞いた途端、どこかに飛んでしまう。
「ところでジュリナ殿の従者に本当になったのか?」
そんなリュセルの問いに答えたのは、ミルフィンの後ろに控えていたハミルだった。
「はい。じゃないと我々の正体をばらすと脅されまして……」
「ジュリナ殿」
リュセルの責めるような声に肩をすくめると、凛々しさ溢れまくっている未来のお義姉様はそれが当然のごとく答える。
「世間を騒がす程の無駄な力をこの私が思う存分利用してやるんだよ。その方が、世の為人の為になるってもんだろう?」
怪盗を雇った姫君が悪びれもせずにそう答えると、ミルフィンも悲しそうに頷く。
「それに、どの道、盗みに失敗してしまった事になる以上、怪盗イチゴミルクは廃業するつもりでしたし」
「ミルフィン殿」
狙った獲物は逃さない事を信条としていた怪盗イチゴミルクは、不可抗力とはいえ、レオンハルトという獲物を盗む事に失敗したのだ。
自分の所為で怪盗を辞める事になったミルフィンに対し、リュセルは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「はっはっはっ~。これからは、私がビシバシとこきつかってやるからねぇ……。ま、覚悟しとけ」
キランと光る深紅の瞳に睨まれて、ミルフィンとハミルは竦み上がり、リュセルは絵を盗まれた事を根に持っているジュリナの執念深さに温い笑みを浮かべたのだった。
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