【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第九章 怪盗イチゴミルク

9-3 おかしくなった二人の距離感

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*****



 怪盗イチゴミルク騒動のその後、しばらくの間、リュセルは塔に監禁状態となり、枷も外してもらえずに、レオンハルト以外の人間と会う事も許されなかった。
 他の者達にはうまく説明してあるらしく、この塔を訪れる者もいない。世話役であるティルやクマ吉もいないので、リュセルの世話はレオンハルト一人が担っている状態だった。

 朝、塔を出るレオンハルトを見送り、何もないこの部屋で(娯楽物はすべて没収された)、大昔の王の愛人の幽霊におびえながら日中を過ごし、そして、夜になって戻ってくるレオンハルトの求めに応じて体を開く。
 何度か日の高いうちから行為に及ばれた時、さすがにリュセルも抵抗したが、結局は兄の好きにされた。
 恐れている大昔の王の愛人(の幽霊)と同じ状態に陥っていたのだが、リュセル本人はまったくその事実に気づいていない。

 そう、それは、第三者が見たら、レオンハルトに囲われた愛人にしか見えないであろう……。数日経って、ようやく塔での監禁状態を解かれ、自室に戻るのを許された頃には、今までの兄との蜜日の事も相まって、リュセルは、少し、レオンハルトとの距離感がおかしくなっていた。

 それに気づいたのは、一度ディエラに帰国したジュリナが、二人を心配して様子を見にアシェイラを訪れた時だったのだが……。



「………………」

 その日、ジュリナは目の前で繰り広げられる光景を、無言のまま、うんざりしたように見つめているしかなかった。

「ほら、口を開けなさい」

 それ故に、無事戻ってきた末の息子との対面は果たせていなかった。

「まったく、いい年して執務室の机の上で眠るからだよ」

 レオンハルトは自分の肩にもたれてきた弟の髪を撫でながらそう呟くが、ジェイドを気絶させて、執務室の机上に放置したのが自分だという事実をすっかり忘れ去っている。そして、父王を気絶させる元凶となったリュセルはというと、眠そうに目を細めており、ジェイドの風邪の遠因が自分にあるなどと、知る由もない。

「でも、今朝見舞いに伺った時は、ずいぶんよくなっていたようだったからね。明日にでもリュセルも行くかい?」

「え?」

 一気に覚醒して自分の顔を見たリュセルにレオンハルトはゆっくりと頷いた。

「今まで言いつけを守っていい子にしていたからね。その枷は、明日になったら取ってあげよう」

 優しいその声を聞いたリュセルは、内心ほっとして胸を撫で下ろす。

(やばかったな。このままでは変な趣味に走ってしまいそうだったぞ)

「でも、またおいたをしたら……、分かっているね?」

「は、はい! わかっております!」

 何故か畏まった返事をするリュセルに満足そうに頷くと、鈍い金の光を放ったレオンハルトの瞳は一瞬で琥珀の色に戻る。

 青い顔をしてブルブル震えているリュセルを見ながら、ジュリナは首を傾げた。

(一体どんな目に遭ったんだい? こいつは……)

 う~んっと考え込んだ時、軽いノックの音が響く。

「レオンハルト殿下、あの……、お客様です」

 扉が開くと同時に入室してきたティルの言葉に、レオンハルトは軽く眉をしかめると言った。

「客?」

「はい、お願いします」

 レオンハルトはそれに仕方なく立ち上がると、リュセルの頭を軽く叩いて注意した。

「おとなしくしていなさい」

「御意」

 弟の、まるで騎士のような固い返事にため息をつくと、レオンハルトはティルに案内されて自室を出て行った。

「リュセル……」

 レオンハルトが完全にいなくなったのを確認すると、ジュリナは目の前の青年に憐れみのこもった視線を向けた。

「ふっ、何も言わんでくれ。言いたい事はわかっている」

 少しくせのある自分の前髪を様になる仕草でかき上げ、そう言ったリュセルは、言い訳のように続けた。

「しかし、当初の俺の目的は果たせた。誰かと一緒なら街に降りてもいいという許可ももらったし、黒猫ノンちゃんの次回公演に一緒に行ってくれるって約束してくれたしな」

「そ……、そうかい」

 なんだか、全然、前と状況が変わっていない気がするのは私だけだろうかと、ジュリナは考えてしまった。あのお兄様に、この青年は信頼されるに至ったのか?本当に???

「それと、俺は今回程、自分が男であった事に感謝した事はなかったぞ」

 ジュリナの考えは、ため息まじりに紡がれたリュセルのその言葉によって、中断を余儀なくされる。

「……??? 何故だい?」

 急におかしな事を言い出したおかしな男は、更に爆弾発言をかましてくれた。

「レオンの事は好きだがな……、好きだが…………、でも、さすがに三十人もあいつの子供を産むのはなあ~。大変だろう? 本当、同性でよかった」

 その言葉を聞いたジュリナは、次の瞬間、あまりの衝撃に、飲んでいた紅茶が気管に入り、その苦しさに涙目でむせかえったのだった。
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