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第十章 盲目の神官
1-2 新しい任務と次兄の婚約話
しおりを挟むそして、城では……。
「吸血村!?」
次の邪気浄化の任務地の説明を受けたリュセルは、あまりにも恐ろしげな言葉にゴクリと生唾を飲み込んだ。
「吸血村ではない。スペル村だ」
自分の執務椅子に優雅に腰かけたレオンハルトが律儀に弟の台詞を訂正すると、青ざめたリュセルの横で、顔色こそ変えなかったが、若干顔を引きつらせたユージンが言った。
「でも、吸血鬼の潜んでいる村なんでしょう?」
「正確には、生き血をすする邪鬼だね。状況説明を受けたが、おそらく、村全体が邪気に覆われているのだろう。霧に覆われ、連絡が一切とれないらしい」
淡々としたレオンハルトの説明に、その場に集結したリュセルとレオンハルト直属の三騎士達は、アントニオを抜かした皆が一斉に固まってしまった。
い……、行きたくない。
リュセル、ユージン、アイリーンの三人は同時にそう考えるが、レオンハルトはそれに気づいているのかいないのか、冷静に今後の予定を話し出す。
「まずは、スペル村と隣接しているアイル村に向かう。お前達には、このアイル村までついて来て欲しい。件のスペル村へはリュセルと二人で向かう事にする」
「「「はっ」」」
短く返事を返す三騎士にレオンハルトは鷹揚に頷く。
「しかし、今回はカイルーズの件もあるからね。三人をそれぞれ役割を決めて分ける事にする」
「……? カイルーズ王子、何かあるんですか?」
続きを話そうとした主に対し、は~いっと小さく手を上げてユージンが尋ねると、隣でアイリーンが小さく『馬鹿』と呟き、リュセルが小さく笑って説明した。
「サンジェイラ国から婚約者が来国するのさ。……まあ、正確には婚約者候補の姫君なんだが。城中この話題で持ちきりなのに、ユージンは知らなかったのか?」
「はあ、噂話には疎いもので……。しかし、あのカイルーズ王子が婚約ねぇ。どんな姫君なんですか?」
ユージンの質問を受け、リュセルはサンジェイラで出会った姫君の事を思い出すように記憶を探った。
(確か、情報によると、来国する姫君は十八歳だったよな)
サンジェイラでよく話した姫君は、ユリエとサクラの二人のみだったので、記憶がかなりあやふやだが、それ位の年齢の姫は一人しかいなかった為、なんとなく覚えていた。
「可憐で大人しい、清楚な姫君だったぞ」
「そうですか~。残念ですね、拝見できないなんて」
女好きな色男らしく、本当に残念そうにため息をついたユージンの言葉にリュセルは同意した後、はっとする。
「そうだ! 浄化任務に行っていたら、カイルーズの見合い話に立ち会えないぞ、レオン!」
「立ち会わんでもいい。第一、立ち会ってどうするつもりなんだい?」
呆れたような兄にリュセルは真剣な目線を向けると言った。
「未来の義姉君に挨拶でも……」
レオンハルトは弟の台詞を一瞬で無視すると、話を無理矢理元に戻す。
「それで、それぞれの役割の分担だが」
「いい加減にしなさい。私達の優先するべき事は一体なんだい?」
「邪気浄化だろう?」
軽く叱られても平然とそう返したリュセルは、自分の役割はよく理解していた。ただ、ちょっと、すぐ上の兄の婚約話に好奇心をくすぐられただけで……。
「わかっているならいいが」
ため息まじりにそう言ったレオンハルトは、話をようやく元に戻すのに成功した。
「アントニオ。お前は城に残り、サンジェイラからの客人の警護を命ずる」
「はっ」
自分直属の三騎士に役割を振る為に、まず、レオンハルトは無口で大柄な壮年の騎士、アントニオに命を下す。
「アイリーン、お前には私の補佐を命じる」
「はい」
王子二人に同行組になったアイリーンは、生真面目な返事を返す。
「最後にユージン、お前はリュセルのお守りだ」
「はーい」
同行組に決定したユージンはのんびりと返事をするが、それを聞いたリュセルは、憮然としながら反論した。
「お守りってどういう事だ!? そんなもの必要ないぞ。子供じゃあるまいし! いや…………、なんでもありません」
反論すると同時に兄に睨まれたリュセルは、素直に白旗を上げる。
「それと、今回は神官が一人同行する事になる」
「神官……? 何故だ?」
突然の決定事項を聞き、驚いたリュセルが眉をひそめると、レオンハルトはいつもの淡々とした口調で答えた。
「邪気におびえた村人達をなだめるのに必要なのだよ。隣村が邪気に侵されたのだ。アイル村の村人達の不安も大きいだろう」
「そうか」
リュセルが頷くと、レオンハルトは他の同行組の二騎士にも向けて言う。
「出発は明後日。この前のディエラ王都までの旅と違い、魔道馬の馬車の使用はなしだ。南に用事のあるデコレート商会の行商に便乗し、それを隠れ蓑にする。各自準備をするように」
「「はっ」」
アイリーンとユージンがそう返事をして頭を下げ、とりあえず、その場は解散になった。
頭脳派騎士のアイリーンは、レオンハルトと行商の行く道順と、行商と別れた後の村までの旅の道順を話し合う為執務室に残り、肉体派騎士のアントニオも、主がいない間のサンジェイラの客人達の警護と騎士団団長達との連携について指示を受ける為に、やはり、執務室に残った。
レオンハルトの執務室を後にしたリュセルとリュセルのお守り役に決定したお気楽派騎士のユージンは、そのまま廊下を移動しながら、今回の浄化任務の事……というより、吸血鬼について話していた。
「リュセル王子、今回の任務大丈夫ですか~?」
「大丈夫かって、どういう意味だ?」
前を歩いていたリュセルが怪訝そうに振り返ったのを見て、ユージンはいつもののんびりとした口調で言った。
「だって、吸血鬼が出る村らしいじゃないですか。リュセル王子、怖くないんですか~?」
ストレートに聞いてきた兄の騎士に対し、リュセルは一瞬押し黙るとふっと笑った。
「怖い? この俺が? そんな訳ないだろう」
魅力的過ぎる完璧なる微笑だが、強がっているのがバレバレだった。
「それならいいんですがね」
その強がりに気づかない振りをしてユージンが答えると、リュセルはむきになったように言い返してきた。
「第一、吸血鬼じゃなくて邪鬼だ。そういえば、サンジェイラでは邪鬼に血を吸われた事もあったからな。そう、きっと、似たようなものだろう」
ルルドの葉の事件を裏で操っていた女邪鬼に自分の血をすすられた事を思い出して、リュセルは軽い嫌悪感に一瞬顔をしかめる。
「サンジェイラ国でそんな恐ろしい目に遭っていたんですか!?」
驚きに目を見張るユージンにからかうような目を向けるとリュセルは答えた。
「俺達、女神の子供の血肉はうまいらしいぞ。俺が吸血鬼に襲われそうになったら、我が身を呈して庇ってくれるんだろう? ふふふ、頼りにしているからな」
「……頑張ります」
意地悪く笑うリュセルは、吸血村行きの任務の恐ろしさをユージンをからかう事で払拭しようとしていた。
あわれ、ユージン・デコレート。
「でも、もう大丈夫なんですか?」
「ん、何がだ?」
年下の、主人の弟君にからかわれながらも、心配症のユージンは、軽く眉をひそめて尋ね、それを聞いたリュセルは、質問の意味がわからず、のんびりと尋ね返す。
「だって、サンジェイラでその邪鬼に血をすすられたんでしょう? き、牙の痕とか残らなかったんですか?」
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