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第十章 盲目の神官
1-1 神官達の憂い
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「困りましたね」
その日
穏やかな時の流れるセイントクロス神殿アシェイラ支部の神官長室に、部屋の主であり、この神殿の最高責任者、ライサン・セリクスの、困ったと言いつつも、あまり困っていないような、非常にのん気な声が流れた。
「困ったのう……」
続いて響いたのは、優しげな老人の声。こちらも、さして困っていないような調子で、フォフォフォと笑っていた。
小さな体と長い白い鬚。顔の皺の中に沈んだ小さな目が、どこか妖精のような印象を周囲に与える、優しいおじいさんといった雰囲気の老人。
そんな彼と同じような雰囲気を醸し出しているライサンは、のんびりとした口調で尋ねた。
「どうしたらいいでしょうねぇ……、リュカ様」
「そうじゃのう~」
このまま二人に任せていては、まとまるものもまとまらないと結論付けた三人目の人物。アシェイラ支部神官長補佐の任に就いていた青年は、次の瞬間、乱暴に言い放った。
「そんな、のん気にサンジェイラ産の緑茶をすすってる場合じゃないっ! 剣主様……、レオンハルト王子殿下から、邪気浄化の任務遂行の為に神官を一人貸して欲しいと要請が入ったのにも関わらず、肝心の神官が決まっていないんだぞ! 返事の〆切は、今日だ今日! 一体どうするつもりだ!? セリクス!」
ゆったりとした丁寧語が標準な神官の中で、珍しく粗野な言葉使いをする補佐役たる青年、ルークに対し、ライサンはのんびりとした返事を返した。
「どうしましょうかねぇ……」
「どうしましょうかねぇ……、じゃないッ!」
ルークは血管がぶち切れそうになりながら怒鳴り散らし、それを横目で見ていたライサンは、不思議そうに尋ねる。
「ルーク、そんなにイライラしてどうしたのですか? はっ! まさか、あの日ですか?」
「~~~~っ、こんの阿呆上司、ぶっ殺す!!」
神官にあるまじき程に怒りで両目をぎらつかせたルークを落ち着かす為、今度は様子を見守っていたリュカ老人が口を挟んだ。
「ルークや、ライサンも悪気はないのじゃ。わしに免じて許してやってはくれないかのう」
小さく小首を傾げて自分を見上げてくる、小妖精属性の老人にルークは弱かった……。
「…………リュカ様が、そうおっしゃるのなら」
「前から思っていましたけれど、私に対する態度と違い過ぎやしませんか?」
「黙れ、駄目上司」
「まったく、いい年こいてジジコンですか」
そうして、またしても言い合いになりそうになる二人を止める為、リュカ老人は慌てて口を挟んだ。
「それで、誰かおらぬのかのう? 王子達の美貌に耐えられそうな人材は」
そう……。こんなにも、神官選びに難航している最大の理由がこれだった。
彼ら神官が崇拝し、唯一神として崇める創世の女神より美の恩恵を授かった女神の子供と行動を共にするという事は、その美貌に耐えられる者でなければ仕事にならないのだ。
「…………一人、心当たりが」
少し悩みながらそう伝えたルークにライサンは尋ねた。
「おやおや、どの方ですか?」
「地方の教会の神父をしていた奴で、最近神官になったばかりなんだが……。名前は、セフィ・アルターコート。真面目で人当たりもいいし、肝も据わっているから、サポート役としては適している。それに…………」
「それに……? 何ですか?」
いつも言いたいことをズバズバと言い放つ(相手が上司でも)、自分の補佐役が言い淀んでいるのを不思議に思いながらライサンが続きを促すと、ルークは言いにくそうに答えた。
「アルターコートは目が見えないんだ。つまりは、盲目だから、王子達の、いわゆる女神の美貌に惑わされる心配もない」
「そうでしたか。お気の毒に……」
慈悲深い神官長らしく、痛ましそうに眉をひそめたライサンの顔を見返したルークは、くしゃくしゃと頭をかきながら言葉を続けた。
「でも、目が見えない分、他の五感が発達したとかで、日常生活で不自由はしていないみたいだったから、大丈夫だろう」
「では、王子殿下方のサポート役の神官はその方でいいでしょう。諸々の手続きとアルターコート神官にこの事の伝令をお願いしますね、ルーク」
にっこりと微笑んで指示を出したライサンに頷くと、ルークは神官服の長い裾を翻して、急ぐように神官長室を後にして行った。
「ところで、今回の王子殿下方の任務地はどこなのじゃ? 神官が必要な任務とは、これいかに?」
それまで黙って成り行きを見守っていたリュカ老人は、ライサンにそう尋ねる。
「アシェイラ南の地方のアイル村より要請がありまして、なんでも、隣村のスペル村と連絡がとれなくなってしまったようなのです。確認したところ、邪気の痕跡も残されていたようです。それに、スペル村周辺で血を吸う邪鬼……つまり、吸血鬼の目撃情報が」
「なんと、吸血鬼とな。恐ろしいのう」
「アイル村の人々はひどく怯えているようですので、それを宥める為に神官の存在がいるのですよ。女神の子供達が優先するのは邪気の浄化のみで、村人のフォローまで気を回せませんからね」
ライサンの言葉を聞き終わったリュカ老人は、憂うような目をして呟いた。
「スペル村の村人達が無事なら良いがのう……」
その日
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「困ったのう……」
続いて響いたのは、優しげな老人の声。こちらも、さして困っていないような調子で、フォフォフォと笑っていた。
小さな体と長い白い鬚。顔の皺の中に沈んだ小さな目が、どこか妖精のような印象を周囲に与える、優しいおじいさんといった雰囲気の老人。
そんな彼と同じような雰囲気を醸し出しているライサンは、のんびりとした口調で尋ねた。
「どうしたらいいでしょうねぇ……、リュカ様」
「そうじゃのう~」
このまま二人に任せていては、まとまるものもまとまらないと結論付けた三人目の人物。アシェイラ支部神官長補佐の任に就いていた青年は、次の瞬間、乱暴に言い放った。
「そんな、のん気にサンジェイラ産の緑茶をすすってる場合じゃないっ! 剣主様……、レオンハルト王子殿下から、邪気浄化の任務遂行の為に神官を一人貸して欲しいと要請が入ったのにも関わらず、肝心の神官が決まっていないんだぞ! 返事の〆切は、今日だ今日! 一体どうするつもりだ!? セリクス!」
ゆったりとした丁寧語が標準な神官の中で、珍しく粗野な言葉使いをする補佐役たる青年、ルークに対し、ライサンはのんびりとした返事を返した。
「どうしましょうかねぇ……」
「どうしましょうかねぇ……、じゃないッ!」
ルークは血管がぶち切れそうになりながら怒鳴り散らし、それを横目で見ていたライサンは、不思議そうに尋ねる。
「ルーク、そんなにイライラしてどうしたのですか? はっ! まさか、あの日ですか?」
「~~~~っ、こんの阿呆上司、ぶっ殺す!!」
神官にあるまじき程に怒りで両目をぎらつかせたルークを落ち着かす為、今度は様子を見守っていたリュカ老人が口を挟んだ。
「ルークや、ライサンも悪気はないのじゃ。わしに免じて許してやってはくれないかのう」
小さく小首を傾げて自分を見上げてくる、小妖精属性の老人にルークは弱かった……。
「…………リュカ様が、そうおっしゃるのなら」
「前から思っていましたけれど、私に対する態度と違い過ぎやしませんか?」
「黙れ、駄目上司」
「まったく、いい年こいてジジコンですか」
そうして、またしても言い合いになりそうになる二人を止める為、リュカ老人は慌てて口を挟んだ。
「それで、誰かおらぬのかのう? 王子達の美貌に耐えられそうな人材は」
そう……。こんなにも、神官選びに難航している最大の理由がこれだった。
彼ら神官が崇拝し、唯一神として崇める創世の女神より美の恩恵を授かった女神の子供と行動を共にするという事は、その美貌に耐えられる者でなければ仕事にならないのだ。
「…………一人、心当たりが」
少し悩みながらそう伝えたルークにライサンは尋ねた。
「おやおや、どの方ですか?」
「地方の教会の神父をしていた奴で、最近神官になったばかりなんだが……。名前は、セフィ・アルターコート。真面目で人当たりもいいし、肝も据わっているから、サポート役としては適している。それに…………」
「それに……? 何ですか?」
いつも言いたいことをズバズバと言い放つ(相手が上司でも)、自分の補佐役が言い淀んでいるのを不思議に思いながらライサンが続きを促すと、ルークは言いにくそうに答えた。
「アルターコートは目が見えないんだ。つまりは、盲目だから、王子達の、いわゆる女神の美貌に惑わされる心配もない」
「そうでしたか。お気の毒に……」
慈悲深い神官長らしく、痛ましそうに眉をひそめたライサンの顔を見返したルークは、くしゃくしゃと頭をかきながら言葉を続けた。
「でも、目が見えない分、他の五感が発達したとかで、日常生活で不自由はしていないみたいだったから、大丈夫だろう」
「では、王子殿下方のサポート役の神官はその方でいいでしょう。諸々の手続きとアルターコート神官にこの事の伝令をお願いしますね、ルーク」
にっこりと微笑んで指示を出したライサンに頷くと、ルークは神官服の長い裾を翻して、急ぐように神官長室を後にして行った。
「ところで、今回の王子殿下方の任務地はどこなのじゃ? 神官が必要な任務とは、これいかに?」
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「なんと、吸血鬼とな。恐ろしいのう」
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