【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十章 盲目の神官

2-1 リュセルの提案

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(裏返せば、それって、それだけ俺に執着しているって事だよな)

 塔の部屋での濃密な時間を思い出すと、顔が火照る。嫌だ、やめろ。と言いつつも、最後には従った自分に対し、兄はいつもの言葉を必ず口にした。

 ーいい子だー

 その声を思い出してカーッとなったリュセルの顔を、アルティスが不思議そうにじっと見返してくる。

(やばい。話題を変えなければ、墓穴を掘りそうだ)

「ところで、ツバキ姫はもう発ってしまったのだな。アシェイラでお会いする事が出来ないから、出発前に会いたかったのだが」

 リュセルの、この事についてあまり触れたくないという気持ちが、敏いアルティスには無事伝わったらしく、彼はツバキの事について反応を返してきた。

「会えぬとは、どういう事だ?」

 その時、クマ吉とは違うローウェンのお世話役のテディベア(黒色)が、客人たるリュセルの為に緑茶と桜餅を運んできてくれたので、それを受け取りながら答える。

「浄化任務が入ったんだ。だから、ツバキ姫が来国される期日に俺とレオンは王都にはいないのさ」

「そうなのか」

 リュセルの言葉を聞き、軽く驚きに目を見張ったアルティスは、顎に手を置いて少し考え込んだ様子を見せた。

 そんな中、桜餅を堪能しながらも、リュセルは目の前で物思いに耽っている様子のアルティスを観察しながら思った。

(なんだか、元気がないな)

 というよりも、何か心配事でもあるような雰囲気だ。

「気をつけて任務にあたられよ」

「ああ」

 労うような言葉をかけられて返事を返しながらも、リュセルはアルティスの夜の美貌を見つめ続ける。

「……? なんだ?」

 案の定、不審そうに尋ねられてリュセルは再び口を開く。

「何か気になる事でもあるのか? なんだか落ち着かない様子だな」

 それを聞くと同時に、アルティスは目を見張る。そして、ふと表情を和らげると、観念したかのように心配事を口にした。

「ローの奴が学塔に行っておる間は、何をしても手につかぬ。心配でな……」

 トラキアの学塔の警備は万全だ。何せシステムの考案者がローウェンなのだから。それを踏まえての心配。つまり……。

(悪い虫が近付いていないか心配なのか)

 ローウェンはちょっと天然で変わっている所もあるが、男のリュセルから見ても可愛い。その心配はローウェンの父(?)として、リュセルもよくわかった。

「まあ、ローウェンは可愛いからな。悪い虫が寄って来ないとも限らない」

 呼び出しなどかけられ、空き教室とかに引っ張られて、無理矢理襲われでもしたらどうしようかと、リュセルでも心配になる。
 親馬鹿(?)かもしれないが、あんなに可愛いのだ。いつそうなってもおかしくない。

「ローウェンは無防備だからな。心配だろう?」

 そうアルティスに言いつつも、リュセルも心配になってきた。

 ローウェンを心配するあまり、黙りこくってしまったアルティスの顔を眺めつつ、なんとかならないかとリュセルは考え込んだ。

(学塔の中に入れればな~)

 そう考えたリュセルは、一つの方法を思いつく。

「そうだ、アルティス」

 そして、確認するように言った。

「トラキアの学塔って、年齢制限や身分制限って確かなかったよな? 入学試験が超難解というだけで」

「それは、そうだが……?」

 首を傾げて不思議そうな顔をしたアルティスに、リュセルは彼の心配事を払拭する単純な方法を教えてあげた。

「お前もトラキアの学塔の学生になればいいんじゃないか?」

 入学試験が難しいらしいが、ローウェン程でないにしろ、前々王メルティスの英才教育を受けてきた彼なら入学は可能だろう。

 リュセルの言葉に光明を見出だし、アルティスは大きく目を見開いて膝を叩く。

 相変わらず、たまに見せる反応が爺臭い……、ではなく、古風な少年だと、リュセルはそれを見てつくづく思った。



 そして、方向性を決めたアルティスの決断は早く、その日から行われる入試に(なんてタイムリーなのだろうか)、出願期間は過ぎていたようだが(何せ試験当日だ)、なんとか申込み、トラキアの学塔に入試を受けに出掛けていった。

 アルティスもいなくなり、ローウェンもいない上、目的のツバキ姫も出立した後という事もあり、その後、リュセルは実にあっさりとサンジェイラを後にしてアシェイラに戻る。そうして、明日の出発の準備を済ませると、とりあえず、出立の挨拶も済ませておこうと、父王とカイルーズに会う為に自室を後にしたのだった。



*****



「リュセル~、よく来たね!」

 カイルーズの執務室の扉を開けると、何故かいた(ひどい)ジェイドが、驚きに目を見開くと同時に喜声を上げた。前回の怪盗イチゴミルク事件が原因で一時的に体調を崩していたようだが、すっかり回復しているようだった。

「失礼しました」

 こちらに向かって両手を広げて走り寄ってきた父王を認め、目を細めたリュセルは、扉をピシャリと一気に閉める。

 ガツンッ

 閉めた扉に顔面激突したらしく、あまりに痛すぎる音が響き、中にいたカイエの悲鳴が聞こえた。

「へ、へへへ陛下! 大丈夫ですか!?」

「ちょっと~、そんな所で倒れないでよ」

 カイエの声が響くと同時に聞こえた冷たい声の主は、リュセルが閉めた扉をあっさりと中から開ける。

「やあ、リュセル」

 無邪気ににっこりと微笑んだ次兄カイルーズは、顔面強打で床に倒れた父王を跨ぐと、弟の肩を抱いて室内に導いた。

「任務出立の前の挨拶に来てくれたのかい?」

 にこにこしながら顔をのぞきこんできたカイルーズに向かい、リュセルは頷いた。

「ああ。明日、出発だからな」

「そう……。またしばらく、寂しくなるね」

 リュセルを自分が座っていた執務机の椅子に座らせ、自分は行儀悪くも書類のたまった机に腰を降ろして、カイルーズは寂しそうに笑った。

「ええええ~~っ! リュセルもレオンも任務に旅立つのおおおお!? しかも、明日!?」

 次の瞬間、カイエが持ってきた濡れた布を額のコブに当てながら、ジェイドは復活を果たす。

「今更何言ってるんですか、父上」

 呆れたような視線を父王に向ける次兄の横顔を見上げながら、リュセルは内心不思議に思った。

(普通だな)

 これから婚約者を迎えようとしている風に見えない位、いつものカイルーズだ。

「なあ、カイルーズ」

「ん、何?」

 ゆっくりと視線をリュセルに戻した、この、一見さわやか系青年に直球で尋ねる。

「お前、婚約者の姫君についてどう考えてるんだ?」

「……? どうって?」

 カイルーズは小さく首を傾げた。

「相手がどんな娘だとか、気にならないのか?」

 自分だったら絶対気になるだろうから、リュセルはそう言う。

 しかし、カイルーズの答えは、それはそれは淡泊なものだった。

「う~ん、気にならないね。誰でも一緒だし」

 あっさりとそう告げたカイルーズは、本当に気にしていないのが表情からよく伝わった。

「いずれ王となる僕が王妃を娶らなくてはならないのはわかりきっていた事だし。サンジェイラと縁を結べる直系の王族がアシェイラじゃ僕しか残されていないのも事実だしね」

「ずいぶんあっさりとしてるんだな」

 眉をひそめる弟に、カイルーズは声をたてて笑う。

「あははは。所詮、政略結婚だよ。大丈夫、僕はどんな姫君だって愛してみせるよ。そう……、僕の愛する、可愛い毒草達のように!」

「お前の中で、婚約者と毒草は同レベルか!?」

 リュセルがつい全力でつっこみを入れると、カイエが口を挟んだ。

「殿下、すぐに決めるという訳ではないんですし、まずは、件のツバキ姫と対面してから、ゆっくりとお互いを理解し合えばいいじゃないですか」

 年長者らしい意見を述べたカイエは、「そうそう」と思いだしたように付け加えた。

「今回、ツバキ姫の付き添いで、私の従妹も同行してくるんですよ。手紙のやりとりはしていたんですが、会うのは本当に久し振りなんで、楽しみにしているんです」

「へ~。同行って、侍女か何かなの?」

「いえ。ユリエは、ツバキ姫の姉姫にあたるのですが……」

 ガタンッ

 カイエのにこやかな声が終わらぬ内に、咄嗟にリュセルは椅子から立ち上がってしまった。

「ユリエ……って、あの、ユリエ姫か!? サンジェイラの元第三王女にして現王妹の!?」

 驚いたなんてものじゃない。まさか、カイエとユリエが血縁関係にあったとは。

「はい。私の母とユリエの母は姉妹だったのです。リュセル王子、ユリエをご存じなのですか?」

「ああ、サンジェイラで世話になった」

 リュセルの言葉を聞き、カイエは驚いたように答える。

「地味な娘だから記憶に残りづらいかと思ったのですが……。サンジェイラ国の王族は、人数が多いと言いますし」

 地味……。確かに、地味な姫君だ。見た目は。

 小柄で、二十歳をとっくに過ぎているのに、まるで少女のような顔立ちをした姫君だが、その芯は強く、頭もいい。だが、でもまあ。一見すると、平凡過ぎる程、平凡な、どこにでもいるような女性だろう。

 しかし実は、その魂は、遠い昔、創世の女神の為に邪神と戦い、このスノウ大陸に存在する三つの王国の一つを築いたとされる英雄、サンジェイラの生まれ変わりなのである。
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