【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十章 盲目の神官

4-2 嫉妬

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「………………はい?」

 ユージンは空耳かな~っと思いながら、とりあえず、真剣な表情のまま尋ね返してみた。

 男関係 男関係 漢関係?
 漢の関係……。マッチョな関係?(意味不明) …………どういう意味だ?

 ユージンの頭には、?マークが飛び交う。

 リュセルはわかりにくかったかと呟くと、今度はもっとわかりやすく言った。

「レオンの過去の情人について知りたいんだ。特に男の……」

 じょうじん。ジョウジン……常人、情人、………………情人!?

 情人。恋愛関係にある人。情事の相手。愛人。いろ。じょうにん。

 ブーーーーーーーッ

 その意味を理解すると同時に、ユージンは飲んでいた紅茶を目の前にあった国宝級に価値のある銀の美貌に吹きかけていた。

 ぽたぽた……

「オイ…………」

 かすかに怒気を孕んだ声に我にかえると、ユージンは悲鳴を上げる。

「ぎゃあああああっリュセル王子、だいだいだいだい大丈夫ですか!? うわぁぁぁぁ~~~~ッ、あなたのその美貌に何かあったら、俺は殿下に殺されてしまいます!」

 ふきふきふき

 持っていたハンカチで、触れるのが躊躇われる程整ったその白い顔を細心の注意を払いながら拭う。

「あああっ、やっぱり、顔を洗いましょう!」

 慌てて自分の腕を引いて立ち上がろうとするユージンに、リュセルは言った。

「質問の答えをくれないか?」

「…………どうして、そんな事聞きたがるんですか?」

「それは……」

 ユージンの言葉を聞いたリュセルは、またしても言いよどむ。

「いいから答えろ。知っているのか? いないのか?」

 しかし、開き直ったのか、すぐに眦を上げてそう言ったリュセルに、やっと冷静さを取り戻したユージンは軽く肩をすくめる。

「ある程度なら」

 ユージンはとりあえず、隠してもすぐばれるのだろうからと正直に話す事にした。

「王族の一員として、そっち方面の教育も受けるでしょうし、リュセル王子が帰還する前までは、そう頻繁でもなかったのですが、アシェイラ屈指の高級娼館の娼婦やら男娼やらが殿下のお相手をしに城に来ていましたよ。相手は毎回違うようでしたが……。でも、殿下だって、あんな聖人のような顔をしていても、立派な成人の男ですからねぇ」

 それ位仕方なかろうと頷くユージンに対し、リュセルはまたしても少し考え込んだ。

「……では、それに何か変化があった時はなかったか?」

「変化?」

「ああ。一定の時期に、その、娼婦やら男娼やらの城への出入りが増えたとか」

 リュセルの問いに、ユージンは思い当たるのか「そう言えば……」と言うように大きく頷く。

「殿下が、あれは~、十九歳の頃でしたかねぇ……。デコレート商会が経営する高級娼館選りすぐりの、娼婦や男娼達がたくさん城に派遣された事がありましたよ。その時、かなり不思議に思ったので、よく覚えています」

 ジュリナに聞いた十四歳の時の話と同じだ。

「でも、これは関係ないでしょう? その時、殿下は確かひどい風邪を患って、一週間程面会謝絶だったんですから」

 何も知らぬユージンのあっさりとした言葉にリュセルは頷くしかなかった。

「そうだな」

 リュセルの感知した情報とユージンの話を合わせると、十中八九シャノンは、十九歳だった頃の、レオンハルトの陰の日時に大量に出来た情人の中の一人だ。ジュリナの話を聞いた限り、相手に執着していなかった為、それを情人と呼ぶのかはわからないが。

「リュセル王子、兄君の昔の事が気になるのですか?」

 またしても無言で考え込んでしまったリュセルをじっと見つめ、ユージンは何となく尋ねる。

「いや」

 否定をするリュセルに対し、失礼を承知でさらに聞く。

「でも、昔、殿下と関係をもった者達が気になるのでしょう?」

「違う」

 とは、言いますけれど……。

(完全に気にしてるし)

 素直じゃない主の弟君にため息をつきつつも、ユージンは考える。

(しかし、これって完璧に…………)

「嫉妬ですねぇ」

「「っ!?」」

 いきなり響いた柔らかな声音。
 リュセルもユージンも飛び上がって驚いた。

「すみません、聞くつもりじゃなかったのですが」

 何故か、いつの間にか、リュセルのように近くの岩に腰かけてお茶を飲んでいた翠緑の髪の神官は、固く閉ざされた双眸をリュセル達の方に向けると、申し訳なさそうに軽く頭を下げる。

「い、い、い、いつからそこに!?」

「はあ、最初から……。剣鍵様方の方が後からいらっしゃったんですよ?」

 全然気づきませんでした。

「しかし、いや~、若いっていいですねぇ」

 暖かい風に吹かれながら、ズズズズっと、紅茶をまるでサンジェイラ産の緑茶のようにすすると、セフィはにっこりと笑った。

「ぜ、全部聞いていたのですか!?」

 ユージンに助けられながらなんとか元の位置に座り直すと、リュセルは予想外の展開に焦りつつ、そう尋ねる。

「申し訳ありません」

 謝罪が肯定になった。

「い、いえ、周りを確認しないで話を始めた俺が悪かったのですから」

 でも、まさか、こんなに近くにいたのに気付かなかったとは。

(なんという存在感のなさだ。ある意味すごいぞ)

 なんとなく感動してしまったリュセルは、セフィを更に近くに招き寄せた。

 そうしてその後、しばらく男三人、無言のまま並んで紅茶を飲んでいたのだが、不意にセフィが口を開いた。

「剣鍵様は、本当に剣主様がお好きなんですねぇ」

 ぶほっ

 今度はリュセルが、紅茶を吹き出す。

「だって、剣主様の過去にやきもちを妬いていらっしゃるのでしょう?」

 にこにこにこ

 この男、本気だ! どこか腹黒さを感じさせるカイルーズの一見無邪気な微笑みとは違う、本当に邪気のない純粋な笑み。

 リュセルはその微笑みに答えるように、ぎこちない笑みを浮かべた。

「でも、どんなに気にされても、過去は過去。今の剣主様は、あなた以外の者を見ておいでですか?」

 優しい問いかけは、まるで教会の神父のよう。

 そんなセフィに答えようと口を開きかけたリュセルに代わり、即座に大きく首を振ったのは隣のユージンだ。

「いや、見てないっす! リュセル王子に常にターゲットロックオン! それ以外目に入らない程の溺愛ぶり。まさにブラコン、ここに極まれり!」

「何故、お前が答える」

 口元をヒクつかせながらユージンにそうリュセルがつっこむと同時に、セフィはクスクスと口元を手の甲で押さえて小さく笑う。
 見た目はどこから見ても男なのだが、纏う空気が、なんというか、ひどく中性的な人だ。

「それならいいじゃないですか。剣主様が他の方を見ているのであれば問題でしょうが、生きて年数を重ねる度に過去は増え、それは常にそこにあるものです。でも、そこで立ち止まってしまっていては、少しも前に進めませんよ?」
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