【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十章 盲目の神官

4-3 過去のレオンハルトの執着の行方

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 そこで一旦言葉を切ると、セフィはリュセルから顔を逸らした。

「過去の剣主様の事はもう仕方ありませんが、今より先の剣主様はあなたのものなのですから。」

 ありがたいその話が終わった瞬間、セフィは照れたように赤くなる。

「すみません。あなた様のような尊いお方にこのような説教じみた事を……。お忘れ下さい」

「…………」

「……………………」

「? あの……って、うわっ!」

 返事がまったく返ってこないので、不思議に思って二人のいる方向へセフィが顔を向けた途端、リュセルに両手を握られた。

「感動しました!」

「俺もです」

「はあ、どうも」

 呆気にとられるセフィの前で、リュセルとユージンは目の端にかすかに光る涙を拭いながら言った。

「やはり神官様の言う事は違いますね、リュセル王子」

「ああ、まったくだ。そうだ、アルターコート神官。これからあなたの事を、師匠っとお呼びしてもいいだろうか?」

「え、え、え、え、ええええ~~~!?」

 悩んでいる様子の若人(リュセル)を導こうと、神官らしい話をしただけなのに……と、セフィは思った。

「師匠!」

「待って、俺も俺も、……師匠!」

 熱い声でそう呼びかけるリュセルに習い、ユージンも後ろから手を伸ばして、リュセルの手の上からセフィの手を握る。

「こ、困ります!」

 しどろもどろになったセフィは、とにかくその後、必死に説得して、師匠という呼び名は止めてもらい、その代わり名前で呼ばれるようになった。

 こうして、リュセルのセフィへの評価は上がり、彼自身良き相談相手を得られたのだった。それは奇しくも、今までの相談相手の中で一番まともな相手だったと言えよう。



 そうして、その日は、夕食時もその後の時間も、夜も更けて自分とレオンハルト専用に用意された天幕に入るまで、リュセルはずっとユージンと一緒にセフィのありがたくも為になる話を聞いていたのだった。

 さすがは神官、言葉の一つ一つに重みと説得力がある。

 師匠と呼ぶにふさわしい方だと、改めてリュセルは思ったのだが、やはりその呼び名は拒否された。

「嫉妬……」

 天幕に入り、まだ戻らぬ兄を待ちながら、リュセルは昼間セフィが言っていた言葉を思い出す。
 レオンハルトとその過去の情人(?)の一人であるシャノンの事を思うと、もやもやして嫌な気持ちになる。これが嫉妬という感情なのだろう。

 今まで絶対的なまでに自分にのみ向いていた兄の愛情と執着。おそらく、この先もそうなのだろうが、過去のレオンハルトの感情は、一体どこに向いていたのだろうか?
 セフィに過去は過去だと諭されたばかりだが、気になるものは気になる。自分がいない間、レオンハルトは何を考えて過ごしていたのか。

 自分の帰還以前の兄がどうしていたかと気にしたのは初めてだ。
 ジュリナにレオンハルトの十四歳当初の絶世の美少女時代の話を聞いた時はこんなに気持ちにならなかったのに……。

 羽織っていたケープを脱ぎ、眠る為、簡単な格好になりながらそう思う。その時、兄の気配が真っすぐにこちらに向かってくるのを感じた。

「遅かったな、レオン」

 天幕の入口の布が引き上げられると同時にリュセルはそう言った。

「少し話が長引いたのでね。食事はきちんと済ませたかい?」

「ああ。そっちは?」

「私も済ませた」

 そんな事を言い合いながらも、リュセルはレオンハルトの脱いだコートを受け取り、皺にならないように天幕内に吊るされた紐にそれを掛ける。

 まるで仕事から帰った夫を世話する妻のようだ。

「私はまだ目を通さなくてはならない資料があるから、先に休みなさい」

「……わかった」

 そう普通に返事を返したのだが。

 用意された寝台代わりの敷き布の上に上がり、靴を脱いで横になろうとした時、レオンハルトも敷き布の上に上がり込んできた。

「レオン?」

 一応敷き布は二人分用意されていたが、寝る時は当然一緒だとは思っていた。しかし、確か、兄はまだ寝ないのではなかったか?

「どうした? 様子がおかしいな」

「っ……」

 いつもの抑揚のない声で静かに告げられた言葉を聞き、リュセルはわずかに息を呑む。そんなわずかなものにさえ、レオンハルトはすぐに異変を察知したようだった。
 この嫌な気持ちを全部吐き出してしまえば、どうなるのだろうか。兄はなんて答えるのだろう。

 何か自分に言いたそうなのにそれを口にしない弟をじっと見つめ、レオンハルトは内心困惑しつつもその頬を撫でた。

「ほら、もう寝なさい。ずっと傍にいるから」

「……ああ」

 促されて横になりながら、リュセルは自分の横に腰を落ち着け、片膝を立て、仄かな燭台の明かりを頼りに手に持った資料を読み始めたレオンハルトを何となく見つめる。
 燭台の炎の光に照らされて、金の色にも見える琥珀の瞳を彩る長い胡桃色の睫が瞬きのたびに揺れていた。
 
 繊細で艶めいたその美貌に、昔の名残はあるのだろうか?

「眠れないのか?」

 つらつらとそんな事を考えていたら、不意にそう声をかけられる。

「いや」

 やせ我慢のようにそう呟くと、レオンハルトの視線がこちらに向けられ、宥めるように頭を撫でられた。

「…………」

 子供扱いするなと、いつもならそう即座に返すのだが、今のリュセルはその長い指の優しい動きに目を細めるだけだ。
 このまま自分に触れてくる指先から兄の心の内を覗いてしまいたい。怖くて出来ないけれど。

 その、今まで感じた事のないような焼け付くような激しい感情は、絶対にレオンハルトに感じ取らせてはならないとリュセルは思っていた。きっと困らせてしまうだろう。

「本当にどうしたんだ?」

 黙ったまま、眠るでもなく、おとなしく頭を撫でられているリュセルの様子を本格的にいぶかしく思ったレオンハルトは、とうとう手に持っていた資料を脇に除けてしまう。

 まったく、どこまでも弟に……、というより、リュセルに甘い男である。

「………………兄さん」

「……? なんだい?」

 呼ばれ慣れぬ呼び方で呼ばれ、一瞬レオンハルトは驚くが、すぐにそれを悟らせぬように柔らかい声音で答える。

「…………いや、なんでもない」

 何か言いたそうな顔をするが、すぐにそれを思い直したのか、弟は首をゆるく横に振った。

「わかった。言いたくなったら、言いなさい」

 何を気にしているのだかはわからないが、今はリュセルからそれを聞きだすのは困難だろう。体を使って問いただせば、快楽に弱い弟の事だ。すぐにわかるだろうが。
 現在旅の最中でもあるし(しかも初日だ)、それに、どことなく思いつめたような雰囲気のあるリュセルにそれをしたら可哀想だ。

「おとなしいお前というのも、新鮮だがね」

 レオンハルトはクスクスと笑いながら燭台の火を消すと、資料に目を通すのを諦めてそのまま横になった。

「ほら、おいでリュセル」

 そのまま招き寄せられて、戸惑うように身を寄せたリュセルの体を兄の腕は当然のように抱きしめてくる。

「レオン」

 答えるように自分の背に回された弟の腕を嬉しく思いながらも、やはりその様子のおかしさにレオンハルトは内心首を傾げる。

 しかし、まあ、それはそれでもいいかもしれない。何を悩んでいるのかは知らないが、自分に縋りついて来る弟は可愛い。さして自分と身長の変わらぬ十七歳の男に、可愛いというのも変かもしれないが……。

「困ったね。まだ、旅の初日なのだが……」

 ため息のように紡がれたその言葉と共に、背を抱いていた兄の腕がゆっくりと下りていく。

「ぁッ」

 着ていた衣服の隙間をぬって入り込んだ指に腰を撫でられて、リュセルはビクッと体を震わせた。

「お前が可愛いのが悪い」

 可愛い? 誰が……?

 咄嗟にリュセルがそう考えた瞬間、両足を大きく開かせられる。

「レオン!?」

 さすがに、それまでおとなしかったリュセルが慌てて兄の名を呼ぶと、レオンハルトは弟の下衣を器用に脱がせながら優しくささやいたのだった。

「大丈夫だ、お前はただ寝ているだけでいい。今までのようにおとなしくしておいで……」

「あうっ」

 そうして、美麗な顔を自分の脚の間に伏せてきたレオンハルトを止める間もなく、リュセルはその強烈な感覚に翻弄される事になる。
 咄嗟に掴んだ胡桃色の髪が、サラサラと手の平からこぼれ落ちた。

「ふ、ん……ッん、んん…………ッ」

 下肢から響く、卑猥な水音。

 ゆったりと、反応を楽しむかの如く焦らすようにされる濃厚な口淫と、このような場所でそれをされている事に対する羞恥に啼かされ、達った後の気だるさから、最後にはそのまま眠ってしまったリュセルは、眠る前に額に触れてきた兄の手に安心したのだった。

 もしかしたらレオンハルトは、自分を寝かしつける為にこの行為に及んだのかもしれないと、リュセルは意識が沈む間際に思った。
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