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第十章 盲目の神官
5-1 旅の最中の温泉地
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その後の旅も、昼間、男娼達と一緒になる馬車内で、シャノンの兄を見る熱っぽい視線が気になって、リュセルは内心気が気じゃなかった。
それ故に、必然的に二人きりになる就寝時になると、その不安感を表にだしてしまい、レオンハルトと一緒にいてもなかなか寝付かれなかったのだが、あまりにも眠らないと、旅の初日同様、兄の手や唇によって己が欲望を引き出され、その手管に溺れさせられ、達かされたあげくに疲労して眠りにつく……という事になるので、リュセルは眠れなくても眠ったふりをしていた。
そして、そんな複雑な状態のまま旅も中盤を過ぎた頃、初日にシャノンが説明していた天然の温泉のある場所に到着した。街道より若干外れた場所に位置する小さな森の中にそれはあった。
開けた場所に馬車を止めて、そこを野営地にすると、行商に随行してきていたデコレート商会の従業員や護衛人達は、温泉につかり旅の疲れをとる為、代わる代わる森の奥に入って行く。
湯治場として有名な場所なので、デコレート商会の人間以外の旅人の姿もちらほらと見られた。
「あ~、いいお湯だった~」
「そうですねぇ」
ほかほかと体から湯気をたてたユージンとセフィが森の奥から戻ってきたのを迎えたリュセルは、フルーツ牛乳片手においしそうに一気飲みしている二人を恨めしそうに見た。
「なんで俺は駄目なんだ!?」
本日何度目になるかもわからない台詞を再び繰り返したリュセルに対し、ユージンは言った。
「リュセル王子が俺達と同じ温泉に入れる訳ないでしょ~が」
「だから、何故だ? 俺もお前達と同じ男だぞ! 共に裸のつき合いをしようじゃないか!」
ヘイ、カモ~ンっ! とでもいうように両手を広げたリュセルを見つめ、ユージンはさすがに呆れた。
「あなた王族でしょうが……。普通、王族は他人に肌をさらさないものなんですよ。殿下にも言われたでしょう?」
「ああ」
不満そうに頷くリュセルに、今度はセフィが優しく言った。
「レオンハルト殿下は、何も入ってはいけないとはおっしゃっていなかったじゃないですか。夜になって温泉に入る者もいなくなり、ご自分の手が空いたら、シャノン殿に教わった小さな泉に一緒に入りましょう。との事でしたよね?」
「そうだが……」
神官特有の柔らかい口調で言われると、何も言えなくなる。
「少しの間、我慢しましょうね」
「はい」
師匠と仰いだ人ににっこり微笑まれて、リュセルは素直に頷く。レオンハルトと違う意味で、目の前にいる盲目の神官は変な迫力があり、逆らえない雰囲気なのだ。
「ところで殿下は? またアイリーンと例の吸血村の状況について話しているんですかね」
リュセルがとりあえず納得してくれたのを察し、ほっとしながらユージンは姿の見えない主と同僚の事を尋ねる。
「吸血村ではなく、スペル村だろう? さっきアイリーンがアイル村から届いたという手紙を持って天幕にきたからな。それについて話し合ってるんだろう」
「村から手紙が届いたのですか?」
驚きに目を見張るユージンに向かい、リュセルは頷いた。
「俺達が王都を出たという知らせがいったんだろう。村の現在の状況を伝えてきたようだ。被害はアイル村の方にも出始めているらしい。急がないといけないな」
「そうですね……。温泉に浸かっている場合じゃないですね」
自分はもう入ったからってそんな事を言うユージンを鋭く睨みつけると、リュセルは言葉を返した。
「それとこれとは、話は別だっ!」
それに、どの道今夜はここで野営だ。
村に急いだ方がいいのはわかっているが、正体不明の邪気が相手な以上、隠れ蓑となるデコレート商会の商団には、いつもと同じ日程で同じ旅をしてもらわなければならない。
いつも使用しているこの温泉を使用しないで通過したら不審に思う者もいるだろうし、邪気に感づかれるかもしれないのだ。それだけは避けなくては。
「はあ……。夜までお預けか」
視線の先にあるであろう奥の温泉から立ち昇って見える湯気をリュセルは見つめながら、小さくため息をついた。
「殿下、遅いですねぇ……」
その日の夕食も食べ終えて、最近日課のようになっていた男三人の談話の時間だったのだが、いつもだったら尊敬する心の師、セフィのありがたい話を一言一句聞き逃すまいと熱心に耳を傾けているリュセルの機嫌が現在進行形で悪い為、微妙な空気が流れている。
ユージンは、早くこの傍迷惑な弟王子を温泉に連れて行ってくれないかと、自分の主人たるレオンハルトを待ち望んでいた。
「もう、待てん。俺は行くぞ……」
「へっ!? ちょちょちょちょっと、待って下さいよ~~~っ!」
おもむろに腰かけていた椅子代わりの荷からスクッと立ち上がったリュセルは、温泉に行く気満々である。そんな彼を全力で引きとめながらユージンは慌てる。
「俺だって……、俺だってな…………、温泉に浸かってまったりしたいんだ! 癒されたいんだ!」
(そんなに温泉に入りたいのかい)
ユージンは顔を引きつらせながら、半ば意地になっているリュセルを後ろからはがい締めにして押さえ込んだ。
「もう少しだけ。もう少しだけ、待ちましょうね~」
宥めるようにそう言った時、聞き慣れた同僚の女性の声が響き渡った。
「何してるんですか、リュセル王子? それにユージン、お前も」
凛とした容貌の女騎士、アイリーンは、食事を終えた後なのか、使用済みの器を持って、リュセルとユージンのおかしなやりとりを見て首を傾げていた。
「アイリーン、殿下は一緒じゃなかったのか?」
もう、この温泉にとりつかれた様子の弟王子を止める事が不可能だと思っていた時に現れた救いの主に、ユージンは間髪入れずに尋ねる。
「さっきまで天幕の中で話をしていたが……。話が終わった時、ちょうど、あの、薄い金髪の、例のフェアリーの青年が話があるって訪ねてきたから、御前を下がらせてもらったんだ」
「金髪のフェアリーって、シャノンか? 殿下に何の用なんだろう」
「さあ? 私はすぐ天幕を出てしまったからな」
そんな事を話していたからか、ユージンのリュセルを拘束する腕の力が緩んだ。それを見逃さず、リュセルは素早い動きでユージンから逃れると走り出した。
「げっ! 駄目です、リュセル王子~~~っ」
慌てたようにユージンと、その後ろからアイリーンとセフィが追いかけてくるが、リュセルの目的は、もはや温泉ではなくなっていた。
目指すのは、自分達に用意された天幕だ。
そう。兄とシャノンがいるはずの……。
それ故に、必然的に二人きりになる就寝時になると、その不安感を表にだしてしまい、レオンハルトと一緒にいてもなかなか寝付かれなかったのだが、あまりにも眠らないと、旅の初日同様、兄の手や唇によって己が欲望を引き出され、その手管に溺れさせられ、達かされたあげくに疲労して眠りにつく……という事になるので、リュセルは眠れなくても眠ったふりをしていた。
そして、そんな複雑な状態のまま旅も中盤を過ぎた頃、初日にシャノンが説明していた天然の温泉のある場所に到着した。街道より若干外れた場所に位置する小さな森の中にそれはあった。
開けた場所に馬車を止めて、そこを野営地にすると、行商に随行してきていたデコレート商会の従業員や護衛人達は、温泉につかり旅の疲れをとる為、代わる代わる森の奥に入って行く。
湯治場として有名な場所なので、デコレート商会の人間以外の旅人の姿もちらほらと見られた。
「あ~、いいお湯だった~」
「そうですねぇ」
ほかほかと体から湯気をたてたユージンとセフィが森の奥から戻ってきたのを迎えたリュセルは、フルーツ牛乳片手においしそうに一気飲みしている二人を恨めしそうに見た。
「なんで俺は駄目なんだ!?」
本日何度目になるかもわからない台詞を再び繰り返したリュセルに対し、ユージンは言った。
「リュセル王子が俺達と同じ温泉に入れる訳ないでしょ~が」
「だから、何故だ? 俺もお前達と同じ男だぞ! 共に裸のつき合いをしようじゃないか!」
ヘイ、カモ~ンっ! とでもいうように両手を広げたリュセルを見つめ、ユージンはさすがに呆れた。
「あなた王族でしょうが……。普通、王族は他人に肌をさらさないものなんですよ。殿下にも言われたでしょう?」
「ああ」
不満そうに頷くリュセルに、今度はセフィが優しく言った。
「レオンハルト殿下は、何も入ってはいけないとはおっしゃっていなかったじゃないですか。夜になって温泉に入る者もいなくなり、ご自分の手が空いたら、シャノン殿に教わった小さな泉に一緒に入りましょう。との事でしたよね?」
「そうだが……」
神官特有の柔らかい口調で言われると、何も言えなくなる。
「少しの間、我慢しましょうね」
「はい」
師匠と仰いだ人ににっこり微笑まれて、リュセルは素直に頷く。レオンハルトと違う意味で、目の前にいる盲目の神官は変な迫力があり、逆らえない雰囲気なのだ。
「ところで殿下は? またアイリーンと例の吸血村の状況について話しているんですかね」
リュセルがとりあえず納得してくれたのを察し、ほっとしながらユージンは姿の見えない主と同僚の事を尋ねる。
「吸血村ではなく、スペル村だろう? さっきアイリーンがアイル村から届いたという手紙を持って天幕にきたからな。それについて話し合ってるんだろう」
「村から手紙が届いたのですか?」
驚きに目を見張るユージンに向かい、リュセルは頷いた。
「俺達が王都を出たという知らせがいったんだろう。村の現在の状況を伝えてきたようだ。被害はアイル村の方にも出始めているらしい。急がないといけないな」
「そうですね……。温泉に浸かっている場合じゃないですね」
自分はもう入ったからってそんな事を言うユージンを鋭く睨みつけると、リュセルは言葉を返した。
「それとこれとは、話は別だっ!」
それに、どの道今夜はここで野営だ。
村に急いだ方がいいのはわかっているが、正体不明の邪気が相手な以上、隠れ蓑となるデコレート商会の商団には、いつもと同じ日程で同じ旅をしてもらわなければならない。
いつも使用しているこの温泉を使用しないで通過したら不審に思う者もいるだろうし、邪気に感づかれるかもしれないのだ。それだけは避けなくては。
「はあ……。夜までお預けか」
視線の先にあるであろう奥の温泉から立ち昇って見える湯気をリュセルは見つめながら、小さくため息をついた。
「殿下、遅いですねぇ……」
その日の夕食も食べ終えて、最近日課のようになっていた男三人の談話の時間だったのだが、いつもだったら尊敬する心の師、セフィのありがたい話を一言一句聞き逃すまいと熱心に耳を傾けているリュセルの機嫌が現在進行形で悪い為、微妙な空気が流れている。
ユージンは、早くこの傍迷惑な弟王子を温泉に連れて行ってくれないかと、自分の主人たるレオンハルトを待ち望んでいた。
「もう、待てん。俺は行くぞ……」
「へっ!? ちょちょちょちょっと、待って下さいよ~~~っ!」
おもむろに腰かけていた椅子代わりの荷からスクッと立ち上がったリュセルは、温泉に行く気満々である。そんな彼を全力で引きとめながらユージンは慌てる。
「俺だって……、俺だってな…………、温泉に浸かってまったりしたいんだ! 癒されたいんだ!」
(そんなに温泉に入りたいのかい)
ユージンは顔を引きつらせながら、半ば意地になっているリュセルを後ろからはがい締めにして押さえ込んだ。
「もう少しだけ。もう少しだけ、待ちましょうね~」
宥めるようにそう言った時、聞き慣れた同僚の女性の声が響き渡った。
「何してるんですか、リュセル王子? それにユージン、お前も」
凛とした容貌の女騎士、アイリーンは、食事を終えた後なのか、使用済みの器を持って、リュセルとユージンのおかしなやりとりを見て首を傾げていた。
「アイリーン、殿下は一緒じゃなかったのか?」
もう、この温泉にとりつかれた様子の弟王子を止める事が不可能だと思っていた時に現れた救いの主に、ユージンは間髪入れずに尋ねる。
「さっきまで天幕の中で話をしていたが……。話が終わった時、ちょうど、あの、薄い金髪の、例のフェアリーの青年が話があるって訪ねてきたから、御前を下がらせてもらったんだ」
「金髪のフェアリーって、シャノンか? 殿下に何の用なんだろう」
「さあ? 私はすぐ天幕を出てしまったからな」
そんな事を話していたからか、ユージンのリュセルを拘束する腕の力が緩んだ。それを見逃さず、リュセルは素早い動きでユージンから逃れると走り出した。
「げっ! 駄目です、リュセル王子~~~っ」
慌てたようにユージンと、その後ろからアイリーンとセフィが追いかけてくるが、リュセルの目的は、もはや温泉ではなくなっていた。
目指すのは、自分達に用意された天幕だ。
そう。兄とシャノンがいるはずの……。
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