【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

文字の大きさ
169 / 424
第十章 盲目の神官

5-3 リュセルの浮気(?)

しおりを挟む
 リュセルから咄嗟に手を離したユージンは、そう叫んで、同じように天幕を後にする。

「リュ、リュセル王子?」

 そして、恐る恐るリュセルの顔を横からユージンが覗き見ると、先程自分の兄と男娼の逢瀬を見てしまった弟王子は、まったくの無表情のまま、自分達に追いついてきたアイリーンとセフィが駆け寄ってくるのを見つめていた。

「リュセル王子!」

「やっと、追いつきました~。」

 目の見えないセフィを連れてでは早く走る事も出来ず、若干遅れて追いついたアイリーンは、微妙な雰囲気の二人に眉をしかめる。

「どうしたのですか?」

「ふっ」

「「「ふっ?」」」

 不意に漏れ出た声を聞き、集まった三人は同時に首を傾げる。

「ふふふふふふふふっ」

 不気味な笑い声を聞いた三人が共に顔を引きつらせるのと、レオンハルトが天幕から出てくるのは同時だった。

「どうしたんだ?」

 先程の事をなかったものとしてそう尋ねてくる(何も疾しい事はないのだから当然だ)、この半身が憎らしい。

「ははっ、レオン。そっちがその気なら、こっちにも考えがあるぞ?」

 キラッとその白い歯を光らせて胡散臭い程さわやかに笑ったリュセルは、怪訝そうなレオンハルトの目の前で、状況がわからず困ったような顔をしているセフィの腕を掴んだ。

「は?」

 セフィがまぬけな返事を返すと、リュセルは背後のレオンハルトを振りかえり宣言した。

「俺も浮気してやる」

「「「ええええええええ~~~~~!?」」」

 瞬間、同時に上がった、セフィ、ユージン、アイリーンの叫び声は、見事に揃っていた。


「うわあああああああっ!!」

 そして、セフィの悲痛な叫びを残し、その腕を掴んだまま走り去った弟を見送ったレオンハルトは呟いた。

「一体あの子はどうしたんだい?」

 どうしたんだって、あんた……。すべてを見ていたユージンは、そんなのん気な事を言っている主を責めた。

「ひどいですよ。リュセル王子に関してあんなに心が狭いのに、ご自分は……」

「何の事だ?」

「何の事って……」

 平然と問い返すレオンハルトにユージンは首を傾げる。

「リュセルの様子が最近おかしかった事と関係があるのか?」

(え? まさか、早とちり?)

 まさかも何も、その通りだ。

 とりあえずユージンは、自分の目から見た最近のリュセルの様子と、先程の光景を第三者が見たらどう思うかの説明にかかる事にする。

 まったく、世話のかかる兄弟だと思いながら。







 ズダダダダダダダダッ


 レオンハルトの浮気現場を目撃した(と思い込んでいる)リュセルは、セフィを引っ張ったまま温泉の湧き出でる森の奥へと足を踏み入れると、そのまま大きな泉を通り過ぎ(セフィやユージンが昼間入った泉だ)、更に奥の小さな泉の前で立ち止まった。

 もうもうと湧き出でる湯気に覆われた泉を横目に、あんなにもそれに入りたがっていたくせに、リュセルはそれを一瞥するだけで、泉の傍の草むらにセフィを押し倒した。

「お、お、お、お止め下さい~~~~っ! 私は聖職者です!」

 魔王に捧げられた乙女のような風情で押し倒されたセフィは、両手を胸の前で祈りの形に組む。しかし、暴走気味のリュセルに、その言葉は通じなかった。

「ふっ、では初めてだという事か。大丈夫だ、優しくしてやる」

 本気ですか!?

 嫉妬のあまり目が完全にイってしまっているリュセルに対し、セフィは恐怖に震えた。見えないが、その雰囲気で分かる。

 見た目が良すぎる為、その表情は壮絶過ぎた。それをセフィが見る事が叶わぬ事は、ある意味幸せだったであろう。

 だが、その様は完全に八つ当たりだ。

 そのまま怯えている様子の子羊……、セフィに対し、リュセルは安心させるように柔らかい声で告げた。

「そんなに怖がるな。大丈夫だよ」

「リュセル王子……」

 よかった、冗談だったんですね! と安堵のあまりセフィは滂沱の涙を流しそうになるが、現在、激しい怒りと裏切られたという悲しみの中にいるリュセルは、それを裏切る言葉を口にした。

「こちら(抱く)側になるのは初めてだが、俺の腕(?)はレオン直伝だからな。下手ではないはずだ、安心しろ」

 全っ然、大丈夫じゃないいいいいいいっ!

「い、嫌です~~~~~!」

 森の奥に、セフィの悲しい悲鳴が響き渡った。

「なんだ? この服、どうやって脱がすんだ?」

 神官服に手を伸ばしたリュセルの腕を掴むと、セフィは叫んだ。

「恐れながら……、それ以上、その尊いお手を汚すおつもりでしたら、私は……、私は、自害します!」

(自害って……)

 自分の貞操よりもリュセルの心配をしたセフィの神官魂に感服すると同時に、リュセルは覆いかぶさっていた体から身を離した。

「はあ……、もういい」

 セフィはその投げやりな様子に眉をしかめると、乱れた自分の神官服を慌てて正しながら、草の上で片足を投げ出して遠くを見ているリュセルに話しかけた。

「あの、剣鍵様……」

 すべてを見ていたユージンと違い、何も知らないセフィは、はっきり言って意味が分からない。いきなり連れ去られ、襲われかけたのだ。

「くそ、もうあんな奴知るか! 俺はこの温泉に入るぞ!」

「ほえっ!?」

 あんな浮気者(誤解)の言いつけなど守っていられるかと、リュセルは自分の着ていた衣服に手をかける。

「うわっ、剣鍵様、落ち着いて下さいぃぃぃぃっ」

 見えないが、その衣ずれの音から、リュセルが衣服をかなり大胆に脱いでいる事を察したセフィは、青かった顔色を今度は真っ赤にして叫んだ。

 実際、迷いの一切ない動きで衣服を脱ぐと、リュセルは産まれたままの姿になり、目の前の泉へと荒々しい勢いで飛びこんだ。

「剣鍵様……」

 セフィは奔放過ぎるリュセルの行動に情けない声を上げながらも、彼が脱ぎ散らかした衣服を拾い集める。

「ふぅ~~~~、いい湯だ」

 少し温めだが、なかなかちょうどいい。月の明かりのおかげでなかなか神秘的だし、こんなに気分が悪くなければ、最高だっただろう。

「セフィ殿は、もう戻っていいぞ。俺はしばらく温泉を堪能してから戻る」

「そ、そんな事、出来るはずないじゃないですか~~~!」

 きちんとリュセルの衣服を畳んだセフィは、慌ててそう言い返す。こんな無防備な王子様を一人、裸で置いてなどいけるはずがない。

「私は、ここで見張っています」

 目は見えないが、気配で人が来る事位分かる。

「何からだ?」

(この方は…………)

 セフィはリュセルののん気過ぎる質問に対し、目まいを覚えた。

「もう、いいから早く温泉を堪能して出て下さいよ」

 女神の息子に対する敬いの言葉を失くし、素でそう返したセフィに気づいたリュセルは笑った。

「わかった、わかった」

 そして、目を細めると、木々の間から覗く頭上のはるか上にある月を見上げた。もしかしてと、憂いていた事が現実になってしまったようだ。
 先程の、兄とシャノンの姿を思い出して、リュセルは胸の奥を焦がすような凶暴な想いを静める為、お湯の中に顔を静めた。

 ぶくぶくぶくぶく

「っ」

 そのまま無心になる為に、リュセルはバシャバシャと音をたてて泳ぎ始めたのだった。

「ふう」

 そうしてしばらく泳いで落ち付いた後、リュセルは温水に顎まで浸かってため息をつく。なんだか疲れた。お湯加減もちょうどいいし、眠くなってきたのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。

天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】 さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。 英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。 この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。 「さあ気に入ったsubを娶れ」 「パートナーはいいぞ」 とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。 待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。 平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

処理中です...