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第十章 盲目の神官
6-1* 揺らぐ精神
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うとうととまどろみ始めた頃、何かが頬に触れた。
水面に顔を沈めぬ為、泉の淵の固い岩の上に後頭部を乗せていたのだが、暖かい何者かの指が頬を辿るのを感じる。
「ん……」
小さく声を上げると驚いたのか、一瞬その指は離れたが、しばし逡巡した後、再び手を伸ばしてくる気配を感じた。
それは、間違う事なき闇の気配。
懐かしささえ感じる、純粋なるその指が無防備にさらされた唇にかすかに触れたと同時に、咄嗟にリュセルはそれから無意識に逃れ、泉の中へと落ちた。
バシャンッ
ー触れてはならぬー
ジュリナによく似た声が脳裏に響く。
そのままだったら、温泉で溺れるという愚行を犯すところだったリュセルの頭を力強い腕が泉から救い上げた。
「げほっ」
むせ返り、激しく咳きこんだリュセルは、沈み込んでいた意識が段々とはっきりしてくるのを感じていた。
「何をやっているんだ、お前は」
瞬間聞こえた、呆れたような低い声に目を見開く。
闇の気配の影響から朦朧としていた意識が、その声の持つ力だけで一瞬で覚醒する。
それだけの威力を持つ存在感。
己が半身の気配を感じ、リュセルは顔を上げて、泉の淵に片膝をついているレオンハルトの月光に照らされた麗しい美貌を無言で見上げたのだった。
「レオン」
「あんなに一人で入るのではないと言っておいたのに、仕方のない子だね。その上、居眠りをして溺れかけるなど……」
厳しい目をして自分を咎めるレオンハルトに対し、リュセルは何故一人で温泉に浸かっていたのか、その訳を思い出して唇を噛みしめた。
「一人じゃない、セフィ殿もいる。……ん? セフィ殿はどこに行ったんだ?」
温泉の傍で、誰も来ないように周りを警戒していた神官の姿がなかった。
「私と入れ違いに戻らせたよ」
「……そうか」
顔をそむけてそう答えたリュセルを見つめた後、レオンハルトは尋ねた。
「それで、彼と浮気をしたのかい?」
「っ!」
はじかれたように兄の顔に目を向けると、レオンハルトはただ面白そうに笑っているだけだった。その表情から、弟の先程の宣言が口だけだったという事を確信しているかのような余裕ぶりだ。
「…………もう出る」
言い返すのも癪に障るので、リュセルは浸かっていた泉から、入った時と同様、唐突に出た。
そして、傍に置いてあったセフィが畳んでおいてくれた衣服に腕を伸ばそうとした時、レオンハルトがそれを制止する。
「待ちなさい。そのまま着ては、衣服が濡れてしまうだろう?」
そう言うと、用意してきた大きな布を広げ、抗いがたい声音で誘った。
「おいで」
「…………」
逡巡した後、リュセルは兄の言う事も尤もだと思い、広げられた両腕の中へと誘われるがまま近づく。
レオンハルトが、傍に来た弟の裸の肩に広げていた体を拭く為の布をかけてやると、大きなそれは、リュセルの踝まで広がる。
濡れた自分の銀の髪を肩にかけたそれで当然のように拭うレオンハルトの顔を見ながら、リュセルは内心の苛立ちを隠して、伸ばされていたその慕わしい腕を無造作に押し返した。
「もういいだろう?」
そう言うと身を翻して、背後にある衣服を拾おうと兄から離れる。
「すぐ戻るから、先に行っててくれ」
しばらく一人にして欲しい。
しかし、そんな思いも虚しくなる程、兄の方が一枚も二枚も上手だった。
離れかけたその腕をレオンハルトは素早い動きで掴み、自分の方に引き寄せる。
「!?」
突然の事に驚きに目を見開く弟の銀の色を覗き込むと、レオンハルトは感情のあまり表れぬ淡々とした声で尋ねた。
「私に何か聞きたい事があるのではないか?」
瞬間、見開かれた瞳が動揺したように揺れる。
「…………な、何もない」
自分を見つめる琥珀の瞳から逃れるように顔を逸らすと、リュセルは嘘をつく。
大体の事情について、ユージンから聞いて知っていたレオンハルトは、リュセルの嘘をたやすく見破った。
今回の旅の初日の夜あたりから様子がおかしいとは思っていたが、まさかやきもちを妬いていてくれたとは……。
「本当に、何もないのかい?」
「…………」
わざと念押しするように尋ねると、リュセルは迷うような色を瞳に浮かべる。
「黙っていてはわからないよ」
わかっているくせにそんな事をわざと言うレオンハルトは、弟の可愛い嫉妬心を嬉しく思っていたのだ。
「俺は……」
「ん?」
ようやく紡がれた言葉は掠れてしまっていた。しかし、それを優しく聞き返したレオンハルトの顔を見ると、リュセルはやはり何も言えなくなってしまう。はがゆくて悔しくて、子供っぽいと思われようと、感情を抑える事が出来ずに顔を歪ませる。
そして、それをぶつけるように、自分の腕を掴んだ目の前の兄の体に抱きつくと、その薄い唇に噛みつくように口づけた。
リュセルの突然の行動にも驚く事もなく、レオンハルトは弟の背に両腕を回し、求めに応じてその若い体から力が抜けるまで強く舌を吸いあげる。
一瞬で主導権を兄に奪われたリュセルは、体の奥を探るようなやり方に自分の体の熱が上がるのを感じた。
せつない程に目の前の男が愛おしい。
「どうして」
「……?」
荒い息をついて唇を離したリュセルは、瞳の縁に薄い涙を浮かべたまま呟いた。
「どうして、分かたれて産まれてしまったんだろう」
同じ肉体で産まれていれば、こんな思いをせずに済んだだろうに。創世の女神は何を思って、己が子を、主と鍵に分ける事にしたのか。
自分の体を捨てて、兄と同化したまま生きられたら……。
そんな事を考えてしまう程、リュセルはレオンハルトとシャノンの関係を勘違いして追い詰められていた。
「馬鹿な事を」
その考えがわかっているのか、レオンハルトはそう呟くと弟の体を強く抱き締める。
窒息する程に強い力で抱かれながら、リュセルはそれに負けない程強い力で兄の背に両腕を回し抱き返す。
誰にも渡さぬと、激しい想いに翻弄されながら再び唇を求めると、レオンハルトはそれに答えて顔を寄せてきた。
空に浮かぶ満月の影響か、初めて感じた激しい嫉妬の影響か、その時のリュセルの精神はひどく揺らいでいる状態だった。
それ故に、その気配を感じても、ただぼんやりと、それのあるであろう方角に一瞬目を向けただけだ。
執拗な程に自分を見つめ、逸らされないそれが心地よくさえある。
草の褥に押し倒されながら、覆いかぶさってくる兄の体を自分から引き寄せ、リュセルの意識は徐々にそれから離れていく。
目の前の愛しい熱に夢中になってしまったのだ。
気配に敏い、レオンハルトさえ気づかぬその視線。恐ろしさと安らぎという、相反するものを秘めた純粋なる暗きもの。
それは、かすかな闇の気配だった……。
月。今宵は、見事なまでの満月だ。
木々の間から覗くその月の明かりのおかげで、周囲は火の明かりがなくとも容易に見渡す事が出来た。だが、いくらあまり人の来ない森の奥であろうと、誰も来ないとは限らない。
触れ合うべきではない。そう分かってはいながらも、互いに抑えがきかなかった。
旅の間、何度か一方的に寝かしつけられる為に高められて達かされはしたが、怪盗イチゴミルク騒動からしばらく、この任務の旅の準備など忙しかった影響もあり、その腕に抱かれる事はなかっただけに、久方ぶりの逢瀬はリュセルの若い体に火を灯した。
「ん……、ん、んー」
甘い、弱々しい喉音を漏らしながら、リュセルはレオンハルトに唇の挟間を執拗に舐め啜られる。柔らかな感触の舌に舌を捏ねられて、触れられてもいない自身がじくりと濡れるのを感じた。
そして、背に腕を回しあい、固い抱擁を交わしながら、掌で身体を撫で擦る行為に変わる。
「あ……、あ、レオンッ」
口内を弄り終えた後、レオンハルトが目の前の胸の突起に舌を這わせ、吸いついていると、リュセルが焦れたように腰を摺り寄せてきた。
「いいよ、そのまま腰を振ってごらん」
レオンハルトは衣服を着たままだった為、兄自身は布越しになる。でも、それでもわかる程の熱さと硬さを感じ、リュセルは興奮してしまう。我慢が効かぬまま、言われるがままに己が自身と布越しの兄自身を擦りつけ合う淫らな動きを繰り返す。
「……ぁ、あっ、んんっ……ぁんッ」
後腔がひどく疼いた。
自身に感じる兄の大きなものに体内を抉られたくて仕方ない。
「挿れられたいのか?」
レオンハルトが小さく笑いながら耳元でそうささやく。彼はわざと乱暴に弟の脚の挟間に手を差し入れると、繋がるべき場所へと軽く触れてやった。
リュセル自身から溢れた蜜は、その下肢をぐっしょりと濡らしていた。
「くく、まるで自分で濡れたように柔らかくなっているよ」
そう言いながら、レオンハルトはリュセルの背に両腕を回して、軽々とその体を引き上げた。
水面に顔を沈めぬ為、泉の淵の固い岩の上に後頭部を乗せていたのだが、暖かい何者かの指が頬を辿るのを感じる。
「ん……」
小さく声を上げると驚いたのか、一瞬その指は離れたが、しばし逡巡した後、再び手を伸ばしてくる気配を感じた。
それは、間違う事なき闇の気配。
懐かしささえ感じる、純粋なるその指が無防備にさらされた唇にかすかに触れたと同時に、咄嗟にリュセルはそれから無意識に逃れ、泉の中へと落ちた。
バシャンッ
ー触れてはならぬー
ジュリナによく似た声が脳裏に響く。
そのままだったら、温泉で溺れるという愚行を犯すところだったリュセルの頭を力強い腕が泉から救い上げた。
「げほっ」
むせ返り、激しく咳きこんだリュセルは、沈み込んでいた意識が段々とはっきりしてくるのを感じていた。
「何をやっているんだ、お前は」
瞬間聞こえた、呆れたような低い声に目を見開く。
闇の気配の影響から朦朧としていた意識が、その声の持つ力だけで一瞬で覚醒する。
それだけの威力を持つ存在感。
己が半身の気配を感じ、リュセルは顔を上げて、泉の淵に片膝をついているレオンハルトの月光に照らされた麗しい美貌を無言で見上げたのだった。
「レオン」
「あんなに一人で入るのではないと言っておいたのに、仕方のない子だね。その上、居眠りをして溺れかけるなど……」
厳しい目をして自分を咎めるレオンハルトに対し、リュセルは何故一人で温泉に浸かっていたのか、その訳を思い出して唇を噛みしめた。
「一人じゃない、セフィ殿もいる。……ん? セフィ殿はどこに行ったんだ?」
温泉の傍で、誰も来ないように周りを警戒していた神官の姿がなかった。
「私と入れ違いに戻らせたよ」
「……そうか」
顔をそむけてそう答えたリュセルを見つめた後、レオンハルトは尋ねた。
「それで、彼と浮気をしたのかい?」
「っ!」
はじかれたように兄の顔に目を向けると、レオンハルトはただ面白そうに笑っているだけだった。その表情から、弟の先程の宣言が口だけだったという事を確信しているかのような余裕ぶりだ。
「…………もう出る」
言い返すのも癪に障るので、リュセルは浸かっていた泉から、入った時と同様、唐突に出た。
そして、傍に置いてあったセフィが畳んでおいてくれた衣服に腕を伸ばそうとした時、レオンハルトがそれを制止する。
「待ちなさい。そのまま着ては、衣服が濡れてしまうだろう?」
そう言うと、用意してきた大きな布を広げ、抗いがたい声音で誘った。
「おいで」
「…………」
逡巡した後、リュセルは兄の言う事も尤もだと思い、広げられた両腕の中へと誘われるがまま近づく。
レオンハルトが、傍に来た弟の裸の肩に広げていた体を拭く為の布をかけてやると、大きなそれは、リュセルの踝まで広がる。
濡れた自分の銀の髪を肩にかけたそれで当然のように拭うレオンハルトの顔を見ながら、リュセルは内心の苛立ちを隠して、伸ばされていたその慕わしい腕を無造作に押し返した。
「もういいだろう?」
そう言うと身を翻して、背後にある衣服を拾おうと兄から離れる。
「すぐ戻るから、先に行っててくれ」
しばらく一人にして欲しい。
しかし、そんな思いも虚しくなる程、兄の方が一枚も二枚も上手だった。
離れかけたその腕をレオンハルトは素早い動きで掴み、自分の方に引き寄せる。
「!?」
突然の事に驚きに目を見開く弟の銀の色を覗き込むと、レオンハルトは感情のあまり表れぬ淡々とした声で尋ねた。
「私に何か聞きたい事があるのではないか?」
瞬間、見開かれた瞳が動揺したように揺れる。
「…………な、何もない」
自分を見つめる琥珀の瞳から逃れるように顔を逸らすと、リュセルは嘘をつく。
大体の事情について、ユージンから聞いて知っていたレオンハルトは、リュセルの嘘をたやすく見破った。
今回の旅の初日の夜あたりから様子がおかしいとは思っていたが、まさかやきもちを妬いていてくれたとは……。
「本当に、何もないのかい?」
「…………」
わざと念押しするように尋ねると、リュセルは迷うような色を瞳に浮かべる。
「黙っていてはわからないよ」
わかっているくせにそんな事をわざと言うレオンハルトは、弟の可愛い嫉妬心を嬉しく思っていたのだ。
「俺は……」
「ん?」
ようやく紡がれた言葉は掠れてしまっていた。しかし、それを優しく聞き返したレオンハルトの顔を見ると、リュセルはやはり何も言えなくなってしまう。はがゆくて悔しくて、子供っぽいと思われようと、感情を抑える事が出来ずに顔を歪ませる。
そして、それをぶつけるように、自分の腕を掴んだ目の前の兄の体に抱きつくと、その薄い唇に噛みつくように口づけた。
リュセルの突然の行動にも驚く事もなく、レオンハルトは弟の背に両腕を回し、求めに応じてその若い体から力が抜けるまで強く舌を吸いあげる。
一瞬で主導権を兄に奪われたリュセルは、体の奥を探るようなやり方に自分の体の熱が上がるのを感じた。
せつない程に目の前の男が愛おしい。
「どうして」
「……?」
荒い息をついて唇を離したリュセルは、瞳の縁に薄い涙を浮かべたまま呟いた。
「どうして、分かたれて産まれてしまったんだろう」
同じ肉体で産まれていれば、こんな思いをせずに済んだだろうに。創世の女神は何を思って、己が子を、主と鍵に分ける事にしたのか。
自分の体を捨てて、兄と同化したまま生きられたら……。
そんな事を考えてしまう程、リュセルはレオンハルトとシャノンの関係を勘違いして追い詰められていた。
「馬鹿な事を」
その考えがわかっているのか、レオンハルトはそう呟くと弟の体を強く抱き締める。
窒息する程に強い力で抱かれながら、リュセルはそれに負けない程強い力で兄の背に両腕を回し抱き返す。
誰にも渡さぬと、激しい想いに翻弄されながら再び唇を求めると、レオンハルトはそれに答えて顔を寄せてきた。
空に浮かぶ満月の影響か、初めて感じた激しい嫉妬の影響か、その時のリュセルの精神はひどく揺らいでいる状態だった。
それ故に、その気配を感じても、ただぼんやりと、それのあるであろう方角に一瞬目を向けただけだ。
執拗な程に自分を見つめ、逸らされないそれが心地よくさえある。
草の褥に押し倒されながら、覆いかぶさってくる兄の体を自分から引き寄せ、リュセルの意識は徐々にそれから離れていく。
目の前の愛しい熱に夢中になってしまったのだ。
気配に敏い、レオンハルトさえ気づかぬその視線。恐ろしさと安らぎという、相反するものを秘めた純粋なる暗きもの。
それは、かすかな闇の気配だった……。
月。今宵は、見事なまでの満月だ。
木々の間から覗くその月の明かりのおかげで、周囲は火の明かりがなくとも容易に見渡す事が出来た。だが、いくらあまり人の来ない森の奥であろうと、誰も来ないとは限らない。
触れ合うべきではない。そう分かってはいながらも、互いに抑えがきかなかった。
旅の間、何度か一方的に寝かしつけられる為に高められて達かされはしたが、怪盗イチゴミルク騒動からしばらく、この任務の旅の準備など忙しかった影響もあり、その腕に抱かれる事はなかっただけに、久方ぶりの逢瀬はリュセルの若い体に火を灯した。
「ん……、ん、んー」
甘い、弱々しい喉音を漏らしながら、リュセルはレオンハルトに唇の挟間を執拗に舐め啜られる。柔らかな感触の舌に舌を捏ねられて、触れられてもいない自身がじくりと濡れるのを感じた。
そして、背に腕を回しあい、固い抱擁を交わしながら、掌で身体を撫で擦る行為に変わる。
「あ……、あ、レオンッ」
口内を弄り終えた後、レオンハルトが目の前の胸の突起に舌を這わせ、吸いついていると、リュセルが焦れたように腰を摺り寄せてきた。
「いいよ、そのまま腰を振ってごらん」
レオンハルトは衣服を着たままだった為、兄自身は布越しになる。でも、それでもわかる程の熱さと硬さを感じ、リュセルは興奮してしまう。我慢が効かぬまま、言われるがままに己が自身と布越しの兄自身を擦りつけ合う淫らな動きを繰り返す。
「……ぁ、あっ、んんっ……ぁんッ」
後腔がひどく疼いた。
自身に感じる兄の大きなものに体内を抉られたくて仕方ない。
「挿れられたいのか?」
レオンハルトが小さく笑いながら耳元でそうささやく。彼はわざと乱暴に弟の脚の挟間に手を差し入れると、繋がるべき場所へと軽く触れてやった。
リュセル自身から溢れた蜜は、その下肢をぐっしょりと濡らしていた。
「くく、まるで自分で濡れたように柔らかくなっているよ」
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