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第十章 盲目の神官
9-2 邪鬼ローゼン
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事実のみしか告げないレオンハルトの言葉に若者達は悔しげに唇を噛みしめるが、誰も何も反論しなかった。
「わかりました」
セフィがそう頷くのを見たレオンハルトは、リュセルに視線で頷いた。怯えている場合ではなくなってきたようだ。
「行くぞ」
その言葉に頷くと、リュセルはセフィを先導して牢獄を後にした。
「準備はいいね?」
レオンハルトも若者達に確認すると、遅れて牢獄を出る。
そうして、そのまま来た道を戻っていた時だった。
「リュセルっ!」
兄の叫び声が聞こえると同時に、何者かに体を突き飛ばされた。次の瞬間、天井が崩れ落ち、ゴゴゴゴッという音と共に土と石で通路が一瞬で塞がれてしまう。
「……っ」
衝撃が去った後、リュセルは自分の上に覆いかぶさった青年が心配そうに声をかけてくるのを聞いた。
「大丈夫ですか? 剣鍵様」
暗闇の中だが、その声でセフィが自分を庇ってくれた事をリュセルは悟った。松明はレオンハルトが持っていた為、こちら側に光が一切なくなってしまったのだ。
「ああ……、ッ」
返事を返そうとした時、左手がひどく痛んだ。右手で痛んだ箇所に触れてみると、ヌルっとした感触がする。
「どこかお怪我でも?」
「少し左手が痛む。石か何かで切ったようだ」
リュセルはそう言いながら起き上がると、土と石で一瞬で形成されてしまった壁越しに叫んだ。
「レオン!」
しばらく間があった後、声が響いた。
「リュセル、無事か?」
落ち付いたその声に、リュセルは安堵して答えた。
「大丈夫だ。お前は?」
「こちらも皆無事だが、これでは私達はそちらに行けないね」
リュセルとセフィ、レオンハルトと村の青年達といった具合に、雪崩れ落ちた天井の影響で二手に分かれてしまった事になる。
牢獄を出てすぐの通路での出来事だった為、レオンハルト側には牢獄しか後ろに残されていない。……が、確か。
レオンハルトは暗記した地下教会跡地の地図を頭の中に思い浮かべると、牢獄の奥が別の通路に通じていた事を思い出した。少し遠回りになるが、それは、祈りの間に通じているはずだ。
「いいか、お前達はそのまま進んで祈りの間に進みなさい。こちらもすぐにそこに向かう」
「わかった」
リュセルの返事に頷くと、わずかな間とはいえ、邪鬼の潜んでいるであろう場所で弟と離れる事に内心苛立ちながらも、レオンハルトは冷静な声で注意を促した。
「この落盤は、もしかすると例の邪鬼が仕組んだものかもしれない。どこにそれが潜んでいるかわからぬ今、油断するんじゃないよ」
「ああ、レオンも気をつけろよ」
そう言うと、リュセルは身を翻して、セフィがいるであろう方向に話しかけた。
「そういう訳だ、セフィ殿」
セフィはそれに頷くと、リュセルの手を取った。
「私が先導しましょう。松明がないのでしょう? 気配でわかります。周りが暗闇なら、私の方がそれに慣れています」
「わかった、頼む」
「はい」
兄と引き離されて一気に緊張の域に達していたリュセルは、柔らかで暖かなその声に少しの安らぎを覚える。そうしてそのまま、暗闇の中をセフィに手を引かれながらリュセルは進んで行ったのだった。
それからしばらくして……。
いくつかの曲がり角を曲がり、更に進んだ後に光が見えてくる。大きな広間があるようだ。おそらく、そこが祈りの間だろう。
いや、しかし、こんな廃墟と化した地下では、光がある事自体違和感がある。それに、この気配は……。
先導してくれていたセフィと入れ替わると、リュセルは警戒しながらその部屋に近づいた。
そろそろと扉を開けた瞬間広がった光景。それを見たリュセルは息を呑む。
そこは、地下にあるとは思えない程、壮麗なる広間だったのだ。この場所だけは、他の部屋のように汚れていなければ朽ちてもいない。
地下教会の元々の主だった神父達が毎日祈りを捧げていたであろう女神像が中央に飾られ、その周囲には七人の娘達が夢見心地のような表情で座っていた。
まるで巫女のような、白く薄い布地の衣装を身にまとった乙女達に気づくと、リュセルは彼女達に駆け寄ろうとする。
「僕の麗しの乙女達に近づくのはやめてもらえるかな?」
どこか弱弱しげな声と共に、ピアノの音色が広間に響き渡る。
リュセルが目を向けた先で、一人の青年が自分に酔いしれながらピアノを弾いていた。
(こいつが邪鬼か?)
しかし、この邪鬼。
「そこの乙女達は、美しき僕の花。その芳しき香りは僕を魅了し、その麗しき様に僕は酔いしれる」
紡がれた臭すぎる台詞に、リュセルはこの邪鬼が自分とキャラが被っている事に気づいた。
邪鬼がフサァっと長い自分の前髪を払ったその仕草は、洗練されつくした仕草で大変美しいのだろうが、リュセルはそれを見ても何とも思わない。
長い黒髪の、見目の良い青年。間違いないだろう。彼がこの騒ぎの首謀者だ。
「しかし、君、それ以上にこの女神像が美しいとは思わないか?」
君とは自分の事だろうか? とリュセルは考えながら、とりあえず返事をする。
「ああ、まあ」
「え? 何普通に返事してるんですか!?」
瞬間、セフィに怒られた。
「はは、君とは気が合いそうだ。そう……、僕は、こんなにも美しい女性を見た事がないよ。君達のお母様は、本当に綺麗な方、なんだあねぇ」
そう言うと、邪鬼は演奏を止めてゆっくりと目を開けた。
「僕の名はローゼン。女神の子供、君の名はなんて言うのかなぁ?」
「リュセルだ」
「だから、何普通に答えてるんですかっ!」
またセフィに怒られた。
「ふうん、リュセルか」
そう言いながらリュセルの方を見たローゼンの顔が一瞬で強張る。
(なんだ?)
リュセルが訝しく思った瞬間、ローゼンの顔は余裕めいた表情から憤怒の形相に変化した。
「どどど、どうしたんだ!?」
「どうしたもこうしたもありません! もう話しかけるのは止めて下さいよ!」
またまたセフィに怒られた。
そして、憤怒に端正な顔を歪ませたローゼンは大声で怒鳴ったのだった。
「僕は、僕より顔のいい男が、大っ嫌いなんだよっ!」
そ、そんな事、言われましても。
リュセルが顔を引きつらせている前で、ローゼンは怒りの表情のまま立ち上がる。
恐ろしい気配を放っている剣を持っていた女神の子供は、落盤を起こして遠ざける事に成功した。すべてはローゼフの……、もう一人の自分の指示通りだ。目的は目の前にいる剣を持たない神子を喰らう為に。
しかし、まさか、その女神の子供が、認めたくはないが自分より見目の良い青年だったとは……。許せない。
「この世で一番美しいのは、この僕、ローゼンだ!」
そう叫んだローゼンを呆然と見つめながら、リュセルは思った。
(な、なんだこいつ……。ナルシストか!?)
そんな呆然としているリュセルの前に一振りの剣が現れる。優美なデザインの美しい剣だ。
(?)
不思議に思っているリュセルに対し、ローゼンは言った。
「取れ。丸腰の者を相手にするのは美しくない」
そこまで自分の美学にこだわるローゼンにリュセルは敵ながらあっぱれだと思うしかない。
そして、とりあえず剣をとったリュセルを見てとると、ローゼンは優美な仕草で自分の剣を構えた。
「わかりました」
セフィがそう頷くのを見たレオンハルトは、リュセルに視線で頷いた。怯えている場合ではなくなってきたようだ。
「行くぞ」
その言葉に頷くと、リュセルはセフィを先導して牢獄を後にした。
「準備はいいね?」
レオンハルトも若者達に確認すると、遅れて牢獄を出る。
そうして、そのまま来た道を戻っていた時だった。
「リュセルっ!」
兄の叫び声が聞こえると同時に、何者かに体を突き飛ばされた。次の瞬間、天井が崩れ落ち、ゴゴゴゴッという音と共に土と石で通路が一瞬で塞がれてしまう。
「……っ」
衝撃が去った後、リュセルは自分の上に覆いかぶさった青年が心配そうに声をかけてくるのを聞いた。
「大丈夫ですか? 剣鍵様」
暗闇の中だが、その声でセフィが自分を庇ってくれた事をリュセルは悟った。松明はレオンハルトが持っていた為、こちら側に光が一切なくなってしまったのだ。
「ああ……、ッ」
返事を返そうとした時、左手がひどく痛んだ。右手で痛んだ箇所に触れてみると、ヌルっとした感触がする。
「どこかお怪我でも?」
「少し左手が痛む。石か何かで切ったようだ」
リュセルはそう言いながら起き上がると、土と石で一瞬で形成されてしまった壁越しに叫んだ。
「レオン!」
しばらく間があった後、声が響いた。
「リュセル、無事か?」
落ち付いたその声に、リュセルは安堵して答えた。
「大丈夫だ。お前は?」
「こちらも皆無事だが、これでは私達はそちらに行けないね」
リュセルとセフィ、レオンハルトと村の青年達といった具合に、雪崩れ落ちた天井の影響で二手に分かれてしまった事になる。
牢獄を出てすぐの通路での出来事だった為、レオンハルト側には牢獄しか後ろに残されていない。……が、確か。
レオンハルトは暗記した地下教会跡地の地図を頭の中に思い浮かべると、牢獄の奥が別の通路に通じていた事を思い出した。少し遠回りになるが、それは、祈りの間に通じているはずだ。
「いいか、お前達はそのまま進んで祈りの間に進みなさい。こちらもすぐにそこに向かう」
「わかった」
リュセルの返事に頷くと、わずかな間とはいえ、邪鬼の潜んでいるであろう場所で弟と離れる事に内心苛立ちながらも、レオンハルトは冷静な声で注意を促した。
「この落盤は、もしかすると例の邪鬼が仕組んだものかもしれない。どこにそれが潜んでいるかわからぬ今、油断するんじゃないよ」
「ああ、レオンも気をつけろよ」
そう言うと、リュセルは身を翻して、セフィがいるであろう方向に話しかけた。
「そういう訳だ、セフィ殿」
セフィはそれに頷くと、リュセルの手を取った。
「私が先導しましょう。松明がないのでしょう? 気配でわかります。周りが暗闇なら、私の方がそれに慣れています」
「わかった、頼む」
「はい」
兄と引き離されて一気に緊張の域に達していたリュセルは、柔らかで暖かなその声に少しの安らぎを覚える。そうしてそのまま、暗闇の中をセフィに手を引かれながらリュセルは進んで行ったのだった。
それからしばらくして……。
いくつかの曲がり角を曲がり、更に進んだ後に光が見えてくる。大きな広間があるようだ。おそらく、そこが祈りの間だろう。
いや、しかし、こんな廃墟と化した地下では、光がある事自体違和感がある。それに、この気配は……。
先導してくれていたセフィと入れ替わると、リュセルは警戒しながらその部屋に近づいた。
そろそろと扉を開けた瞬間広がった光景。それを見たリュセルは息を呑む。
そこは、地下にあるとは思えない程、壮麗なる広間だったのだ。この場所だけは、他の部屋のように汚れていなければ朽ちてもいない。
地下教会の元々の主だった神父達が毎日祈りを捧げていたであろう女神像が中央に飾られ、その周囲には七人の娘達が夢見心地のような表情で座っていた。
まるで巫女のような、白く薄い布地の衣装を身にまとった乙女達に気づくと、リュセルは彼女達に駆け寄ろうとする。
「僕の麗しの乙女達に近づくのはやめてもらえるかな?」
どこか弱弱しげな声と共に、ピアノの音色が広間に響き渡る。
リュセルが目を向けた先で、一人の青年が自分に酔いしれながらピアノを弾いていた。
(こいつが邪鬼か?)
しかし、この邪鬼。
「そこの乙女達は、美しき僕の花。その芳しき香りは僕を魅了し、その麗しき様に僕は酔いしれる」
紡がれた臭すぎる台詞に、リュセルはこの邪鬼が自分とキャラが被っている事に気づいた。
邪鬼がフサァっと長い自分の前髪を払ったその仕草は、洗練されつくした仕草で大変美しいのだろうが、リュセルはそれを見ても何とも思わない。
長い黒髪の、見目の良い青年。間違いないだろう。彼がこの騒ぎの首謀者だ。
「しかし、君、それ以上にこの女神像が美しいとは思わないか?」
君とは自分の事だろうか? とリュセルは考えながら、とりあえず返事をする。
「ああ、まあ」
「え? 何普通に返事してるんですか!?」
瞬間、セフィに怒られた。
「はは、君とは気が合いそうだ。そう……、僕は、こんなにも美しい女性を見た事がないよ。君達のお母様は、本当に綺麗な方、なんだあねぇ」
そう言うと、邪鬼は演奏を止めてゆっくりと目を開けた。
「僕の名はローゼン。女神の子供、君の名はなんて言うのかなぁ?」
「リュセルだ」
「だから、何普通に答えてるんですかっ!」
またセフィに怒られた。
「ふうん、リュセルか」
そう言いながらリュセルの方を見たローゼンの顔が一瞬で強張る。
(なんだ?)
リュセルが訝しく思った瞬間、ローゼンの顔は余裕めいた表情から憤怒の形相に変化した。
「どどど、どうしたんだ!?」
「どうしたもこうしたもありません! もう話しかけるのは止めて下さいよ!」
またまたセフィに怒られた。
そして、憤怒に端正な顔を歪ませたローゼンは大声で怒鳴ったのだった。
「僕は、僕より顔のいい男が、大っ嫌いなんだよっ!」
そ、そんな事、言われましても。
リュセルが顔を引きつらせている前で、ローゼンは怒りの表情のまま立ち上がる。
恐ろしい気配を放っている剣を持っていた女神の子供は、落盤を起こして遠ざける事に成功した。すべてはローゼフの……、もう一人の自分の指示通りだ。目的は目の前にいる剣を持たない神子を喰らう為に。
しかし、まさか、その女神の子供が、認めたくはないが自分より見目の良い青年だったとは……。許せない。
「この世で一番美しいのは、この僕、ローゼンだ!」
そう叫んだローゼンを呆然と見つめながら、リュセルは思った。
(な、なんだこいつ……。ナルシストか!?)
そんな呆然としているリュセルの前に一振りの剣が現れる。優美なデザインの美しい剣だ。
(?)
不思議に思っているリュセルに対し、ローゼンは言った。
「取れ。丸腰の者を相手にするのは美しくない」
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