【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

文字の大きさ
179 / 424
第十章 盲目の神官

9-2 邪鬼ローゼン

しおりを挟む
 事実のみしか告げないレオンハルトの言葉に若者達は悔しげに唇を噛みしめるが、誰も何も反論しなかった。

「わかりました」

 セフィがそう頷くのを見たレオンハルトは、リュセルに視線で頷いた。怯えている場合ではなくなってきたようだ。

「行くぞ」

 その言葉に頷くと、リュセルはセフィを先導して牢獄を後にした。

「準備はいいね?」

 レオンハルトも若者達に確認すると、遅れて牢獄を出る。

 そうして、そのまま来た道を戻っていた時だった。

「リュセルっ!」

 兄の叫び声が聞こえると同時に、何者かに体を突き飛ばされた。次の瞬間、天井が崩れ落ち、ゴゴゴゴッという音と共に土と石で通路が一瞬で塞がれてしまう。


「……っ」

 衝撃が去った後、リュセルは自分の上に覆いかぶさった青年が心配そうに声をかけてくるのを聞いた。

「大丈夫ですか? 剣鍵様」

 暗闇の中だが、その声でセフィが自分を庇ってくれた事をリュセルは悟った。松明はレオンハルトが持っていた為、こちら側に光が一切なくなってしまったのだ。

「ああ……、ッ」

 返事を返そうとした時、左手がひどく痛んだ。右手で痛んだ箇所に触れてみると、ヌルっとした感触がする。

「どこかお怪我でも?」

「少し左手が痛む。石か何かで切ったようだ」

 リュセルはそう言いながら起き上がると、土と石で一瞬で形成されてしまった壁越しに叫んだ。

「レオン!」

 しばらく間があった後、声が響いた。

「リュセル、無事か?」

 落ち付いたその声に、リュセルは安堵して答えた。

「大丈夫だ。お前は?」

「こちらも皆無事だが、これでは私達はそちらに行けないね」

 リュセルとセフィ、レオンハルトと村の青年達といった具合に、雪崩れ落ちた天井の影響で二手に分かれてしまった事になる。

 牢獄を出てすぐの通路での出来事だった為、レオンハルト側には牢獄しか後ろに残されていない。……が、確か。
 レオンハルトは暗記した地下教会跡地の地図を頭の中に思い浮かべると、牢獄の奥が別の通路に通じていた事を思い出した。少し遠回りになるが、それは、祈りの間に通じているはずだ。

「いいか、お前達はそのまま進んで祈りの間に進みなさい。こちらもすぐにそこに向かう」

「わかった」

 リュセルの返事に頷くと、わずかな間とはいえ、邪鬼の潜んでいるであろう場所で弟と離れる事に内心苛立ちながらも、レオンハルトは冷静な声で注意を促した。

「この落盤は、もしかすると例の邪鬼が仕組んだものかもしれない。どこにそれが潜んでいるかわからぬ今、油断するんじゃないよ」

「ああ、レオンも気をつけろよ」

 そう言うと、リュセルは身を翻して、セフィがいるであろう方向に話しかけた。

「そういう訳だ、セフィ殿」

 セフィはそれに頷くと、リュセルの手を取った。

「私が先導しましょう。松明がないのでしょう? 気配でわかります。周りが暗闇なら、私の方がそれに慣れています」

「わかった、頼む」

「はい」

 兄と引き離されて一気に緊張の域に達していたリュセルは、柔らかで暖かなその声に少しの安らぎを覚える。そうしてそのまま、暗闇の中をセフィに手を引かれながらリュセルは進んで行ったのだった。



 それからしばらくして……。


 いくつかの曲がり角を曲がり、更に進んだ後に光が見えてくる。大きな広間があるようだ。おそらく、そこが祈りの間だろう。

 いや、しかし、こんな廃墟と化した地下では、光がある事自体違和感がある。それに、この気配は……。

 先導してくれていたセフィと入れ替わると、リュセルは警戒しながらその部屋に近づいた。

 そろそろと扉を開けた瞬間広がった光景。それを見たリュセルは息を呑む。

 そこは、地下にあるとは思えない程、壮麗なる広間だったのだ。この場所だけは、他の部屋のように汚れていなければ朽ちてもいない。

 地下教会の元々の主だった神父達が毎日祈りを捧げていたであろう女神像が中央に飾られ、その周囲には七人の娘達が夢見心地のような表情で座っていた。
 まるで巫女のような、白く薄い布地の衣装を身にまとった乙女達に気づくと、リュセルは彼女達に駆け寄ろうとする。

「僕の麗しの乙女達に近づくのはやめてもらえるかな?」

 どこか弱弱しげな声と共に、ピアノの音色が広間に響き渡る。

 リュセルが目を向けた先で、一人の青年が自分に酔いしれながらピアノを弾いていた。

(こいつが邪鬼か?)

 しかし、この邪鬼。

「そこの乙女達は、美しき僕の花。その芳しき香りは僕を魅了し、その麗しき様に僕は酔いしれる」

 紡がれた臭すぎる台詞に、リュセルはこの邪鬼が自分とキャラが被っている事に気づいた。
 邪鬼がフサァっと長い自分の前髪を払ったその仕草は、洗練されつくした仕草で大変美しいのだろうが、リュセルはそれを見ても何とも思わない。

 長い黒髪の、見目の良い青年。間違いないだろう。彼がこの騒ぎの首謀者だ。

「しかし、君、それ以上にこの女神像が美しいとは思わないか?」

 君とは自分の事だろうか? とリュセルは考えながら、とりあえず返事をする。

「ああ、まあ」

「え? 何普通に返事してるんですか!?」

 瞬間、セフィに怒られた。

「はは、君とは気が合いそうだ。そう……、僕は、こんなにも美しい女性を見た事がないよ。君達のお母様は、本当に綺麗な方、なんだあねぇ」

 そう言うと、邪鬼は演奏を止めてゆっくりと目を開けた。

「僕の名はローゼン。女神の子供、君の名はなんて言うのかなぁ?」

「リュセルだ」

「だから、何普通に答えてるんですかっ!」

 またセフィに怒られた。

「ふうん、リュセルか」

 そう言いながらリュセルの方を見たローゼンの顔が一瞬で強張る。

(なんだ?)

 リュセルが訝しく思った瞬間、ローゼンの顔は余裕めいた表情から憤怒の形相に変化した。

「どどど、どうしたんだ!?」

「どうしたもこうしたもありません! もう話しかけるのは止めて下さいよ!」

 またまたセフィに怒られた。

 そして、憤怒に端正な顔を歪ませたローゼンは大声で怒鳴ったのだった。

「僕は、僕より顔のいい男が、大っ嫌いなんだよっ!」

 そ、そんな事、言われましても。

 リュセルが顔を引きつらせている前で、ローゼンは怒りの表情のまま立ち上がる。

 恐ろしい気配を放っている剣を持っていた女神の子供は、落盤を起こして遠ざける事に成功した。すべてはローゼフの……、もう一人の自分の指示通りだ。目的は目の前にいる剣を持たない神子を喰らう為に。
 しかし、まさか、その女神の子供が、認めたくはないが自分より見目の良い青年だったとは……。許せない。

「この世で一番美しいのは、この僕、ローゼンだ!」

 そう叫んだローゼンを呆然と見つめながら、リュセルは思った。

(な、なんだこいつ……。ナルシストか!?)

 そんな呆然としているリュセルの前に一振りの剣が現れる。優美なデザインの美しい剣だ。

(?)

 不思議に思っているリュセルに対し、ローゼンは言った。

「取れ。丸腰の者を相手にするのは美しくない」

 そこまで自分の美学にこだわるローゼンにリュセルは敵ながらあっぱれだと思うしかない。

 そして、とりあえず剣をとったリュセルを見てとると、ローゼンは優美な仕草で自分の剣を構えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。

天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】 さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。 英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。 この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。 「さあ気に入ったsubを娶れ」 「パートナーはいいぞ」 とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。 待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。 平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

処理中です...