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第十章 盲目の神官
9-3 もう一鬼の邪鬼
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「おおおお、お止め下さい、剣鍵様! ユージン様に聞きましたが、あなた、可哀そうな位、剣の才能ないのでしょう!?」
「否定しないが……。案外失礼だな、セフィ殿」
セフィの台詞にリュセルが軽くショックを受けた瞬間、ローゼンが素早くも優雅な動きで斬り込んできた。
「っ!」
リュセルは自分にしがみついていたセフィの体を突き飛ばすと、ローゼンの剣を紙一重で避けた。
「剣鍵様!」
泣きそうなセフィの声が響き渡る中、リュセルはローゼンの放つ二撃目を、鞘を抜いた抜き身の剣で受け止めた。そして、そのまま剣を打ち返すと、ローゼンの動きを上まるような動きでその懐に入り込む。
「なっ」
予想外の素早さに息を呑んだローゼンが剣をかわすのを見てとると、その腹を思いきり蹴り飛ばした。
「ぐぅっ」
衝撃で吹き飛んだローゼンの体を追うように斬り込む。その動き、素早さ、剣さばき……、セフィの目には映らないが、その音、気配だけで邪鬼と互角、いや、それ以上に渡り合っているのが分かる。
(た、確か剣鍵様は、剣術が得意ではないはず)
彼に剣の稽古をつけてきたという騎士、ユージンの情報であったから間違いはないはずだ。
そう……そのユージンが実際にこのリュセルの戦いぶりを見たら、すぐに悟る事が出来ただろう。洗練された無駄のない素早い動き、卓越した剣さばき、それはまさしく、兄レオンハルトの動きそのままなのだ。
女神の剣を使い、同化している間に、リュセルはレオンハルトの動きを覚えたのである。
アシェイラ一、大陸一と讃えられる剣士、レオンハルトの剣術は最強なものだ。例え、それが模写したものでも……。
しかし、しばらくすると剣と剣がぶつかる激しい音が広間中に響くと同時に、リュセルの息切れの音が少しずつ漏れ始めた。
(やばいな)
スタミナ切れだ。
あの常人離れした動きは、宝主という人並み外れた体力を有しているからこそ出来ている部分も大きい。一般の成人男性の体力では、あの動きにはついていけないのだ。
(さっさとケリをつけないと)
そう決意すると同時に、余裕を欠いた動きで襲い来るローゼンの剣を勢いよく薙ぎ払った。
「ひいいいっ!」
その手を離れた剣は、女神像の足元に突き刺さる。
「さて、娘達を元に戻してもらおうか?」
ローゼンの首の前に剣を突き出して告げたリュセルを怯えたような目で見上げると、ローゼンは何度も頷いた。
「ははははい、戻しますから、どうか命だけは!」
なんとも情けない邪鬼である。
(こいつの特技は顔だけかよ)
自分も人(邪鬼?)の事を言えた義理ではないが、ついついそうつっこんでしまう。
しかし、次の瞬間、拍子抜けしているリュセルの視線の先で、怯えたようにオドオドしていたローゼンの表情が一変した。
「まったく、ローゼンの役立たずが」
低い呻き声が聞こえたと思ったら、リュセルは持っていた剣を素手で弾き飛ばされていた。
「なっ!?」
驚きに目を見張るリュセルの両肩を鷲掴みにすると、彼はその体を引き寄せる。
「初めまして、女神の子供。俺の名はローゼフ。俺はローゼンのように甘くはないぞ」
そうささやいた紅い唇からは、濃厚な血の匂いがした。
先程のローゼンとあまりにも違う雰囲気である。その時リュセルはセフィが感じたと同じ考えに至った。
(こいつ、多重人格者か!?)
濃い邪気の気配に目まいがする。
感知しなくてもわかる位、彼の邪気はローゼンなどよりはるかに強い。
それに、この邪鬼……。ローゼンの時は、あまりにも違う気配と邪気が原因により気づけなかったが、あの時、地下教会に住んでいたと思われる神父の部屋を探索した折り、鏡の中にリュセルが見た吸血鬼だ。間違いない。
(ふっ、ほら見ろ! 俺が見たのは幻覚じゃなかったぞ!)
不在のレオンハルトに勝ち誇っても仕方ない。それに、この状況はそんな事を考えている場合ではないようだ。
「おとなしくしていれば殺しはしないよ。しばらくは」
リュセルがそんな事を考えている間にも、ローゼフはそう言いながらリュセルの足を払い、倒れた体を組み敷く。
「ああ、可哀そうに。怪我をしているんだね」
セフィによって軽い手当を受けてはいるが、今だ痛みのある左手の傷を目ざとく見つけたローゼフは、痛ましそうに眉をひそめて巻かれた布を取り外した。
そうして、塞がっていない傷口を見てとると、ローゼフはおもむろにそこに爪をたてる。
「ぐっ!」
奥歯を噛みしめて激しい痛みを堪えたリュセルの視線の先で、ローゼフは開いた傷口から滴り落ちる聖なる血を唇で受け止めた。
ゆったりと赤い舌先で舐め上げられて、背筋がゾッとする。
(くそっ、サンジェイラの時といい、俺はこんなんばっかじゃないか!)
なんとかローゼフから離れようともがくが、相手の力が強過ぎてそれも敵わない。だが、その時。
(ん?)
舐め上げたリュセルの血を口の中で吟味するように転がし、味わってそれを飲み込むローゼフは、味わった事のないようなその聖なる生き血に夢中になるあまり、背後に迫った気配に気づかないでいた。
一方リュセルは、ローゼフの後ろに位置する女神像に隠れるようにして近づいたそれの気配に気がつくと、ニヤリと不敵な笑みをこぼしたのだった。
「否定しないが……。案外失礼だな、セフィ殿」
セフィの台詞にリュセルが軽くショックを受けた瞬間、ローゼンが素早くも優雅な動きで斬り込んできた。
「っ!」
リュセルは自分にしがみついていたセフィの体を突き飛ばすと、ローゼンの剣を紙一重で避けた。
「剣鍵様!」
泣きそうなセフィの声が響き渡る中、リュセルはローゼンの放つ二撃目を、鞘を抜いた抜き身の剣で受け止めた。そして、そのまま剣を打ち返すと、ローゼンの動きを上まるような動きでその懐に入り込む。
「なっ」
予想外の素早さに息を呑んだローゼンが剣をかわすのを見てとると、その腹を思いきり蹴り飛ばした。
「ぐぅっ」
衝撃で吹き飛んだローゼンの体を追うように斬り込む。その動き、素早さ、剣さばき……、セフィの目には映らないが、その音、気配だけで邪鬼と互角、いや、それ以上に渡り合っているのが分かる。
(た、確か剣鍵様は、剣術が得意ではないはず)
彼に剣の稽古をつけてきたという騎士、ユージンの情報であったから間違いはないはずだ。
そう……そのユージンが実際にこのリュセルの戦いぶりを見たら、すぐに悟る事が出来ただろう。洗練された無駄のない素早い動き、卓越した剣さばき、それはまさしく、兄レオンハルトの動きそのままなのだ。
女神の剣を使い、同化している間に、リュセルはレオンハルトの動きを覚えたのである。
アシェイラ一、大陸一と讃えられる剣士、レオンハルトの剣術は最強なものだ。例え、それが模写したものでも……。
しかし、しばらくすると剣と剣がぶつかる激しい音が広間中に響くと同時に、リュセルの息切れの音が少しずつ漏れ始めた。
(やばいな)
スタミナ切れだ。
あの常人離れした動きは、宝主という人並み外れた体力を有しているからこそ出来ている部分も大きい。一般の成人男性の体力では、あの動きにはついていけないのだ。
(さっさとケリをつけないと)
そう決意すると同時に、余裕を欠いた動きで襲い来るローゼンの剣を勢いよく薙ぎ払った。
「ひいいいっ!」
その手を離れた剣は、女神像の足元に突き刺さる。
「さて、娘達を元に戻してもらおうか?」
ローゼンの首の前に剣を突き出して告げたリュセルを怯えたような目で見上げると、ローゼンは何度も頷いた。
「ははははい、戻しますから、どうか命だけは!」
なんとも情けない邪鬼である。
(こいつの特技は顔だけかよ)
自分も人(邪鬼?)の事を言えた義理ではないが、ついついそうつっこんでしまう。
しかし、次の瞬間、拍子抜けしているリュセルの視線の先で、怯えたようにオドオドしていたローゼンの表情が一変した。
「まったく、ローゼンの役立たずが」
低い呻き声が聞こえたと思ったら、リュセルは持っていた剣を素手で弾き飛ばされていた。
「なっ!?」
驚きに目を見張るリュセルの両肩を鷲掴みにすると、彼はその体を引き寄せる。
「初めまして、女神の子供。俺の名はローゼフ。俺はローゼンのように甘くはないぞ」
そうささやいた紅い唇からは、濃厚な血の匂いがした。
先程のローゼンとあまりにも違う雰囲気である。その時リュセルはセフィが感じたと同じ考えに至った。
(こいつ、多重人格者か!?)
濃い邪気の気配に目まいがする。
感知しなくてもわかる位、彼の邪気はローゼンなどよりはるかに強い。
それに、この邪鬼……。ローゼンの時は、あまりにも違う気配と邪気が原因により気づけなかったが、あの時、地下教会に住んでいたと思われる神父の部屋を探索した折り、鏡の中にリュセルが見た吸血鬼だ。間違いない。
(ふっ、ほら見ろ! 俺が見たのは幻覚じゃなかったぞ!)
不在のレオンハルトに勝ち誇っても仕方ない。それに、この状況はそんな事を考えている場合ではないようだ。
「おとなしくしていれば殺しはしないよ。しばらくは」
リュセルがそんな事を考えている間にも、ローゼフはそう言いながらリュセルの足を払い、倒れた体を組み敷く。
「ああ、可哀そうに。怪我をしているんだね」
セフィによって軽い手当を受けてはいるが、今だ痛みのある左手の傷を目ざとく見つけたローゼフは、痛ましそうに眉をひそめて巻かれた布を取り外した。
そうして、塞がっていない傷口を見てとると、ローゼフはおもむろにそこに爪をたてる。
「ぐっ!」
奥歯を噛みしめて激しい痛みを堪えたリュセルの視線の先で、ローゼフは開いた傷口から滴り落ちる聖なる血を唇で受け止めた。
ゆったりと赤い舌先で舐め上げられて、背筋がゾッとする。
(くそっ、サンジェイラの時といい、俺はこんなんばっかじゃないか!)
なんとかローゼフから離れようともがくが、相手の力が強過ぎてそれも敵わない。だが、その時。
(ん?)
舐め上げたリュセルの血を口の中で吟味するように転がし、味わってそれを飲み込むローゼフは、味わった事のないようなその聖なる生き血に夢中になるあまり、背後に迫った気配に気づかないでいた。
一方リュセルは、ローゼフの後ろに位置する女神像に隠れるようにして近づいたそれの気配に気がつくと、ニヤリと不敵な笑みをこぼしたのだった。
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