【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十章 盲目の神官

10-2 解けぬ呪い

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 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 邪鬼の浄化の完了を告げたレオンハルトが一息つく間もなく、いきなり地面が揺れた。

「まずいね。邪鬼の浄化の影響で地下が崩れ始めているのかもしれない」

 そう言ってレオンハルトは駆け出すと、祈りの間から飛び出す。そして、祈りの間の扉外に避難していたセフィの腕を掴み、今度はリュセルが叫んだ。

「ここは崩れる! 早く地上に逃げるんだ!」

 レオンハルトの口からリュセルの声がするという現象を目の当たりにし、驚きに息を呑んだセフィの腕を掴んだまま、レオンハルトと同化したリュセルは、銀色に輝く抜き身の女神の剣の浄化の光を頼りに地下通路を地上めがけて駆ける。

 気絶した娘達を抱えた若者達もそれに続き、地下教会跡が崩れ落ちる一歩手前で、地上に出る事に成功した。

「た……助かったのか、俺達。」

「そ、そのようだな」

「よか……っ、良かった」

 全力疾走した為、激しく息を切らしているスペル村の若者達やセフィが、安堵のあまりその場にしゃがみこむ。だが、その様子を見ていたリュセル自身は、息切れ一つしていなかった。

 さすが、レオンハルトの……、宝主の体だ。

(交換して欲しいぞ)

「馬鹿な事考えていないで戻りなさい、リュセル」

 即座に聞こえた、呆れたような声に導かれるように、剣から弾き出された自分の体にリュセルは戻る。

 しかし、いつもながら、戻った直後は体がだるい。グラリと揺れた弟の体を支えたレオンハルトは、小さな声でささやいた。

「手ごたえが、浅かったような気がするのだよ」

「浄化出来ていない、という事か?」

 自分にだけ聞こえるように、そっと耳元でささやく兄の顔を間近で見つめ返しながら、リュセルは驚きに目を見張る。

「いや、浄化は完了したはずだ」

「どういう事だ?」

 意味がわからず、レオンハルトの体にもたれかかりながら、リュセルは自分の体に馴染むまでもう少し時間がかかりそうだと頭の端で思っていた。

「よくわからん」

 憮然とした響きのある声と共に、レオンハルトはもたれかかる弟の背を抱きながら、今だ金に輝く瞳を細めたのだった。

 まるで恋人同士のように抱き合っている兄弟を、スペル村の若者達は何故か頬を赤らめながら遠巻きに見つめ、セフィは今だ青白い顔色のまま、震える右手で胸を押さえると、下を向いてしばらく動かなかった。



*****



「セフィ殿、大丈夫か?」

「え?」

 あの後、崩れ落ちた地下教会跡地からスペル村へと移動の最中、リュセルは傍を歩く盲目の神官を気遣うように、そう話しかけた。

「大丈夫ですよ。どうしたのですか?」

 首を傾げるセフィをじっと見つめ、リュセルは眉をひそめる。

「先程まで、ひどい顔色だったじゃないか」

「……私などより、剣鍵様の方がお疲れなのでは?」

 地下教会跡地脱出後、しばらくの間、動く事も出来ずにレオンハルトにもたれかかっているだけだったリュセルの様子を見ていただけに、セフィはそう尋ねる。

「俺のは病気じゃないからな。少し休めば、元に戻るんだ」

 事実、現在は、こうして普通に歩いて移動出来ていた。前を歩くレオンハルトや、気絶した娘達を背負うスペル村の若者達のスピードについて行けている。

 しかし、そんなリュセルと違い、どこか具合が悪いのか、セフィの足取りは重かった。

「ご心配おかけして、申し訳ありません。一向に目を覚まさない娘さん達が心配で……」

「そうだな」

 リュセルの回復を待っている間、とうとう娘達は一人も目覚めなかったのだ。

 それに……。

「霧も晴れていないしな」

 周囲には、今だ濃い霧が立ち込めている。

 そんな事を二人で言い合っている間に、目の前を歩いていたレオンハルトが歩みを止めた。

「レオン?」

 その背に呼びかけると、レオンハルトはゆっくりと弟達の方を振り返る。

「スペル村の状況が変わっていないようだ」

「なんだって!?」

 リュセルがそう問い返した直後、自分達より先に村の中へと移動していた若者達の悲鳴が聞こえた。

 地下教会跡地に出発する前に立ち寄った時同様に、不気味な雰囲気と濃い霧に包まれたスペル村の人々は、今だ深い眠りの中にあったのだ。

「父さん、母さん……、どうして目を覚まさないんだ!?」

「折角、妹を、リナを連れ帰ったのに…………。目を覚ましてくれよ、母さんっ!」

「駄目だ。一人も起きている奴がいないぞ!」

「起きろ、頼むから、起きてくれよ……」

「一体、どういう事なんだ!?」

 自分達の家族の異変を感じ、やっと村に戻れて、喜びに湧いていた若者達の間に動揺が広がる。

 スペル村の村人達。さらわれ、行方不明だった娘達。両方共に意識が戻らないという事態に、レオンハルトは厳しい表情のまま呟いた。

「邪鬼の呪いが解けていないのかもしれないね。邪鬼の放った呪いを解く方法は二つ。邪鬼本人に解呪させるか、それとも邪鬼を浄化してしまうか」

「ではやはり、あのナルナルな邪鬼を浄化できていなかったという事か!?」

 リュセルの言葉に対し、レオンハルトは考え込むように顎に片手を添える。

「そんなはずはないのだが……」

 確かにあの邪鬼は浄化したはずだ。体を形作っていた邪気が霧散する様を、この目で見たのだから。しかし、呪いが解けていないのも事実。

「一体、何故」

 村の中心にある広場に横たえられた、昏々と眠り続ける娘達の顔に目線を落としながら、リュセルは低い声で呻いたのだった。


 そんな中


 目を覚まさぬ村人達を前に、成す術もなく、呆然としていたリュセルの脳裏にかすかな声が響いた。



 ー…………………………うた-



「…………歌?」

 次の瞬間、レオンハルトの気配、セフィの声、スペル村の若者達の泣き叫ぶ声が一気に遠ざかる。

 そこにいるはずのすべての者達の存在が希薄になり、驚きに目を見開くリュセルの前に、一人の少女が姿を現した。


 足元にまで届くような、長い銀糸の髪。
 金色に爛々と輝く瞳。
 滑らかな褐色の肌。
 奇跡のように美しく、神聖なるその存在。


 ティアラと同じ容貌をしたその少女は、優しく包み込むような微笑みを浮かべると、背の高い己の息子を見上げた。

 ー詩を……、わらわの代わりに、詩ってはくれまいか?ー

 印象強いその声の願いに、リュセルはぼんやりとしたまま頷いた。

「あなたが、それを望むなら……母上」

 そうささやいた瞬間、何者かに肩を掴まれた。
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