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第十一章 神への叛逆
3-2 陰の日経験組の余裕と未経験組の恥じらい
しおりを挟むぜ~、ぜ~、ぜ~。
「どうしたんだい、リュセル? そんなに息を弾ませて」
とりあえず、ティアラとの濃厚な口づけを終了させたらしいジュリナは、うっとりと自分の肩にもたれかかっている妹の肩を抱き、リュセルのいる寝台の傍へと戻って来た。
「ん? 気持ちが悦すぎて、腰がくだけたのかい?」
寝台の上に腰かけた兄の膝に縋りつきながら、リュセルは本気で泣きたくなる。
女神の子供って、恥知らずだ……。
今更ながらにそんな事を実感しながら、自分も例外なくそうなのだという事を、リュセルはよく理解していた。
敏感過ぎて快楽に弱い自分の体を、最近疎ましいとさえ思う。
リュセルの銀糸の髪を繊細な指で梳いてくれるレオンハルトの手の温もりを感じつつ、両目を両手で覆った。
本気でしくしく泣きたい気分だった。
「席を外そうか? レオンハルト」
その様子を勘違いしたジュリナがそう申し出る。
なぬっ!?
余計なジュリナの気遣いに、リュセルはレオンハルトの膝から一気に起き上がる。
「好色神のこいつの口づけを受けたんじゃ、しょうがないわな。お前も若いんだし」
うんうんと訳知り顔で頷くジュリナに対し、リュセルはパクパクと金魚のように声も出せずに口を開け閉めする。
「じゃ、お兄様にその熱静めてもらいな」
そう言って、あっさりとティアラの肩を抱いたまま身を翻そうとするジュリナの背に、リュセルは咄嗟に飛びつく。
「ぬおっ! ど、どうしたんだい、リュセル!?」
衝撃で前のめりに倒れかけるジュリナだったが、自分よりも体格のいい青年が飛びついてきたというのに、宝主の体力を有する彼女はすぐに体勢を元に戻すと、妖艶にリュセルを流し見た。
「あははん、私がいいって言うのかい? いいよ、おいで……。可愛がってやるよ」
グイっと抱き寄せられ、内股を撫でさすられたリュセルは怒鳴る。
「違う、変な勘違いするな! た、頼むから行かないでくれ」
こんな、日の高い内から行為に及ぶのだけは嫌だ。今の状態で二人きりにされたら、きっと流されてしまう。
そんなリュセルの状態がわかったのかわかっていないのか、ジュリナはとりあえず退室する事は止めてくれた。
「ふうん。大丈夫って言うなら、いいケドね」
必死なリュセルを面白そうに見返しながら、妹の婚約者の白い頬を撫でる。
「今回、ローウェンもアルティスも来ないんだから、二人の分も私を楽しませておくれよ」
ジュリナの何気ないその言葉を聞き、リュセルは大きく目を見開いた。
「え? 来ない?」
そう言いながらジュリナから手を放し、リュセルはレオンハルトを振り返る。
「ああ、二人は来ない……。というより、来られん。ローウェンが陰の日を迎えたのだよ」
レオンハルトの淡々とした声のその内容に、リュセルは驚きに目を見張る。瞬間、あの、体の芯が疼くような、どうしようもなく濃密な甘い匂いが甦った。それを発する、少年の細い体。濡れたような蒼い瞳と赤みの差した柔らかな頬。
アシェイラの路地裏での出来事を思い出したリュセルは真っ青になる。
「お、おおおおお俺は、まさかローウェンと!?」
ローウェンの体を押し倒したところで記憶は途切れている。
まさか、その後、自分は……。
「この前はアルティスで、今回はローウェンだなどっ~~~~~~そんなの、許されるはずがないぃぃぃぃぃ~~~~」
「落ち着きなさい、リュセル」
項垂れるリュセルの背をさすりながら、冷静にそう言うレオンハルトは事実を口にした。
「私達が合流した時、ローウェンは気を失っていただけだ。だから大丈夫、ローウェンは無事だよ」
「ほ、本当か?」
リュセルの不安そうな言葉に、レオンハルトは小さく……しかし、しっかりと頷く。
(良かった)
リュセルは安堵のあまり、レオンハルトの膝上に再び撃沈したのだった。
「しかし、ローウェンが陰の日とはねぇ。まあ、時期的にそろそろだとは思っていたけれど、相変わらず急にやってくるね、陰の日は」
場所を、リュセルが眠っていたベッドのある客室の寝室から隣の部屋に移動した四人は、ソファに腰かけてくつろぐ事にした。
着ていた夜着から宮廷衣に着替え、凛々しくも甘やかな正統派の王子の魅力を、周囲に垂れ流し気味の誑し王子に変身したリュセルは、レオンハルトが淹れた紅茶を飲みながら顔を赤くした。
「陰の日か」
チラリと、向かいの長ソファにジュリナと共に腰かけるティアラに目を向けると、リュセルと同じく、陰の日未経験な彼女も頬を赤く染めている。自分達女神の子供達の発情期のようなものであるそれは、すごくやっかいなものであると同時に、なんだか、リュセルやティアラなどからすると、恥ずかしいもののように感じられていた。
「ローウェンには、アルティスがついているから大丈夫だろう」
「そうだね。半身がついていれば、心配する必要もない」
顔を真赤にして俯いているリュセルと同じように、顔を赤くしてモジモジしているティアラ。二人の未経験組と違い、経験済み組のレオンハルトとジュリナは平然と話を進めている。
「それでレオンハルト、これからの段取りだが……」
そのまま今後の事を話そうとしたジュリナは、目の前の幼なじみの意識がこちらにないのに気づく
「オイ」
ジュリナの怒りのつっこみを無視しながらも、レオンハルトは隣のリュセルを愛でるような目をして見つめていたのだ。
彼の弟君は、一見無表情で俯いているだけなのだが、その顔は耳まで赤い。
そして、ジュリナは、視線をリュセルからティアラの方へと移すと相好を崩した。顔をリュセルと同じように赤くして俯くティアラの姿は、あまりにも可愛らしかった。
「…………」
「……………………」
レオンハルトもジュリナも、何に対して自分達の半身が照れているのかはまったくわからなかったが、その可愛らしい様子を(レオンハルト&ジュリナ視点)じっくりとしばらく堪能する事にした。
「それで、これからどうするんだ?」
ようやく顔の赤みが引いたリュセルは、これ以上陰の日の話はしない方がいい気がして、話題を変える事にする。
「これから私達の誕生舞踏会まで、特にお前達がする事はないよ。まあ、ティアラと踊る為のお前用の衣装を誂えてあるから、それを試着してみて欲しいけれどね」
「衣装?」
一体、どんな衣装だ?
不安そうなリュセルを、にやにやしながら見返し、ジュリナは言った。
「ティアラのドレスと対になるように作ったのさ。何せ、舞踏会のオープニングを告げるんだからな。お前達のダンスは……って、ダンスは大丈夫なんだろうね?」
ジュリナの問いに、リュセルはドッキリとする。
「ティアに恥をかかせたら、ただじゃ済まさないよ」
キランと深紅の瞳を光らせて凄むジュリナから顔を背け、リュセルはあらぬ方向に目を向ける。
「なんで目をそむけるんだい?」
胡乱な目になったジュリナを前に、内心冷汗ダラダラになったリュセルのフォローを入れたのはレオンハルトだった。
「まだ調整は必要だが、問題ないよ」
決して嘘偽りを口にした事のない元婚約者の言葉を聞き、ジュリナは安心したように頷く。
「それならいいよ」
ソファの背もたれに背をどっかりと預けると、ジュリナは隣の妹の、自分と同じ色をした髪を撫でながら言った。
「ま、舞踏会まで好きにしてな」
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