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第十一章 神への叛逆
4-2 侵入者の狙い
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「レオン!」
誕生舞踏会のオープニングを告げるリュセルとティアラのダンスが終了すると共に、集まった来賓達がそれぞれのパートナー達と踊り始めると、戻ってきた弟にレオンハルトは柔らかな微笑みを向けた。
「頑張ったね、よく踊れていたよ」
兄のお褒めの言葉を聞いたリュセルは、照れたように顔を赤らめる。
「とても踊りやすかったですわ、リュセル様」
一緒に踊ったティアラも、そう言って褒めてくれる。
「ふ、やはりそうか。踊る姿でさえ様になる自分の美貌が、今は憎い」
調子にのって憂い顔でそう決める弟の額に、レオンハルトはデコピンをした。
「調子に乗るな」
「……? お姉様はどうしましたの?」
舞踏会のもう一人の主役である姉の姿が見えぬのを不思議に思い、ティアラは首を傾げる。
「少し用を足しに出て行っただけですよ、心配いりません」
「なんだ、トイレか」
上品な言い方をしたレオンハルトの言葉をリュセルは言い直す。
次はジュリナと踊る予定だったリュセルは、とりあえず誰か手頃な娘でも探そうかと思っていた。
「俺は誰か探すから、レオンはティアラ姫と踊って来いよ。主役を壁の花にしておく訳にはいかないだろう?」
「…………」
「レオン?」
思案するような顔になったレオンハルトをリュセルは不審に思う。
「どうしたんだ?」
「いや、そうだね。…………リュセル」
「なんだ?」
「この広間から、私がいいと言うまで出るんじゃないよ」
いきなり妙な事を言い出した兄の顔を見つめ、リュセルは眉をひそめる。
「何故?」
「いいから、約束しなさい」
相変わらず有無を言わせずそう命令するレオンハルトの横暴さに、リュセルは内心ぶちぶちと文句をたれながらも不承不承頷いた。
「ああ」
「いい子だ。では、ティアラ姫」
「はい、レオンハルト様」
レオンハルトが優雅に差し出した手をとって、そのまま彼にエスコートされるまま踊りの輪の中に消えていくティアラを見送った後、リュセルは不満を抱えたまま言った。
「何なんだ、一体」
呟いた後、リュセルは己の美貌の迫力に圧倒され、遠巻きに自分を熱く見つめる事しか出来ないでいた高貴なる身分の令嬢の方に視線を移すと、にっこりと微笑み、そちらに近づいて行く。
「どなたか私と踊っていただけませんか?」
次の瞬間、半分の令嬢方はうっとりと夢見心地のままその場に昏倒し、もう半分の女性達は、目の前の美貌の王子と踊りたい、その月の美しさを間近で見たい、その体に触れてみたいという気持ちを隠す事なく、自分が自分がと、互いの体を押し合いながら、リュセルへと、まるでバーゲン会場で目当てのものを探す主婦のごとく、すさまじい勢いで突進して行った。
「え? ちょ……、ちょ、ちょ、ちょっと落ち着いて、ぬおおおおおおおおお!」
大量の女性群に突進されたリュセルは、予想外の惨状に悲鳴を上げたのだった。
ぜ~、ぜ~、ぜ~。
「じょ、女性の力を、甘く見過ぎていたようだ」
リュセルはバーゲン会場のようになりかけていた自分の周囲に気づくと同時に身の危険を感じ、脱兎のごとく逃げ出して、バルコニーへと避難していた。
「リュセル様~~~~っ、王子様~~」
「どこに行かれましたの~~~~!?」
舞踏会場となっている広間では、自分を探す女性達の声が今だ響いている。
「ふっ、モテ過ぎる男というのもツライものがあるな。己の凛々しさが、今は憎い」
アンニュイなため息と共にそう呟いたリュセルは、広間の人間に気づかれないように、そろりそろりと、広いバルコニーの中を移動した。
「ここまで来れば大丈夫だろう。しばらくの間、ここに避難していよう」
兄とティアラ姫のダンスが終わった頃を見計らって戻ればいい。二人の傍にいれば安全だ。
どんな美女にもなびかないという、伝説の男、氷の王子。それをよく知っている貴婦人方は、レオンハルトの事はうっとりと遠目に眺めるだけで、決して近づこうとしないのだ。
「ふう、いい風だ」
夜風に髪をなびかせながら、リュセルは目を細める。
「葡萄酒(ワイン)でも持ってくればよかったな」
月も出ているし、一人、月見酒というのも、風情があって良かったのに。と考えながらバルコニーの柵の向こう眼下に広がる庭園の奥の渡り廊下に目を向けた時、そこを渡る見知った後姿を見つけて、リュセルは目を見開いた。
「ジュリナ殿?」
トイレじゃなかったのか?
そして、凛々しいその姿を追うように蠢く、無数の漆黒の影。
「なんだ? あれは」
一、二、三、四………………、八人か? いや、もっといるようだ。
遠目なのでよくわからないが、皆、一様に漆黒の衣装を身にまとい、その動きは完全にジュリナを狙っている。ジュリナは気づいているのかいないのか、人気のない場所へと歩き去って行った。
視界からジュリナの姿が消えると同時に、リュセルは身を翻す。もちろん、広間に戻ってレオンハルトに報告する為にだ。
(ジュリナ殿!)
この瞬間、リュセルは彼女がレオンハルトに次ぐ程の戦闘力の持ち主である事を完全に忘れ去っていた。つまり、自分の助けなど必要ない事を。
音楽はまだ終わっていない。きっとまだ、レオンハルトはティアラと踊っている事だろう。
広間に戻る為、バルコニーと繋がった扉を開けようとしたリュセルは、しかし、すぐさま、その場に隠れる事になる。
「リュセル様~~」
「わたくしと踊って下さいませ~~~~!」
すさまじい執念でリュセルを追う、貴婦人方の声を聞いたからだ。
「駄目だ。まだ広間には戻れん」
女性達の想念恐るべし!
しかし、このまま待っていては手遅れに。
「仕方ないな」
リュセルはそのまま、バルコニーから下の庭園に下りる事にした。幸い、このバルコニーから庭園に降りられるようにと、見落としやすい程狭いが階段が設置されている。
こうしてリュセルは、レオンハルトの言った注意の言葉などすっかり忘れて、未来の義姉姫を救うべく階段を駆け下りていったのだ。
「一緒にきてもらおうか。ティアラ姫」
一方、侵入者を誘いだす事に成功したジュリナは、やって来た人気のない回廊で眉をしかめていた。
ティアラ姫。
(狙いはティアかい?)
ディエラ国第二王女として狙っているのか、鏡鍵として狙っているのか。おそらく後者だろうが。しかし、それにしても。
(まぬけな襲撃者だねぇ)
確かに朱金の髪はよく妹に似ているが、年も離れているし、顔形も似ていない。雰囲気だって、まるで違う。妹と間違えられた事など、今までの人生の中、一度としてなかったジュリナである。
(さて、どうするか)
このままティアラの振りをして、こいつらから情報を聞き出すか、それとも、力にもの言わせて無理矢理聞き出すか。
どちらでもいいが。
「でも、無理矢理な方が私らしいからねぇ。そっちのがすっきりするし」
ジュリナはそう言うと、自分を囲い、距離をつめ出した襲撃者の一人を素早い動きで弾き飛ばした。
ダンッ
「!?」
「な、なんだ!?」
仲間の一人が弾き飛ばされ、回廊の壁に叩きつけられるのを見た他の襲撃者達は、狼狽したようにざわめく。彼らが事前に聞いた、朱金の髪のティアラ姫は、戦う力を持たない、かよわき姫君のはずだったからである。
その情報に嘘はない。
ただ、彼らは襲う相手を間違えただけ。同じ朱金の髪の、姉姫の方を襲ってしまっただけなのだ。しかし、それは、致命的な間違いだった。
「ははん、この私が直々に遊んでやるよ。さあ、かかっておいで!」
誕生舞踏会のオープニングを告げるリュセルとティアラのダンスが終了すると共に、集まった来賓達がそれぞれのパートナー達と踊り始めると、戻ってきた弟にレオンハルトは柔らかな微笑みを向けた。
「頑張ったね、よく踊れていたよ」
兄のお褒めの言葉を聞いたリュセルは、照れたように顔を赤らめる。
「とても踊りやすかったですわ、リュセル様」
一緒に踊ったティアラも、そう言って褒めてくれる。
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「調子に乗るな」
「……? お姉様はどうしましたの?」
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「少し用を足しに出て行っただけですよ、心配いりません」
「なんだ、トイレか」
上品な言い方をしたレオンハルトの言葉をリュセルは言い直す。
次はジュリナと踊る予定だったリュセルは、とりあえず誰か手頃な娘でも探そうかと思っていた。
「俺は誰か探すから、レオンはティアラ姫と踊って来いよ。主役を壁の花にしておく訳にはいかないだろう?」
「…………」
「レオン?」
思案するような顔になったレオンハルトをリュセルは不審に思う。
「どうしたんだ?」
「いや、そうだね。…………リュセル」
「なんだ?」
「この広間から、私がいいと言うまで出るんじゃないよ」
いきなり妙な事を言い出した兄の顔を見つめ、リュセルは眉をひそめる。
「何故?」
「いいから、約束しなさい」
相変わらず有無を言わせずそう命令するレオンハルトの横暴さに、リュセルは内心ぶちぶちと文句をたれながらも不承不承頷いた。
「ああ」
「いい子だ。では、ティアラ姫」
「はい、レオンハルト様」
レオンハルトが優雅に差し出した手をとって、そのまま彼にエスコートされるまま踊りの輪の中に消えていくティアラを見送った後、リュセルは不満を抱えたまま言った。
「何なんだ、一体」
呟いた後、リュセルは己の美貌の迫力に圧倒され、遠巻きに自分を熱く見つめる事しか出来ないでいた高貴なる身分の令嬢の方に視線を移すと、にっこりと微笑み、そちらに近づいて行く。
「どなたか私と踊っていただけませんか?」
次の瞬間、半分の令嬢方はうっとりと夢見心地のままその場に昏倒し、もう半分の女性達は、目の前の美貌の王子と踊りたい、その月の美しさを間近で見たい、その体に触れてみたいという気持ちを隠す事なく、自分が自分がと、互いの体を押し合いながら、リュセルへと、まるでバーゲン会場で目当てのものを探す主婦のごとく、すさまじい勢いで突進して行った。
「え? ちょ……、ちょ、ちょ、ちょっと落ち着いて、ぬおおおおおおおおお!」
大量の女性群に突進されたリュセルは、予想外の惨状に悲鳴を上げたのだった。
ぜ~、ぜ~、ぜ~。
「じょ、女性の力を、甘く見過ぎていたようだ」
リュセルはバーゲン会場のようになりかけていた自分の周囲に気づくと同時に身の危険を感じ、脱兎のごとく逃げ出して、バルコニーへと避難していた。
「リュセル様~~~~っ、王子様~~」
「どこに行かれましたの~~~~!?」
舞踏会場となっている広間では、自分を探す女性達の声が今だ響いている。
「ふっ、モテ過ぎる男というのもツライものがあるな。己の凛々しさが、今は憎い」
アンニュイなため息と共にそう呟いたリュセルは、広間の人間に気づかれないように、そろりそろりと、広いバルコニーの中を移動した。
「ここまで来れば大丈夫だろう。しばらくの間、ここに避難していよう」
兄とティアラ姫のダンスが終わった頃を見計らって戻ればいい。二人の傍にいれば安全だ。
どんな美女にもなびかないという、伝説の男、氷の王子。それをよく知っている貴婦人方は、レオンハルトの事はうっとりと遠目に眺めるだけで、決して近づこうとしないのだ。
「ふう、いい風だ」
夜風に髪をなびかせながら、リュセルは目を細める。
「葡萄酒(ワイン)でも持ってくればよかったな」
月も出ているし、一人、月見酒というのも、風情があって良かったのに。と考えながらバルコニーの柵の向こう眼下に広がる庭園の奥の渡り廊下に目を向けた時、そこを渡る見知った後姿を見つけて、リュセルは目を見開いた。
「ジュリナ殿?」
トイレじゃなかったのか?
そして、凛々しいその姿を追うように蠢く、無数の漆黒の影。
「なんだ? あれは」
一、二、三、四………………、八人か? いや、もっといるようだ。
遠目なのでよくわからないが、皆、一様に漆黒の衣装を身にまとい、その動きは完全にジュリナを狙っている。ジュリナは気づいているのかいないのか、人気のない場所へと歩き去って行った。
視界からジュリナの姿が消えると同時に、リュセルは身を翻す。もちろん、広間に戻ってレオンハルトに報告する為にだ。
(ジュリナ殿!)
この瞬間、リュセルは彼女がレオンハルトに次ぐ程の戦闘力の持ち主である事を完全に忘れ去っていた。つまり、自分の助けなど必要ない事を。
音楽はまだ終わっていない。きっとまだ、レオンハルトはティアラと踊っている事だろう。
広間に戻る為、バルコニーと繋がった扉を開けようとしたリュセルは、しかし、すぐさま、その場に隠れる事になる。
「リュセル様~~」
「わたくしと踊って下さいませ~~~~!」
すさまじい執念でリュセルを追う、貴婦人方の声を聞いたからだ。
「駄目だ。まだ広間には戻れん」
女性達の想念恐るべし!
しかし、このまま待っていては手遅れに。
「仕方ないな」
リュセルはそのまま、バルコニーから下の庭園に下りる事にした。幸い、このバルコニーから庭園に降りられるようにと、見落としやすい程狭いが階段が設置されている。
こうしてリュセルは、レオンハルトの言った注意の言葉などすっかり忘れて、未来の義姉姫を救うべく階段を駆け下りていったのだ。
「一緒にきてもらおうか。ティアラ姫」
一方、侵入者を誘いだす事に成功したジュリナは、やって来た人気のない回廊で眉をしかめていた。
ティアラ姫。
(狙いはティアかい?)
ディエラ国第二王女として狙っているのか、鏡鍵として狙っているのか。おそらく後者だろうが。しかし、それにしても。
(まぬけな襲撃者だねぇ)
確かに朱金の髪はよく妹に似ているが、年も離れているし、顔形も似ていない。雰囲気だって、まるで違う。妹と間違えられた事など、今までの人生の中、一度としてなかったジュリナである。
(さて、どうするか)
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どちらでもいいが。
「でも、無理矢理な方が私らしいからねぇ。そっちのがすっきりするし」
ジュリナはそう言うと、自分を囲い、距離をつめ出した襲撃者の一人を素早い動きで弾き飛ばした。
ダンッ
「!?」
「な、なんだ!?」
仲間の一人が弾き飛ばされ、回廊の壁に叩きつけられるのを見た他の襲撃者達は、狼狽したようにざわめく。彼らが事前に聞いた、朱金の髪のティアラ姫は、戦う力を持たない、かよわき姫君のはずだったからである。
その情報に嘘はない。
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