【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十一章 神への叛逆

4-3 死の旋律

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 片手に黒革の鞭を携えた凛々しい姿に圧倒されかかった襲撃者達だが、しかし、すぐに体勢を立て直すと、ジュリナに襲いかかっていく。

 そこかしこに隠れていた無数の影が自分に襲い来るのを余裕の笑みを浮かべながら見ていたジュリナは、持っていた鞭を存分に駆使し、襲撃者達を回廊の床に沈めていった。
 こんな弱い(ジュリナ目線)奴ら、瞬殺可能だが、気絶させるに止めなくては。拷問してすべて吐かせるのだ。

「ふふふふ、私の可愛いティアを狙った罪は重いよ」

 そんな中。

「ジュリナ殿おおおおお~~~~~~!」

「げっ! リュセル!?」

 回廊の向こう側から全力疾走してくる若者の姿を認めて、ジュリナは軽く呻く。

(何故ここに!?)

 はっきり言って、今のこの状況では、兄の方なら助かるが、戦力にならない弟が来ても足手まといである。

「助太刀致す!」

 だが、そんな時代劇の助っ人のような台詞と共に襲撃者の一人が持っていた剣を素早く奪うと、リュセルはジュリナが目を見張るような動きを披露した。

 その動き、神風の如く。
 その剣術、まるで鬼神の如し。

 剣聖と謳われる、アシェイラの第一王子と同じ動き、同じ太刀筋。まるで、彼の動きをそのまま模写したかのようだ。レオンハルトの剣術をよく知るジュリナは、それをすぐに感じ取る。

「ひゅ~、やるようになったじゃないか、リュセル。それでこそ、私が見込んだ男だよ」

 そう言いながら背合わせになって、一気に減少した襲撃者達を見回すジュリナに、リュセルは息切れしながら小声で言った。

「しかし、体力が持たない為、長くは続かん。早めに片をつけよう」

「ああ」

 まるで、戦友たるレオンハルトが後ろにいるかのような頼もしさを受けながら、ジュリナはそう言って笑ったのだった。







「まぬけ共めが!」

 一方、少し離れた場所から一部始終を見守っていた黒衣姿の小柄な影は、そう吐き捨てると、持っていた見事な細工の小箱を握りしめた。

 よりによって、ティアラ姫とジュリナ姫を間違うとは!

 大失態である。

 宝主の戦闘力は、普通の人間の百人分とも千人分とも言われている。間違って鏡主を襲ったとあっては、この計画はここで終わりだ。この計画は……、この装置は、宝鍵相手でないと続行出来ないのだから。

 ギリギリと唇を噛みしめた瞬間。

「ジュリナ殿おおおお~~~~!」

 若い男の怒鳴り声が聞こえた。

「なんだ、あれハ?」

 剣を奪い、次々に自分の同志達を倒していく銀髪の若者。彼がこちらを振り返った瞬間、その美貌が目に焼き付いた。

「月の女神の寵児。アシェイラのリュセル王子か?」

 月の光に輝く銀糸の髪に、薄い銀色をした瞳。月の申し子のような姿は、吟遊詩人達が歌う通りの特徴だ。

「リュセル王子……、剣鍵」

 ツイている。この際、鏡鍵でなくとも、宝鍵ならいいだろう。この装置が効く相手なら。

 その影はニヤリとした不気味な笑みを浮かべると、ゆっくりと回廊の柱影から出て、獲物の元へと近づいて行った。



「?」

 なんかまた、変なのが出て来た。

 ジュリナと共に襲撃者を倒していたリュセルは、小柄な体型をした黒衣の人物を認め、眉をしかめる。そいつは、何か小さな箱を両手で抱えていた。

(オルゴールか?)

 美しい花の絵が描かれたその小箱は、見た感じ、ただのオルゴールだ。彼(彼女?)は、持っていたオルゴールのネジを巻くと、ゆっくりとそれの蓋を開ける。


 瞬間


 世界が割れた。


「ッ!? ~~~~~~っああああああああああああっ!」


 それは、まさに地獄の苦しみ。

 響く音のすさまじさに、リュセルは耳を押さえ込み、その場に崩れ落ちた。

「リュセル!?」

 尋常ではない程の悲痛な悲鳴を聞いたジュリナは、慌ててリュセルの元に駆け寄ると顔を覗きこむ。蒼白な顔色と苦悶の表情でその場に転がり苦しむリュセルの姿を見つめ、ジュリナはただ呆然とした。

「お……おと。音を…………、と、止めてくれ……っ」

 生理的な涙を流しながらそう訴えるリュセルに、ジュリナは訳が分からず耳を澄ませる。

「何の音もしないぞ」

 どんなに耳を澄ませようとも、リュセルが苦悶している音は、ジュリナには聞く事が出来なかった。

「あああああああああああっ」

「リュセル!」

 苦しむリュセルの頭を抱え上げた瞬間、周りを囲んでいた襲撃者に首元に剣を向けられた。

「あなた様には聞こえませんョ。この装置の音を聞く事が出来るのは、感知能力に秀でた宝鍵だけ。ワタシにも聞く事は出来ませんが、聞き続けると精神的に壊れてしまうような、破壊的な音らしいのデス。可哀そうな、リュセル王子殿下……。今、彼は地獄の苦しみの中にいる事デしょう」

「何が目的だ?」

 ジュリナの凍えるような声を聞いた影の主は、ニタリと笑った。

「武器を下ろしなサイ。ワタシ達と共にクルのです。そうしたら、音を弱めてあげてもいいですョ?」

 リュセルを人質に捕られたのと同じ状態になったジュリナは、その要求に従うしか術はない。このままではリュセルの精神が壊れ、廃人になってしまうからだ。

 持っていた鞭を投げ捨てたジュリナを見た影は、被っていた黒衣のフードを取り、その顔を晒した。その顔を見た瞬間、ジュリナは驚きに目を見開く。

「……子供?」

 あどけなさを表情に残す顔は、ローウェンと同じか、それより一~二つ位年下の、子供のものだったのだ。



*****



「今宵も月が美しい」


 ディエラ城の城壁の上という、普通の人間ならまずありえない場所に佇んでいたその青年は、被っていたテディベアのお面を外すと、夜風にそのオレンジ色の髪をなびかせた。

「あれ~? なんだか、お城の様子がいつもと違いませんか? ミルフィン様」

 馬鹿高い城壁の上で、ビクビクしながらも城の様子がいつもと違う事に気づいた従者の青年、ハミルが首を傾げた。

「な~に、今更言ってるのよ。今日は確か、ジュリナ姐さんとティアラ姫様の誕生舞踏会の日だわ」

 そう言いながらミルフィンは、脇に抱え持っていた今回の怪盗テディベア仮面の戦利品をハミルに渡し、懐から双眼鏡を出した。

「あ~~、やっぱり、広間で舞踏会が行われているわ。今回の仕事の前にジュリナ姐さんが言っていた通りね。こうして舞踏会に間に合ったからには、侍女としての仕事もこなさなくちゃ」

「え~~~、帰ってきたばかりなのに、働くんですか~~?」

 不満そうな声を上げる従者兼弟子の青年に対し、ミルフィンは双眼鏡を覗きこんだまま言った。

「しょうがないでしょう? あたし達は怪盗テディベア仮面であると共に、ディエラ城……、正確に言えば、第一王女のジュリナ姫に仕える使用人なんだから…………って、……え?」

 双眼鏡から目を離してハミルの方に視線を向けたミルフィンは、訝しげに目を細めた。

「どうしました?」

「なんか、不審な馬車が裏門にあるわ」

 城壁の上にいる為、ディエラ城周辺一帯を一望出来る二人だからこそ、それに気づけたと言ってもいいだろう。

 ミルフィンは双眼鏡で裏門の方を見る。

「ん? 何かしら、あれ」

 黒ずくめの、あきらかに不審者と思われる者達が、件の馬車を囲むようにしていたのだ。そしてミルフィンは、その中にありえない人物を見つけ出し、叫び声を上げる。

「って、……え? え~~~~~~~っ!?」

「うわっ、ななな、何ですか!?」

 びっくりして飛びのくハミルを無視し、ミルフィンは確認するように再び双眼鏡越しにそれを見た。そこにいたのは、朱金の髪をなびかせた、凛々しくもたくましい自分達の主人。

「ジュ、ジュリナ様。な、なんで?」

 そして、周りの黒ずくめの者達に急き立てられるようにして歩いているジュリナが抱える荷物を見て、更にミルフィンは驚愕する。

「リュセル王子!?」

 愛しの、アシェイラ国の王子様。
 彼を、なんとジュリナは、軽々と横抱きに抱き抱えていたのだ。

 自分よりも体格のいい青年をお姫様抱っこしているジュリナの姿に普段なら驚くのだが、今それに驚いている暇などミルフィンにはなかった。

「一体どうしたと言うのよ」

 戸惑いながらミルフィンが呟いた時、前を向いていたジュリナの視線が、一瞬、こちらに向けられた。

「っ!?」

 こんなに遠く離れ、通常、双眼鏡なしでは相手の姿すら確認出来ないはずなのに、ジュリナの深紅の瞳は、まっすぐにミルフィンを射貫いていた。

「まさか、気づいていらっしゃる」

 乾いた笑い声を上げるミルフィンに向かい、ジュリナは唇の動きのみで指示を伝えた。

 ーハミルに後を追わせろー

 それを察すると同時に、ミルフィンはハミルに命じた。

「あの馬車にジュリナ様とリュセル王子が乗っているわ。後を追いかけなさい!」

「は、はい!!」

 主の命令にハミルは慌てて返事をすると、城壁を降りる為、昇る時にも使用したロープに手をかけた。

「あたしは、誰かにこの事を伝えなくちゃ」

 ミルフィンは怪盗らしい身軽な動きで、城壁の上を駆けたのだった。
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