【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十二章 月華の乙女

2-3 月華の乙女

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「似たようなものじゃないか!」

 リュセルは全力でつっこみを入れ、それを聞いたセフィが大きく首を振った。

「いえ、神父と神官では全然違うのですよ。剣鍵様」

 神父が女神の教えを人々に説く伝道者なら、神官は女神への信仰を守る為に存在する守護者。神殿はその守護者をまとめる組織のような場所なのである。

 神学を学び、神父になる為の試験を突破すれば、厚い信仰心を持つ者なら誰でもなれる神父と違い、神官は、それこそ神学校を卒業した一部の者しかなれないような、聖職者のエリート達なのだ。

「私もそうでしたが、神父から神官になるのはとても大変な事で、名誉ある事なのです」

 セフィのそんな言葉通り、通常、神学校をかなりいい成績で卒業しないとなれない神官という職業に神父であった者がなるには、多大な努力と運が必要になってくる。

「そうそう、アシェイラに数は少ないが、巫女になるのだって大変なんだからな」

 神官の女版でもある巫女は、現在、剣主剣鍵が男であるアシェイラにはあまり数がいない。
 各国の女神の子供が入れ替わると同時に、その性別に合わせて各支部の神官や巫女も総入れ替えが行われるからだ。神官ばかりのアシェイラと違い、ディエラ神殿は鏡主鏡鍵が女の為、巫女で構成されていた。

 そのすべてが、彼らが信仰するセイントクロスの女神と、その子供達の為に在る。それが、神殿の存在意義。

 教師達から神学の授業を受けてきていたから、その辺の事も少しは分かっているつもりだったが、リュセルの知らない事実は、まだまだこの世界に多いようである。

「それで、話を戻すが、その神父の青年がアシェイラ神殿の神官になると言っていた事は、まぎれもない事実らしいから、それが嘘でない限り、すり替わった例の絵画を持ち去った彼は、アシェイラ神殿にいるはずなんだ」

 チラッと、現役のアシェイラ神殿の神官であるセフィの方を見ながらそう言ったジュリナの視線を、気配だけで悟ったセフィは、困ったような顔をした。

「でも、アシェイラ支部に勤める神官の数はかなりのものがありますよ。つい先日、中途の新人達の受け入れがありましたが、それだけでも、確か五十近い人数でしたから……」

 おそらく、例の神父の青年は、この新人の中にいるのだろうが。

「グレンがあんな錯乱状態じゃなければ、似顔絵を描いてもらえるんだけどねぇ」

 まるで生きているような人物画を描くグレンの似顔絵があれば、確かに問題の人物の顔がすぐにわかったはずだ。

「自殺騒ぎを起こす程、精神状態が悪いのでは仕方あるまい」

 そう言うと、レオンハルトは表情をまったく変えぬまま、ジュリナが隠していた部分を容赦なくついた。

「彼の失くした大事な絵がアシェイラの神殿にある可能性が高い事は分かった。しかし、肝心な事が分からぬ」

「な、なんだい?」

「失くした絵の特徴だよ。一体どんな絵を失くしたんだ? グレンの絵は正式に発表されたものなら、すべて私も見てきたが。つまりは、未発表の作品という事なのか?」

「……………………」

 レオンハルトの言葉を聞いたジュリナの額に、じっとりと汗がにじんだ。

「誰を描いた絵なんだ?」

 淡々とそう尋ねるレオンハルトは、その答えの予測はついているようだった。

「答えろ、ジュリナ」

 氷点下に冷え切ったその声から、それはよく分かる。

「絵……絵…………え……、ええ~~~?」

 くだらないシャレをかました幼なじみに、冗談にならないような厳しい琥珀の瞳が向けられる。

「な……、なんだ? そんなに大変な人物を描いた絵なのか?」

 ジュリナを見つめる兄の、無感動だが無慈悲な視線の強さに不穏なものを感じ取り、リュセルはゴクリと唾を呑む。

「えっとですねぇ~、レオンハルトさん。あまり怒らないでもらいたいのですが。……よろしいでしょうか?」

 何故か微妙な敬語を使うジュリナに対し、レオンハルトは無表情のまま一言言った。

「言え」

 先程、同胞愛と友情を確かめ合ったばかりだというのに、途端にいつもの調子に戻ってしまった二人だ。

 レオンハルトの追及に覚悟を決めたジュリナは、開き直ったように顔を上げると答える。

「クソッ……。怒るなよ。いいから、そのままでいろよ」

「分かったから、早く言え」

 ジュリナの念押しに、若干空気を和らげてため息をついたレオンハルトは先を促す。

「まずは、絵の題名だが……」

 通常、すべての絵画には題名がつけられる。題名のない絵もあるにはあるが、それは稀だった。

「”月華の乙女”」

 その題名を聞いた途端、レオンハルトは不快そうに眉をしかめた。彼はこの絵の題を聞いただけで、それがどんな絵で誰を描いたものか、察しがついてしまったのだ。

「題名から察するに、女性を描いた絵だな」

 何も察していないリュセルの言葉を聞いたジュリナは、レオンハルトから向けられる痛い視線に心臓をやられながら、生温い笑みを浮かべる。

「月の光を集めたような長い銀の髪、薄い銀色のつぶらな瞳、白雪のような柔肌の、それはそれはそんじょそこらにいない位、可憐な美少女だったよ」

 そんなとんでもない美少女が、女神の娘以外にこの世に存在したのか!?

 いくら半身がいる身とはいえ、リュセルも立派な成人男子だ。純粋に一人の男として、興味を惹かれる。

 しかし……。

「だった?」

 過去形なのが気になった。

「ああ。彼女はもう、この世界のどこにもいないのさ」

 故人だという事のようである。

「そうか」

 故人であるならば、その姿をもう見る事も出来なければ、絵に描く事も出来ぬのであろう。グレンやジュリナが、その絵に固執する理由がよく分かった。

「彼女は、まだ九歳の子供だったんだ」

「そんな幼い内に亡くなるとは、可哀そうに」

 同情するようなリュセルの言葉を受け、ジュリナは目を見開いて言葉を続ける。

「誰が死んだって言ったよ」

 はいっ!?

「今、この世界のどこにもいないって、言っただろうが!」

 リュセルの怒声にジュリナは頷く。

「いないさ! あの可愛らしい姿ではね。今現在は、全然可愛くも何ともない、体ばかりは無駄にでかい男になっちまってるんだからさ」

 つまりは、その美少女は、実は男で、成長してたくましい男性になったという事か?

 …………なんだか、嫌な予感がする。

「ちなみに、その美少女の名前は?」

 なんとなく事の重大さに気づいてきたリュセルは、恐る恐る尋ねた。

「リュセナ姫だっ!」


 ズドーーーーーーーーーーーーーーンッ!


 かつてない程の衝撃に、リュセルの意識は遠のきかける。

「……………………」

 レオンハルトは長々と、大きなため息をついていた。

 瞬間、リュセルの脳裏によみがえってきたのは、カイルーズの持っていたチョコレートが原因で子供の姿になってしまっていた、忘れようもない出来事の記憶。

 人の良さそうな青年画家に乞われて絵のモデルになった、あの日々。

 それも、女装姿で!

 か細く、薄い少年の体。その体に纏うのは、ライラックの色をした、シンプルだが気品の漂う美しいドレス。肩先を伝う銀糸の流れに、夢見るような銀の瞳。小首を傾げたその姿は、まるで妖精のような愛らしさ。

「月華の乙女にふさわしい姿だったよ。あの時のお前は」

 物憂げな眼差しを自分に向けたジュリナの視線を受け、リュセルは叫び声を上げた。

「だああああああああ~~~~~~~~っ!」

 ガシッ

 その勢いのままジュリナの肩を掴み、前後に振りまくる。

「ななななな、なんって事を、してくれたんだあああああ~~~~~~っ!」

 ガクガクガクッ

「だから、事故だったんだって!」

 揺さぶられながら、ジュリナも途方に暮れたような声を上げた。

「まさかあの時の絵を失くすなど……。いくらグレンの頼みとはいえ、やはり断るべきだったか」

 珍しく過去を悔いるようなレオンハルトの言葉だったが、今更悔いても遅い。

 女神の子供達の激しい動揺に、今一事態が飲みこめないセフィだったが、とりあえずその問題の絵画の捜索に、一刻も早く踏み切った方がいい事だけは分かった。
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