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第十二章 月華の乙女
2-2 紛失した絵画
しおりを挟むそうして、そんなこんなで浄化任務の件が一件落着すると、ジュリナはおもむろに口を開いた。
「そっちの浄化任務は私とティアが代行するとして、代わりにこちらの用件を済ませてもらえないかねぇ」
しこりとなっていた今回の浄化任務の件が良い方向で決着がついた事に安堵していたリュセルは、それを解決してくれたジュリナの頼みには全面的に協力するつもりでいた。それはレオンハルトも同じだったらしく、一口紅茶を飲んだ後尋ね返す。
「言ってみろ」
素直じゃない彼らしい言い方にジュリナは内心苦笑しながら、自国ディエラで起きた騒動の鎮静をアシェイラの兄弟に託す事にした。
「すまないねぇ。まあ、ちょうどいい事にアシェイラ支部の神官もいる事だし、この件はやっぱり私達よりお前達向けかもしれないしね」
チラリとセフィに視線を向けたジュリナは、こうしてソファに落ち着く前、彼の事をレオンハルトから紹介されていた為、盲目のこの青年がアシェイラ神殿の神官である事を知っていた。
まあ、紹介されずとも、セフィの着ている、裾も袖もズルズルと長い、独特な形をした神官服の影響で、彼が神官である事は丸分かりなのだが。
「神殿が絡んでいる事なのか?」
眉をひそめたレオンハルトにチラリと目を向けた後、ジュリナは両腕を組んで難しい顔をする。
「神殿が絡んだのはたまたまだよ。事の始まり、原因となったのは一枚の絵画だ」
ジュリナは事のあらましを最初から説明する事にする。
絵画?
話を聞いた三人の意識がジュリナに集中した。
「ああ。グレンが自身の最高傑作だと謳っていた絵を、ディエラ王室……というか、この私に献上するはずだったんだが。ちょっと、事故が起きてねぇ」
それを聞くと同時に、リュセルは人の良さそうな顔立ちをした画家の青年の事を思い出した。
「ああ、あの人か」
グレン・ケイフォスタン。
その才は、人類の宝。人物画を描かせたら、右に出る者はいないと言われる程の天才である。
かくゆうリュセル自身も、彼に自分の姿を描いてもらった事がある。諸事情で子供の姿になってしまっていた時にではあるが。(番外編銀色の子供参照)
その才能自体をディエラ王家に保護される程、貴重な人物だという事は、ジュリナに聞いて知っていたが、一見した限りでは、現グレン・ケイフォスタンは普通の青年にしか見えなかった。しかも、更に驚くべき事に、確か子持ちだったはずだ。
息子であり、弟子でもある少年の名は、グレン・ケイフォスタン・ジュニア。
父親と師弟の契りを結んだと同時に、元の名を捨て、グレン・ケイフォスタンの次期継承者としての名を名乗るようになったらしい少年。
のほほんとした、気の良さそうな親子の姿を瞬時に思い浮かべたリュセルは、ある事を思い出した。
(そういえば、完成した俺の絵ってどうなったんだ?)
九歳の子供の姿になっていた時に、ジュリナの思惑で、女装した姿をグレン・ケイフォスタンの手によって絵として残されてしまっていた事実。あの後色々と立て込んでいた所為もあって、結局自分の女装絵がどうなったのか確かめていなかったのだ。
……というより、すっかり忘れていた。
(美術館なんかに飾られてなどいたりしたら、末代までの恥だぞ)
思いだすと同時に、血の気が引くのを感じる。
「事故とはなんだ?」
リュセルが例の自分の女装絵(子供Ver)がどうなっているのかを、ジュリナに確認しようと口を開きかけた時、レオンハルトが話の内容について尋ねた為、それは失敗に終わった。この話が一旦終わるまで待つしかないようである。
「献上するはずだった絵を失くしたんだよ。グレン本人が」
はあ~~~~と、長いため息をついたジュリナは、見た目からはあまりわからないが、かなり気落ちしているようだった。
「大事な絵だからって誰にも触らせたがらなかった為、グレン自らが絵を献上しに城に向かったらしいんだけど、城への道中、寄り道した喫茶店で失くしたらしい」
「それは、お気のどくです」
グレンの事を思い、セフィは重々しい口調でそう言って胸を押さえ込む。
「ああ。グレンの奴は悲嘆に暮れて暮れて……。もう、手に負えなかったさ」
うつろな笑いを浮かべたまま遠い目をするジュリナを見ていたリュセルは、つい、怖いもの聞きたさで尋ねる。
「ど、どんな風にだ?」
「あ~、自殺未遂を何度も何度も繰り返して、その度にグレンの奥方やジュニア、使用人達が全力で止めてるんだ。手紙でジュニアに泣きつかれて奴の邸に見舞いに行った時も、泣きながら首を吊ろうとしていたしな。…………あれには、マジでビビったよ」
その時の事を思い出したのか、ジュリナは眉間に皺を寄せる。
「グレンの気持ちを落ち着けさせる為にも、彼が失くした絵画は、必ず見つけ出さなくちゃいけないんだ。その捜索をお前達に頼みたいって訳だ」
つまりは、失せ物探しという事か。それ位なら、病み上がりで体力の落ちた状態のリュセルでも可能だろう。
「でも、なんだって、そんな大事な物を失くしてしまったんだ?」
いくら、ボーっとしているような青年だったとはいえ、自身の最高傑作とまで謳った王家に献上すべき大事な絵画を失くすなんてまぬけ過ぎる。
呆れたようなリュセルの言葉に、ジュリナは「同感だ」と頷き、答えた。
「でも、仕方ないって言えば仕方ないんだよ。その絵を失くした喫茶店で合い席になった者が、似たような包みの絵を持っていたらしいから」
それまで無言でジュリナとリュセルのやりとりを聞いていたレオンハルトが、その言葉を聞いた途端、わずかに片眉を上げて言った。
「なるほど。絵がすり替わってしまったのか」
レオンハルトの言葉を聞いたジュリナは、右手親指を立てて派出にウインクをする。
「ビンゴ!」
その反応に、リュセルは軽くコケた。
「もしや、その合い席になった者が神官だったのではないか?」
なる程。それで、神殿が絡んでいるという訳か。
レオンハルトの先読みにリュセルが感心している横で、ジュリナは軽く指を鳴らした。
「惜しい! ちょっと、違うんだねぇ。合い席になったのは、アシェイラ神殿の神官になる為にディエラを旅立った神父の青年らしいからな」
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