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第十二章 月華の乙女
2-1 ジュリナの提案
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先程リュセルが熱演したような、レオンハルトのノンちゃん役を想像しながらジュリナが身悶えている横では、兄弟の軽い諍いが起こっていた。
「セフィ殿。セフィ殿が今日訪れたのは、アシェイラとディエラの国境近くにあるという街で確認された、例の邪気についての報告が主だったのだろう?」
「え? ええ、はい。そうです」
話をふられたセフィは、姿勢を正しながら、礼儀正しく返事を返す。
「レオンッ」
「駄目だ」
リュセルの言葉を聞くことなく、レオンハルトはそれを拒否した。
「しかし、お前一人で行くなど……。女神の剣が必要な事態になったら、どうするつもりだ!?」
聖なる力。創世の女神レイデュークの力の一柱。
邪気を斬り裂き、繋がり自体を絶つ役割を持つ女神の剣は、剣鍵なしで解放して使用する事は、使い手であるレオンハルトでも出来ない。
軽い邪気程度なら、女神の宝がなくとも女神の子供の持つ浄化能力で消す事は可能だ。しかし、問題は邪気自体が強く、広範囲に広がっている場合。ましてや邪鬼にでもなっていたら、女神の宝の解放なくして浄化を成し遂げる事など不可能だろう。
それ故にリュセルは、今回の浄化任務に関しても、いつものように自分も同行すると再三言い続けていると言うのに……。
「今回同行する事は許さん」
レオンハルトの答えは、変わらなかったのだ。いつも冷静で、物事を客観的に見据え、絶対に公私混同しないレオンハルトにしては、珍しい判断だった。
「いくら具合が良くなったとはいえ、剣と同化するという事は、肉体的にも精神的にも負荷が生じるという事だ。今の状態のお前を連れて行く事は絶対に出来んよ」
「しかし、レオンッ」
この、わからずやが!
リュセルのそんな内心の叫びが聞こえるようなやりとりだ。
こんな風に、ここ最近、二人は顔を合わせると、浄化任務の件で諍いを繰り返していた。
かなり大きいと報告された邪気の浄化任務に、リュセルの心身を慮ったレオンハルトは、今回はリュセル(剣鍵)なしで任務にあたろうとし、それを知り、大きな邪気相手という事もあり、兄の事が心配なリュセルは、自分も絶対に行くと言い張る。
いつもは、多少のやんちゃはしても、兄の命令には必ず従ってきていたリュセルだったが、兄自身の命がかかっている今回の事では頑固に譲らなかったのだ。
そんな訳で、この件に関しては、堂々巡りを繰り返していた。
「この事で、これ以上お前と口論するつもりはない。これより準備を進め、件の街に私一人で出向く準備を進める事をアルターコート神官とも話し終えたのだよ」
その言葉を聞いた途端、リュセルの銀の瞳がセフィの方へと向けられる。
「セフィ殿!?」
口調と声、気配で、リュセルに責められている事を悟ったセフィは、剣主と剣鍵、レオンハルトとリュセル、共に女神の子供であり、神官として仕えねばならぬ尊き二人の間に挟まれ、どちらの味方をすれば良いのかわかず、ただオロオロとするしかない。
「は……、は、は、はははい!」
「どうして、そんな無茶を許すんだ!?」
リュセルの非難の声を聞き、セフィは額に汗をダラダラと流す。
「え、え、えっと、あの……、す、すみません」
「リュセル、もう決まった事なのだ。聞きわけなさい」
レオンハルトの言い含めるような言葉に対し、リュセルは言葉をぐっと詰まらせて俯く。
本当は、分かっていた。長くはないが、決して短くない期間、床に伏せていた自分の今の体では、長旅は不可能だ。その上、女神の剣と同化する事など……、出来るかもしれないが、大きな体の負担になるだろう。
レオンハルトの言う事は正しい。兄一人で行く事が、今回の事では最善の選択なのだ。でも……。
そんな時、俯いたまま不安そうに瞳を翳らせるリュセルを隣で見ていたジュリナが大きなため息をついた。
「馬鹿兄弟。だから、言っただろう? 少しは頼れってさ」
「え?」
「…………?」
リュセルの不思議そうな顔と怪訝そうなレオンハルトの視線が、同時にジュリナに向けられる。
「その浄化任務、私達が代行で行ってやるよ。場所も、ディエラとアシェイラの国境近くじゃ、ディエラが無関係という訳でもないしね」
あっさりとしたジュリナの言葉を受け、レオンハルトは眉をひそめ、言い返す。
「しかし、ジュリナ」
「リュセル帰還前は、よくアシェイラ内で発生した大きな邪気の浄化任務はふってきていたじゃないか。今更何を遠慮してるんだよ」
確かに、リュセル(剣鍵)という半身がいなかった過去のレオンハルトは、女神の剣を使う事が出来ずにいたので、大きな邪気や強力な邪鬼が関わっているとされる浄化任務は、ディエラのジュリナとティアラやサンジェイラのローウェンとアルティス達に代行してもらっていたのだが。
「お前は真面目過ぎるんだよ。いくらリュセルが帰還して、国内の浄化はお前達が担うのが当然だといっても、当のリュセルが病み上がりじゃ仕方ないだろうが。だからと言って、お前一人で結構な大きさらしい邪気相手に立ち向かうのも危険過ぎる。リュセルの不安も察してやれ」
「…………」
無言のまま自分を見つめるレオンハルトに、ジュリナは意地の悪い笑い方をした。
「ま~ま~、今回は年上の(強調)、このジュリナお姉様に任せとけよ」
二十五歳になったばかりのジュリナは、一歳年下であるレオンハルトに対して姉貴風を吹かせて揶揄う。
「後、たった一か月の事だろう?」
当然、憮然とした答えが返された。
「それでも、今現在は私の方が年上だよ。年上の言う事は大人しく聞いておけ。今回の任務は、私達が代行する。これは決定だ。いいな、レオンハルト」
いつものように軽い口調だが、真剣な表情をしてそう言ったジュリナに、ようやく頑なだったレオンハルトの決定が覆る。
「分かった。よろしく頼む」
「ああ、任せとけ」
淡々とだが返された言葉にジュリナが二カッと笑い、レオンハルトは同胞であり、戦友、そしてかけがえのない幼なじみの気遣いに感謝すると共に小さく笑った。
レオンハルトと対等に渡り合えるジュリナだからこそ、出来た説得の仕方だったと言えよう。ジュリナのように兄と対等になるのを目標とするリュセルからすると、それはとても羨ましい光景でもあったのだ。
(俺では、まだまだだという事か)
リュセルが諦め交じりにそんな事を考えていると、ジュリナがそんなリュセルの頭を羽がい締めにした。
「な~に、不満そうな顔してるんだよ。お前の愛しのお兄様は、一人で戦地に旅立たなくてよくなったんだよ。少しはお喜びよ」
そう言いながらも、リュセルの耳元でささやく。
「お前が私のようになる必要はないのさ。お前はお前で、こいつを支えている事に変わりはないのだからね。人には役割があるって事だよ」
自分の内心の思いに気づいたようなその言葉にリュセルがぎょっとして顔を上げると、ジュリナは苦笑して、妹の婚約者の銀糸の髪をクシャクシャに撫でつけた。
「まったく、世話がかかるねぇ。お前達は」
そんな女神の子供三人のやり取りを、セフィが暖かな表情で聞いていた。それは、まるで神子達の絆の深さを見せつけられたようだったのだ。
「セフィ殿。セフィ殿が今日訪れたのは、アシェイラとディエラの国境近くにあるという街で確認された、例の邪気についての報告が主だったのだろう?」
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邪気を斬り裂き、繋がり自体を絶つ役割を持つ女神の剣は、剣鍵なしで解放して使用する事は、使い手であるレオンハルトでも出来ない。
軽い邪気程度なら、女神の宝がなくとも女神の子供の持つ浄化能力で消す事は可能だ。しかし、問題は邪気自体が強く、広範囲に広がっている場合。ましてや邪鬼にでもなっていたら、女神の宝の解放なくして浄化を成し遂げる事など不可能だろう。
それ故にリュセルは、今回の浄化任務に関しても、いつものように自分も同行すると再三言い続けていると言うのに……。
「今回同行する事は許さん」
レオンハルトの答えは、変わらなかったのだ。いつも冷静で、物事を客観的に見据え、絶対に公私混同しないレオンハルトにしては、珍しい判断だった。
「いくら具合が良くなったとはいえ、剣と同化するという事は、肉体的にも精神的にも負荷が生じるという事だ。今の状態のお前を連れて行く事は絶対に出来んよ」
「しかし、レオンッ」
この、わからずやが!
リュセルのそんな内心の叫びが聞こえるようなやりとりだ。
こんな風に、ここ最近、二人は顔を合わせると、浄化任務の件で諍いを繰り返していた。
かなり大きいと報告された邪気の浄化任務に、リュセルの心身を慮ったレオンハルトは、今回はリュセル(剣鍵)なしで任務にあたろうとし、それを知り、大きな邪気相手という事もあり、兄の事が心配なリュセルは、自分も絶対に行くと言い張る。
いつもは、多少のやんちゃはしても、兄の命令には必ず従ってきていたリュセルだったが、兄自身の命がかかっている今回の事では頑固に譲らなかったのだ。
そんな訳で、この件に関しては、堂々巡りを繰り返していた。
「この事で、これ以上お前と口論するつもりはない。これより準備を進め、件の街に私一人で出向く準備を進める事をアルターコート神官とも話し終えたのだよ」
その言葉を聞いた途端、リュセルの銀の瞳がセフィの方へと向けられる。
「セフィ殿!?」
口調と声、気配で、リュセルに責められている事を悟ったセフィは、剣主と剣鍵、レオンハルトとリュセル、共に女神の子供であり、神官として仕えねばならぬ尊き二人の間に挟まれ、どちらの味方をすれば良いのかわかず、ただオロオロとするしかない。
「は……、は、は、はははい!」
「どうして、そんな無茶を許すんだ!?」
リュセルの非難の声を聞き、セフィは額に汗をダラダラと流す。
「え、え、えっと、あの……、す、すみません」
「リュセル、もう決まった事なのだ。聞きわけなさい」
レオンハルトの言い含めるような言葉に対し、リュセルは言葉をぐっと詰まらせて俯く。
本当は、分かっていた。長くはないが、決して短くない期間、床に伏せていた自分の今の体では、長旅は不可能だ。その上、女神の剣と同化する事など……、出来るかもしれないが、大きな体の負担になるだろう。
レオンハルトの言う事は正しい。兄一人で行く事が、今回の事では最善の選択なのだ。でも……。
そんな時、俯いたまま不安そうに瞳を翳らせるリュセルを隣で見ていたジュリナが大きなため息をついた。
「馬鹿兄弟。だから、言っただろう? 少しは頼れってさ」
「え?」
「…………?」
リュセルの不思議そうな顔と怪訝そうなレオンハルトの視線が、同時にジュリナに向けられる。
「その浄化任務、私達が代行で行ってやるよ。場所も、ディエラとアシェイラの国境近くじゃ、ディエラが無関係という訳でもないしね」
あっさりとしたジュリナの言葉を受け、レオンハルトは眉をひそめ、言い返す。
「しかし、ジュリナ」
「リュセル帰還前は、よくアシェイラ内で発生した大きな邪気の浄化任務はふってきていたじゃないか。今更何を遠慮してるんだよ」
確かに、リュセル(剣鍵)という半身がいなかった過去のレオンハルトは、女神の剣を使う事が出来ずにいたので、大きな邪気や強力な邪鬼が関わっているとされる浄化任務は、ディエラのジュリナとティアラやサンジェイラのローウェンとアルティス達に代行してもらっていたのだが。
「お前は真面目過ぎるんだよ。いくらリュセルが帰還して、国内の浄化はお前達が担うのが当然だといっても、当のリュセルが病み上がりじゃ仕方ないだろうが。だからと言って、お前一人で結構な大きさらしい邪気相手に立ち向かうのも危険過ぎる。リュセルの不安も察してやれ」
「…………」
無言のまま自分を見つめるレオンハルトに、ジュリナは意地の悪い笑い方をした。
「ま~ま~、今回は年上の(強調)、このジュリナお姉様に任せとけよ」
二十五歳になったばかりのジュリナは、一歳年下であるレオンハルトに対して姉貴風を吹かせて揶揄う。
「後、たった一か月の事だろう?」
当然、憮然とした答えが返された。
「それでも、今現在は私の方が年上だよ。年上の言う事は大人しく聞いておけ。今回の任務は、私達が代行する。これは決定だ。いいな、レオンハルト」
いつものように軽い口調だが、真剣な表情をしてそう言ったジュリナに、ようやく頑なだったレオンハルトの決定が覆る。
「分かった。よろしく頼む」
「ああ、任せとけ」
淡々とだが返された言葉にジュリナが二カッと笑い、レオンハルトは同胞であり、戦友、そしてかけがえのない幼なじみの気遣いに感謝すると共に小さく笑った。
レオンハルトと対等に渡り合えるジュリナだからこそ、出来た説得の仕方だったと言えよう。ジュリナのように兄と対等になるのを目標とするリュセルからすると、それはとても羨ましい光景でもあったのだ。
(俺では、まだまだだという事か)
リュセルが諦め交じりにそんな事を考えていると、ジュリナがそんなリュセルの頭を羽がい締めにした。
「な~に、不満そうな顔してるんだよ。お前の愛しのお兄様は、一人で戦地に旅立たなくてよくなったんだよ。少しはお喜びよ」
そう言いながらも、リュセルの耳元でささやく。
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