【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十二章 月華の乙女

4-2 クセ強なアシェイラ神殿の双璧

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「そ、そうなのか?」

 引きつりながら、とりあえずリュセルは頷いた。そして気になった事を口にする。

「あの、神官長を怒鳴りつけている赤髪の人は誰なんだ?」

 アシェイラ神殿の最高権力者に、ああも遠慮のない態度をとれる彼は一体何者なのか。

「ええ。あの方は……」

 セフィが説明しようとした時、ライサンの後ろ襟首をズルズルと引きずった裸足のルークが、立ちつくす三人に気づき近づいてきた。

「騒がしくてすまなかったな、アルターコート」

「いえ、ウインター神官長補佐も毎度大変ですねぇ」

 不機嫌そうな顔のルークに向かい、セフィは気遣うようにそう言う。それに無言で頷くと、ルークはセフィの後ろの新人二人に話しかけた。

「君達がアルターコート付きになった新人か?」

 先程ライサンを怒鳴りつけていた時とは完全にトーンが違う。ぶきらっぼうだが優しい声音だ。

「はい」

 リュセルが頷くと、セフィが目の前の赤髪の青年の紹介をする。

「え……えっと、クマキチ神官、こちらの方はルーク・ウインター神官長補佐。この支部でセリクス神官長の次に偉い方ですよ」

 No1とNo2がこんなんで大丈夫か? この神殿……。気づけば、リュセルは本気でこの支部の心配をしていた。

「…………」

 一方のレオンハルトは無言のまま、にこにことしながらルークに引っ張られているライサンをじっと見つめていた。

「レオニュージョ・クマキチ 二十四歳と、リューイ・クマキチ 十八歳。兄弟か。…………それにしても、変わった家名だな。クマキチ?」

 セフィの紹介により、頭の中に組み入れていた今年の新人リスト内から二人の名前を探り出したルークは、ライサンの後ろ襟を掴んだままそう言った。

(あああああ~、またしても不審に思われている~~っ! ……無理もないですが)

 上司の声音から違和感を感じ取ったセフィは、ハラハラしてしまう。すべては、自分達の偽名を奇妙奇天烈なものにしたリュセルの所為なのだが。

「セイントクロスの女神の眠りをお守りする為。神子様方を守護し、その使命の手助けとなる為。その為に俺達は在る。修行に励めよ、クマキチ神官」

 厳かな声でそう告げるこの赤髪の青年神官の方こそ、神官にしては粗野な物言いを抜かせば、神官長らしいのかもしれない。その胸中にあるのは、アシェイラ支部の統括と世界の安寧、そして、女神への祈りのみなのだろう。

(でも、そんなんで人生楽しいのか?)

 まあ、神官なのだから、人生を楽しむという概念はないのかもしれないが。

 今までリュセルが交流してきた神官はセフィだけだったので、こういう神官らしい神官を前にすると、なんだかその生き方が窮屈に思えてならなかった。黒猫ノンちゃんシリーズを愛読書とするなど、セフィは戒律に厳しく禁欲的な神官にしては型破りなお茶目なところがあり、元神父という経歴から、一般の人と考え方が近いものがある。
 しかし、神殿に上がる神官達は、本来、一般人とは一線を引く神の守護者なのだ。ルーク・ウインターは、そんな神官の在り方をその身で具現しているような……、そんな感じであった。

「ではな、クマキチ神官、アルターコート。オラッ、とっとと行くぞ。キリキリ歩けセリクス!」

「はいはい」

 逃げ出さぬようにと右手首を掴まれたライサンは、何故かどこか嬉しそうだ。

「では、明日の、合同の”祈りの儀”にて、またお会いしましょうね」

 慈悲深い聖者らしい微笑を三人に向けたのを最後に、ライサンはルークに引っ張られてその場を後にした。


「なんだったんだ?」

 リュセルは二人の姿が見えなくなると、呆然とそう呟く。

「あれでも史上最年少で神官長に抜擢されたカリスマ神官と、その補佐役なのです。先程は……、その、あのような醜態をさらしていましたが、本当は神官達のほとんどが憧れを抱く程有能な方々なのですよ」

 リュセルの言葉を聞いたセフィが、慌てて上司二人のフォローを柔らかな声で入れる。

「そうなのか」

「それにたぶん、セリクス神官長は、剣鍵……いえいえ、リューイ様と合うと思いますよ」

「先輩が後輩に様をつけるのはおかしいだろう? リューイでいいぞ。クマキチの方じゃレオン……じゃない、レオニュージョと区別がつかないしな」

 リュセルの最もなその指摘に、セフィは少し間を空けて、とても呼びにくそうに呼ぶ。

「え、えと……そうですね。……あの……では…………リューイ神官」

「神官か。なんだか、こそばゆいな。……それで? 俺と神官長が気が合うって、どういう意味だ?」

 新鮮な響きの呼ばれ方に少し照れながらリュセルが話題を戻すと、セフィはその質問に答えた。

「はい、セリクス神官長はかなりの黒猫ノンちゃんマニアでして……。前にも、セリクス神官長の指示で最新刊を手に入れる為、発売日に行列に並んだ事があるのですよ。結局ウインター神官長補佐に感づかれて並んだはいいのですが、すぐ連れ戻されてしまいましたが」

 あの時は悲しかったです。と苦笑しながら話すセフィに促されて再び歩き出したリュセルは、下がってしまっていたライサンへの評価がまた少し上昇する。

「な……、なんだと。こんな場所に、俺の同士がいたとは」

 こんな、閉鎖的で娯楽の一つもない場所なだけに、嬉しい驚きである。

「よく、夜、お休み前に黒猫ノンちゃんシリーズの朗読会を私室で開いてくれて、目が見えない私の為に本を読んでくれるのです。ふふ、楽しいですよ」

「ななな、なんだと! セフィ殿……いやいや、アルターコート神官、是非俺もそれに参加させてくれ!」

 黒猫ノンちゃんシリーズを愛する同志達の夜中の集まり(二人だけのようだが)。ものすごく興味をそそられる。

 是非、参加したい!

 リュセルは自分が神殿内に潜入した本来の目的を忘れて、ライサンの自室で行われるという”黒猫ノンちゃん朗読会”に胸を高鳴らせ、セフィの両手を強く握りしめた。

「リュ……リューイ神官」

 一方のセフィは、至上の存在とされる女神の息子に手を握られて頬を赤くする。

「頼むよ、アルターコート」

「こ、こここここは、神殿です! そそそそんな声で誘惑しないで下さい!」

 女性をメロメロにするという、聞いた事もないような甘い美声でささやかれ、セフィはさらに顔を真赤にしてしまう。

 堕ちた。自分が女だったら、完全に堕ちていた。恐るべし、女性キラー、フェロモン王子!
 しかし、そんな肩書きは、禁欲を戒律の一つに定めている神殿内では、風紀を乱す原因になるだけである。

「レオニュージョ神官がいいとおっしゃったら、今度行く時お誘いしましょう」

 何故か女性相手の時のように誘惑する気満々のリュセルに対し、セフィは苦し紛れに彼が最も愛すると同時に、最も恐れている最強のお兄様の偽名を口にするのがやっとだ。

 兄がいいと許可したら、尊敬する心の師、セフィと、もう一人の同士、セリクス神官長と黒猫朗読会を開ける。ノンちゃんに興味のないティルやユージン、レオンハルト達を無理矢理巻き込んでやる、いつもの”なりきり朗読会”とは一味違う興奮が味わえる事だろう。リュセルは厳格な兄、レオンハルトの許しを得る為に、意を決してレオンハルトに目を向けた。

「レオ……レオニュージョ!」

 微妙な兄の偽名を呼ぶ。

 しかし、当のレオンハルトは、じっと厳しい目をルークとライサンが去った方向に向けて、何か考え事をしているようだった。無言のまま顎に右手をかけ、廊下の奥を見つめる兄の姿に、リュセルは眉をひそめる。

「レオニュージョ?」

「その呼び方は止めなさい、リューイ」

 ようやく意識を自分の方に向けた兄の駄目出しに、リュセルはムッとして言い返す。

「仕方ないだろう? 今のお前の名前なんだからな」

 その言葉に、レオンハルトは小さくため息をつく。

「では、この前のように、私の事は兄と呼べばよいではないか」

「え?」

 瞬間、リュセルは固まる。

 少し前の事。別の場所に同じように変装して潜入した事があったのだが、その時、リュセルはレオンハルトの事を呼び慣れぬ呼び方で呼んでいた事があった。(銀色の子供参照)

 別に、何てことない呼び方だ。弟が兄を呼ぶのに、よく使われる呼び方。しかし、リュセルがその呼び方を使うのは、夜の情事の際が主なのだ。
 兄に熟れきった自分の体を暴かれ、啼き喘ぎながら夢中で呼ぶ。その呼び方。それ故、平常時にその呼び方を使うのは、恥ずかしく思えてならない。

 しかし、そんな裏事情を知らないセフィは、雰囲気から困ってしまっているリュセルの様子を感じ取り、首を傾げた。

(何故、そんなに困っていらっしゃるのでしょうか)

 意味がわからん。

「ここ(神殿)では私の事は半身としてではなく、兄として呼びなさい。人目があるからね」

「あ、ああ。……………………に……兄さん」

 何故、そんなに恥じらう!?

 兄弟の会話を聞いていたセフィは、心の中でそうつっこみを入れる。

「……で? 神官長とアルターコート神官の行う、夜中の例の黒猫の本の朗読会に参加したいという話だったか?」

 聞いていなさそうでしっかりと二人の会話を聞いていたらしいレオンハルトの言葉に、リュセルは慌てて頷く。

「ああ」

 その銀の瞳に溢れる、決意の炎。

 しかし。

「駄目だよ」

 レオンハルトはにっこりと優しく麗しく微笑むと、スッパリと言い切った。


 ガガガガーーーーーーンッ!


「何故? どうしてだ!?」

 話は終わったとばかりにさっさと歩きだすレオンハルトを追いかけ、言い募るリュセルに一瞥寄こすと、彼は冷たい声で言った。

「ここに潜入した本来の目的は一体なんだい? リューイ」

 ギラリと睨まれたリュセルは、その厳しい琥珀の瞳から気まずそうに目を逸らし呟いた。

「げ……月華の乙女を見つける為です」

「分かっているのならいい。アルターコート神官、他の建物の案内を」

「は、はははい!」

 くそ~っと涙を呑むリュセルと、共に歩くレオンハルトに慌てて追いつくと、セフィはしばらく行動を共にする事になった剣主剣鍵兄弟への神殿内部の案内を再開させたのだった。


(ふん、とんだ茶番だ)


 そんな風に響く、本来の自分の内なる声を押し隠して……。
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