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第十二章 月華の乙女
5-2 兄の信頼
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それに気づいたレオンハルトは薄く笑うと、寝台の近くにある窓を開けた。
「…………」
気持ちの良い夜風が室内に入り込む。空に瞬く星々が美しい夜だった。半月を描く銀の色をした月の光が神聖的である。
(それにしても、おかしい)
そう考えながら、レオンハルトは琥珀色をした瞳を細める。
(何故、月華の乙女は出て来ない?)
普通なら、とっくに、自身の持つ絵画がとり違ってしまった事に気づくはずだ。そして気づいたその神官は申し出るはず。ディエラ王都の喫茶店で、自分の絵画を失くしたと。
絵を見れば、ディエラの人間ならすぐに気づくはずである。その繊細なタッチ、生き絵のような素晴らしさから、グレン・ケイフォスタンの絵である事に。それ程、誰にも真似出来ないのと同時に、誰にでも誰が描いたか分かるような人物画なのだ。グレン・ケイファスタンの絵画というのは。
それなのに、全然名乗り出て来ない。
(つまりは、その絵画が自分のものでないと知っても尚、何らかの理由により隠し持っている。という事か)
しかし、何の為に?
考えられるのは、二つ。
一つは金目的。グレン・ケイフォスタンの絵は高値で取引される。その才能が人間国宝級である為、現在その取引が認められているのは、ディエラ王家と数か所の美術館のみであるのだが、闇のルートを使えば売りさばく事は出来よう。しかし、ある意味、純粋培養的な境遇にいる元神父の神官に、そんな事が可能だろうか? 神への祈りにすべてを捧げてきた、神父や神官、巫女程、世間知らずな者はいないのだ。
あと一つ考えられる事は……
「絵の持つ魔力に魅了されて、手放せなくなったか」
グレン・ケイファスタンの神才と、女神の子供の美貌が合わさったあの絵は、見る者を圧倒し、魅了するだけの力を秘めている。
たった、九歳の少年(女装姿)の絵。しかしそれは、ただの子供の絵ではなく、リュセルの絵なのだ。月の女神の寵児と謳われた女神の息子の子供時代、それも女装姿の絵。息を呑む程可憐で、月の光のように儚げで美しく、妖精のように妖しい姫君を描いた……
それが、月華の乙女。
グレン・ケイフォスタンの渾身の作だ。
「何してるんだ?」
レオンハルトが窓の外を眺めながら、失せた絵画の行方について考えている間に湯浴みを終えたのか、湯浴み用の厚手の布を腰に巻いたままという姿のリュセルが、黄昏る兄を不審そうに眺めていた。
無防備に半裸を晒す弟にレオンハルトはため息をつくと、リュセルが肩にかけていたタオルでその銀糸の髪の水滴を拭った。
「まだ濡れているではないか」
自分の価値にまったく無頓着な弟を、昼間の間だけとはいえ自分の元から離すのは、ある意味無謀な挑戦なのかもしれない。神殿に潜入するに当たり、リュセルに再三レオンハルトの元を離れぬようにと言い含めていたカイルーズがこの事を知ったら、度肝を抜くだろう。
ー半身至上主義の兄上が潜入先でリュセルを傍から離すだって!? あ……明日は、空から血雨が降ってくるよ! キャッホーっ(喜)ー
ー何、喜んでるんですか! 第一、血雨って何です!? 縁起でもないっー
カイルーズとその腹心たるカイエのそんな会話が、どこからか聞こえてくるようだ。
出来る事なら自分もそうしたい。自分の目の届く範囲内に常にリュセルを置き、すべての危険から遠ざけ、守りたいというのが本音だ。今回の事でも、本当ならそうする事も可能である。しかし、それでは、自分もリュセルも現状より先に進み、成長する事は出来ないだろう。自分の腕の中に無理矢理に抱え込み、頑なに守り続ける事が決して正しい訳ではない。それを、レオンハルトは最近の経験から悟っていた。
リュセルの想いと、ジュリナの言葉を感じる内に。
そう……、人は、支え合って生きていくものだ。
前回の事件の折、ジュリナと離れていた間にティアラがたくましく成長したのと同じように、レオンハルトもまた精神的に成長していた。それは、まるで親鳥が雛を守るかのように、自分の絶対的な庇護対象として決めていたリュセルへの見方が、わずかながらも変化するものだった。
「レオン?」
子供扱いはいつものように変わらないのに、半身のその気持ちの変化を敏感に感じ取ったリュセルは、口調とは裏腹に、優しい微笑を浮かべているレオンハルトの顔を正面から見返しながら眉をしかめる。
「いや、なんでもないよ。早く夜着に着替えなさい。風邪をひく」
「? ああ」
最近、雰囲気がわずかに変わったレオンハルトを不思議に思いながらも、それは決して不快なものではなく、どちらかというと心地よいものだったので、リュセルはそれを深く追求しない事にする。
今までガッチリと掴まれていた腕を、不意に離されたような感覚。だからといって傍を離れるのではなく、自分を見守る暖かな眼差しを常に傍に感じる。その眼差しの主は、リュセルに危機が迫ったらすぐにでも手を差し伸べるだろう。己のすべてを投げ打ってでも。
そんな優しくも頼もしい兄の感情を無意識のうちに感じ取っていたリュセルは、瞳を鋭く光らせてレオンハルトに宣言した。
「レオン、新人神官達への聞きこみは俺にまかせるがいい」
せっかく得られた兄の信頼。答えられねば、男がすたる!
「ああ、頼りにしているよ」
そんな美女……ではなく、美兄の言葉に、リュセルの気分はさらに高揚する。(半裸のまま)
「男相手にどこまで通じるか分からないが、俺の魅力できっとイチコロだ。お前は何も心配しなくてもいい、レオン」
「…………」
顎に手をかけられて、まるで女性にするかのように優雅に顔を覗きこまれたレオンハルトは無言になった。
(……調子に乗せ過ぎたか)
そんな事を兄が考えているなど思いもしないリュセルは、信頼感をわずかなりとも得られたという嬉しさのあまり、浮かれきった気分のまま、何故か恋人に愛をささやくような口説き声で言った。
「レオン、お前のその麗しさにかけて、必ず月華の乙女の行方の情報を掴む事を誓う」
それを聞くと同時に、即座にレオンハルトは離していた腕を再びガッチリ捕える。
「夕食前に私の元に戻る事を決して忘れるな。戻らぬ場合は迎えに行くぞ。いいね、リュセル」
そう低い声で忠告すると、再び腕を離して傍で見守る体制に戻る。リュセルはそんな兄の言葉にぎこちなく頷く。
「わ……わわ、分かっている」
これだから、信頼されたくても、なかなかレオンハルトに信頼されないのである。
「ほら、いつまで裸でいるつもりだい? 早く夜着を着なさい」
その上、そんな言葉と共にクローゼットから出された夜着を着せつけられる。
あれ……?
(俺、レオンの信頼感を、得られたんだよな?)
夜着の釦を留めてもらいながら、今までと変わらぬ状況にリュセルは顔を引きつらせるしかなかった。
この二人が、レオンハルトとジュリナのような、互いの背を預けられるような対等の状態になるのはまだまだ先の事のようだ。
*****
そんな風にして急に始まったリュセルの神官ライフは、月華の乙女の絵画探索目的である事を除けば、それはそれは規則正しい健康的な生活の幕開けだった。
一日の始まりは、まず、他の神官達と同じように四刻に起床し、身支度を整えると同時に、セフィの後について大聖堂へと移動し、朝の祈りの儀を行う。
神官生活二日目の朝。
「皆さん、おはようございます」
美しいステンドグラスと、檀上に祀り上げられている、アシェイラ城の封印の間にあるのと同じ、剣を抱く女神像(もちろん剣はレプリカだ)が印象的な大聖堂。女神像を背にし、檀上に立つセリクス神官長の朝の挨拶の言葉に、集まった神官達が一斉に頭を下げる。
「本日も我らが大いなる母、セイントクロスの女神の眠りへの畏敬と祝福を込めて、朝の祈りを捧げましょう」
穏やかに紡がれるその声と威厳溢れる姿から、昨日ローラー靴で廊下を走り回っていた人物と同一人物である事が到底信じられない。
(なんだ? あの人は……。二重人格か?)
セフィの付き人として、兄と共に彼の後ろに控えながら、(通常の新人神官は別に定位置があるようだった)リュセルは白髪をした神官長の変貌ぶりに驚愕していた。
そんな風に神官長の責務を立派に果たしているライサンの後ろでは、補佐役のルーク・ウィンターがこれまた視線をわずかに伏せた姿で静かに立っている。
(昨日、鬼のような形相で靴を投げつけていた人……だよな?)
あんな紅い髪、そうはいないだろうから、見間違いようがない。
女神の髪の色とされるリュセルのような銀髪は、珍しいというよりも、いない。女神の子供以外に存在を確認される事はないのだ。そんなリュセルの銀髪程ではないだろうが、ルークの紅髪も十分珍しいものだった。
暗い場所では赤銅色に変化し、明るい場所では炎のように赤く目立つ。彼は背も高い為、更に目立つのだ。穏やかな草食動物風のライサンと違い、その眼差しはきつく鋭く、表情や動作からも神経質な様がよく見てとれた。上司であるライサンとは対極にいるような人物。真面目な堅物エリート。リュセルが観察するところの、ルーク・ウィンターに対するイメージはそんな感じだった。
「では、祈りを」
神官長とその補佐役をじっと観察していると、ライサンの言葉を合図に、その場にいた神官達が一斉にその場に両膝をつき、祈りの姿勢になる。
「リューイ」
レオンハルトの注意の言葉を聞くと、リュセルも慌ててその場に膝をついた。
リュセルが慣れない仕草で祈りの形に手を組むのを横目で見ると、同じように祈りを組んでいたレオンハルトは頭を下げたまま視線のみをわずかに上げる。
思った通り、檀上のライサンは、複雑そうな、何か言いたそうな視線を、レオンハルトとリュセルに向けていた。しかし、すぐに彼も、補佐役のルークと共に檀下の神官達に背を向け、女神像に向かって両膝をついて祈りの姿勢に入ったので、レオンハルトはライサンからすぐに視線を逸らした。
やはり、気づいている。
(ふっ、面白い)
さすがは最年少で神官長にまで上り詰めた男だという事か。
レオンハルトは変装眼鏡の下の瞳を細めると、頭を下げた姿勢のまま薄く笑ったのだった。
「…………」
気持ちの良い夜風が室内に入り込む。空に瞬く星々が美しい夜だった。半月を描く銀の色をした月の光が神聖的である。
(それにしても、おかしい)
そう考えながら、レオンハルトは琥珀色をした瞳を細める。
(何故、月華の乙女は出て来ない?)
普通なら、とっくに、自身の持つ絵画がとり違ってしまった事に気づくはずだ。そして気づいたその神官は申し出るはず。ディエラ王都の喫茶店で、自分の絵画を失くしたと。
絵を見れば、ディエラの人間ならすぐに気づくはずである。その繊細なタッチ、生き絵のような素晴らしさから、グレン・ケイフォスタンの絵である事に。それ程、誰にも真似出来ないのと同時に、誰にでも誰が描いたか分かるような人物画なのだ。グレン・ケイファスタンの絵画というのは。
それなのに、全然名乗り出て来ない。
(つまりは、その絵画が自分のものでないと知っても尚、何らかの理由により隠し持っている。という事か)
しかし、何の為に?
考えられるのは、二つ。
一つは金目的。グレン・ケイフォスタンの絵は高値で取引される。その才能が人間国宝級である為、現在その取引が認められているのは、ディエラ王家と数か所の美術館のみであるのだが、闇のルートを使えば売りさばく事は出来よう。しかし、ある意味、純粋培養的な境遇にいる元神父の神官に、そんな事が可能だろうか? 神への祈りにすべてを捧げてきた、神父や神官、巫女程、世間知らずな者はいないのだ。
あと一つ考えられる事は……
「絵の持つ魔力に魅了されて、手放せなくなったか」
グレン・ケイファスタンの神才と、女神の子供の美貌が合わさったあの絵は、見る者を圧倒し、魅了するだけの力を秘めている。
たった、九歳の少年(女装姿)の絵。しかしそれは、ただの子供の絵ではなく、リュセルの絵なのだ。月の女神の寵児と謳われた女神の息子の子供時代、それも女装姿の絵。息を呑む程可憐で、月の光のように儚げで美しく、妖精のように妖しい姫君を描いた……
それが、月華の乙女。
グレン・ケイフォスタンの渾身の作だ。
「何してるんだ?」
レオンハルトが窓の外を眺めながら、失せた絵画の行方について考えている間に湯浴みを終えたのか、湯浴み用の厚手の布を腰に巻いたままという姿のリュセルが、黄昏る兄を不審そうに眺めていた。
無防備に半裸を晒す弟にレオンハルトはため息をつくと、リュセルが肩にかけていたタオルでその銀糸の髪の水滴を拭った。
「まだ濡れているではないか」
自分の価値にまったく無頓着な弟を、昼間の間だけとはいえ自分の元から離すのは、ある意味無謀な挑戦なのかもしれない。神殿に潜入するに当たり、リュセルに再三レオンハルトの元を離れぬようにと言い含めていたカイルーズがこの事を知ったら、度肝を抜くだろう。
ー半身至上主義の兄上が潜入先でリュセルを傍から離すだって!? あ……明日は、空から血雨が降ってくるよ! キャッホーっ(喜)ー
ー何、喜んでるんですか! 第一、血雨って何です!? 縁起でもないっー
カイルーズとその腹心たるカイエのそんな会話が、どこからか聞こえてくるようだ。
出来る事なら自分もそうしたい。自分の目の届く範囲内に常にリュセルを置き、すべての危険から遠ざけ、守りたいというのが本音だ。今回の事でも、本当ならそうする事も可能である。しかし、それでは、自分もリュセルも現状より先に進み、成長する事は出来ないだろう。自分の腕の中に無理矢理に抱え込み、頑なに守り続ける事が決して正しい訳ではない。それを、レオンハルトは最近の経験から悟っていた。
リュセルの想いと、ジュリナの言葉を感じる内に。
そう……、人は、支え合って生きていくものだ。
前回の事件の折、ジュリナと離れていた間にティアラがたくましく成長したのと同じように、レオンハルトもまた精神的に成長していた。それは、まるで親鳥が雛を守るかのように、自分の絶対的な庇護対象として決めていたリュセルへの見方が、わずかながらも変化するものだった。
「レオン?」
子供扱いはいつものように変わらないのに、半身のその気持ちの変化を敏感に感じ取ったリュセルは、口調とは裏腹に、優しい微笑を浮かべているレオンハルトの顔を正面から見返しながら眉をしかめる。
「いや、なんでもないよ。早く夜着に着替えなさい。風邪をひく」
「? ああ」
最近、雰囲気がわずかに変わったレオンハルトを不思議に思いながらも、それは決して不快なものではなく、どちらかというと心地よいものだったので、リュセルはそれを深く追求しない事にする。
今までガッチリと掴まれていた腕を、不意に離されたような感覚。だからといって傍を離れるのではなく、自分を見守る暖かな眼差しを常に傍に感じる。その眼差しの主は、リュセルに危機が迫ったらすぐにでも手を差し伸べるだろう。己のすべてを投げ打ってでも。
そんな優しくも頼もしい兄の感情を無意識のうちに感じ取っていたリュセルは、瞳を鋭く光らせてレオンハルトに宣言した。
「レオン、新人神官達への聞きこみは俺にまかせるがいい」
せっかく得られた兄の信頼。答えられねば、男がすたる!
「ああ、頼りにしているよ」
そんな美女……ではなく、美兄の言葉に、リュセルの気分はさらに高揚する。(半裸のまま)
「男相手にどこまで通じるか分からないが、俺の魅力できっとイチコロだ。お前は何も心配しなくてもいい、レオン」
「…………」
顎に手をかけられて、まるで女性にするかのように優雅に顔を覗きこまれたレオンハルトは無言になった。
(……調子に乗せ過ぎたか)
そんな事を兄が考えているなど思いもしないリュセルは、信頼感をわずかなりとも得られたという嬉しさのあまり、浮かれきった気分のまま、何故か恋人に愛をささやくような口説き声で言った。
「レオン、お前のその麗しさにかけて、必ず月華の乙女の行方の情報を掴む事を誓う」
それを聞くと同時に、即座にレオンハルトは離していた腕を再びガッチリ捕える。
「夕食前に私の元に戻る事を決して忘れるな。戻らぬ場合は迎えに行くぞ。いいね、リュセル」
そう低い声で忠告すると、再び腕を離して傍で見守る体制に戻る。リュセルはそんな兄の言葉にぎこちなく頷く。
「わ……わわ、分かっている」
これだから、信頼されたくても、なかなかレオンハルトに信頼されないのである。
「ほら、いつまで裸でいるつもりだい? 早く夜着を着なさい」
その上、そんな言葉と共にクローゼットから出された夜着を着せつけられる。
あれ……?
(俺、レオンの信頼感を、得られたんだよな?)
夜着の釦を留めてもらいながら、今までと変わらぬ状況にリュセルは顔を引きつらせるしかなかった。
この二人が、レオンハルトとジュリナのような、互いの背を預けられるような対等の状態になるのはまだまだ先の事のようだ。
*****
そんな風にして急に始まったリュセルの神官ライフは、月華の乙女の絵画探索目的である事を除けば、それはそれは規則正しい健康的な生活の幕開けだった。
一日の始まりは、まず、他の神官達と同じように四刻に起床し、身支度を整えると同時に、セフィの後について大聖堂へと移動し、朝の祈りの儀を行う。
神官生活二日目の朝。
「皆さん、おはようございます」
美しいステンドグラスと、檀上に祀り上げられている、アシェイラ城の封印の間にあるのと同じ、剣を抱く女神像(もちろん剣はレプリカだ)が印象的な大聖堂。女神像を背にし、檀上に立つセリクス神官長の朝の挨拶の言葉に、集まった神官達が一斉に頭を下げる。
「本日も我らが大いなる母、セイントクロスの女神の眠りへの畏敬と祝福を込めて、朝の祈りを捧げましょう」
穏やかに紡がれるその声と威厳溢れる姿から、昨日ローラー靴で廊下を走り回っていた人物と同一人物である事が到底信じられない。
(なんだ? あの人は……。二重人格か?)
セフィの付き人として、兄と共に彼の後ろに控えながら、(通常の新人神官は別に定位置があるようだった)リュセルは白髪をした神官長の変貌ぶりに驚愕していた。
そんな風に神官長の責務を立派に果たしているライサンの後ろでは、補佐役のルーク・ウィンターがこれまた視線をわずかに伏せた姿で静かに立っている。
(昨日、鬼のような形相で靴を投げつけていた人……だよな?)
あんな紅い髪、そうはいないだろうから、見間違いようがない。
女神の髪の色とされるリュセルのような銀髪は、珍しいというよりも、いない。女神の子供以外に存在を確認される事はないのだ。そんなリュセルの銀髪程ではないだろうが、ルークの紅髪も十分珍しいものだった。
暗い場所では赤銅色に変化し、明るい場所では炎のように赤く目立つ。彼は背も高い為、更に目立つのだ。穏やかな草食動物風のライサンと違い、その眼差しはきつく鋭く、表情や動作からも神経質な様がよく見てとれた。上司であるライサンとは対極にいるような人物。真面目な堅物エリート。リュセルが観察するところの、ルーク・ウィンターに対するイメージはそんな感じだった。
「では、祈りを」
神官長とその補佐役をじっと観察していると、ライサンの言葉を合図に、その場にいた神官達が一斉にその場に両膝をつき、祈りの姿勢になる。
「リューイ」
レオンハルトの注意の言葉を聞くと、リュセルも慌ててその場に膝をついた。
リュセルが慣れない仕草で祈りの形に手を組むのを横目で見ると、同じように祈りを組んでいたレオンハルトは頭を下げたまま視線のみをわずかに上げる。
思った通り、檀上のライサンは、複雑そうな、何か言いたそうな視線を、レオンハルトとリュセルに向けていた。しかし、すぐに彼も、補佐役のルークと共に檀下の神官達に背を向け、女神像に向かって両膝をついて祈りの姿勢に入ったので、レオンハルトはライサンからすぐに視線を逸らした。
やはり、気づいている。
(ふっ、面白い)
さすがは最年少で神官長にまで上り詰めた男だという事か。
レオンハルトは変装眼鏡の下の瞳を細めると、頭を下げた姿勢のまま薄く笑ったのだった。
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