【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十二章 月華の乙女

8-2 兄のいない夜

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 件の黒猫対談会。


 リュセルの願望を叶える機会が巡ってきたのは、自室に戻った三人が、本日の報告と明日からの打ち合わせをしていた時だった。

「それでは俺は、その二人の身辺調査と接触を図ればいいんだな」

 例の月華の乙女保持者の容疑のかかった二人の神官の姿絵を見ながら、リュセルは小さく頷く。二人とも、これといった特徴のない地味な容姿の青年だ。黒髪黒瞳。

(ジュリナ殿の言っていた特徴、そのままだな)

 でも、一体どっちなのだろうか。どちらが絵を持っているのか。

「ここに二人の個人データがありますので、目を通して下さいね」

 家族の情報や、過去の経歴の記載された資料を渡される。

(例の個人データの載った資料ね)

 ふむふむ

 それを、流し読みしていた時だった。

 コンコン

 小さなノックの音が響いたのは……。

「!?」

「……!」

 別に悪い事をしていた訳ではないのに、リュセルとセフィの体がビクリと大きく同時に震える。

「…………」

 ガタッ

 ただ一人、冷静なレオンハルトが無言のまま扉の方へと近づき、応答した。

「はい」

「あ、すみません。夜遅くに……。レオニュージョ・クマキチ神官宛に速達が届いています」

「速達?」

 予想外の言葉を聞き、眉をひそめたレオンハルトは扉を開け、手紙の配達当番の神官から手紙を受け取る。

「速達って、どこからだ?」

「王宮からのようだ」

 神殿に潜入中のレオンハルトの事を慮ってか、王家の紋入りではないが、確かにその筆跡はカイルーズのものであった。

「…………リュセル、私は一度城に戻るよ」

 手紙を黙読していたレオンハルトは、不意にそう言ってリュセルを驚かせた。

「は!? な、何かあったのか?」

「騎士団の方で少し問題が生じたらしい。私でないと事態の収拾がつかないと書かれている」

 騎士団で?

「あそこはレオンの信望者の集まりみたいな所だからな。カイルーズには荷が重いのは仕方ないかもな」

 何せ騎士団のトップ、総帥のフェイラン自体がレオンハルトの強力な信望者なのだ。

「明日の朝には戻れると思うが、いい子にしているんだよ」

「へいへい」

 いつもの子供扱いの台詞に、リュセルは辟易しながらも適当に返事を返す。

「では、アルターコート神官、リュセルを頼むよ」

「はい、剣主様もお気をつけて」

 セフィもにっこり笑ってそう答える。

 そうして、部屋を出て別れる前に、いつものように口づけを交わそうと顔を寄せてきたレオンハルトに対し、リュセルは慌てて言った。

「レオン、ここでそれはなしのはずだぞ」

「そうだったね」

 弟の肩を押さえて、目を閉じかけていたレオンハルトは、表情を変えぬまま、体を離す。

 離れていった体の熱が少し寂しい。まだここに来てたった一日足らずしか経っていないのに……。

(もう欲求不満になってしまいそうだ)

 遠ざかって行く広い背中を見送りながら、リュセルはため息をついた。







「では、私はそろそろ……」

 休む為に自室に戻ろうと立ち上がりかけたセフィは、自分の神官服の袖を掴むリュセルに気づき、首を傾げる。

「剣鍵様?」

「セフィ殿、わかっているか!? これは、チャンスだ!」

 チャンス…………? 一体、何の????

 セフィの頭の中は、?マークでいっぱいになる。

「鬼(レオン)の居ぬ間に、今夜は大いにノンちゃんについて語り明かそうじゃないか!」

「えええええ~~~~!?」

 セフィの驚きの声を聞いたリュセルは、不満そうな顔になる。

「なんだ? 嫌なのか?」

「い、嫌というのではありませんが~」

 厳格な兄のいない間に、羽を伸ばす気満々なリュセルに、巻き込まれたセフィは困ってしまう。

「今夜はこのまま泊まって行け。いいな」

 女性が聞いたらクラクラしてしまうような甘い声での命令に、セフィは逆らいきれなかったのだった。



 そうして、始まったのが

「そうですねぇ、私が一番好きな巻は……やはり、第五巻の”黒猫ノンちゃんと失くした手紙”でしょうか。必ず戻ると言い残し、旅立った恋人を待ち続けるノンちゃんの姉、茶犬のルイーズ。しかし、その恋人は旅先で重い病にかかり、病死していた。病の床で必死に書かれた手紙。それは、ルイーズへの愛を綴った手紙、最後の恋文(ラブレター)。諸々の事情で紛失してしまったその手紙を探し出し、ルイーズに届ける話です」

 セフィのその話を聞いたリュセルは、興奮気味に頷く。

「俺も、あの話は本当に素晴らしいと思う。ルイーズの切ない恋心と、死んだ恋人、黒犬のジャクソンの手紙が本当に泣けるんだ。それを探し出して、ボロボロになりながらも、大好きな姉の為に必死に届けようとするノンちゃんの姿……本当に涙が止まらない話だよな。素晴らしい!」

 既に湯浴みを終え、夜着姿になった二人は、寝台に並んで座りながら、熱く語り合っていた。

「剣鍵様こそ、好きな巻はどれなのですか?」

 セフィの問いに、リュセルは両腕を組んで悩みこむ。

「俺? 俺か……? どの巻も素晴らしいからな。う~~~~~~ん」

「そうですよねぇ。私は他にも、六巻の”黒猫ノンちゃんの素敵な誕生日”も好きですよ。ほのぼのしていて癒されます」

 セフィの言葉に、再びリュセルは頷く。

「なかなかいい線をつくな、セフィ殿は。俺はやはり、十六巻から最新の十八巻にかけたノンちゃんとノンちゃんの実兄、闇の魔王たるラグドールとの確執と、ノンちゃんの出生の秘密を描いた話かな」

 リュセルの返答を聞いたセフィは、納得したように何度も頷く。

「十六巻”黒猫ノンちゃんと闇の魔王”、十七巻”黒猫ノンちゃんと忘れ得ぬ記憶”、十八巻”黒猫ノンちゃんの秘密の扉”。多分、次回作では、とうとうラグドールとの決着が描かれるんじゃないでしょうかね」

 次回作の十九巻の話をしているセフィに、リュセルも同じように思っていた為、嬉しく思う。

「セフィ殿もそう思うか。実は、俺もそうだと思うんだ。ノンちゃんと同じ、失われた古の王国の王子だった黒猫のラグドール。奴の本当の目的が明かされるような気がする。俺はそんなに悪い奴だとは思えないのだがな。敵対しつつも、何気によくノンちゃんを助けてるし」

「そうですね。まだ、ラグドールの正体の明かされていない、初登場時の十二巻でも助けてますしね」

 セフィの同意する言葉を聞き、リュセルは目をキラキラさせる。

「”黒猫ノンちゃんと空の街”。あれも、いい話だよなぁ」

「その話は、セリクス神官長が好きな巻なのですよ」

 ライサンも相当コアなノンちゃんマニアという事か。
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