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第十二章 月華の乙女
11-2 神官長補佐の不調②
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リュセルは耳元で聞こえる暗い呟き声を、顔を引きつらせつつも無視していた。
「全部、あれの所為だ…………。あれが悪い。あんなもの受け取らなければ良かった。……あんな……あんな」
あれ?
「あれとは何ですか? ウインター神官長補佐」
ルークの言葉の中から見つけたものに興味を覚え、リュセルはほぼ何も考えずにそう聞いた。
その瞬間
「あれ。あれとは……あれ……あれあれあれ」
いきなり歩みを止めたかと思ったら、顔を真赤にしてぶるぶると震え始めたルークにリュセルはぎょっとする。
「は? え? ちょ、ちょちょっと、お、落ち着いて下さい!」
「あ~~ッ、俺は駄目人間だああああああああああ~~~~!」
リュセルの宥めの言葉も聞かずに、ルークはいきなり叫び声を上げて、その場に両手両膝をついて打ちひしがれる。
(ひいいいいいいいい~~~~! 一体、本当にどうしたんだ、この人~~~~!?)
周囲にいる各建物内に移動中の神官達の、奇異なものを見るような視線が痛い。確かにおかしな人だ。このままでは自分も巻き込まれておかしな人確定だ。
「し、神官長補佐、きっと疲れが溜まっているんですよ。寄宿舎までもうすぐです。とりあえず、神官長の許可もある事ですし、今日は何も考えずに休みましょう」
人目の多いこんな道の真ん中で打ちひしがれないで欲しい。リュセルはそう思いつつ、ルークの腕を再び自分の肩に回させた。
「俺は……俺は俺は、もうリュカ様に合わす顔がない! こんな、ふしだらで破廉恥な……俺は…………変態だあああああああああっ!」
そう大声で叫んだルークは、リュセルにしがみついて泣きだす始末。まるで酔っ払いが絡んでいるような光景だが、真面目な神官であるルークが戒律を破るはずもなく、彼は完全なる素面だった。
「よしよしよし」
言っている事は何が何やらわからないが、錯乱状態にあるルークの背をリュセルは撫でて、彼を落ち着かせようとする。
「はいはい、とりあえず部屋に行きましょうねぇ」
グズグズと泣いているルークを無理矢理引きずって、リュセルはようやく寄宿舎に辿り着く事が出来た。
「ここですね?」
神官達が寝泊まりする寄宿舎の一階の奥にルークの部屋はあった。何かあった時にすぐに出られるようにであろう。一階から上が神官達の部屋に割り当てられていたのに、ルークの部屋のみが一階にあったのだ。しかも、さすがは神官長補佐の役職にある者。彼もセフィと同じく一人部屋である。簡素な机と椅子と寝台、そして本棚しかない殺風景な部屋の扉を潜るとルークは寝台の上に腰を下した。
「ご苦労だったな。もう行っていいぞ。手を煩わせてすまなかった」
「いえ……」
はあ~~~~~~。
大きなため息をついて項垂れるこの人を置いて行っていいものか。精神状態が非常に危うい状態にあるこの青年を。
「はぁ」
ズーーーーーーーーン
「うう」
かあーーーーーーーーーーッ
「ふう」
どよーーーーーーん
「ああ……、もう、どうしたら…………」
青くなったり、赤くなったり、呻きだしたり。
リュセルの存在を忘れ、部屋の隅で膝を抱えて悩みだしたルークに、リュセルは勝手に珈琲を飲みながら(この部屋にあったものだ)首を傾げた。
「あの、ウインター神官長補佐?」
クローゼットと本棚の間に出来た狭い空間に入り込み、ワシワシと頭をかきむしるルークの奇行を堪能(?)したリュセルは、手を上げてそう声をかけてみた。
「は? ッのわっ! な、なななななんだ!? クマキチ弟、まだいたのか!?」
ずっと壁の方を向いてウジウジしていたからといっても、声をかけられるまでリュセルの存在に気づかないとは……。本当に重症である。
「こんな状態のあなたを置いてなどいけませんよ。一体どうしたのですか? あなたらしくもない」
ーあなたらしくもないー
朝からずっと言われてきた台詞なのだろう。それを聞いたルークの顔が目に見えて強張った。
「俺らしい……。俺らしいとは、なんだろうな」
そう言ったルークの目線がリュセルからクローゼットへと移動する。そのぼんやりとした様子をじっと見つめ、リュセルは眉根を寄せる。
「神官長補佐?」
そう言いながら再び珈琲を一口。なかなか美味だ。レオンハルトが紅茶派の為、珈琲を口にする機会がなかなかなかった故に新鮮だった。
(たまには珈琲もいいもんだな)
ルークの私物を勝手に飲んでいるという事実を軽く無視して、リュセルは何度も頷く。
「仕事を真面目にこなす、神官長のお守り役。それでもいいと思っていた。セリクスの直属から離れないのは不満だったが、この道は俺自身が決めて進んだ道だからな」
そう言って、ルークは立ち上がりながら神官服についた埃を叩く。そのままクローゼットを背にして彼は苦悩の表情をあらわにした。
「でも、俺は出会ってしまった。もうどうすればいいのか分からんのだ!」
ブーーーーーーーーーーっ
その魂の叫びを聞いた途端、リュセルは口にしていた珈琲を思い切り吹き出していた。
「ウインター神官長補佐!? もしかして、好きな人が出来たのですか!?」
ま、まままままさか、これって、恋患い!?
リュセルの指摘に対し、ルークは一瞬で顔を真赤に染め上げる。
「そ、そんな事ッ……、ある訳ないだろう!?」
上ずった声で否定されても、嘘はバレバレだ。
「ウインター神官長補佐、嘘は戒律で禁じられているのでは?」
「はっ! そうだ!」
(お~い、お馬鹿さ~~~~ん)
過去に自分も兄相手に同じ事をした事を軽く棚に上げて、リュセルはそう思った。しかし、真面目な固物神官長補佐が、恋患い!? それは、とんでもないスクープである。
「で、で、で? 一体、どんなご婦人に恋を!?」
兄弟の中で唯一父王に似た性質、ロマンチストで恋話大好きなリュセルは、ルークに一気に詰め寄ると、彼を椅子に座らせてワクワクしながらそう聞く。
(ん? しかし、待てよ)
ここ(アシェイラ神殿)に女性の姿は皆無だ。もしもの時の為に、巫女も数人いるようだが、リチャードに聞いたところ、巫女達は皆かなりお年を召した方ばかりなのだという。
(という事は?)
「相手は男ですか!?」
何せ周りには神官しかいないのだ。そう考えるのが普通だろう。
「な、そんな訳あるか!」
その本気の怒鳴り声に、それが事実だという事がわかる。
(じゃあ、誰なんだよ)
セフィのような外部との繋ぎ役を仕事としているなら、神殿の外で魅力的な女性と出会って……という事もあるだろうが。神官長補佐の仕事は、神官長たるライサンの仕事の補佐が主で、外部との接触はないに等しいだろう。
「いや、でも、まさか、あんな年端も行かぬ少女に夢中になるなんて……。俺は、俺は………………変態だあああああああああああああ~~~~~~~ッ!」
いきなり窓を開け放ち、外に向かって叫び声を上げたルークに慌てたリュセルは駆け寄り、その体を後ろからはがい締めにする。
「ちょ、ちょっと、こんな真昼間から何言ってるんですか!? 落ち着いて……落ち着…………落ち着けって!」
「ぐふっ」
暴れるルークに見事なる右ストレートを決めると、寝不足、栄養不足、体力不足、見事に不足三拍子そろっている不健康なルークの体は床の上に沈んだ。
「あ、しまった! 大丈夫ですか、神官長補佐!?」
慌ててその体を抱き起こすが。
「返事がない、ただの屍のようだ」
リュセルがついそう呟いてしまった程に、完全に伸びてしまっていた。
「…………ま、まあ……、寝不足みたいだし、ちょうどいいんじゃないか?」
笑って誤魔化しながら、ルークの体を寝台の上に移す。
「よっこいせ。ま、ゆっくり休め。は……はは」
赤く腫れ上がってしまった左頬に冷たい濡れタオルを当てて冷やしてやると、リュセルはそそくさとルークの部屋を後にした。
パタン……
(ん?)
なんだか、さっきルークがわめいていた言葉の中に重要なものがあったような気がした。変態だああああああ~~~~~~~! 発言の方が印象的で聞き流してしまったが。
「大した事じゃないだろう。たぶん」
それよりも気になるのが、ルークの恋の相手の事だ。
(今夜、セフィ殿とセリクス神官長にも教えてやるか。誰なのか心当たりがあるかもしれんしな)
あんな神経質そうな青年が好きになる相手とは、一体どんな女性なのだろう。男じゃないと断言していたから、女性なのは間違えないのだろうし。
(まさか、巫女の館にいるという、ご年配の婦人方か?)
あの、小妖精属性の老神官、リュカ老師を敬愛(偏愛?)するルークなら充分ありえる話だ。
悶々と考えながら、リュセルは再び月華の乙女探索の聞き込みに戻ったのだった。月華の乙女の在り処に関する重要なヒントを聞き逃したまま……。
「全部、あれの所為だ…………。あれが悪い。あんなもの受け取らなければ良かった。……あんな……あんな」
あれ?
「あれとは何ですか? ウインター神官長補佐」
ルークの言葉の中から見つけたものに興味を覚え、リュセルはほぼ何も考えずにそう聞いた。
その瞬間
「あれ。あれとは……あれ……あれあれあれ」
いきなり歩みを止めたかと思ったら、顔を真赤にしてぶるぶると震え始めたルークにリュセルはぎょっとする。
「は? え? ちょ、ちょちょっと、お、落ち着いて下さい!」
「あ~~ッ、俺は駄目人間だああああああああああ~~~~!」
リュセルの宥めの言葉も聞かずに、ルークはいきなり叫び声を上げて、その場に両手両膝をついて打ちひしがれる。
(ひいいいいいいいい~~~~! 一体、本当にどうしたんだ、この人~~~~!?)
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「俺は……俺は俺は、もうリュカ様に合わす顔がない! こんな、ふしだらで破廉恥な……俺は…………変態だあああああああああっ!」
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「よしよしよし」
言っている事は何が何やらわからないが、錯乱状態にあるルークの背をリュセルは撫でて、彼を落ち着かせようとする。
「はいはい、とりあえず部屋に行きましょうねぇ」
グズグズと泣いているルークを無理矢理引きずって、リュセルはようやく寄宿舎に辿り着く事が出来た。
「ここですね?」
神官達が寝泊まりする寄宿舎の一階の奥にルークの部屋はあった。何かあった時にすぐに出られるようにであろう。一階から上が神官達の部屋に割り当てられていたのに、ルークの部屋のみが一階にあったのだ。しかも、さすがは神官長補佐の役職にある者。彼もセフィと同じく一人部屋である。簡素な机と椅子と寝台、そして本棚しかない殺風景な部屋の扉を潜るとルークは寝台の上に腰を下した。
「ご苦労だったな。もう行っていいぞ。手を煩わせてすまなかった」
「いえ……」
はあ~~~~~~。
大きなため息をついて項垂れるこの人を置いて行っていいものか。精神状態が非常に危うい状態にあるこの青年を。
「はぁ」
ズーーーーーーーーン
「うう」
かあーーーーーーーーーーッ
「ふう」
どよーーーーーーん
「ああ……、もう、どうしたら…………」
青くなったり、赤くなったり、呻きだしたり。
リュセルの存在を忘れ、部屋の隅で膝を抱えて悩みだしたルークに、リュセルは勝手に珈琲を飲みながら(この部屋にあったものだ)首を傾げた。
「あの、ウインター神官長補佐?」
クローゼットと本棚の間に出来た狭い空間に入り込み、ワシワシと頭をかきむしるルークの奇行を堪能(?)したリュセルは、手を上げてそう声をかけてみた。
「は? ッのわっ! な、なななななんだ!? クマキチ弟、まだいたのか!?」
ずっと壁の方を向いてウジウジしていたからといっても、声をかけられるまでリュセルの存在に気づかないとは……。本当に重症である。
「こんな状態のあなたを置いてなどいけませんよ。一体どうしたのですか? あなたらしくもない」
ーあなたらしくもないー
朝からずっと言われてきた台詞なのだろう。それを聞いたルークの顔が目に見えて強張った。
「俺らしい……。俺らしいとは、なんだろうな」
そう言ったルークの目線がリュセルからクローゼットへと移動する。そのぼんやりとした様子をじっと見つめ、リュセルは眉根を寄せる。
「神官長補佐?」
そう言いながら再び珈琲を一口。なかなか美味だ。レオンハルトが紅茶派の為、珈琲を口にする機会がなかなかなかった故に新鮮だった。
(たまには珈琲もいいもんだな)
ルークの私物を勝手に飲んでいるという事実を軽く無視して、リュセルは何度も頷く。
「仕事を真面目にこなす、神官長のお守り役。それでもいいと思っていた。セリクスの直属から離れないのは不満だったが、この道は俺自身が決めて進んだ道だからな」
そう言って、ルークは立ち上がりながら神官服についた埃を叩く。そのままクローゼットを背にして彼は苦悩の表情をあらわにした。
「でも、俺は出会ってしまった。もうどうすればいいのか分からんのだ!」
ブーーーーーーーーーーっ
その魂の叫びを聞いた途端、リュセルは口にしていた珈琲を思い切り吹き出していた。
「ウインター神官長補佐!? もしかして、好きな人が出来たのですか!?」
ま、まままままさか、これって、恋患い!?
リュセルの指摘に対し、ルークは一瞬で顔を真赤に染め上げる。
「そ、そんな事ッ……、ある訳ないだろう!?」
上ずった声で否定されても、嘘はバレバレだ。
「ウインター神官長補佐、嘘は戒律で禁じられているのでは?」
「はっ! そうだ!」
(お~い、お馬鹿さ~~~~ん)
過去に自分も兄相手に同じ事をした事を軽く棚に上げて、リュセルはそう思った。しかし、真面目な固物神官長補佐が、恋患い!? それは、とんでもないスクープである。
「で、で、で? 一体、どんなご婦人に恋を!?」
兄弟の中で唯一父王に似た性質、ロマンチストで恋話大好きなリュセルは、ルークに一気に詰め寄ると、彼を椅子に座らせてワクワクしながらそう聞く。
(ん? しかし、待てよ)
ここ(アシェイラ神殿)に女性の姿は皆無だ。もしもの時の為に、巫女も数人いるようだが、リチャードに聞いたところ、巫女達は皆かなりお年を召した方ばかりなのだという。
(という事は?)
「相手は男ですか!?」
何せ周りには神官しかいないのだ。そう考えるのが普通だろう。
「な、そんな訳あるか!」
その本気の怒鳴り声に、それが事実だという事がわかる。
(じゃあ、誰なんだよ)
セフィのような外部との繋ぎ役を仕事としているなら、神殿の外で魅力的な女性と出会って……という事もあるだろうが。神官長補佐の仕事は、神官長たるライサンの仕事の補佐が主で、外部との接触はないに等しいだろう。
「いや、でも、まさか、あんな年端も行かぬ少女に夢中になるなんて……。俺は、俺は………………変態だあああああああああああああ~~~~~~~ッ!」
いきなり窓を開け放ち、外に向かって叫び声を上げたルークに慌てたリュセルは駆け寄り、その体を後ろからはがい締めにする。
「ちょ、ちょっと、こんな真昼間から何言ってるんですか!? 落ち着いて……落ち着…………落ち着けって!」
「ぐふっ」
暴れるルークに見事なる右ストレートを決めると、寝不足、栄養不足、体力不足、見事に不足三拍子そろっている不健康なルークの体は床の上に沈んだ。
「あ、しまった! 大丈夫ですか、神官長補佐!?」
慌ててその体を抱き起こすが。
「返事がない、ただの屍のようだ」
リュセルがついそう呟いてしまった程に、完全に伸びてしまっていた。
「…………ま、まあ……、寝不足みたいだし、ちょうどいいんじゃないか?」
笑って誤魔化しながら、ルークの体を寝台の上に移す。
「よっこいせ。ま、ゆっくり休め。は……はは」
赤く腫れ上がってしまった左頬に冷たい濡れタオルを当てて冷やしてやると、リュセルはそそくさとルークの部屋を後にした。
パタン……
(ん?)
なんだか、さっきルークがわめいていた言葉の中に重要なものがあったような気がした。変態だああああああ~~~~~~~! 発言の方が印象的で聞き流してしまったが。
「大した事じゃないだろう。たぶん」
それよりも気になるのが、ルークの恋の相手の事だ。
(今夜、セフィ殿とセリクス神官長にも教えてやるか。誰なのか心当たりがあるかもしれんしな)
あんな神経質そうな青年が好きになる相手とは、一体どんな女性なのだろう。男じゃないと断言していたから、女性なのは間違えないのだろうし。
(まさか、巫女の館にいるという、ご年配の婦人方か?)
あの、小妖精属性の老神官、リュカ老師を敬愛(偏愛?)するルークなら充分ありえる話だ。
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