【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十三章 聖女の血

4-3 予期せぬ来訪者③

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「ああ、そうだ。己達はレオンハルト王子に会いに来た」

 ぼうっとしているキキョウと違い、傍らの青年は真っすぐにリュセルを見据え、そう告げる。

「レオンに?」

 思いもよらぬ侵入者の言葉に、リュセルは驚きに目を見張った。

「本当はきちんと手順を踏んで正面から会いに来たかったのだが、時間と余裕がなくて仕方なかったんだ。無礼をお許し頂きたい、リュセル王子」

 そう言って、青年がして見せたのは、王族が王族にする略礼。それも、ティアラ姫がするような、綺麗な貴婦人のお辞儀だ。それに習い、キキョウも王族に対する略礼をとる。こちらは王子がする礼と同じやり方。

 見た目とまるであべこべな略礼。しかも王族特有の礼をして見せた二人に、リュセル達は唖然とする。

「レオンハルト殿に面会とは、何故だ?」

 アルティスは内心混乱しつつも、そう尋ねる。

「己達……、いや、正確には、己の保護をお願いしたい」

 保護?

 この国の最高権力者、国王であるジェイドでもなく、その次位にいる王位継承者、カイルーズでもなく、身分的には王子としての身分しかない、レオンハルトに保護を求めるとは……。完全に邪気絡みであろう。

「完全には信用出来ないが、分かった。レオンを呼んで来よう」

 リュセルの決断に、他の二人は異を唱える。

「リュセル兄さん!?」

「リュセル殿、このような得体の知れぬ者の戯言、聞くのはどうかと我は思う」

 最もなアルティスの意見に、青年は笑いながら頷いた。

「あははははは、君はしっかりしてるな」

(?)

 その豪快な笑い方が、何故だかジュリナに似ているような気がしてリュセルは不思議に思う。

「アルティスの言う事も尤もだ。あなた方の名前と身分を明かしていただきたい。それが出来ないようなら、警備の騎士達を呼ぶ事にするが」

 ジュリナと目の前の青年の容姿は、似通っている所はまるでない。気の所為だと結論づけたリュセルは、そう言って、二人の侵入者を交互に睨み見る。

「う~ん、そっか。君達とは会った事がないから、仕方ないなぁ。リュセル王子、あなたとはルリカのお腹越しには対面した事はあるんだけれどね」

「は、母上?」

 思いもよらぬ母の名にリュセルが動揺していると、青年は不敵に笑った。その笑い方も、ジュリナによく似ている。

「己の名は、ルカイナ。ルカイナ・ディエラ。現ディエラ王、シルヴィア・ディエラ陛下の娘であり、元王位継承者。まー、今は訳あって流浪の身だがな」

 青年ではなく、女性だった。それも驚きだが、リュセル達を驚愕させたのは、彼女の正体。

 それは、八年前に死んだとされる、ジュリナとティアラ、そして現王位継承者の三つ子の姫君、ルイ・ルカ・ルナ、五人の王女の母親の名前だった。



*****



 夕方になろうかという時刻に差しかかる頃、ようやくウインター神官長補佐との神子衣装の製作に関する打ち合わせは終了した。

「それでは、衣装が仕上がり次第、またサイズ調整の為に参上します」

 そう言い残して退室するルークと入れ替わるように入室して来たティルに気づき、レオンハルトは目を向ける。

 半壊した訓練場の片づけはまだ終了していないようだが、あれ以降、リュセル達は自分の言いつけを守って大人しくしてくれていたらしく、神殿の使者との話も順調に進み、満足していたところだ。

「また何かあったのかい?」

 レオンハルトの言葉を受け、ティルは首を左右に何度も振る。

「いえ、リュセル殿下とそのお客人達はお休みになられていた為、とても静かでした」

 つまり、昼寝をしていたのか。おそらく、長旅の疲れを見せるアルティスを気遣ったのであろうが。

「くくくく、眠っていたのか。それは、大人しいはずだ」

 喉の奥で笑い、長い胡桃色の睫毛に縁取られた目を伏せるレオンハルトの美貌を見返した後、ティルは自分の主人から命じられた伝言を口にした。

「レオンハルト殿下、殿下にお客様がお見えになっております」

「客?」

 そんな約束はなかったはずだと、いぶかしげに眉をひそめるレオンハルトを見返し、ティルも小首を傾げる。

「でも、僕ずっと、応接室の方で控えていたんですけれど、出入口である扉からは誰もお見えになっていないと思うんですよね。リュセル殿下は寝室でお休みになっておりましたし、お目覚めになったリュセル殿下が寝室から出て来た時、一緒に出ていらしたのです。」

「…………」

 それを聞いたレオンハルトは、無言のまま執務室を後にする。

 話を聞く限り、おかしな話だ。

 しかし、レオンハルトは自分の私室の寝室に王族にしか知らされぬ抜け道がある事を、王族の一員としてもちろん知っていた。

 天井裏に存在する王族しか知らぬ場所ではあるが、怪盗イチゴミルク事件の前例がある。あの怪盗は、最初の侵入時、そこから侵入したのだ。後々、怪盗イチゴミルクだったミルフィンに尋ねたところ、なんでも裏のルートで手に入れた城の見取り図に書き込まれていたらしい。

 出入口は非常に見つけにくい場所に存在するが、見取り図があってはどうしようもない。抜け道の出入り口の完全封鎖と、新たな抜け道の出入り口の作成。レオンハルトは、それをカイルーズに提案していたところだったのだ。

(また賊が侵入したか)

 二度。いや、正確には三度も賊の侵入を許すとは、アシェイラ城の警備の緩さを露呈したようなものだ。国の中で最も治安の良い国と謳われた、このアシェイラ国が。

 だが、賊が侵入したにしては、リュセル達の対応が変である。危機管理が薄いリュセルやのん気なローウェンはともかくも、アルティスが一緒にいるのだ。賊が侵入したのなら、それ相応の対応をするはず。

「ティル、その客人方の名は?」

 レオンハルトの問いに、ティルは困ったような顔をする。

「いえ、教えてはいただけませんでした。お客様方の特徴をお話すればわかるだろうって、リュセル殿下が」

「特徴?」

 歩みを止めて、レオンハルトは後ろを駆けてくるティルに目を向ける。

「はい、客人は男女お一人ずつ。一人は赤茶色の髪にはしばみ色の瞳の、なんというか……、こう、格好いい人です。もう一人は黒髪に黒瞳の、お美しい方です。サンジェイラ美人の代表のような感じで」

 それを聞いたレオンハルトの瞳は、驚きにわずかに揺れる。

 彼の脳裏を巡るのは、子供の頃の懐かしい思い出だった。



ールリカ、レオンハルト!ー


 朱金色の髪の少女、幼い頃のジュリナと手を繋いだ美しい女性が、自分に向かって空いている方の手を元気に振る。

 背を流れる、彼女の母王に似た長い赤茶色の髪。快活に輝く、はしばみ色の慈悲深い瞳。その身を包む臙脂色のドレスが、派手な印象のある彼女によく似合っていた。

 その隣で、まだ赤子であるティアラを優しく抱くのは、清楚な印象の黒髪の青年。

 襟足までの長さの黒髪、穏やかな黒い瞳。男性であるにも関わらず、可憐な印象を感じずにはいられない。ひかえめな印象の青年。

 今まで出会った事もないような、とても元気で、自由奔放な人達。

 レオンハルトは、嬉しそうな明るい表情を浮かべた女性が自分達の元へやって来るのを待ちながら、傍らに立つ母親を戸惑ったように見上げた。

 母、ルリカは、息子の視線を感じると、にっこりと笑ってレオンハルトに目を向ける。優しいその微笑だけで、レオンハルトの心の中の棘は鋭さを失くす。

「会った事があるでしょう? 二人とも、母様と父様のお友達よ。あなたの婚約者、ジュリナちゃんのご両親」

 つい数か月前に引き合わされた、自分の婚約者。それと同時に同胞でもある姫君。相性があまり良くないあの男女と、リュセルがまだ母の腹にいた頃に一度だけ会った事のある二人が親子だったとは。

「では、あのご婦人が、ルカイナ姫。ディエラ国の次期王位継承者ですね」

 年に似合わぬ大人びた話し方をする息子を悲しそうに見下ろした後、ルリカはレオンハルトの胡桃色の髪を優しく撫で、やってくる親友達に微笑みかけた。

「ルーちゃん、キキョウちゃん、お久しぶり。よく来てくれたわね。ジェイドも喜ぶわよ!」

 ルリカの言葉に闊達に笑うと、ルカイナは中腰になって、レオンハルトの顔を覗きこんだ。

 表情をまったく変えぬまま見返してくる、娘の婚約者の美貌をじっくり見たルカイナは、何も言わずに、レオンハルトの華奢な体を抱き締めた。

(?)

 レオンハルトの無感動な瞳が一瞬見開かれる。

 でも、いきなりで驚きはしたが、その温かい体温は、彼女自身の性質を表しているようで、嫌な気分にはならなかった。


 レオンハルトの知る彼女は、そんな女性だった。
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