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第十三章 聖女の血
5-1 再会
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「お~、お帰り、レオン」
自室に戻ったレオンハルトをリュセルは軽く手を上げて迎えた。寝起きの為、すっきりしない頭のまま(その上寝グセ付き)、リュセルは怠惰な様子でソファに腰かけている。
「レオンハルト殿」
そんなリュセルの右横に座っていたアルティスは、すっきりとした様子で、今まで昼寝をしていた事が信じられないような出で立ちだ。彼は困惑をにじませた視線を、戻ってきたレオンハルトに向ける。
「むむむむむぅ~~~、レオンハルト兄さん、この人達、本当にレオンハルト兄さんの知り合いなの!? 僕達、寝込みを襲われたんだケド!」
リュセルの左横に腰かけ、その左腕にしがみついていたローウェンは、テーブルを挟んだ向かい側のソファに座る二人をじーーーーーーっと睨みつけていた。
レオンハルトはそんな三人から、彼らの向かいに座る不法侵入者達に静かに視線を移す。
赤茶の髪の美丈夫に黒髪のサンジェイラ美人。ティルの報告通りの男女が、レオンハルトの顔を穴が空く程に凝視していた。
黒髪の美女(見た目)の方は、明らかに見惚れているような様子でレオンハルトの顔を見上げ、赤茶の髪の青年の方は、ポカンと口を開きっぱなしにした後……
「レオンハルト? レオンハルトか!? いや~~、いや~~~~~~、あはははははははははははははッ!」
何故か、大爆笑。
「子供の頃、もう、どうにかなってしまうんじゃないかと思う程、こいつ、本当に男か? 本当に付くもん付いてるのか? って思う程、超絶美少女だったが……。あはははははははッ、マジで美人に成長したな! ある意味、期待を裏切らずにいてくれてありがとう!」
ソファをバンバンと叩きながら大ウケしている朱茶髪の青年の様子に、ようやく我に返ったらしい傍らの黒髪美人は、慌ててその名を呼ぶ。
「ルーッ!」
………………………………間違いない。
最後に会った時と、何故だか見た目の性別が逆ではあるが。彼らの正体を確信すると同時に、レオンハルトは彼らの前で王族に対する略礼をとって見せた。
「お久しぶりです、ルカイナ姫。それに、キキョウ殿」
長い胡桃色の睫毛を伏せ、艶っぽい仕草で頭を下げたレオンハルトを見つめ、軽く生唾を飲み込んだキキョウは、直立不動でその場に立ち上がる。
「こ、これは、ご丁寧に……。ど、どうも」
レオンハルトの美貌に圧倒されかかっているキキョウの様子を見ていたルカイナは、己の夫とは対照的な表情で朗らかに言った。
「すまんな、レオンハルト。ほら、己達は王族のしきたりとか、宮廷作法とかから遠ざかった生活を八年間もしてるからな。多少の不作法は許せ」
キキョウが緊張しているのは、レオンハルトの滴るような色香と、繊細な美貌が原因なのを察しつつも、そう言って夫の矜持を保つのはさすがである。
「いえ、お二方こそ、長くの市井での暮らし、ご苦労お察し致します」
「はは、相変わらず固いね、お前は。それじゃあ、ジュリナとまったく合わないだろ?」
「…………」
無言になったレオンハルトを観察するような目で見上げていたルカイナは、不意に立ち上がり、その頬に右手を添える。
一気に目線の近くなった、鏡の姉妹達の産みの母たる女性の手を、彼は拒む事なく受け入れた。慈愛深い、母の瞳で見つめられたレオンハルトは、彼女のはしばみ色をした双眸を真っすぐに見つめ返す。
「でも、優しい目をするようになったな。安心したよ。リュセル王子のおかげだろう?」
そう言いながら目線を向けられたリュセルは、軽く目を見張る。初めて対面した折、シルヴィア女王にも同じような事を言われたのだ。奔放な中に感じる、大地の温もりのような温かさ。彼女が、あの慈悲深きディエラの慈王、シルヴィアの娘である事は、彼女自身の性質が証明していた。
「ルカイナ姫。あなたが私を頼ってアシェイラ城にきたという事は……」
亡くなっていた事になっていたジュリナとティアラの父母のいきなりの出現にも、冷静な態度で応じたレオンハルトは、彼らの事情を知る者の一人だったのだ。
「そう。己、邪鬼に狙われてるみたいなんだ。匿ってくれ」
にっこりと笑って朗らかに言った口調とは裏腹に、その内容は、かなり重く、ハードなものだった。
レオンハルトとルカイナの対面から一刻後……。
「お母様…………」
レオンハルトの知らせを受けてやって来たジュリナは、自分の母の姿を確認すると同時に呆然とそう呟いた。
「ジュリナ」
そのまま、広げられた母の暖かな腕の中へ足早に飛び込む。
「ご無事で」
身長は、わずかにジュリナの方が高い。
ほぼ真横にある母の頬に頬をすり寄せながら、その温もりを感じるように身動きしないジュリナの後ろでは、その緑玉(エメラルド)のような色の瞳を見開いたティアラが硬直したまま、ルカイナとキキョウ、自分の父母の姿を凝視していた。
「ティアラ」
瞬間
涙で瞳を濡らしたキキョウが駆け寄るのを、呆然と見つめていたティアラの体がグラりと傾く。
「ティアラ!」
ショックのあまり気絶してしまったティアラの体を、キキョウは咄嗟に支える。
「ティアラ姫!」
十年ぶりの鏡姉妹とその父母との再会を見つめていたリュセルは、いきなり倒れたティアラに驚いてソファを飛び降りた。
固く目を閉じ、意識を手放した状態のティアラの顔を覗き込んだと同時に
「ティアッ!」
ものすごく強い力で横に薙ぎ払われた。
ズダーーーーーーンッ
ジュリナの怪力に突き飛ばされたリュセルの体は、近くの壁にめり込んだ。
「大丈夫、気を失っているだけだよ」
ティアラの状態を診たルカイナは、そう言って笑う。
「死んだと思っていた己達の姿を見て、ショックのあまり倒れたんだろう」
「死んだと思っていた……だって!? あなた方の生存情報は、ティアラ姫にも知らされていなかったのか!?」
壁と仲良くしていたリュセルは、その信じられない台詞に立ち直るとそう叫ぶ。最近、ジュリナ慣れしてきた所為か、少々打たれ強くなったようである。
「そう。ルカイナ姫達の生存を知るのは、私とジュリナ、そして、父上とシルヴィア女王陛下の四人のみ」
ジュリナとティアラを迎えに行ったきり姿を現さなかったレオンハルトは、壁に縋りつきながら額を赤くしている半身の姿に気づき、首を傾げた。
「何を遊んでいるんだ?」
「遊んでいるように見えるか、これが!? 見ての通り、ジュリナ殿に突き飛ばされたんだ!」
リュセルの怒声にも冷静な表情を崩す事なく、レオンハルトはティアラの華奢な体を抱き上げた元婚約者の名を呼ぶ。
「ジュリナ」
感情の乏しい声音の中に、わずかに険を含んだものを感じたジュリナは反論する。
「愛しい半身が倒れたんだ。仕方ないだろう?」
「……とにかく、ティアラ姫を寝かせて来い。クマ吉、寝室へ案内を」
レオンハルトの指示を受けたクマ吉は、了解のポーズをとって、つい先程までリュセル達が昼寝していた寝室へとジュリナを案内する。
「レオン、説明してくれ。俺達には意味がわからんぞ」
打ちつけた額と鼻を擦りながら、リュセルはソファに座ったままのローウェンとアルティスに目を向ける。二人はリュセルの視線を受けると同時に、大きく頷いた。
「ああ」
三対六つの、色とりどりの瞳に見つめられたレオンハルトはそう言って、ルカイナとキキョウを元いたテーブルの方へと促す。
その時だった。
「兄上!」
別室にて婚約者との甘い一時を過ごしていたはずのカイルーズが、カイエを伴って入室してきた。
「二人とも、ここにいたの!? ちょうど良かった。……って、客人?」
視線をレオンハルトからローウェン、アルティスに映したカイルーズは、厳しい表情のまま、そのままルカイナとキキョウを見る。
「どうした?」
ルカイナ達の説明よりも、血相を変えた弟の用件が気になったのか、レオンハルトは先を促す。
「大変だよ、兄上。サンジェイラ国元王妃、レティシア様が邪鬼に襲われたらしい。つい今しがた、速達が届いた」
「ッ!?」
カイルーズの言葉を聞いたアルティスは、顔色を変えて即座にその場に立ち上がる。
「……………………始まったか」
緊張と驚きに固まる空気の中、ルカイナはそう呟くと固く目を閉じた。
「レオンハルト、……殿」
顔色を真っ青にしたアルティスの呼びかけに、レオンハルトは頷き答える。
「一度戻りなさい」
「すまぬッ」
悲愴な顔で謝罪する兄の手を掴んだローウェンは、そのまま走り出す。
「行こう、アル!」
地下にある転移装置を目指して、部屋を飛び出していく二人を見送ったリュセルは呆然と呟く。
「何故、レティシア元妃が……」
そんな、リュセルの問いに答えたのは、レオンハルトではなくルカイナだった。
「それは、彼女が”聖女”だからさ」
「聖女?」
自室に戻ったレオンハルトをリュセルは軽く手を上げて迎えた。寝起きの為、すっきりしない頭のまま(その上寝グセ付き)、リュセルは怠惰な様子でソファに腰かけている。
「レオンハルト殿」
そんなリュセルの右横に座っていたアルティスは、すっきりとした様子で、今まで昼寝をしていた事が信じられないような出で立ちだ。彼は困惑をにじませた視線を、戻ってきたレオンハルトに向ける。
「むむむむむぅ~~~、レオンハルト兄さん、この人達、本当にレオンハルト兄さんの知り合いなの!? 僕達、寝込みを襲われたんだケド!」
リュセルの左横に腰かけ、その左腕にしがみついていたローウェンは、テーブルを挟んだ向かい側のソファに座る二人をじーーーーーーっと睨みつけていた。
レオンハルトはそんな三人から、彼らの向かいに座る不法侵入者達に静かに視線を移す。
赤茶の髪の美丈夫に黒髪のサンジェイラ美人。ティルの報告通りの男女が、レオンハルトの顔を穴が空く程に凝視していた。
黒髪の美女(見た目)の方は、明らかに見惚れているような様子でレオンハルトの顔を見上げ、赤茶の髪の青年の方は、ポカンと口を開きっぱなしにした後……
「レオンハルト? レオンハルトか!? いや~~、いや~~~~~~、あはははははははははははははッ!」
何故か、大爆笑。
「子供の頃、もう、どうにかなってしまうんじゃないかと思う程、こいつ、本当に男か? 本当に付くもん付いてるのか? って思う程、超絶美少女だったが……。あはははははははッ、マジで美人に成長したな! ある意味、期待を裏切らずにいてくれてありがとう!」
ソファをバンバンと叩きながら大ウケしている朱茶髪の青年の様子に、ようやく我に返ったらしい傍らの黒髪美人は、慌ててその名を呼ぶ。
「ルーッ!」
………………………………間違いない。
最後に会った時と、何故だか見た目の性別が逆ではあるが。彼らの正体を確信すると同時に、レオンハルトは彼らの前で王族に対する略礼をとって見せた。
「お久しぶりです、ルカイナ姫。それに、キキョウ殿」
長い胡桃色の睫毛を伏せ、艶っぽい仕草で頭を下げたレオンハルトを見つめ、軽く生唾を飲み込んだキキョウは、直立不動でその場に立ち上がる。
「こ、これは、ご丁寧に……。ど、どうも」
レオンハルトの美貌に圧倒されかかっているキキョウの様子を見ていたルカイナは、己の夫とは対照的な表情で朗らかに言った。
「すまんな、レオンハルト。ほら、己達は王族のしきたりとか、宮廷作法とかから遠ざかった生活を八年間もしてるからな。多少の不作法は許せ」
キキョウが緊張しているのは、レオンハルトの滴るような色香と、繊細な美貌が原因なのを察しつつも、そう言って夫の矜持を保つのはさすがである。
「いえ、お二方こそ、長くの市井での暮らし、ご苦労お察し致します」
「はは、相変わらず固いね、お前は。それじゃあ、ジュリナとまったく合わないだろ?」
「…………」
無言になったレオンハルトを観察するような目で見上げていたルカイナは、不意に立ち上がり、その頬に右手を添える。
一気に目線の近くなった、鏡の姉妹達の産みの母たる女性の手を、彼は拒む事なく受け入れた。慈愛深い、母の瞳で見つめられたレオンハルトは、彼女のはしばみ色をした双眸を真っすぐに見つめ返す。
「でも、優しい目をするようになったな。安心したよ。リュセル王子のおかげだろう?」
そう言いながら目線を向けられたリュセルは、軽く目を見張る。初めて対面した折、シルヴィア女王にも同じような事を言われたのだ。奔放な中に感じる、大地の温もりのような温かさ。彼女が、あの慈悲深きディエラの慈王、シルヴィアの娘である事は、彼女自身の性質が証明していた。
「ルカイナ姫。あなたが私を頼ってアシェイラ城にきたという事は……」
亡くなっていた事になっていたジュリナとティアラの父母のいきなりの出現にも、冷静な態度で応じたレオンハルトは、彼らの事情を知る者の一人だったのだ。
「そう。己、邪鬼に狙われてるみたいなんだ。匿ってくれ」
にっこりと笑って朗らかに言った口調とは裏腹に、その内容は、かなり重く、ハードなものだった。
レオンハルトとルカイナの対面から一刻後……。
「お母様…………」
レオンハルトの知らせを受けてやって来たジュリナは、自分の母の姿を確認すると同時に呆然とそう呟いた。
「ジュリナ」
そのまま、広げられた母の暖かな腕の中へ足早に飛び込む。
「ご無事で」
身長は、わずかにジュリナの方が高い。
ほぼ真横にある母の頬に頬をすり寄せながら、その温もりを感じるように身動きしないジュリナの後ろでは、その緑玉(エメラルド)のような色の瞳を見開いたティアラが硬直したまま、ルカイナとキキョウ、自分の父母の姿を凝視していた。
「ティアラ」
瞬間
涙で瞳を濡らしたキキョウが駆け寄るのを、呆然と見つめていたティアラの体がグラりと傾く。
「ティアラ!」
ショックのあまり気絶してしまったティアラの体を、キキョウは咄嗟に支える。
「ティアラ姫!」
十年ぶりの鏡姉妹とその父母との再会を見つめていたリュセルは、いきなり倒れたティアラに驚いてソファを飛び降りた。
固く目を閉じ、意識を手放した状態のティアラの顔を覗き込んだと同時に
「ティアッ!」
ものすごく強い力で横に薙ぎ払われた。
ズダーーーーーーンッ
ジュリナの怪力に突き飛ばされたリュセルの体は、近くの壁にめり込んだ。
「大丈夫、気を失っているだけだよ」
ティアラの状態を診たルカイナは、そう言って笑う。
「死んだと思っていた己達の姿を見て、ショックのあまり倒れたんだろう」
「死んだと思っていた……だって!? あなた方の生存情報は、ティアラ姫にも知らされていなかったのか!?」
壁と仲良くしていたリュセルは、その信じられない台詞に立ち直るとそう叫ぶ。最近、ジュリナ慣れしてきた所為か、少々打たれ強くなったようである。
「そう。ルカイナ姫達の生存を知るのは、私とジュリナ、そして、父上とシルヴィア女王陛下の四人のみ」
ジュリナとティアラを迎えに行ったきり姿を現さなかったレオンハルトは、壁に縋りつきながら額を赤くしている半身の姿に気づき、首を傾げた。
「何を遊んでいるんだ?」
「遊んでいるように見えるか、これが!? 見ての通り、ジュリナ殿に突き飛ばされたんだ!」
リュセルの怒声にも冷静な表情を崩す事なく、レオンハルトはティアラの華奢な体を抱き上げた元婚約者の名を呼ぶ。
「ジュリナ」
感情の乏しい声音の中に、わずかに険を含んだものを感じたジュリナは反論する。
「愛しい半身が倒れたんだ。仕方ないだろう?」
「……とにかく、ティアラ姫を寝かせて来い。クマ吉、寝室へ案内を」
レオンハルトの指示を受けたクマ吉は、了解のポーズをとって、つい先程までリュセル達が昼寝していた寝室へとジュリナを案内する。
「レオン、説明してくれ。俺達には意味がわからんぞ」
打ちつけた額と鼻を擦りながら、リュセルはソファに座ったままのローウェンとアルティスに目を向ける。二人はリュセルの視線を受けると同時に、大きく頷いた。
「ああ」
三対六つの、色とりどりの瞳に見つめられたレオンハルトはそう言って、ルカイナとキキョウを元いたテーブルの方へと促す。
その時だった。
「兄上!」
別室にて婚約者との甘い一時を過ごしていたはずのカイルーズが、カイエを伴って入室してきた。
「二人とも、ここにいたの!? ちょうど良かった。……って、客人?」
視線をレオンハルトからローウェン、アルティスに映したカイルーズは、厳しい表情のまま、そのままルカイナとキキョウを見る。
「どうした?」
ルカイナ達の説明よりも、血相を変えた弟の用件が気になったのか、レオンハルトは先を促す。
「大変だよ、兄上。サンジェイラ国元王妃、レティシア様が邪鬼に襲われたらしい。つい今しがた、速達が届いた」
「ッ!?」
カイルーズの言葉を聞いたアルティスは、顔色を変えて即座にその場に立ち上がる。
「……………………始まったか」
緊張と驚きに固まる空気の中、ルカイナはそう呟くと固く目を閉じた。
「レオンハルト、……殿」
顔色を真っ青にしたアルティスの呼びかけに、レオンハルトは頷き答える。
「一度戻りなさい」
「すまぬッ」
悲愴な顔で謝罪する兄の手を掴んだローウェンは、そのまま走り出す。
「行こう、アル!」
地下にある転移装置を目指して、部屋を飛び出していく二人を見送ったリュセルは呆然と呟く。
「何故、レティシア元妃が……」
そんな、リュセルの問いに答えたのは、レオンハルトではなくルカイナだった。
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