【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

文字の大きさ
272 / 424
第十三章 聖女の血

5-1 再会

しおりを挟む
「お~、お帰り、レオン」

 自室に戻ったレオンハルトをリュセルは軽く手を上げて迎えた。寝起きの為、すっきりしない頭のまま(その上寝グセ付き)、リュセルは怠惰な様子でソファに腰かけている。

「レオンハルト殿」

 そんなリュセルの右横に座っていたアルティスは、すっきりとした様子で、今まで昼寝をしていた事が信じられないような出で立ちだ。彼は困惑をにじませた視線を、戻ってきたレオンハルトに向ける。

「むむむむむぅ~~~、レオンハルト兄さん、この人達、本当にレオンハルト兄さんの知り合いなの!? 僕達、寝込みを襲われたんだケド!」

 リュセルの左横に腰かけ、その左腕にしがみついていたローウェンは、テーブルを挟んだ向かい側のソファに座る二人をじーーーーーーっと睨みつけていた。

 レオンハルトはそんな三人から、彼らの向かいに座る不法侵入者達に静かに視線を移す。

 赤茶の髪の美丈夫に黒髪のサンジェイラ美人。ティルの報告通りの男女が、レオンハルトの顔を穴が空く程に凝視していた。

 黒髪の美女(見た目)の方は、明らかに見惚れているような様子でレオンハルトの顔を見上げ、赤茶の髪の青年の方は、ポカンと口を開きっぱなしにした後……

「レオンハルト? レオンハルトか!? いや~~、いや~~~~~~、あはははははははははははははッ!」

 何故か、大爆笑。

「子供の頃、もう、どうにかなってしまうんじゃないかと思う程、こいつ、本当に男か? 本当に付くもん付いてるのか? って思う程、超絶美少女だったが……。あはははははははッ、マジで美人に成長したな! ある意味、期待を裏切らずにいてくれてありがとう!」

 ソファをバンバンと叩きながら大ウケしている朱茶髪の青年の様子に、ようやく我に返ったらしい傍らの黒髪美人は、慌ててその名を呼ぶ。

「ルーッ!」

 ………………………………間違いない。

 最後に会った時と、何故だか見た目の性別が逆ではあるが。彼らの正体を確信すると同時に、レオンハルトは彼らの前で王族に対する略礼をとって見せた。

「お久しぶりです、ルカイナ姫。それに、キキョウ殿」

 長い胡桃色の睫毛を伏せ、艶っぽい仕草で頭を下げたレオンハルトを見つめ、軽く生唾を飲み込んだキキョウは、直立不動でその場に立ち上がる。

「こ、これは、ご丁寧に……。ど、どうも」

 レオンハルトの美貌に圧倒されかかっているキキョウの様子を見ていたルカイナは、己の夫とは対照的な表情で朗らかに言った。

「すまんな、レオンハルト。ほら、己達は王族のしきたりとか、宮廷作法とかから遠ざかった生活を八年間もしてるからな。多少の不作法は許せ」

 キキョウが緊張しているのは、レオンハルトの滴るような色香と、繊細な美貌が原因なのを察しつつも、そう言って夫の矜持を保つのはさすがである。

「いえ、お二方こそ、長くの市井での暮らし、ご苦労お察し致します」

「はは、相変わらず固いね、お前は。それじゃあ、ジュリナとまったく合わないだろ?」

「…………」

 無言になったレオンハルトを観察するような目で見上げていたルカイナは、不意に立ち上がり、その頬に右手を添える。

 一気に目線の近くなった、鏡の姉妹達の産みの母たる女性の手を、彼は拒む事なく受け入れた。慈愛深い、母の瞳で見つめられたレオンハルトは、彼女のはしばみ色をした双眸を真っすぐに見つめ返す。

「でも、優しい目をするようになったな。安心したよ。リュセル王子のおかげだろう?」

 そう言いながら目線を向けられたリュセルは、軽く目を見張る。初めて対面した折、シルヴィア女王にも同じような事を言われたのだ。奔放な中に感じる、大地の温もりのような温かさ。彼女が、あの慈悲深きディエラの慈王、シルヴィアの娘である事は、彼女自身の性質が証明していた。

「ルカイナ姫。あなたが私を頼ってアシェイラ城にきたという事は……」

 亡くなっていた事になっていたジュリナとティアラの父母のいきなりの出現にも、冷静な態度で応じたレオンハルトは、彼らの事情を知る者の一人だったのだ。

「そう。己、邪鬼に狙われてるみたいなんだ。匿ってくれ」

 にっこりと笑って朗らかに言った口調とは裏腹に、その内容は、かなり重く、ハードなものだった。








 レオンハルトとルカイナの対面から一刻後……。



「お母様…………」

 レオンハルトの知らせを受けてやって来たジュリナは、自分の母の姿を確認すると同時に呆然とそう呟いた。

「ジュリナ」

 そのまま、広げられた母の暖かな腕の中へ足早に飛び込む。

「ご無事で」

 身長は、わずかにジュリナの方が高い。

 ほぼ真横にある母の頬に頬をすり寄せながら、その温もりを感じるように身動きしないジュリナの後ろでは、その緑玉(エメラルド)のような色の瞳を見開いたティアラが硬直したまま、ルカイナとキキョウ、自分の父母の姿を凝視していた。

「ティアラ」

 瞬間

 涙で瞳を濡らしたキキョウが駆け寄るのを、呆然と見つめていたティアラの体がグラりと傾く。

「ティアラ!」

 ショックのあまり気絶してしまったティアラの体を、キキョウは咄嗟に支える。

「ティアラ姫!」

 十年ぶりの鏡姉妹とその父母との再会を見つめていたリュセルは、いきなり倒れたティアラに驚いてソファを飛び降りた。

 固く目を閉じ、意識を手放した状態のティアラの顔を覗き込んだと同時に

「ティアッ!」

 ものすごく強い力で横に薙ぎ払われた。

 ズダーーーーーーンッ

 ジュリナの怪力に突き飛ばされたリュセルの体は、近くの壁にめり込んだ。

「大丈夫、気を失っているだけだよ」

 ティアラの状態を診たルカイナは、そう言って笑う。

「死んだと思っていた己達の姿を見て、ショックのあまり倒れたんだろう」

「死んだと思っていた……だって!? あなた方の生存情報は、ティアラ姫にも知らされていなかったのか!?」

 壁と仲良くしていたリュセルは、その信じられない台詞に立ち直るとそう叫ぶ。最近、ジュリナ慣れしてきた所為か、少々打たれ強くなったようである。

「そう。ルカイナ姫達の生存を知るのは、私とジュリナ、そして、父上とシルヴィア女王陛下の四人のみ」

 ジュリナとティアラを迎えに行ったきり姿を現さなかったレオンハルトは、壁に縋りつきながら額を赤くしている半身の姿に気づき、首を傾げた。

「何を遊んでいるんだ?」

「遊んでいるように見えるか、これが!? 見ての通り、ジュリナ殿に突き飛ばされたんだ!」

 リュセルの怒声にも冷静な表情を崩す事なく、レオンハルトはティアラの華奢な体を抱き上げた元婚約者の名を呼ぶ。

「ジュリナ」

 感情の乏しい声音の中に、わずかに険を含んだものを感じたジュリナは反論する。

「愛しい半身が倒れたんだ。仕方ないだろう?」

「……とにかく、ティアラ姫を寝かせて来い。クマ吉、寝室へ案内を」

 レオンハルトの指示を受けたクマ吉は、了解のポーズをとって、つい先程までリュセル達が昼寝していた寝室へとジュリナを案内する。

「レオン、説明してくれ。俺達には意味がわからんぞ」

 打ちつけた額と鼻を擦りながら、リュセルはソファに座ったままのローウェンとアルティスに目を向ける。二人はリュセルの視線を受けると同時に、大きく頷いた。

「ああ」

 三対六つの、色とりどりの瞳に見つめられたレオンハルトはそう言って、ルカイナとキキョウを元いたテーブルの方へと促す。

 その時だった。

「兄上!」

 別室にて婚約者との甘い一時を過ごしていたはずのカイルーズが、カイエを伴って入室してきた。

「二人とも、ここにいたの!? ちょうど良かった。……って、客人?」

 視線をレオンハルトからローウェン、アルティスに映したカイルーズは、厳しい表情のまま、そのままルカイナとキキョウを見る。

「どうした?」

 ルカイナ達の説明よりも、血相を変えた弟の用件が気になったのか、レオンハルトは先を促す。

「大変だよ、兄上。サンジェイラ国元王妃、レティシア様が邪鬼に襲われたらしい。つい今しがた、速達が届いた」

「ッ!?」

 カイルーズの言葉を聞いたアルティスは、顔色を変えて即座にその場に立ち上がる。

「……………………始まったか」

 緊張と驚きに固まる空気の中、ルカイナはそう呟くと固く目を閉じた。

「レオンハルト、……殿」

 顔色を真っ青にしたアルティスの呼びかけに、レオンハルトは頷き答える。

「一度戻りなさい」

「すまぬッ」

 悲愴な顔で謝罪する兄の手を掴んだローウェンは、そのまま走り出す。

「行こう、アル!」

 地下にある転移装置を目指して、部屋を飛び出していく二人を見送ったリュセルは呆然と呟く。

「何故、レティシア元妃が……」

 そんな、リュセルの問いに答えたのは、レオンハルトではなくルカイナだった。

「それは、彼女が”聖女”だからさ」

「聖女?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。

天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】 さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。 英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。 この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。 「さあ気に入ったsubを娶れ」 「パートナーはいいぞ」 とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。 待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。 平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

処理中です...