【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十四章 竜の末裔

8-2 泉の鏡①

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 リュセルとライサンがベルと相対していた、その頃。

 レオンハルトはルークを伴って、リュセルとライサンが目指していたと同じ場所を目指し、進んでいた。


「少し休もう、ウインター神官長補佐」

 疲れが出てきた事を自覚していたレオンハルトは、後ろをついて来るルークに一声かけると、傍にあった大きな岩に腰を下ろした。

(それにしても、不便な体だ)

 宝主という強靭な体を産まれ持っていたレオンハルトは、弟の体が不便でならなかった。この年の男にしては体力がある方なのだろうが、それでも疲れるのが早過ぎる。宝鍵という繊細な体の持ち主である為、怪我などしないように気をつけなくてはならない。元の体に戻った時、この体に何かあったら、すべて弟の身に跳ね返ってしまうからだ。

 同じように息をきらしたルークがその場にへたり込んだのを見る限り、レオンハルトの感じているこの体力が、本来普通の人間の男の体力なのだろう。

 今まで考えた事もなかった。

 こんな事態になり、弟の体を所有する事にならなければ、考えもしなかったに違いない。

「なかなか距離が縮みませんね」

 この一刻の間、目指していた巨木は同じ大きさのままで、一向に距離が縮まらない。

「目的地に到着しないように細工をされている可能性もあるな」

 誰に……と告げなくても、相手には伝わったようで、ルークは戸惑うような声を上げた。

「あの、剣主様。本当に、ドラゴンがこの森に存在しているとお考えなのですか?」

 お伽話でしかなかった生き物が自分のいる場所にいると聞かされても、ルークは到底信じられなかった。

「ああ。おそらくね」

 その生き物と遭遇すると、ライサンの身が危ない事はルークにもわかった。最初に聞かされた時は取り乱してしまったが、よくよく考えれば、あの男がそう簡単にくたばるはずもない。

(チッ、クソ。なんで俺があいつの心配なんぞしなければならんのだ!)

 本当に心配すべきは、ライサンと共にいるリュセルの方だ。彼らを守るのが、自分達神官の使命なのだから。苛々としている様子のルークを怪訝そうに見ていたレオンハルトは、不意に顔を上げた。

「声がする」

 遠くの方で自分達を呼ぶ声が。

「セリクス神官長の声のようだ」

 レオンハルトは立ち上がると、ルークと共に声のする方へ駆け出す。



「セリクス神官長!」

 同じような形の木々の挟間から覗く見覚えのある顔に気づき、レオンハルトは大声で呼びかけた。

 彼もレオンハルトとルークの無事な姿を見て安堵したのだろう。ほっとしたような表情を浮かべて近づいて来る。そうしてライサンのいる方へ早足で歩いて行くと、そこでレオンハルトは近くに弟の姿がない事に気づいた。

 どこかに待機させているのだろうか?

「良かった、合流出来て……。心配しましたよ。怪我はありませんか?」

 ようやく、しっかりと声が聞こえるまでに近づき、ライサンの元まであと一歩という距離になった瞬間。

「ッ!?」

 レオンハルトはいきなり後ろから腕を掴まれ、歩みを止められた。

 指が食い込むような強さで、リュセルの姿をしたレオンハルトの腕を掴んだルークは、剣呑な眼差しを自分の上司に向けていた。

「ウインター神官長補佐?」

 呼びかけると、彼はじっとライサンを睨みつけたまま、唸るように問いかけた。

「誰だ? お前」

 まるで相手の真実を探るように、瞬きもせず、ライサンを凝視するルークの目を、レオンハルトは見つめた。

 そのままルークは、レオンハルトをライサンから隠し、庇うように前に出る。

「どうしたのですか? ルーク。まさか自分の上司の顔を忘れたんじゃないでしょうねぇ。困った子です」

 揶揄するような口調で、呆れたように告げるライサンの姿、声、仕草は、レオンハルトの記憶の中にあるものと同じである。気配すら、間違えなく彼のものだ。ルークがこんなにも警戒する理由が、レオンハルトにはわからない。

「さあ、大丈夫ですから、二人共こちらへいらっしゃい。これからの事を話し合わなければ……」

 困ったようにそう告げるライサンを睨み見たまま、ルークは厳しい声で言った。

「あいつは、確かに、いけ好かない奴だよ。いつもいつものん気に笑ってて、何を仕出かすかわからない。周りに……、いや、俺に迷惑ばかりかけやがるムカつく男だ」

「…………」

 いきなり始まったルークのライサンへの愚痴に、レオンハルトは無言になる。本人を目の前にして言う事でもないが……。しかし、怒鳴るようにして続いたルークの台詞を聞いたと同時に、レオンハルトはすべてを理解した。


「でも、それでもあいつは、そんな死んだ魚みたいな目はしてねえんだよッ!」


 そしてレオンハルトは、ルークの目を信じる事を即座に決めたのだった。



 右手中指に嵌めていた銀色の指輪に意識を集中させ、それを具現化させる。現れ出た白銀の聖銃を空中で受け取ると、ルークの肩越しにそれを相手に向けて放った。


 ダンッ


 悲鳴のような銃声が、森の中に響き渡った。

「下がっていろ、ウインター神官長補佐」

 至近距離で響いた銃声により、耳がおかしくなってしまっているルークの身を伏せさせると、レオンハルトは流れるような動きでライサンの前に移動し、先程の銃撃を咄嗟に避けたばかりの彼の顔面を蹴りつけた。


 ヒュッ

 ゴッッ


 風を切る音と、攻撃が命中した鈍い音が続けて響く。横になぎ倒されたライサンの体は、地面に沈む前に体勢を変え、反撃に出る。

 漆黒の銃。

 相手の手にそれが握られているのを瞬時に確認すると、それが放たれるよりも先に、レオンハルトはその急所に聖銃を突きつけた。

 ライサンは心臓。レオンハルトは眉間。

 互いの急所に正確に狙いを定めたまま、二人は動きを止める。

 無表情のまま感情を一切映し出さない、まるで氷のような瞳を自分に向けてくる白皙の美貌を凝視しながら、ライサンはいぶかしむような声で尋ねた。

「……リュセル王子?」

(私達の体の入れ替わりの事実を知らない。やはり偽物か)

 レオンハルトはそう考えながら、相手の動向を探る。一瞬の隙が命取りになる事はわかっていた。

「何者だ?」

 相手の問いには答えず、問い返す。

「うまく擬態出来ていたと思うんですけれどねぇ。あなた方の事を警戒して、気配まで同じにしたのに」

 そう言いながら、彼はレオンハルトの後ろで身を伏せているルークに一瞬視線を移す。

「まさか、あれらの他にまだ在ったとはね。類い希なる”泉の鏡”。七色を失い、かなり血は薄まっているようですが……。それにしてもやっかいな、”竜の瞳”。大誤算ですよ!」

 そう怒鳴った、次の瞬間、彼の擬態は解け、本来の姿が現れる。背を流れ、波打つ長い蒼髪。憎しみを映し出す暗褐色の瞳。ティアラによく似たその容姿。

「お前は……」

 アシェイラ襲撃事件の折に一度相対した事がある、三千年前を生きた、闇に堕ちた王子。

「イプロス」

 レオンハルトがそう呟いたと同時に、イプロスは何も手にしていなかった左手に、もう一つの銃を出現させる。

「ッ!」

 そう、イプロスは双銃使いだった。気づくのがもう少し遅れていたら、まともに銃撃をくらってしまっていただろう。相手が弾を放つより早くその場を飛びのくと、レオンハルトは背後のルークを抱えて距離をとった。


 ダンッ


 飛びのくと同時に放たれた攻撃に応戦するように、レオンハルトも聖銃を用い、銃弾を放つ。


 ダンッ


 イプロスの放った銃弾にレオンハルトの放った銃弾が当たり、攻撃が相殺されるかと思ったが、意外にもイプロスの銃弾の方が弱かったのか、彼の銃弾を弾いて、レオンハルトの銃弾がイプロスの腕をかすった。

(……?)

 体が入れ替わっている事もあり、聖銃が使えるかどうかも分からず、ほとんど賭けのような状態でレオンハルトは最初の攻撃を仕掛けていた。その為、聖銃が使えた事さえ奇跡的であるのに、銃の威力がこちらのほうが強いというのが不思議であった。

(そうか。ここは邪鬼の入り込めぬ、神気の強い土地)

 浄化の力の威力が上がり、邪気が下がっているのだ。リュセルが所有し、現在レオンハルトが使用している聖銃は、神子の持つ浄化の力を弾とし、イプロスの持つ邪双銃は、邪気を弾としている。どちらがこの地で有利かなど、誰にでも分かる事である。

(これならやれる)

 リュセルの体の体力が切れる前に片がつけられると判断したレオンハルトは、近くの木を盾にしながら、同じように木を盾にしたイプロスとの攻防を続けた。
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