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第十四章 竜の末裔
11-2 ドラゴンの怒り
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「ルークッ!」
ベルの強制的な呼気交換に耐えきれず、後ろに昏倒したルークの体を支えたライサンは、その体を地面の上に横たえ、青白い顔をした顔をのぞき込みながら急いで脈を確かめた。
「息を確認しろ、セリクス神官長!」
そう言ったのは、倒れたルークとそれを支えるライサンを背に庇うようにして双子のドラゴンと対峙したレオンハルトである。
ただし、その声はレオンハルトのものでなく、何故かリュセルのものだった。
「どういうつもり? 神子」
「…………」
剣呑な眼差しを向けてくるベルを無表情のまま見返したレオンハルトは、抜き身の神剣を相手に向ける。
「いきなりの攻撃とは、お前達(神子側)が俺達に敵意があり、敵に回すつもりなのだと解釈していいのか?」
レオンハルトの仕掛けた攻撃を咄嗟に避けたジルは、そのまま弟の横に移動していた。
「違う。ただ、話を聞いて欲しいだけだ!」
ジルに向かって必死な声でリュセルがそう告げた後、後ろのライサンに今度は別の声が話しかける。
「セリクス神官長、ウインター神官長補佐の状態は?」
同じ口から放たれる、別の人間の声。
それをじっと観察していたベルは、若干態度を軟化させ、面白そうに笑った。
「ははっ、面白いね。それが、同化ってやつ?」
そう
リュセルとレオンハルトは、初めて邪鬼以外を相手に、女神の剣を解放させた。
ルーク昏倒の前。
目的地に到着すると同時にレオンハルトが目にしたのは、橋の上、その中程で双子の青年に挟まれるようにして立ち、双子の片割れと口づけを交わすルークの姿だった。
それが一体どういう状況なのかレオンハルトにはわからなかったが、その行為の意味を知るリュセルは顔色を変えた。
「やめろーーーーッ、殺す気か!?」
リュセルの怒鳴り声を聞いたその一瞬で、レオンハルトは決断した。
「来い、リュセル」
いつものその声を聞くと、リュセルは驚きに目を見開く。少しの躊躇もなく、ドラゴンと敵対し、相手を助けるつもりなのだ。
その迷いのなさに少しの羨望とたくさんの誇らしさを感じながら、リュセルはレオンハルトに抱えられた体勢のまま、意識を剣に集中させた。
白銀の光の洪水が場を満たし、完全に同化した二人は、ルークの体を抑え込んでいる方の青年に剣を振り下ろす。
「っ!?」
銀の軌跡を描いて振り下ろされるそれを咄嗟に避けたジルは、抑え込んでいたルークの体を手放してしまう。
そうして再び取り戻そうとして伸ばした手は空を掴む。
一族の宿敵である男の手によって、奪われてしまったからだ。
(息……?)
時は現在に戻り、レオンハルトと同化中のリュセルの言葉に従ってルークの呼吸を確認していたライサンは、一気に青ざめる。
完全に呼吸が止まり、息をしていなかったのだ。
「……ッ」
相手が無呼吸である事を悟ったライサンの行動は早かった。
力なく横たわる青年の気道を確保し、額に左手を滑らせる。親指と人差し指で鼻を摘んだ後、右手で口を開かせ、そのまま己の唇を合わせて息を吹き込んだ。
(間に合うだろうか)
背後でライサンが人工呼吸を開始したのを知ると、リュセルは苦虫を味わったかのような気持ちで唇を噛みしめた。
人の身で、一日に二回も受けるドラゴンの洗礼は強過ぎたのだろう。心臓が止まる前に駆け付けられたのは、不幸中の幸いか。
「お前達という存在は、彼には強過ぎる。どうか、諦めて去ってくれ」
相手に剣を向けたまま唸るようにそう言ったリュセルを冷ややかな目でジルは見返し、べルは人工呼吸を続けるライサンの後ろに立つアシェイラに視線を向けた。
「アシェイラ、お前もこの神子達と同じ意見なのかな?」
「…………」
ベルの問いに無言で答えたアシェイラを、隣で身構えていたユリエは心配そうに見上げた。
その時。
「…………ッゲホ、ゴホッゴホッ、かはッ……」
激しくむせながらルークが呼吸を再開したらしく、ユリエは慌ててルークの傍にしゃがみ込み、ライサンの処置の手助けに乗り出した。
「大丈夫なのか?」
ライサンにすがるようにしているルークの背をさすってやりながらユリエは尋ねる。ヒューヒューと喘ぐように息をしているが、息を吹き返した事に安堵したライサンは小さく頷いた。
「処置が早かったので、おそらく大丈夫でしょう」
そしてゆっくりと、双子のドラゴンの方へ視線を向ける。怒りの感情を向けられたベルは、抑揚のない声で告げた。
「だから、お前にその権利はないよ、ディエラ」
ベルの言葉に繋げる様に、今度はジルが獣が唸り声を上げるような声で怒鳴る。
「俺達の同胞から、その汚い手をどけろ!」
「ッ!?」
ライサンの瞳が驚きに見開かれ、再会以来、いつも穏やかな表情を浮かべていた顔が一気に強張ったのをユリエは見た。
「同胞……って」
何も言う事が出来ない程ショックを受けている様子のライサンに代わり、ユリエが乾いた声でそう尋ねる。
「……ウインター神官長補佐は、自分自身でもわかっていないが、ミラの血を引く遠い子孫。…………ドラゴンの末裔なんだ」
一つ一つ、噛みしめるようにルークの真実を言葉にしたリュセルは、ライサンの顔を見る事が出来なかった。
「……で、どうなの? アシェイラ。神子達は俺達の最後の同胞を渡してくれないみたいだけど、お前も同意見?」
アシェイラは、ベルの再度の問いに今度は答えた。
「俺は、ユラの子であるお前達も、ミラの子孫であるルークも等しく愛しい。それにこれは、ディエラもサンジェイラも同じだと思うが、すまないことをしたという、贖罪しきれぬ罪の自覚もある。だからこそ、ルークには選ばせてやりたいんだ」
このまま、人として生きるか。
ドラゴンとしてベルとジルと共に生きるか。
「わかってくれ。べル、ジル」
絞り出すように告げたアシェイラの言葉を聞いたべルは小さく笑った。
「わかれ、だって?」
「わかるものか」
「わかるものか」
「「わかるはずがないッ!」」
ベルとジルが交互に言葉を口にした後、二人同時に悲鳴のような咆哮を上げる。
次の瞬間、双子の体は金色の光を放つ。
ゴオオオオオオオオオオオ
そうして大量の風を巻き込みながら、二頭の巨大なドラゴンが現れた。
咄嗟にアシェイラはライサンやユリエを庇う為に彼らの前に立ち、レオンハルトは自分の身を防御する。
憤怒の感情に支配された二頭の金竜(ゴールドドラゴン)の虹色の瞳がライサンに向けられた。
殺すつもりなのだ。
「やめろ、べル、ジル!」
アシェイラがそう叫んだ瞬間、兄の体の中で準備を終えていたリュセルが口を開いた。
ー愛し子達よー
ドラゴンの暴走を阻止する為、女神の旋律が放たれたのだ。
ーその目に映るは未来という光のみ
その魂は石のごとく揺るぎがない
光と闇の祝福を受けしその心ー
祈りの詩。
それを聞いた途端、目に見えてわかる程ドラゴン達は動揺を示し、怯んだ。人間には思慕の念を呼び覚まさせ、邪鬼には恐怖と畏怖を植え付ける女神の旋律。ドラゴン達はその両方に当てはまらず、ただ、それ以上の干渉と攻撃を仕掛ける事が出来なくなったようだった。
まるで神子と自分達の間に見えない壁があるかのようにもどかしい様子で、喉の奥で唸り声を上げ続ける。
ー彼らが戦うは
尊いものを守るため
愛しいものを救うためー
詩の途中、悲しげな声が片方のドラゴンの口から放たれた。
ー卑怯だ、神子ー
そして、それと共に再び金色の光が溢れ、双子のドラゴンは再び人型に戻る。
「そうかもしれぬ。しかし、お前達こそ、頭に血が上り、周りが見えていないのではないか?」
途中で詩を止めたリュセルに代わり、レオンハルトがドラゴン達を諫める。
ベルの強制的な呼気交換に耐えきれず、後ろに昏倒したルークの体を支えたライサンは、その体を地面の上に横たえ、青白い顔をした顔をのぞき込みながら急いで脈を確かめた。
「息を確認しろ、セリクス神官長!」
そう言ったのは、倒れたルークとそれを支えるライサンを背に庇うようにして双子のドラゴンと対峙したレオンハルトである。
ただし、その声はレオンハルトのものでなく、何故かリュセルのものだった。
「どういうつもり? 神子」
「…………」
剣呑な眼差しを向けてくるベルを無表情のまま見返したレオンハルトは、抜き身の神剣を相手に向ける。
「いきなりの攻撃とは、お前達(神子側)が俺達に敵意があり、敵に回すつもりなのだと解釈していいのか?」
レオンハルトの仕掛けた攻撃を咄嗟に避けたジルは、そのまま弟の横に移動していた。
「違う。ただ、話を聞いて欲しいだけだ!」
ジルに向かって必死な声でリュセルがそう告げた後、後ろのライサンに今度は別の声が話しかける。
「セリクス神官長、ウインター神官長補佐の状態は?」
同じ口から放たれる、別の人間の声。
それをじっと観察していたベルは、若干態度を軟化させ、面白そうに笑った。
「ははっ、面白いね。それが、同化ってやつ?」
そう
リュセルとレオンハルトは、初めて邪鬼以外を相手に、女神の剣を解放させた。
ルーク昏倒の前。
目的地に到着すると同時にレオンハルトが目にしたのは、橋の上、その中程で双子の青年に挟まれるようにして立ち、双子の片割れと口づけを交わすルークの姿だった。
それが一体どういう状況なのかレオンハルトにはわからなかったが、その行為の意味を知るリュセルは顔色を変えた。
「やめろーーーーッ、殺す気か!?」
リュセルの怒鳴り声を聞いたその一瞬で、レオンハルトは決断した。
「来い、リュセル」
いつものその声を聞くと、リュセルは驚きに目を見開く。少しの躊躇もなく、ドラゴンと敵対し、相手を助けるつもりなのだ。
その迷いのなさに少しの羨望とたくさんの誇らしさを感じながら、リュセルはレオンハルトに抱えられた体勢のまま、意識を剣に集中させた。
白銀の光の洪水が場を満たし、完全に同化した二人は、ルークの体を抑え込んでいる方の青年に剣を振り下ろす。
「っ!?」
銀の軌跡を描いて振り下ろされるそれを咄嗟に避けたジルは、抑え込んでいたルークの体を手放してしまう。
そうして再び取り戻そうとして伸ばした手は空を掴む。
一族の宿敵である男の手によって、奪われてしまったからだ。
(息……?)
時は現在に戻り、レオンハルトと同化中のリュセルの言葉に従ってルークの呼吸を確認していたライサンは、一気に青ざめる。
完全に呼吸が止まり、息をしていなかったのだ。
「……ッ」
相手が無呼吸である事を悟ったライサンの行動は早かった。
力なく横たわる青年の気道を確保し、額に左手を滑らせる。親指と人差し指で鼻を摘んだ後、右手で口を開かせ、そのまま己の唇を合わせて息を吹き込んだ。
(間に合うだろうか)
背後でライサンが人工呼吸を開始したのを知ると、リュセルは苦虫を味わったかのような気持ちで唇を噛みしめた。
人の身で、一日に二回も受けるドラゴンの洗礼は強過ぎたのだろう。心臓が止まる前に駆け付けられたのは、不幸中の幸いか。
「お前達という存在は、彼には強過ぎる。どうか、諦めて去ってくれ」
相手に剣を向けたまま唸るようにそう言ったリュセルを冷ややかな目でジルは見返し、べルは人工呼吸を続けるライサンの後ろに立つアシェイラに視線を向けた。
「アシェイラ、お前もこの神子達と同じ意見なのかな?」
「…………」
ベルの問いに無言で答えたアシェイラを、隣で身構えていたユリエは心配そうに見上げた。
その時。
「…………ッゲホ、ゴホッゴホッ、かはッ……」
激しくむせながらルークが呼吸を再開したらしく、ユリエは慌ててルークの傍にしゃがみ込み、ライサンの処置の手助けに乗り出した。
「大丈夫なのか?」
ライサンにすがるようにしているルークの背をさすってやりながらユリエは尋ねる。ヒューヒューと喘ぐように息をしているが、息を吹き返した事に安堵したライサンは小さく頷いた。
「処置が早かったので、おそらく大丈夫でしょう」
そしてゆっくりと、双子のドラゴンの方へ視線を向ける。怒りの感情を向けられたベルは、抑揚のない声で告げた。
「だから、お前にその権利はないよ、ディエラ」
ベルの言葉に繋げる様に、今度はジルが獣が唸り声を上げるような声で怒鳴る。
「俺達の同胞から、その汚い手をどけろ!」
「ッ!?」
ライサンの瞳が驚きに見開かれ、再会以来、いつも穏やかな表情を浮かべていた顔が一気に強張ったのをユリエは見た。
「同胞……って」
何も言う事が出来ない程ショックを受けている様子のライサンに代わり、ユリエが乾いた声でそう尋ねる。
「……ウインター神官長補佐は、自分自身でもわかっていないが、ミラの血を引く遠い子孫。…………ドラゴンの末裔なんだ」
一つ一つ、噛みしめるようにルークの真実を言葉にしたリュセルは、ライサンの顔を見る事が出来なかった。
「……で、どうなの? アシェイラ。神子達は俺達の最後の同胞を渡してくれないみたいだけど、お前も同意見?」
アシェイラは、ベルの再度の問いに今度は答えた。
「俺は、ユラの子であるお前達も、ミラの子孫であるルークも等しく愛しい。それにこれは、ディエラもサンジェイラも同じだと思うが、すまないことをしたという、贖罪しきれぬ罪の自覚もある。だからこそ、ルークには選ばせてやりたいんだ」
このまま、人として生きるか。
ドラゴンとしてベルとジルと共に生きるか。
「わかってくれ。べル、ジル」
絞り出すように告げたアシェイラの言葉を聞いたべルは小さく笑った。
「わかれ、だって?」
「わかるものか」
「わかるものか」
「「わかるはずがないッ!」」
ベルとジルが交互に言葉を口にした後、二人同時に悲鳴のような咆哮を上げる。
次の瞬間、双子の体は金色の光を放つ。
ゴオオオオオオオオオオオ
そうして大量の風を巻き込みながら、二頭の巨大なドラゴンが現れた。
咄嗟にアシェイラはライサンやユリエを庇う為に彼らの前に立ち、レオンハルトは自分の身を防御する。
憤怒の感情に支配された二頭の金竜(ゴールドドラゴン)の虹色の瞳がライサンに向けられた。
殺すつもりなのだ。
「やめろ、べル、ジル!」
アシェイラがそう叫んだ瞬間、兄の体の中で準備を終えていたリュセルが口を開いた。
ー愛し子達よー
ドラゴンの暴走を阻止する為、女神の旋律が放たれたのだ。
ーその目に映るは未来という光のみ
その魂は石のごとく揺るぎがない
光と闇の祝福を受けしその心ー
祈りの詩。
それを聞いた途端、目に見えてわかる程ドラゴン達は動揺を示し、怯んだ。人間には思慕の念を呼び覚まさせ、邪鬼には恐怖と畏怖を植え付ける女神の旋律。ドラゴン達はその両方に当てはまらず、ただ、それ以上の干渉と攻撃を仕掛ける事が出来なくなったようだった。
まるで神子と自分達の間に見えない壁があるかのようにもどかしい様子で、喉の奥で唸り声を上げ続ける。
ー彼らが戦うは
尊いものを守るため
愛しいものを救うためー
詩の途中、悲しげな声が片方のドラゴンの口から放たれた。
ー卑怯だ、神子ー
そして、それと共に再び金色の光が溢れ、双子のドラゴンは再び人型に戻る。
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