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第十四章 竜の末裔
11-1 故郷の香り
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セイントクロス神殿 本部。世界中に数多いる聖職者達の本拠地。神官や巫女の帰還場所でもある、ドラゴンの森に囲まれる広大な湖の上に建つ白亜の神殿。その奥深くには、創世の女神レイデュークが眠るセイントクロスの泉が存在するという……。
そんな巨大な一大施設に相応しく、入口の警備は万全だった。
神殿内部へ入る為に通過する門は二つ。その両方に常駐の警備官がおり、門を固く守っている。警備官。戦闘の訓練を受けた、警備専門の神官と巫女の事だ。
そして、神殿へと続く橋があるのは、一つ目の門と二つ目の門の間である。
守護者の門と言われる、レイデの木の葉が彫刻された神殿入口の門の傍には、屈強な体つきの神官達が倒れ伏していた。そんな彼らに目もくれず、その間を抜けて巨大な門をくぐると、一気に霧が晴れた。
「……ッ」
それと同時に、まるで操られるかのように動いていた足が立ち止まる。ドクドクと早鐘を打つ、心臓の音。壊れてしまうのではないのかと思う程、それは自分の胸の中で激しく動いている。
「来てくれて嬉しいよ、ルーク」
橋の欄干に腰かけ、こちらを見つめる青年。
肩先にまであるような長さの、ウエーブを描く金髪を頭上で束ねた、見たこともないような民族衣装を着た美しい青年だ。
彼の横には、同じ顔をしたもう一人の青年がひっそりと立っていた。
その虹色の双眸を細めて、青年は嬉しそうに笑う。
「改めて自己紹介するよ。俺は、べル。それで、こっちの同じ顔してるのが兄のジル。そうだな。君の遠い遠い従兄になるのかなぁ?」
そう言うと、よっと掛け声を出しながら欄干から飛び降りる。
近づいてくる異質な生き物。しかし、それと同時に感じる懐かしい存在感に、ルークは恐怖した。
「あ……、く、来るなッ」
ゆっくりと近づいてくる彼らから逃げようと、体が後ずさりを始める。
「俺達が怖い?」
相手の気持ちを推し量るようにそう問いかけながらも、ベルの歩みは止まらない。逃すつもりがないのだ。ベルが歩む分後ろに下がっていたルークの体は、次の瞬間、何かにぶつかった。
「ッ!?」
驚いて振りかえると、いつの間に移動したのか、ジルがルークの退路を断つように後ろに立っていた。
「ああ、背が高いね。あはは、顔も男前だ。俺達も結構、上背はある方なのにね」
ルークを間近でしげしげとよく観察しながらそう言ったベルに、ジルは首を傾げる。
「見た目とか顔とか、関係あるのか?」
「え~、だって、どうせなら顔がいい方がいいじゃん。これからずっと一緒にいる訳だし」
「まあ、それもそうか」
ルークを挟んで好きな事を言い合う兄弟は、心なしかはしゃいでいるようにも感じられた。
「一緒に、だと?」
ベルの台詞を聞いたルークは、相手の心情を慮る余裕もなく、顔色を変えて反論する。
「勝手に決めるな」
精一杯の矜持で相手を睨みつけるが、それを受け流すかのようにベルはにっこりと笑った。
「だって、君は俺達と一緒にいるのが自然なんだよ」
そう言うと、ゆっくりと顔を近づけてくる。
「ッやめ……」
目を覗きこもうとする相手から逃れようと腕を突っぱねるが、後ろに立つジルに抑え込まれ、顔を固定される。逃れられぬ虹色が視界を覆い、ルークは本人の意思に関係なく、相手の本質を見てしまった。
なんという
なんという……、美しく儚く、悲しい生き物なのだろうか。
ルークが呆然としている間に、ベルもルークの本質を視たのか、満足そうな息を吐いた。
「子供を…………」
言葉と共に、頬に冷たい手が伸ばされる。
「ドラゴンの子を……、俺達の子を産んで(孵化させて)くれないか?」
「!!??」
予想もしていなかったいきなりの告白を聞き、驚愕に目を見開くルークの顎を、彼の身を後ろから抑え込んでいたジルが掴み、べルの方へと差し出す。
兄の助けを借りたべルは同胞の呼気を味わうべく、一気に相手の唇を奪った。
無理矢理重ねられる唇は、彼の兄のものと同じく、ほのかに温かい。身体の内側まで探られるような、巨大な力の奔流。すさまじい勢いで体中に浸透し、髪の先まで侵したジルとの呼気の交換を覚えていたルークは恐怖に体を強張らせる。
しかし、そんなルークの警戒とは裏腹に、べルとの呼気の交換は穏やかなものだった。前もって、ジルからルークとの口づけの際の注意を聞いていたベルは、相手に合わせて力を加減したのだ。
それでも、優しく、穏やかにとはいえ、精神の奥、身体の内側まで探られる感覚は耐えがたく、べルの上着を掴むルークの腕が震え出す。そんなルークをあやす様に、ジルが顎を支えていない方の手で肩をさすってきた。抱き込まれるように前後から兄弟に挟まれ、ルークはふと懐かしい香りに気づく。
(……?)
二人から香るそれは、清々しい森の香りだった。
懐かしい……、故郷の香りだ。
帰りたい。
懐かしいあの森へ、美しいあの郷へ。
仲間達が待つ、あの場所へ。
視界を埋め尽くす虹色に支配され、ルークの思考は段々とぼんやりとしたものになってきていた。
その時……。
「ルークッ!」
聞こえた怒鳴り声に気づき、一気に意識が引き戻される。
長い事共にいたが、相手がこんなにも切羽詰ったような声を出すのを聞くのは初めてだ。ルークの知るその人は、いつも飄々としていて、焦りとは無縁であるかのように、常に冷静で理性的だった。
子供の頃より常に自分の前に在り、最も近くにいた男。
天敵であり、上司であり、幼なじみであり、兄代わりだった相手。
「セリ…………」
虹色の代わりに純白の色が視界一杯に広がると同時に、ルークの意識は途切れた。
そんな巨大な一大施設に相応しく、入口の警備は万全だった。
神殿内部へ入る為に通過する門は二つ。その両方に常駐の警備官がおり、門を固く守っている。警備官。戦闘の訓練を受けた、警備専門の神官と巫女の事だ。
そして、神殿へと続く橋があるのは、一つ目の門と二つ目の門の間である。
守護者の門と言われる、レイデの木の葉が彫刻された神殿入口の門の傍には、屈強な体つきの神官達が倒れ伏していた。そんな彼らに目もくれず、その間を抜けて巨大な門をくぐると、一気に霧が晴れた。
「……ッ」
それと同時に、まるで操られるかのように動いていた足が立ち止まる。ドクドクと早鐘を打つ、心臓の音。壊れてしまうのではないのかと思う程、それは自分の胸の中で激しく動いている。
「来てくれて嬉しいよ、ルーク」
橋の欄干に腰かけ、こちらを見つめる青年。
肩先にまであるような長さの、ウエーブを描く金髪を頭上で束ねた、見たこともないような民族衣装を着た美しい青年だ。
彼の横には、同じ顔をしたもう一人の青年がひっそりと立っていた。
その虹色の双眸を細めて、青年は嬉しそうに笑う。
「改めて自己紹介するよ。俺は、べル。それで、こっちの同じ顔してるのが兄のジル。そうだな。君の遠い遠い従兄になるのかなぁ?」
そう言うと、よっと掛け声を出しながら欄干から飛び降りる。
近づいてくる異質な生き物。しかし、それと同時に感じる懐かしい存在感に、ルークは恐怖した。
「あ……、く、来るなッ」
ゆっくりと近づいてくる彼らから逃げようと、体が後ずさりを始める。
「俺達が怖い?」
相手の気持ちを推し量るようにそう問いかけながらも、ベルの歩みは止まらない。逃すつもりがないのだ。ベルが歩む分後ろに下がっていたルークの体は、次の瞬間、何かにぶつかった。
「ッ!?」
驚いて振りかえると、いつの間に移動したのか、ジルがルークの退路を断つように後ろに立っていた。
「ああ、背が高いね。あはは、顔も男前だ。俺達も結構、上背はある方なのにね」
ルークを間近でしげしげとよく観察しながらそう言ったベルに、ジルは首を傾げる。
「見た目とか顔とか、関係あるのか?」
「え~、だって、どうせなら顔がいい方がいいじゃん。これからずっと一緒にいる訳だし」
「まあ、それもそうか」
ルークを挟んで好きな事を言い合う兄弟は、心なしかはしゃいでいるようにも感じられた。
「一緒に、だと?」
ベルの台詞を聞いたルークは、相手の心情を慮る余裕もなく、顔色を変えて反論する。
「勝手に決めるな」
精一杯の矜持で相手を睨みつけるが、それを受け流すかのようにベルはにっこりと笑った。
「だって、君は俺達と一緒にいるのが自然なんだよ」
そう言うと、ゆっくりと顔を近づけてくる。
「ッやめ……」
目を覗きこもうとする相手から逃れようと腕を突っぱねるが、後ろに立つジルに抑え込まれ、顔を固定される。逃れられぬ虹色が視界を覆い、ルークは本人の意思に関係なく、相手の本質を見てしまった。
なんという
なんという……、美しく儚く、悲しい生き物なのだろうか。
ルークが呆然としている間に、ベルもルークの本質を視たのか、満足そうな息を吐いた。
「子供を…………」
言葉と共に、頬に冷たい手が伸ばされる。
「ドラゴンの子を……、俺達の子を産んで(孵化させて)くれないか?」
「!!??」
予想もしていなかったいきなりの告白を聞き、驚愕に目を見開くルークの顎を、彼の身を後ろから抑え込んでいたジルが掴み、べルの方へと差し出す。
兄の助けを借りたべルは同胞の呼気を味わうべく、一気に相手の唇を奪った。
無理矢理重ねられる唇は、彼の兄のものと同じく、ほのかに温かい。身体の内側まで探られるような、巨大な力の奔流。すさまじい勢いで体中に浸透し、髪の先まで侵したジルとの呼気の交換を覚えていたルークは恐怖に体を強張らせる。
しかし、そんなルークの警戒とは裏腹に、べルとの呼気の交換は穏やかなものだった。前もって、ジルからルークとの口づけの際の注意を聞いていたベルは、相手に合わせて力を加減したのだ。
それでも、優しく、穏やかにとはいえ、精神の奥、身体の内側まで探られる感覚は耐えがたく、べルの上着を掴むルークの腕が震え出す。そんなルークをあやす様に、ジルが顎を支えていない方の手で肩をさすってきた。抱き込まれるように前後から兄弟に挟まれ、ルークはふと懐かしい香りに気づく。
(……?)
二人から香るそれは、清々しい森の香りだった。
懐かしい……、故郷の香りだ。
帰りたい。
懐かしいあの森へ、美しいあの郷へ。
仲間達が待つ、あの場所へ。
視界を埋め尽くす虹色に支配され、ルークの思考は段々とぼんやりとしたものになってきていた。
その時……。
「ルークッ!」
聞こえた怒鳴り声に気づき、一気に意識が引き戻される。
長い事共にいたが、相手がこんなにも切羽詰ったような声を出すのを聞くのは初めてだ。ルークの知るその人は、いつも飄々としていて、焦りとは無縁であるかのように、常に冷静で理性的だった。
子供の頃より常に自分の前に在り、最も近くにいた男。
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