【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十五章 試練

1-3 不可思議な部屋

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 アシェイラの神官コンビが非常に微妙かつ難しい状態になっているとはまったく知らないリュセルは、すっかり彼らの事を忘れ、しばらくの間自分が滞在する事になる室内を見て回っていた。

 女性部屋というからには、姫君らしい、ピンクの洪水的な部屋を想像していたリュセルだったが、予想に反して三人に用意された部屋は、派手さの欠片もないものだった。柔らかな色彩の壁紙に絨毯、白を基調とした家具、奥には浴室もあるようだった。

「ふうん、滞在中の衣服も用意されているのかい」

 浴室と繋がるようにして在るドレスルームの中をチェックしたジュリナは、ディエラの自室程ではないにしろ、かなりの数の衣装が準備されている事に驚いた。ティアラ用と思われるドレスや小物類、ジュリナの男装用の衣装やリュセル用の衣装が分かりやすいように整理されている。家具の所々には優美な葉が彫られており、それがレイデの木の葉の絵だという事がすぐに分かった。

 ドレスルームの衣装を眺めていたジュリナと離れたリュセルは、部屋の奥をチェックし、安堵の息をついた。

 他の家具と同じ、白色の枠にレイデの葉を模った模様が彫刻された大きな寝台が三つ、等間隔に並んでいたのだ。

(寝台はきちんと人数分あるな。一つしかなかったらどうしようかと思ったぞ)

 これなら、ディアラの姉妹に挟まれて眠る事態に陥る事もないだろう。

「素敵なお部屋ですわね。」

 リュセルの隣りで部屋の中を見回していたティアラは、にっこりと笑って婚約者の顔を見上げた。

「そうですね。でも、いいのでしょうか」

「何がですか?」

 きょとんとしたあどけない顔で自分を見上げる、婚約者の可憐な美貌を見下ろし、リュセルは僅かに頬を染める。

「結婚前に……、その、こんな…………。まあ、前にも同じような事が多々あったりもしましたが」

 リュセルには、ジュリナの寝酒につきあって、ティアラの寝台で二人に挟まれて眠った過去がある。

「そう……、ですわよね」

 リュセルにつられたように、ティアラも頬を染めて俯く。その緑色をした瞳が、とても甘そうに潤んでいて、リュセルはゴクリと生唾を飲み込み、顔を逸らす。

 結婚を前に婚約者と部屋を同じくして、間違いなどが起きたら一体どうするんだ?

「って、今はそんな事考えている場合ではないだろうが!」

 くわっと目を見開き、自分で自分に突っ込みを入れていたリュセルに驚き、ティアラはビクリと肩を揺らした。

「あ、すみませんでした、ティアラ姫。驚かせてしまいましたね」

 リュセルはそう謝罪すると、頬にかかっていたティアラの朱金の巻き毛を優しく払ってやる。

「ティアラ姫」

「リュセル様……」

 熱っぽいリュセルの瞳をうっとりと見上げながら、ティアラは甘い声で婚約者の名を呼ぶ。

 その時。

「きゃっほ~ッ! こっちは一体どんな感じの部屋なの!? わ~~、僕らの部屋とまた違う感じの部屋だね、アル! 女性らしくて優美な感じ!」

「これ、ロー! ノックもなしに失礼であろう!?」

 バターーーンッ

 いきなりノックもなしに乱入したローウェンとその無作法を注意するアルティス。二人は手を取り合って見つめ合うリュセルとティアラの姿を凝視した後、再び扉を閉めた。

 パタン……

(ちょっとちょっとちょっと、まさかの展開だよ!)

(やはり、婚約者同士が同室ではな。リュセル殿もヘタレとはいえ、やはり男だったか)

 目線で会話しながら部屋に戻ろうとした二人は、ある事に気づく。

「あ~~ッ! 見て見て、アル!」

「なっ!?」

 ローウェンとアルティスの視線の先。談話室に配置されたテーブルの上には、いつの間にか食事が用意されていたのだ。

 一体、誰が? この部屋には世話好きな小人でもいるのだろうか?

 ありえない現実に直面し、硬直しているアルティスをよそに、ローウェンは目の前の料理を手づかみで無造作に口に入れる。

「ロ、ロー! この馬鹿、ぺっするのだ! 早く!」

 誰が作ったのかもわからない料理を口に入れた弟に度肝を抜かれたアルティスが、ローウェンの口の中に慌てて手を突っ込もうとしたが、当の本人はケロリとした表情で答えた。

「おいしいよ、これ。食べて大丈夫じゃないかなぁ?」

 美味しそうな匂いのする料理を前に、キラキラ笑顔でそう言った弟を呆れたように眺め、アルティスはため息をつく。

 食べ物に関しての勘が鋭いローウェンがこう言うのだから、問題ないとは思うが……。

「レオンハルト殿に相談してくる故、それまではそれ以上食べてはならぬぞ」

「は~い!」

 右の男部屋にいるレオンハルトに相談しにいったアルティスに元気よく返事を返しながらも、ローウェンは近くにあるサラダをつまみ食いしまくっていた。

 テーブルの上に用意されていた食事は、リュセルにはなじみが深いアシェイラ風のものだった。刻の経ち具合から考えて、時刻的には夕食になるのだろう。

 誰が用意したのか気になるところだったが、腹も空いていた為、結局頂く事にしたのだ。

 なごやかに食事をしながらも、六人それぞれ、神殿本部に辿り着くまでの旅での出来事を報告し、これからの事を話し合った。そんな中、リュセル達が経験したドラゴンの森での話になると、さすがに皆、驚きのあまり絶句し、すぐに言葉が出て来ない状態になる。

「それじゃあ、その、ドラゴンの末裔である双子の行方は、今も分からないって事だね?」

 食後、葡萄酒(ワイン)を口にしながら、ジュリナはそう言うと、向かいに座るレオンハルトに目を向けた。

「ああ。アシェイラですら把握出来ていないようだ。彼に把握出来ないとなると、森にはもういないのだろうね」

 同じように葡萄酒(ワイン)を口にしながら、レオンハルトは淡々とした口調で答える。

「下手すると、向こう側についてしまうのではないか?」

 食後の葡萄酒(ワイン)を飲むジュリナやレオンハルトと違い、紅茶を口にしているアルティスは、漆黒の瞳を翳らせて不安を口にする。

「あの様子では、否定は出来ないな」

 兄達の飲む葡萄酒(ワイン)を自分のグラスに注ぎながらそう言ったリュセルは、次の瞬間、目を見開く。

「うまっ、なんだ、この酒! うまいぞ!」

「だろ!? ルーンメッセ産に匹敵するうまさなんだよ!」

 有名な葡萄の産地と同等に美味しいと、酒神であるジュリナに言わしめたこの葡萄酒(ワイン)。一体どこ産なのか?

「気になるねぇ。気にしてる場合じゃないだろうけど……、気になるねぇ」

 ラベルがない瓶を凝視しながら呟くジュリナを軽く放置して、レオンハルトは立ち上がる。

「ともかく明日も早い。そろそろ休むよ」

 そう言いながらテーブルを回り込み、飲みかけの葡萄酒(ワイン)を一気に飲み干したリュセルの頬に手をかけた。

「ちょっと待ったああああッ!」

 いつものように、就寝前の口づけを交わそうとした兄弟の間に空瓶が挟まれる。

 レオンハルトがテーブルを回り込んだ短い間に、瓶の中の酒を一気にラッパ飲みして空にしていたジュリナが白けた目をして言った。

「お前らは接触禁止だって、言われてるだろ~が」

「って、これはただの就寝前の挨拶だぞ!?」

 目を閉じて唇が触れるのを待っていたリュセルは、そう怒鳴りながらジュリナを責める。

「駄目駄目。さ、離れた離れた」

 ニヤニヤしながら不満そうな顔のリュセルと無表情のままのレオンハルトを引き離したジュリナは、完全に二人の現状を楽しんでいた。
 ティアラはそんな半身の様子をため息をつきながら見つめつつ、アルティスとローウェンは触らぬ神に祟りなしとばかりに、そそくさと自分達の部屋に退散する。

 パタンッ

 は~~~~っ

「とりあえず、お風呂に入って早く寝よっか、アル」

「そうよな」

 扉を閉めて、二人同時に長い息を吐くと、扉の外の諍いを忘れる事にし、明日からの修行の日々に集中する事にしたローウェンとアルティスだ。

「でもさ、あんなにベタベタベタベタしてたのに。リュセル兄さん、レオンハルト兄さんなしで大丈夫かな?」

「どうにかするしかあるまいよ」

 弟の心配に、アルティスは曖昧な答えを返すしかなかった。







 そして迎えた、二日目。


「さて、皆さん。よく眠れましたか?」


 各部屋へと繋がっている、入口の談話室に集合した神子達の顔を見回したライサンは、リュセルの顔を見て目を見開いた。

「いかがしました、剣鍵様。真っ青ですよ?」

 たった一晩で派手な隈を白皙の美貌に貼りつかせている銀の王子に、ライサンの隣りに立っていたユリエも顔を引きつらせる。

「やっぱり……。レオンハルト兄さんなしじゃ安眠出来なかったんだね、リュセル兄さん。可哀そう」

「しかし、これも試練。耐えてもらわねば」

 リュセルと違い、安眠し、すっきりした面持ちの北の王子コンビが小声でそう言い合う。その会話内容が筒抜けに聞こえていたリュセルは、血走った目を見開いて怒鳴った。

「試練……?って、それ以前の問題じゃ~~~~ッ!」

 ローウェンとアルティスの推測通り、リュセルは一睡もしていなかった。しかし、レオンハルト不在が原因ではない! 決してない!

「寝台がきちんと三台あるのに、何故、俺のところで寝るんだ!? 意味分からん!!」

 昨夜、湯浴みを終えたリュセルが目にした光景は、リュセル用と決めた寝台(ジュリナとティアラが湯浴み中、二人の寝台と少々離しておいた)で抱き合いながら眠る朱金の姉妹の姿。
 女性と同室という事実に戸惑うリュセルの心情を知ってか知らずか、人の寝台ですやすや眠る姉妹に呆れつつも、自分の寝台を使われている為、仕方なくジュリナ用の寝台に横になろうとした。だが、その瞬間、いきなり伸びてきた手に引きずり込まれ、問答無用でティアラを抱くジュリナの左腕に抱き込まれてしまい、硬直しながら一晩を明かしたのだ。
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