342 / 424
第十五章 試練
1-2 離れた心
しおりを挟む一方、始まりの扉をくぐり、こちら側に戻った古の勇者コンビは、解散してそれぞれ休む事にしていた。休める時に体を休めなければ、今後体力がもたなくなってしまう。与えられた客室が同じ方向にある為、長い回廊をライサンと共に歩いていたユリエは、前方から歩いてくる集団に気づいて声を上げた。
「あっ」
「おお、ライサンにユリエ姫」
白色の長い鬚、長い眉、一見すると小妖精属性の可愛らしいお爺ちゃんだが、しかしその実態は、偉大なる老師。大神官、リュカ・セリクス、その人である。
後ろに数人の付き人を従え、忙しそうに本殿内を移動していたリュカ老師もライサンとユリエに気づいたらしく、にこにこ笑いながら二人の元へと近づいて来た。
「セリクス大神官」
祖父孫の間柄ではあるが、人の目の多いこの場では役職名を呼んで、ライサンは目上の神官に行う挨拶の動作をゆっくりとして見せる。そんな孫に向かい、リュカ老師は気になっていた事柄を尋ねた。
「神子様方は、無事、向こう側へ行かれたのじゃな?」
「はい」
穏やかに返事を返す、自分の若い頃によく似た優しげな面差しを気遣わしげに見返すと、リュカ老師は無言のまま、自分の後ろにいる付き人の一人に視線を移した。
燃える炎のような髪色が印象的な、背の高い青年。一昨日より臨時に付き人に任命した、アシェイラ支部神官長補佐、ルーク・ウインターだ。
他の神子達と共にやって来た、支部の神官長や巫女姫、その補佐達は、現在、この本部にて共に臨時の任務に就いている。だが、深刻な事情のあるアシェイラの神官長と補佐は、別の任務に就かせる事を決定したのだ。
古の勇者としての使命と魂を持つライサンは、同じ勇者の転生体であるユリエと共に神子達のサポートをし、ルークはとりあえず、大神官であるリュカ老師の監視下に置かれる事になった。臨時の付き人とし、大神官の仕事を手伝ってもらっている。
ルークが神官に任命されてから、初めてライサン付きから離された形でいる訳なのだが、離れてしまったのは仕事上の事だけではないようだった。
今もライサンは、穏やかな眼差しをリュカ老師に向けてはいるが、その視線を一切ルークに向けようとしない。それは今だけでなく、竜の末裔達の襲撃で気を失ったルークが目覚めて以来、ずっとの事だった。上司部下として、必要最低限の会話はするが、それ以外は一切しない。ライサンは完全にルークに対して心を閉ざし、離れようとしていた。
今までうるさい位に自分に構い、嫌になる程傍にいた相手の突然の拒絶に、自分の養い子が内心戸惑い、傷ついているのをリュカ老師は察していたのだ。
「ライサン」
「では、私はこれで……」
リュカ老師が口を開くと同時に、ライサンは一礼し、再び歩き出す。
「…………」
こちらに一瞥も向ける事なく、そのまま横を通り過ぎて行くライサンを見る事も出来ず、ルークは軽く目を伏せたまま拳を握りしめた。
「お、おい、ディエラ」
顔を強張らせているルークを横目に見たユリエは、つい、前を歩くライサンに声をかける。
「何も言うな。言ったら絞め殺すぞ」
ディエラの口調で物騒な台詞を吐き捨てたライサンの背中を眺めながら、ユリエはため息をついた。こうなったディエラ(ライサン)には、何を言っても無駄だと言う事をよく知っていたからだ。
「どうでもいいけど、そのイライラ、神子達にはぶつけるなよ」
現世の彼は、穏やかで優しく、自分を律する事に長けているようだが、実は前世での彼は、ものすごく性格が悪く、腹黒く、その上、見た目の美しさを裏切り、よくキレていた。
「……誰にものを言っているんですか? そんな事、私がするはずないでしょう?」
一拍置き、そう言いながら振り返ったディエラ(ライサン)の顔は、ユリエが寒気を起こす程、慈悲深い聖者の顔になっていた。
二人を見送ったリュカ老師は、付き人を伴い、再び歩き出しながら、今後のライサンとルークの処遇について考えていた。
この状態が、二人にとって良いものだとは考えられない。古の勇者の転生体と人の血の中に見つかった竜の末裔。ドラゴンからすれば、勇者達は仇なのだという。まだ自分の中に流れる血の説明はされていないが、近い内にアシェイラがルークにすべてを話すだろう。その時、彼がどう思うかはわからない。しかし、前のようにいられない事だけは確実だ。
そう……、アシェイラ支部に共に置いておく事は出来ない。そうなると、どちらかを異動させねばならない。
(次にライサンが動く時は、この本部の神官長に就任する時と決まっておる。じゃが、それにはまだ早過ぎる。……となると、ルークを異動させるしかないのう)
現在のディエラ支部は巫女で統一されている為、ルークの現在の身分の事を考えると、サンジェイラ支部の神官長補佐か本部の神官査が妥当だ。
サンジェイラ支部に異動させてもいいのだが……。
(わしの傍(本部)で、付き人を続けさせてみるかの)
今のような臨時ではなく、正式に大神官の付き人に。
考えてみれば、彼が神官になってからというもの、ずっと傍にいてやれなかった。傍で養い子の成長を見守るのもいいかもしれないとリュカ老師は密かに思っていたのだった。
しかしそれも、ルークが人として生き続ける事を選んだ場合の話ではあったが……。
0
あなたにおすすめの小説
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜
隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。
目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。
同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります!
俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ!
重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ)
注意:
残酷な描写あり
表紙は力不足な自作イラスト
誤字脱字が多いです!
お気に入り・感想ありがとうございます。
皆さんありがとうございました!
BLランキング1位(2021/8/1 20:02)
HOTランキング15位(2021/8/1 20:02)
他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00)
ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。
いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
【3/11書籍発売】麗しの大公閣下は今日も憂鬱です。
天城
BL
【第12回BL大賞 奨励賞頂きました!ありがとうございます!!3/11に発売になります、よろしくお願いします!】
さえないサラリーマンだったオジサンは、家柄・財力・才能と類い稀なる美貌も持ち合わせた大公閣下ルシェール・ド・ヴォリスに転生した。
英雄の華々しい生活に突然放り込まれて中の人は毎日憂鬱だった。腐男子だった彼は知っている。
この世界、Dom/Subユニバースってやつだよね……。
「さあ気に入ったsubを娶れ」
「パートナーはいいぞ」
とDomの親兄弟から散々言われ、交友関係も護衛騎士もメイド含む屋敷内の使用人全てがSubで構成されたヴォリス家。
待って待って情報量が多い。現実に疲れたおっさんを転生後まで追い込まないでくれ。
平凡が一番だし、優しく気立のいいsubのお嫁さんもらって隠居したいんだよ。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!
黒木 鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる