【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十五章 試練

1-2 離れた心

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 一方、始まりの扉をくぐり、こちら側に戻った古の勇者コンビは、解散してそれぞれ休む事にしていた。休める時に体を休めなければ、今後体力がもたなくなってしまう。与えられた客室が同じ方向にある為、長い回廊をライサンと共に歩いていたユリエは、前方から歩いてくる集団に気づいて声を上げた。

「あっ」

「おお、ライサンにユリエ姫」

 白色の長い鬚、長い眉、一見すると小妖精属性の可愛らしいお爺ちゃんだが、しかしその実態は、偉大なる老師。大神官、リュカ・セリクス、その人である。

 後ろに数人の付き人を従え、忙しそうに本殿内を移動していたリュカ老師もライサンとユリエに気づいたらしく、にこにこ笑いながら二人の元へと近づいて来た。

「セリクス大神官」

 祖父孫の間柄ではあるが、人の目の多いこの場では役職名を呼んで、ライサンは目上の神官に行う挨拶の動作をゆっくりとして見せる。そんな孫に向かい、リュカ老師は気になっていた事柄を尋ねた。

「神子様方は、無事、向こう側へ行かれたのじゃな?」

「はい」

 穏やかに返事を返す、自分の若い頃によく似た優しげな面差しを気遣わしげに見返すと、リュカ老師は無言のまま、自分の後ろにいる付き人の一人に視線を移した。

 燃える炎のような髪色が印象的な、背の高い青年。一昨日より臨時に付き人に任命した、アシェイラ支部神官長補佐、ルーク・ウインターだ。

 他の神子達と共にやって来た、支部の神官長や巫女姫、その補佐達は、現在、この本部にて共に臨時の任務に就いている。だが、深刻な事情のあるアシェイラの神官長と補佐は、別の任務に就かせる事を決定したのだ。
 古の勇者としての使命と魂を持つライサンは、同じ勇者の転生体であるユリエと共に神子達のサポートをし、ルークはとりあえず、大神官であるリュカ老師の監視下に置かれる事になった。臨時の付き人とし、大神官の仕事を手伝ってもらっている。

 ルークが神官に任命されてから、初めてライサン付きから離された形でいる訳なのだが、離れてしまったのは仕事上の事だけではないようだった。

 今もライサンは、穏やかな眼差しをリュカ老師に向けてはいるが、その視線を一切ルークに向けようとしない。それは今だけでなく、竜の末裔達の襲撃で気を失ったルークが目覚めて以来、ずっとの事だった。上司部下として、必要最低限の会話はするが、それ以外は一切しない。ライサンは完全にルークに対して心を閉ざし、離れようとしていた。

 今までうるさい位に自分に構い、嫌になる程傍にいた相手の突然の拒絶に、自分の養い子が内心戸惑い、傷ついているのをリュカ老師は察していたのだ。

「ライサン」

「では、私はこれで……」

 リュカ老師が口を開くと同時に、ライサンは一礼し、再び歩き出す。

「…………」

 こちらに一瞥も向ける事なく、そのまま横を通り過ぎて行くライサンを見る事も出来ず、ルークは軽く目を伏せたまま拳を握りしめた。

「お、おい、ディエラ」

 顔を強張らせているルークを横目に見たユリエは、つい、前を歩くライサンに声をかける。

「何も言うな。言ったら絞め殺すぞ」

 ディエラの口調で物騒な台詞を吐き捨てたライサンの背中を眺めながら、ユリエはため息をついた。こうなったディエラ(ライサン)には、何を言っても無駄だと言う事をよく知っていたからだ。

「どうでもいいけど、そのイライラ、神子達にはぶつけるなよ」

 現世の彼は、穏やかで優しく、自分を律する事に長けているようだが、実は前世での彼は、ものすごく性格が悪く、腹黒く、その上、見た目の美しさを裏切り、よくキレていた。

「……誰にものを言っているんですか? そんな事、私がするはずないでしょう?」

 一拍置き、そう言いながら振り返ったディエラ(ライサン)の顔は、ユリエが寒気を起こす程、慈悲深い聖者の顔になっていた。



 二人を見送ったリュカ老師は、付き人を伴い、再び歩き出しながら、今後のライサンとルークの処遇について考えていた。

 この状態が、二人にとって良いものだとは考えられない。古の勇者の転生体と人の血の中に見つかった竜の末裔。ドラゴンからすれば、勇者達は仇なのだという。まだ自分の中に流れる血の説明はされていないが、近い内にアシェイラがルークにすべてを話すだろう。その時、彼がどう思うかはわからない。しかし、前のようにいられない事だけは確実だ。

 そう……、アシェイラ支部に共に置いておく事は出来ない。そうなると、どちらかを異動させねばならない。

(次にライサンが動く時は、この本部の神官長に就任する時と決まっておる。じゃが、それにはまだ早過ぎる。……となると、ルークを異動させるしかないのう)

 現在のディエラ支部は巫女で統一されている為、ルークの現在の身分の事を考えると、サンジェイラ支部の神官長補佐か本部の神官査が妥当だ。

 サンジェイラ支部に異動させてもいいのだが……。

(わしの傍(本部)で、付き人を続けさせてみるかの)

 今のような臨時ではなく、正式に大神官の付き人に。

考えてみれば、彼が神官になってからというもの、ずっと傍にいてやれなかった。傍で養い子の成長を見守るのもいいかもしれないとリュカ老師は密かに思っていたのだった。

 しかしそれも、ルークが人として生き続ける事を選んだ場合の話ではあったが……。

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