【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十五章 試練

1-4 女神の武器の特性

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 熟睡してしまった(らしい)ジュリナには、何を言っても無駄で、その腕は力強過ぎて逃れる事も出来なかった。あわれ(?)リュセルは、ジュリナが目覚めるまで、薄い夜着越しの柔らかな胸に身を預けているしかなかったのだ。

「身を寄せ合って寝た方が温かいだろ~が。細かい事気にするなよ」

 ジュリナの言葉に対し、リュセルは深く沈む。

 あわれ過ぎる……。

 ローウェンとアルティスは、修業前から疲労困憊のリュセルに、同情せずにはいられなかった。案の定な幼馴染と半身である弟の様子に呆れ、レオンハルトはため息をつく。

「とりあえず、時間もありませんので、さっさと修業に入りますよ」

 意識を切り替えさせるように、パンパンっと両手を叩いてそう言ったライサンは、修業の間に続く扉の前に移動する。

「ここで、あなた方には各半身ペアごとに分かれてもらいます。つまり、剣・鏡・玉、別々に戦いの経験を積んでもらう事になるのです。それぞれの武器が別の特性を秘めている為にです。ではまず、ユリエ姫と玉主様、玉鍵様がお進み下さい」

 ライサンの言葉に頷き、ユリエが二人の弟を伴って扉を開けた。

 硬い表情のローウェンとアルティスがユリエの後を追って室内に入るのを見送ると、ライサンは一度扉を閉めた。

「はい、次は剣主様、剣鍵様」

 何故、一度扉を閉める必要が? 不思議に思いながらも、リュセルはライサンに返事を返す。

「あ、ああ」

「…………」

 無言のまま扉を開けた兄について中に入って行ったリュセルを見送ると、ライサンは再び扉を閉めた。

「さ、私達も行きましょう」

 最後に残った鏡の姉妹達に呼びかけると、ティアラは戸惑いながらも小さく頷き、ジュリナは厳しい真紅の瞳をライサンが再び開けた扉の向こうに向けていた。



「なんだ、ここは?」

 扉を抜けると、そこにあったのは広大な空間。見渡す限り何もない、真っ白な場所だ。

「先に入ったはずのローウェンとアルティスはどこに行ったんだ?」

 リュセルは周囲を見回すが、そこに年下の同胞達の姿はどこにも見つけられない。だだっ広い空間に存在するのは、自分と隣に立つ兄の二人だけ。

「北の神子達なら別空間にいるぞ」

 聞き覚えのあるそんな声が響いたと思ったら、リュセルとレオンハルトの前方に在る空間がグニャリと歪んだ。

「よっ、お待たせ!」

 空間の歪みを越えて姿を現したのは、よく日に焼けた肌のクシャクシャ髪の青年。

 何者にも怯まない、力強く前を見据える不敵で明るい瞳が印象的な事を抜かせば、どこにでもいるような普通の青年だ。しかし、短い革のチュニックの下に着込んだ重そうな鎖帷子が彼が戦士である事を物語っていた。

 人型をとっていた時にいつも着ていた神官服でなく、何千年も昔、自身が人間だった頃に着ていた衣装で登場したアシェイラは、片手に剣を持っていた。

 現在、レオンハルトが持っているものと全く同じ形をした剣。

「女神の剣!? え? 二つ?」

 兄の持つ剣とアシェイラが持つ剣を見比べながら、リュセルは驚きに目を見張る。そんな相手を面白そうに見つめ、彼は豪快に笑う。

「あっはははははっ、違う違う、俺が持ってる方は、ここでしか使えない、女神の剣をコピーしたイミテーション(偽物)。レオンハルトが持ってるのが正真正銘の本物だ。安心しろ」

「そうなのか?」

 どう見比べても見分けがつかない程そっくりだが……。

「この部屋は多重空間なのではないか? 他にいくつの空間に分かれている?」

 一方のレオンハルトは、なんとなくこの部屋の仕組みについて察しがついたらしく、アシェイラに向かってそう尋ねた。

「多重空間?」

 兄の言葉に首を傾げたリュセルと違い、レオンハルトの言っている意味を正確に知るアシェイラは、驚いたような顔になる。

「入ってすぐにこの部屋の仕組みが分かったのは、お前で二人目だな。その通り! この部屋は多重空間に分かれてる。今、お前達がいるこの空間を含め、三つに分かれているのさ。北の神子達と鏡の姉妹達は、この部屋のそれぞれ別空間にいる訳だ」

 ライサンが何度も扉を開けたり閉めたりしたのは、空間を変えていたという事か。

「じゃ、とりあえず、実践に入る前に勉強から始めるぞ。二人共、そこ座れ」

 アシェイラがそう言った瞬間、リュセルとレオンハルトの後ろに椅子が現れる。

「勉強?」

「…………」

 椅子に腰を下ろしたレオンハルトに続いて、リュセルも恐る恐る椅子に腰かける。

「そ、剣・鏡・玉。女神の武器はそれぞれ特性が違うのは知っているよな。はい、レオンハルト」

 女神の剣(イミテーション)で指し示されたレオンハルトは、表情を変えぬまま、淡々と答えた。

「剣は邪気を切り裂くもの。鏡は邪気を封じるもの。玉は邪気を払うもの。殺魔・封魔・破魔だ」

「おおう、さすがだねぇ。つまり~、特性違いの能力が元々備わってるって事なんだぜ。お前らが今までやってきたのは、どの武器でも共通して出来る、単調な浄化だけだろ? ま、それだけでも、普通の邪鬼相手なら充分なんだけどな。これからは、それだけで邪鬼と戦うのはちっとキツイから、とりあえず、特性技を覚えような」

 特性技?

「さっきレオンハルトが言ったように、女神の剣は殺魔の力。浄化の力を剣身に一点集中させて……」

 瞬間、アシェイラの飄々としたような表情が変化した。

 ダンッ

 ドゴオオオッ

「ッ!?」

「なッ!」

 リュセルとレオンハルトの間を風が走ったと思ったら、二人の後ろに巨大な穴が空いていた。アシェイラの渾身の一撃で地面が消し飛んだのだ。

「一応、これって”殺光斬(せっこうざん)”って名前があるんだけどさ~。なんつ~か、自分でつけておいてなんだが、かなり物騒な名前だから、自分の応用技が出来たら名前を適当に変えてくれな」

 背後に出来た巨大クレーターを凝視しながら、リュセルは穴の前に立つアシェイラに乾いた声で聞き返す。

「応用技……?」

「そ、これが基本形。剣にすべての浄化の力を集めるやり方は、同化の際の同化率の繊密なコントロールと剣鍵の感知能力が大切なんだぜ。お前らの場合、鍵の感知能力が初期値から桁外れに高いから問題ないんだが、同化率が高すぎるのがな~」

「高くてはいけないのか?」

 圧倒的な古の勇者の力を目の当たりにしたのにも関わらず、相変わらずの無表情でそう尋ねるレオンハルトに目を向け、アシェイラは難しい顔のまま頷く。

「高けりゃいいってもんじゃないんだな、これが。発動時、高過ぎず低過ぎずの同化率を維持しなくちゃならないんだよ」

 主と鍵の同化のいらないアシェイラは、代わりに極限までの精神集中をし、技を発動させていたのだが……。

「本当は時間をかけて練習させてやりたいんだけど、現状、そんな暇もないから、今回はスパルタ方式でいかせてもらうな」

 絶妙な同化率維持の為に自分達は接触禁止令が出ていたのか。そう考えていたリュセルの耳に、緊迫感のないのんびりとしたアシェイラの声が届く。

「え?」

「…………」

 不思議そうなリュセルの視線と怪訝そうなレオンハルトの視線が自分に向けられているのを見て取ると、アシェイラはにっこりと笑って持っていた剣の先を自分の横に向けた。

「遙か彼方に忘れられし記憶の結晶を具現化し、姿を顕せ 過去の神子達よ」

 光の円陣が二つ地面に描かれ、そこから二人の青年が顕れ出でる。

 一人は、左目の下を飾る黒子が印象的な、淡金の短髪の背の高い青年。もう一人は、長い銀髪を複雑な形に結い上げた、どこか退廃的な印象の漂う青年。身長も年齢も同じ位であると思われる彼らに共通しているのが、信じられない程に見目が美しいという事だった。

(誰だ?)

 見た事もない青年達だ。だが、何故か懐かしいような、慕わしいような印象を受けてしまう。

「これも、この剣と同じ、イミテーション(偽物)だ。本物は三千年も昔に死んでしまった。過去に存在した剣主と剣鍵の内の一組を具現化させたのさ」

「……という事は、俺達の祖先か!?」

 リュセルが驚愕の声を上げるとアシェイラはケラケラと笑った。

「そ~いえば、そうか。こいつら、アシェイラ国の王族だった訳だしな~。過去にいた剣の神子の中でも格別に強くてお前らに縁深いのを選んだから、しっかりやれよ」

 そう言うと、アシェイラは持っていた剣を金髪の青年に投げ渡す。

「遠慮はいらないぞ、ルドガー」

 ルドガーと呼ばれた青年は、剣を無造作に受け取ると、隣に立つ銀髪の青年に固い口調で呼びかけた。

「来てくれ、グレアム」

 半身の呼びかけに答えるように、彼はニヤリと笑いながら片手を剣に向かって上げる。

「了解」

 瞬間、眩い銀の光が周囲に満ち溢れ、二人の青年は同化を果たした。

「まずは、そいつらと戦って、互角に渡り合える位になってくれるか?」

 その声だけ残してアシェイラは姿を消し、リュセルは怒鳴り声を上げる。

「いきなり実戦って、スパルタ過ぎるわッ!」

「わめいている場合ではない。来い、リュセル」

 相手が本気で打ち込んで来ようとしているのを悟っていたレオンハルトは、持っていた剣を掲げて弟を呼ぶ。

「ああ」

 とにかく、やるしかない!

 腹をくくったリュセルは、兄と同化する為に、いつものように剣に片手をかざした。
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