【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十五章 試練

2-1 修行開始

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「封印光布(ふういんこうふ)?」

 剣兄弟が自分達の祖先を相手に戦っていたのと同じ頃、鏡姉妹は、目の前の青年が具現化させたものを凝視していた。

「ああ。浄化の力を、封縛の力のある布に変化させたものだ」

 そう言ったのは、ウエーブを描く金髪が美しい、華やかな印象が常につきまとう派手な青年。
 吟遊詩人が身につけるようなデザインの衣装と装飾具を身に纏い、両手で女神の鏡とまったく同じものを持っている。

 その女神の鏡(コピー)より顕れた細長い銀の布には、神々の戒めの言葉が金の文字で刻まれていた。

 ライサン・セリクスの姿から前世の姿であるディエラに変化している彼は、アシェイラが剣の神子達にしていたのと同じ説明をジュリナとティアラにしていた。

「あくまでもこれは基本形だ。これをどう応用させていくかは、それぞれの力量と才覚によって異なる。俺が知っている中でも、奴ら程応用技の多かった神子はいない。うまく技を盗むもいいし、自分で編み出すもいいだろう」

 ディエラはそう言うと、持っていた鏡に封印光布を戻し、それを掲げる。

「遙か彼方に忘れられし記憶の結晶を具現化し、姿を顕せ、過去の神子達よ」

 次の瞬間、地面に二つの円陣が顕れ、そこからゆっくりと二人の少年が出でた。

「……!?」

「なっ、こいつは!」

 ティアラは両手で口元を抑えて息を呑み、ジュリナは真紅の瞳を大きく見開いて、現れた少年の片割れを見つめる。

「心配はいらない。これはただの残像に過ぎない。過去の神子達、いや、まだお前達にとっては過去ではないかもしれないが……。これはまだ、闇に堕ちる前の姿を象ったものだ」

 ディエラはそう言うと、隣に立つ少年に視線を移す。

 肩先でそろえられた蒼髪、優しげな暗褐色の瞳、白い柔肌。年の頃なら十五歳位の、金縁の眼鏡がよく似合う知的な少年。ティアラによく似たその美貌。

「これが、昔のイプロスって訳かい。じゃあ、こっちが……例の」

 ボブ丈に切りそろえられ、内巻きにカールした栗色の髪、つぶらな琥珀色の瞳。子供と言った方がいいような年齢の少年。

「か、可愛い」

 イプロスの隣に立つ、十歳に満たないような年齢の可愛い小さな王子様を見て、ジュリナがついそう呟くと、ディエラはハッとしたような顔になった。

「すまん、間違えた」

 しかし、能力的に変わりがないのを知ると、そのままにしておく事にした。(面倒くさいから)

「よろしく頼む、リンスロット」

 持っていた鏡を子供に手渡したディエラは、その栗色の髪を一撫でして姿を消す。

「力尽きた頃に迎えに来るからな」

 そう声をかけていなくなったディエラに内心舌打ちをしながら、ジュリナが相手の様子を伺うと、リンスロットは小さな両手で抱えていた鏡(コピー)を弟に向けた。

「来い、イプロス」

 その時。

「…………来い、ですか?」

 優しげな美貌に似合わぬ冷たい声をイプロスが発した。

「あ……」

 ビクビク、ブルブル。

 不意に小動物のように怯えた眼差しになって弟を見上げたリンスロットは、涙目のまま言い直した。

「き、来て下さい。お願い、イプロス」

 その様子に満足したのか、イプロスはにっこりと笑って右手を鏡にかざした。

「はい、兄上」

 銀の光が周囲に溢れ、二人が同化を果たすのを見守っていたジュリナは、胡乱な目のままツッコんだ。

「何、このヘンテコ兄弟」

「お姉様!」

 イプロスとリンスロットの異常な関係性に呆れていたジュリナは、ティアラの叫び声を聞くと、妹の体を抱えてその場を飛びのいた。

「”薔薇の檻(ばらのおり)”」

 リンスロットの小さな口からイプロスの声でそんな言葉が発せられると同時に、薔薇の蔓に姿を変えた封印光布が襲い来る。

「これが、封印光布の応用技ってやつかい! おいで、ティア! 反撃するよ!」

「はい、お姉様」

 無数の薔薇の蔓から逃れながら、なんとか同化に成功したのだった。







 ジュリナとティアラが数多の応用技を有する三千年前を生きた鏡の兄弟相手に苦戦を強いられている時、同じ部屋の別空間にいるローウェンとアルティスは、周囲を漂う光の粒子を感嘆の面持ちで見回していた。

「これが、”破光粒(はこうりゅう)”。浄化の力を細かい光の粒子にしたものだよ」

 穏やかな声でそう言って笑ったのは、目の下のそばかすが目立つ華奢な青年。
 神官服にもよく似た学者服をきっちりと着込み、頭をすっぽりと覆うような大きなベレー帽を被っている。

 彼が片手に構えた女神の玉(コピー)から発せられる光の粒子を、じーっと少年達は凝視していた。

「これを応用するだけで、治癒の力にする事が出来るんだ。治癒の能力は、三宝の中でも玉にしか備わっていない希少なものだからね。覚えておいた方がいいよ」

「治癒の力だけ? 攻撃は出来ないの!?」

 目を輝かせてそう尋ねるローウェンに対し、ユリエからサンジェイラの姿に変化していた彼はにこやかに答える。

「出来るよ。このまま僕が教えてあげてもいいんだけど、人の身である今の僕の体じゃ、あんまり長くここにいられないんだ。だから、代わりの者に君達の相手をしてもらうね」

 そう言うと、サンジェイラは玉(コピー)に力を集中させた。

「遙か彼方に忘れられし記憶の結晶を具現化し、姿を顕せ、過去の神子達よ」

 次の瞬間、地面に二つの円陣が顕れ、そこからゆっくりと二人の女性が出でる。

 一人は白い着物に朱色の袴を身に纏った、十六~十七歳位の年齢の少女。頭上で一つにまとめている長い髪は薄桃の色をしているが、ところどころに薄茶の色が交じり、美しいグラデーションを形成している。可憐な作りが目を惹く美貌の中、勝気そうな水色の瞳が好戦的に輝いていた。

 一方もう一人は、薄桃色の髪の少女よりも何歳か年嵩だと思われる女性。
 背の中程まである黒茶色の髪、明るい茶色の瞳。滑らかな褐色の肌が美しい、伏し目がちな、清楚で可憐な美女である。

「がんばってね、ココノハ」

 紫紺の色無地という、非常に地味で簡素な着物姿の女性に、持っていた女神の玉(コピー)を優しく手渡したサンジェイラは、声だけ残して姿を消す。

「今のところ、その子達の方が君達の何倍も強いから、女性だからって気を抜くと簡単にやられちゃうよ」

 その言葉を聞くと同時に、アルティスがムッとしたような視線を女性達に向ける。

 強い? この、気の弱そうな女が?

 自分と同じ女神の特徴を受け継いでいたらしい女性は、懐に持っていた眼鏡ケースから丸い大きな眼鏡を出すとそれをかけた。そうとう恥ずかしがりやなのか、ずっと下を向いたまま、両腕に抱えていた玉を隣の少女に向ける。

「ぇっと……。その、ぁ、いらして……フェリシア姉様」

 蚊の鳴くような小さな声でぼそぼそとそう言った妹に、フェリシアと呼ばれた薄桃色の髪の少女は差し出された玉(コピー)に手をかざす。

「オッケー、ココちゃん! 全力でいくわよ!」

 銀の光を放つと共に一瞬で同化した二人の体は一つとなり、妹の顔でフェリシアは不敵に笑う。慣れた手つきで玉を操るココノハから脅威を感じたローウェンは、慌ててアルティスを呼んだ。

「来て、アルティス!」

「承知」

 同じように同化を果たした現代の玉の守り手に向かって、ココノハは杖をクルクルと回す。

「なっ!?」

 ココノハの周囲に無数の光の礫が出現するのを見たアルティスは、眼帯に覆われていない方の目を驚きに見開いた。

「”光礫(こうてつ)”」

 ふふっと勝気にココノハが笑うと、彼女の周囲を覆っていた破光粒の礫が少年達に襲い掛かったのだった。







「はてさて、大丈夫かな?」

 修業の間から出て来たサンジェイラの姿は、瞬時に振袖を着たおさげ髪の少女の姿に戻る。現世の姿に戻ったサンジェイラは、同じように白髪の支部神官長の姿に戻っている戦友が先に部屋から出て来ていたのを知る。

「お前もスパルタ特訓の中に神子達を放り込み終わったか? ディエラ」

「ああ、アシェイラは先に役目に戻って行った。俺達もここを出るぞ。あまりここにいると体がだるくなってくる」

「そうだね」

 先を歩き出したライサンの後を追うようにして、絵画の形をした始まりの扉をくぐり、外に出ると、ユリエは軽く伸びをして右肩を揉んだ。

「あ~、体が軋む。年か?」

「ははは、何言ってるんですか。今のあなた、私よりも年下でしょう?」

 あっさりとディエラからライサンの口調と雰囲気に戻った戦友に感心しながらも、ユリエは先程まで自分が接していた者達の事を思い出す

「コピーとはいえ、三千年前の神子達の姿を見ると胸が痛むな。歴代の神子の中でも格段に強かったから、現代の神子達の修業の相手としてはうってつけなんだろうけど」

 彼らが強かったのは、強くならなくてはならない理由があったからだ。そして、そんな彼らの中でも一等強かったのが、あの悲劇の兄弟。

 双子として生まれ、母の腹の中から共にいたリンスロットとイプロスの能力の初期値は、他の二組の神子達よりも格別に高く、封印光布の使い方は、ディエラが教える事をせずとも知っていた。
 二人は数多の応用技を編み出し、当時、殺魔の力を持つ剣よりも、封魔の力しかない鏡の方が強かったのである。

 危うい強さだったと、今なら言えるだろう。

「もちろん、リンスロットとイプロスの力は調整したんだろうな?」

「ええ。コピーとはいえ全開でやらせたら、ジュリナ姫もティアラ姫もすぐに死んでしまいます。半分以下程の力に抑えておきましたよ。そちらは?」

 ライサンの問いに、ユリエは難しい顔をしながら頷く。

「う~ん、ちょっと悩んだんだけど、最初は半分位に調整して、段々上げていくつもり。最終的には、能力全開なココノハと能力の上がったローウェンが互角になればいいと思ってる。アシェイラはどうしたって言ってた?」

「現代の神子達の中では、剣の能力が邪神との戦いでの要になるでしょうから、最初から100%の力でやらせるって言ってましたよ。あの筋肉馬鹿、調整が面倒くさいだけなんじゃないでしょうか?」

 三千年前に邪神と戦った神子の100%能力解放を、最初から!?

「何考えてるんだよ、アシェイラ! 無謀すぎる!」

 ユリエは慌てて元来た道を戻ろうとするが、そんな彼女の腕を掴み、ライサンは言った。

「何も考えていないでしょう。大雑把な男ですから。無謀かもしれませんが、最終的に目指すものは三組の神子達はすべて同じ。私達には見守る事しか出来ませんよ」

「それは……、そうだね」

 もどかしい思いは皆同じ。

「僕らは僕らにしか出来ない事をしなくては……」

 能力強化の修業中の神子達に代わり、邪神の動向を探る。

 だが、何の動きもない今の状態が、不気味でならなかった。

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