【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十五章 試練

2-3 戦い方の違い

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 賓室にある寝室の一つ。

 レオンハルト、アルティス、ローウェンに与えられた部屋は、姫君達に与えられたものと違い、褐色の家具で統一された重厚な趣の部屋だった。

 そんな中、一番奥に位置する寝台に横たわり、眠っているレオンハルトの寝顔を、リュセルはじっと見つめている。

「リュセル様」

 身動ぎ一つしない婚約者を心配し、寝台傍の椅子に腰かけた状態のリュセルの目線に合わせるように膝を折り、そっとその腕に手を添えたティアラは、痛ましい状態にある寝台上の主に目を向けた。

 白い肌のあちこちに裂傷と火傷を負い、治療の為に巻かれた包帯には血がにじんでいる。裂傷もひどかったが、それよりも重傷だったのが火傷だ。何をどうしたら、こんな風になってしまうのか。髪先さえも黒く焦がしてしまっている攻撃の爪痕に、最初にレオンハルトの状態を見た時、ティアラは戦慄を覚えた。ジュリナでさえ絶句し、何も言えなくなっていた程だ。

(まるで落雷を受けたような状態ですわ)

 発熱し、熱にうなされるレオンハルトの額に手を伸ばし、濡れタオルを交換しながらティアラは思った。

 傾国の美女のようだと謳われた美貌にもひどい切傷があり、治療は施したが、これでは跡が残るだろう。焦げた髪も短く切らなくてはならない。

「ティアラ姫は、ジュリナ殿と同化している間、自分を歯がゆく思った事はないですか?」

「え?」

 沈黙を破り、ようやく口を開いたリュセルが発した言葉は、冷静過ぎる程に冷静だった。

 彼が自分の半身の状態を憂い、心が引き裂かれそうな程心配しているのは、ティアラもよく分かっていた。そして、何かに憤っている事も……。それ故に、リュセルがこんな風に冷静に話し出した事が意外でならなかったのである。

「俺は今回程、同化している間、自分が情けなくなった事はありませんでした。…………今まで、そんな風に思う必要がなかったんです」

「…………」

「何故なら、レオンはいつだって強くて、負けた事がなかったのだから」

 今まで共に行ってきた浄化任務、アシェイラ王都でのサイレンとの戦い。その全てにおいて、レオンハルトの力は相手より強力か互角であった為、戦っている間も、同化はしていても体の所有権は元の持ち主である兄にあり、リュセルはそれを後ろで眺めているような状態だったのだ。
 所有権が自分に移る事もあったが、それは戦い以外の時で、戦いの最中は、言葉を発する事は出来ても、それすらレオンハルトにコントロールされているような感覚があった。

 邪神との戦いの折、女神化していた時は、自分の意識も強く前に出ていた。しかし、あれはまた特殊な状態である。

 自分達(宝鍵)は、半身(宝主)に守られながら戦ってきた。戦いの最中に傷ついても、同化を解いた時には自分には何も残らない。傷つき、血を流すのは、宝主の体のみ。

 リュセルは今までの戦いの中、半身(レオンハルト)の動きを感じていただけ。

「俺達(宝鍵)は、それでいいのだろうか?」

「…………」

 リュセルの問いに、自分自身も今日の戦いで同じ事を感じていたティアラは、何も答えられず、ただ婚約者の視線の先にあるものを同じように見つめていた。







「”雷鳴剣(らいめいけん)”」

 その口元にニヤリとした薄笑いを浮かべ、神剣(コピー)に雷をまとわせた金髪の青年の攻撃を自分は避けきれず、肩に突き刺さった剣から雷撃を打ち込められた。

「……ッ」

 直接の傷は宝主である自分が負うが、痛覚は同化している弟にも直接同じように伝わる。唯一無二の相手。守らねばならぬのに……。

 あまりの衝撃に声を上げる事も出来ずにいるレオンハルトは、頭の片隅でそんな事を考えながら、自分を見下ろす青年がどこかイントネーションに癖のある言葉で呟くのを聞いた。

「そんな風な戦い方じゃ、いつまでたっても、自分達には敵わないよ?」

 ニヤニヤと意地悪く笑う青年。確かアシェイラにルドガーと呼ばれていた者だ。いや、表に出ているのは半身の方なのだろうか?

「馬鹿な子だね。もっと、……を、信じればいいのに」

 意識が遠のきかけていたレオンハルトには、彼が何を言ったのか分からなかった。







「ッ!」

 人生初めての敗北の夢から覚めたレオンハルトは、一気に目を開けるとその勢いのまま飛び起きた。

「……ふっ、まったく、…………ひどい夢だ」

 起きたと同時に、そこがこの空間内で自分に用意された寝室の寝台上である事を悟ったレオンハルトは、大きく息を吐き、自嘲するように小さく笑う。

 昨日の戦い……、過去に存在していたらしい神子達に負けた時の夢。自分はあの後、意識を失ったのだろう。あの部屋から出て来た記憶がまるでない。

「…………」

 周囲を見回すと、自分の寝かされていた寝台傍の椅子で眠るリュセルとそんな弟に寄りかかって眠るティアラの姿があった。

 (一晩中看護していてくれたのか?)

 レオンハルトは寝台を降りると、二人に毛布を掛ける。そこで気づいた。目に映った右手。そこには、重度の火傷を昨日負ったはずだった。だが現在、レオンハルトの目に映るのは、傷一つない自分の白い手の甲だ。

(……?)

 体に巻かれた包帯を取り、悪夢にまで見た、昨日負った傷の中で最もひどかったであろう傷を手探りで探す……が、…………ない。それに髪……。あれだけの雷撃をくらっていれば無事ではあるまい。だが、手に届くのはサラサラとした感触。枝毛一つない自分の胡桃色の髪が目に入った。

「……成る程ね」

 一人、状況を悟ったレオンハルトがそう頷くと、その声を聞いて目が覚めたのか、弟の銀の色をした睫毛が小さく震えた。

「ぅう、なんだ?」

 おかしな体勢で眠っていた為、首をゴキゴキ鳴らしながらゆっくりと起き上ったリュセルにレオンハルトは普通に挨拶をした。

「おはよう、リュセル」

 うるさい目付け役もいないみたいだし、これ位いいだろうと目の前にある唇に触れるだけの口づけをすると、弟の隣で眠っているティアラの体を抱き上げる。

「おはよう、レオン。ううう、首が痛い」

 首裏を揉みながら呻き声を上げている弟に向かい、ティアラの体を隣の寝台(アルティスが使用していたものだ)に下ろしていたレオンハルトは冷たく答えた。

「そんな姿勢で眠るからだよ。まだ起床の刻まで時間はある。そっちの寝台で眠りなさい」

 ローウェンの使っていた寝台を目線で示してそう言うと、リュセルはのそのそと立ち上がってそちらに移動する。

「分かった、おやすみ」

 寝台に横たわり眠りの体勢に入った弟を見届けた後、レオンハルトは着ていた衣服を脱ぎ、包帯を外しながら答えた。

「ああ。おやすみ、リュセル」

「……ぐ~~~~……………………ってぇ、おおおいッ! お前、ちょっと待てえええええええええええッ!」

 血染めの衣服と包帯を見下ろし、眉をしかめていたレオンハルトは、いきなり大声を上げて飛び起きたリュセルを諌める。

「リュセル、朝から大声は止めなさい。ティアラ姫も起きてしまうよ?」

「あ、すまない。つい……って、違う違う違う! お、お、お、お前!」

 服を脱いで上半身裸になった兄に詰め寄ると、その体を凝視したリュセルは目を疑った。

 ないッ!? 昨日あったはずの傷が、どこにもいらっしゃらない!?

「いくらお前でも、治るの早過ぎるだろう!?」

 慌てて兄の頬に当てていたガーゼを剥がすと、ガーゼに血の跡はあるのにも関わらず、頬にあった切傷は消滅してしまっていた。

「どういう事だ?」

 なめらかな兄の白い頬を右手でリュセルがなぞっていると、部屋の扉がけたたましく開いた。

「オイ、リュセル! 大事件だッ! 私とローウェンのき、き、ききき傷が、どこにもいらっしゃらないんだよッ! 怖ッ……、なんだ、これ、怖ッ!」

 眠っているローウェンを抱えて登場したジュリナを見てレオンハルトはため息をつき、意味の分からないリュセルは瞬時に固まる。

「スースー」

 意外にも大物振りを発揮したティアラは、こんな騒ぎの中でも安らかに眠ったまま目を覚まさなかった。







「……あ、そういえば、サンジェイラ。あなた、あの空間の中で負った傷は、一晩眠ったのと同等の刻が経てば消滅するって、神子達に伝えましたか?」



 リュセル達のいる空間。その外の世界で……。

 大神官三名及び三勇者。それに、三国の神殿支部神官長とその補佐を交えた報告会議に向かう途中、ライサンは隣を歩くユリエにそれを尋ねた。

「え!? お前が伝えてくれていたんじゃないのか? 僕は言っていないぞ」

 驚きに目を見張って自分を見上げてくる彼女を見下ろし、ライサンは頬をポリポリと掻く。

「あ~、じゃあ、神子達は、今頃いきなり傷が治って驚いているだろうな」

 ついディエラ口調で返してしまったライサンに対し、ユリエは両手を叩いて言った。

「あ、きっとアシェイラの奴が……」

「伝える訳ないでしょう? あの脳みそ筋肉馬鹿が」

 即座に返された答えを聞き、ユリエはうつろな目をする。

「ああ……。うん、そうだね」

 アシェイラ……。いい奴なんだけど、ちょっと頭ユルいんだよな。

 ユリエは前世から知るアシェイラの性格を思い出しながら、まあ、なんとかしてるだろう、あの神子達なら。……と、思うことにした。

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